海軍検討会議
陸軍が陸軍省で参謀本部を交えて検討会議を行ったように、海軍も山本総理兼海相が久し振りに海軍省まで足を運び軍令部も交えた検討会議を開催した。海軍の検討会議は陸軍と違い如何にして装備を更新して劣勢を覆すか、では無く如何にして今の優位な状況を維持するか、との内容が中心となった。陣風艦上戦闘機・彗星艦上爆撃機・天山艦上攻撃機は当然ながら、数の上では主力となる零戦・九九式艦上爆撃機・九七式艦上攻撃機もフランス陸軍・オランダ陸軍の航空隊を圧倒的に上回る性能を有していたのである。
その為に大日本帝国海軍の方針としては今の優位性にあぐらをかいて安住するのでは無く、その優位性を維持する為にも更なる新型機開発を行う必要があった。山本総理兼海相は新型機開発の進捗について尋ねた。尋ねられた海軍航空本部本部長は状況について説明を始めた。新型機であるジェット戦闘機烈風は予定通り春には実用化出来ると海軍航空本部本部長は力強く断言した。その報告に山本総理兼海相や永野修身軍令部総長、小澤連合艦隊司令長官以下全員が感嘆の声を挙げた。遂にジェット機が実用化されるのである。まさに正真正銘世界初の快挙であった。
だが海軍航空本部本部長はジェット機に対する問題点を指摘した。ジェット戦闘機烈風は2基のエンジンを翼付け根の胴体側面に装備する双発機として開発され機体は、葉巻型の胴体に低翼配置・直線翼の主翼を持ち、空母艦載機として運用する為に主翼も折り畳み機構が採用されていた。エンジンは新開発されたターボジェットエンジンを2基主翼付け根に装備する構造になっていた。だが海軍航空本部本部長はそのターボジェットエンジンが問題であると語った。エンジン寿命は試作機数機の平均で最大70時間、実際の戦闘を想定した運用では平均25~30時間だと海軍航空本部では結論付けていた。エンジン寿命が短いのは機械的構造として完成形にあるレシプロエンジンと違い、新開発の未知のジェットエンジンである為に離陸時に大きな推力を得るためにスロットルレバーを開き、燃料を過大燃焼させても機体を劇的に加速させることは叶わず、その状態ではエンジン燃焼室が熱で溶け大きく損傷する事態が頻繁したからである。空母艦載機である為に発艦は蒸気カタパルトから行う為に発艦自体は実際は問題無いと判断されたが、その後の加速が急激に行えなかった。
更にはレシプロ機と比較し燃費が劣悪だったのである。機体内前部の主燃料タンクと後部補助燃料タンクに加えて増槽を2個搭載出来たが、実戦を想定した模擬空戦では僅か30分でも全ての燃料タンクを活用する必要に迫られたのである。その為に海軍航空本部本部長は、ジェット戦闘機烈風は艦隊直掩専用機として運用するべきだと断言した。予想外の技術的問題に山本総理兼海相は面食らっていた。
しかし海軍航空本部本部長は軍需企業と共同でターボジェットエンジンの改良に取り組んでおり、しかも新型の耐熱合金ブレードの開発も同時進行で進めておりエンジン寿命や燃費は、着実に改善されて行く事を語った。だが海軍航空本部本部長はジェット機そのものが黎明期である為に、完全にレシプロ機から更新するのでは無くレシプロ機の開発は今後も続ける必要があると言った。
それは小澤連合艦隊司令長官も賛同し、まだ10年単位でレシプロ機が完全に退役するのは早すぎるとして、レシプロ機の開発を求めた。山本総理兼海相としてはジェット機への更新が進むと思っていたが、技術的問題があるとして更なる開発を承認したのであった。
だが海軍航空本部本部長はレシプロ機である一式爆撃機に代わる新型爆撃機の開発は順調だと語った。エンジンを陣風艦上戦闘機と同じ2000馬力を発揮する新型の排気タービン過給器エンジンを4発装備する機体となり、爆弾搭載量のみならず装甲・航続距離・速度・上昇限度あらゆる数値が格段に向上したと語ったのである。一通り航空機について説明を終えた海軍航空本部本部長は席に着き、山本総理兼海相は新型艦船の進捗について尋ねた。尋ねられた海軍艦政本部本部長は説明を始めた。海軍艦政本部は開戦前から新型艦船を設計しており、それは開戦後に『戦時艦船急速建造計画』として始動した。計画は戦争に於ける艦船の喪失を想定し、それを補充する事が最重要視され喪失しなかった場合は、戦力増強になるというものであった。軍令部や海軍省では喪失が前提になっているとして批判もあったが、山本総理兼海相が艦船の建造は時間が必要でありいざ喪失時に急に建造出来る訳が無い為に、今から建造する必要があると語り計画は賛同され帝国議会でも成立した。戦時艦船急速建造計画では超弩級空母大和級に迫る大きさの空母を3隻、正規空母大鷹級の戦時簡易量産型空母を10隻、軽空母10隻、重巡洋艦20隻、軽巡洋艦30隻、駆逐艦60隻にも及ぶ大建造計画であった。ある意味で連合艦隊を丸々1つ建造する程の大規模な計画であったが、海軍としてはアメリカ合衆国はこれ以上の戦時計画を軽々と行ってくるとして計画を万難を排して遂行する決意であった。
海軍艦政本部本部長は海軍工廠のみならず民間造船所も総動員して計画通りに、鈴木商店の確立した連続部分建造を行いながら建造しており、24時間4交代制で全力で取り組んでいると語った。
一通りの説明を聞いた山本総理兼海相は、更に会議を進める事にしたのである。




