陸軍検討会議
首相官邸での陸海軍合同戦闘評価会議を終えた東條英機陸軍大臣は、陸軍省で参謀本部も交えた検討会議を開催した。内容は当然ながら陸海軍合同戦闘評価会議で断言した、装備の全面更新についてであった。東條陸相は挨拶も程々に、新型戦車の開発について尋ねた。尋ねられた陸軍機甲本部本部長は状況に開発状況について詳細な説明を始めた。
だが陸軍機甲本部本部長は開口一番に、新型戦車開発について白紙撤回した事を報告した。これは東條陸相も初耳だったらしく、驚愕の表情を浮かべていた。つい先程陸海軍合同戦闘評価会議で、陸軍の戦車・銃火器全てに於いて抜本的な更新を行うと断言したばかりであったからだ。東條陸相は怒りを顕にして口を開こうとしたが、陸軍機甲本部本部長は間髪入れずにIV号戦車が強力過ぎた為に開発中の新型中戦車では役に立たない為に、開発を白紙撤回したと説明したのである。
そうとなれば話は違った。本部長は現実的理由により開発を白紙撤回したのだ。東條陸相もその事実は変えることが出来ない事実である為に、本部長の決断に納得するしか無かった。だが本部長は口を開くと、『中戦車』の開発を白紙撤回したのであり『戦車』そのものの開発は白紙撤回していないと語った。
少し混乱する物言いであるが東條陸相が詳しく説明を求めると、『新型重戦車』として開発中の物が今回のIV号戦車の登場で『中戦車』レベルの扱いに変更になった、との事であった。更に本部長はこの開発中の新型中戦車がロシア人技術者の設計だと語ったのである。内戦が続くロシアから技術者を引き抜いた成果が、目に見えて表れた瞬間であった。それを聞いた東條陸相は1日も早い完成を求めると、本部長は試作車輛は完成しており現在は最終調整であり早ければ来月、遅くとも再来月には完成するとの事であった。
予想以上に順調な報告を聞いた東條陸相は満足感を顕にすると、銃火器の開発について尋ねた。その質問には陸軍兵器行政本部本部長が答える事になった。オマーン防衛戦でフランス・オランダ合同陸軍が使用した銃は新型であると思われ、所謂自動小銃と機関短銃だと推測された。3種類の中で唯一判明しているのはアメリカ合衆国からのレンドリースによる装備である『M1トンプソン』だと思われ、他の2種類は完全新規設計の新型銃だと推測されると陸軍兵器行政本部本部長は語った。オマーン防衛戦に於ける対策として陸軍兵器行政本部本部長は緊急に、一〇〇式機関短銃の量産を行い落下傘部隊を中心に配備していたのを改めて歩兵部隊に配備を広める事を提案した。その提案は東條陸相も即座に賛同し、量産の為の予算増額と部隊配備の許認可を出した。更に陸軍兵器行政本部本部長は今後の戦況を鑑みて、新型自動小銃と機関短銃の開発のみならず、部隊支援用の新型軽機関銃の開発を加速させる事を語ったのである。
銃火器の対応が終わると、次はオマーン防衛戦で唯一活躍出来た航空機について東條陸相は尋ねた。その質問には陸軍航空本部本部長が答え、一式戦闘機隼に代わる新型戦闘機の開発がようやく完了間際であると語った。難航していたエンジンの選定に海軍連合艦隊の新型艦上戦闘機である陣風のエンジンを選んでみた結果、機体性能は大幅に向上する事になったのである。2000馬力を発揮する新型の排気タービン過給器エンジンを共有する事になり、エンジン生産の効率化にも繋がると陸軍航空本部本部長は語ったのであった。更には海軍と共同開発していたジェット戦闘機も順調に進展しており、海軍は春にジェット戦闘機を実戦投入出来るが陸軍は夏には実戦投入可能だと語った。百式爆撃機呑龍に代わる新型爆撃機も開発は順調で、この機体も夏には実戦投入可能であった。
戦車・銃火器・航空機について一通りの話を聞いた東條陸相は、更に会議を進める為に次なる議題へと話を進めたのであった。