対応策
そんな中で開催されたホワイトハウスでの対策会議は、ある意味で太平洋戦線での現状維持が決定した。太平洋艦隊が改装工事により行動不能であり、新型正規空母も存在しない事は制空権が無い事を意味したからであった。太平洋艦隊に配備されていた正規空母エンタープライズ級は3隻全て撃沈されており、アメリカ合衆国海軍に残された空母は大西洋艦隊のラングレーとレンジャーの2隻だけであった。この唯一残された2隻の空母であるが、その戦力価値は大日本帝国海軍連合艦隊の空母に比べると比較するのも憚れる有り様だった。ラングレーは全長165メートルで満載排水量15150トン・搭載機30機であり、レンジャーでさえも全長234メートルで満載排水量19907トン・搭載機86機であった。
大日本帝国海軍連合艦隊の空母で一番小さい空母である蒼龍級でも全長255メートルで満載排水量49000トン・搭載機110機を誇っていた。サイズ感は言うに及ばず搭載機に武装、そして防御面でも圧倒的に劣っていたのだ。その為に海軍のクイーン作戦部長は、ラングレーとレンジャーを練習空母にするとしてパイロット養成に力を注ぐ事を決定したとルーズベルト大統領に報告したのである。巡洋戦艦エセックス級の空母への改造が全力で行われており、上部構造物の建造前であった1番艦と2番艦は早ければ後1ヶ月で進水する事が可能であった。もちろん艤装工事がある為に竣工するのはまだ先になるが、新型正規空母の完成までの時間稼ぎは出来る筈であった。
新型艦載機の開発も急ピッチで行われており、ブルースター社・セヴァスキー社・グラマン社の3社に競争試作を行わせていた。大日本帝国海軍連合艦隊の空母航空隊に完敗したF2Aバッファローに代わる新型艦載機の開発は、アメリカ合衆国海軍の最優先事項でありジークのコードネームを与えた零戦に何とかして対抗しようとしていたのである。
以上の観点からクイーン作戦部長は太平洋戦線で反攻可能になるのは早くて半年後と結論付けていた。しかもその半年というのは『最低半年間』という意味であり、余裕をみれば10ヶ月は必要だとの事であった。それには陸軍のマーシャル参謀総長は内心答えは予想出来たが、何とか前倒しが出来ないのか尋ねたが、クイーン作戦部長の答えは変わらなかった。太平洋艦隊の改装工事が終わりラングレーとレンジャーを大西洋から回航させたとしても、大日本帝国のトラック諸島・マリアナ諸島・硫黄島の要塞トライアングルが待ち構えておりそれを回避して北から回り込んだとしても、千島列島や北海道・東北地方の航空隊に阻止され、南を迂回しても要塞化された台湾がありそもそも大英帝国連邦のオーストリアやニューギニア・シンガポール、それに占領されたフィリピンの航空隊に撃目される確率が非常に高かった。
その為に大日本帝国海軍連合艦隊が中東に派遣されたとしても、現状の航空戦力の差は天と地程に離れておりまともに勝負にならないのである。だからこそ大日本帝国は海軍連合艦隊を中東に派遣する事が出来た理由でもあった。ある程度予想通りの答えにマーシャル参謀総長も諦めるしか無く、ルーズベルト大統領も予算増額によるスピードアップを約束するしか無かった。




