新型機
お久し振りです。
1942年2月3日午前9時
大日本帝國霞ヶ浦飛行場第2滑走路
ここに山本五十六総理(海軍大臣兼任)と小澤治三郎連合艦隊司令長官、宇垣纏参謀長、そして現場部隊から第1機動部隊司令長官中野真知子中将、参謀長松田直人少将が集まっていた。その全員が高空を見つめていた。
「いやはや、恐ろしい程の格闘性能ですな。あの零戦が追い付けないとは。」
首を触りながら口を開いたのは、松田参謀長であった。その言葉に中野司令長官も大きく頷いていた。
「前回の戦いは零戦でも十分にアメリカ合衆国を圧倒しました。そこに陣風が配備されれば、アメリカ合衆国を更に引き離す事が出来ます。」
「中野君が言うのだから、間違いないな。」
山本総理は嬉しそうに答えた。
高空での模擬戦は陣風が零戦の後ろを捉えた事で、終わりを迎えた。勝負は陣風の圧勝であった。零戦も確かに世界有数の名機である。世界中で零戦に勝てる機体は存在しないかもしれない。だが零戦は自らの内部に敵を抱えていた。確かに零戦は速度も早く格闘性能も優れ、航続距離も世界最長である。しかしその代償として零戦は機体強度を低下させていたのだ。それでも急降下や急上昇・防弾性は各国戦闘機より優れていたが、技術者達は安心して送り出すには心配であった。今は世界中探しても零戦を凌駕する機体は出ていないが、何時現れるかは分からない。科学技術は日進月歩の世界である。油断や怠慢は許されなかった。そこで零戦の完成から僅か2ヶ月後に陣風の開発が始まったのである。
開発は零戦の拡大発展型として始まった。零戦の機体をそのままにエンジンの入れ替えと、機体強度の強化を進めた。それにより誕生したのが、陣風である。エンジンは零戦から強化され排気タービン過給器を搭載した新型エンジンの『ハ43』を装備、それにより機体を零戦より大型化させる事に成功した。当初計画の機体引き継ぎは出来なかったが、機体を大型化した為に防弾性は格段に上昇。機上レーダーも標準装備となった。大型化した事により翼を中折れ式を採用し、むしろ零戦より空母に余裕をもって搭載出来る事に成功。プロペラも二重反転プロペラを装備、更に機銃と機関砲の携行弾数も大幅に増大し、陣風は大日本帝國海軍連合艦隊空母機動部隊の主力戦闘機として採用されたのである。今日は量産機を使用した最終模擬戦であった。
「これで機動部隊は安泰です。常にアメリカ合衆国より一歩先に行く事で、勝利が手に入ります。」
宇垣参謀長の言葉に、山本総理は目を丸くした。宇垣参謀長は水雷畑出身であり、航空機にはあまり興味は無かったはずである。
「私も時代の流れは分かりますよ。航空機が海軍の主力になったのは必然です。」
「ハハハ、毎日ノートを片手に私の所に講義を受けていたからだろ?」
「それもあります。」
宇垣参謀長が照れながら答えた事により、現場は笑い声に包まれた。あの黄金仮面が照れた事も、新たな発見であった。
「新型機といえば彗星と天山はどうですか?」
「非常に頼もしいよ。」
松田参謀長の言葉に、小澤司令長官は嬉しそうに答えた。
「彗星は99式を遥かに凌ぐ速度と強度を手に入れた。急降下爆撃は問題なくこなし、離脱時の上昇性能も圧倒的だ。天山も97式より丈夫で早くなった。機動部隊の攻撃力も遥かに上昇しただろう。」
「更に烈風も開発は順調で、春には部隊配備が出来るだろう。」
山本総理が自信満々に言い切った。その顔は笑顔で溢れていた。
「そんなに早くですか!?」
中野司令長官は驚きながら尋ねた。それはその場にいた全員が思った事であろう。それに山本総理は笑みを浮かべたまま答えた。
「ジェット機の開発自体は1938年の初めから行っていたのだ。少し遅いくらいだよ。」
「それは知ってますが。やはり戦艦を建造しなかったからですか?」
「そうだな。戦艦を建造しなくて良い分、航空機開発や航空機生産に予算を回せるからな。その結果が漸く花開いた訳だ。」
松田参謀長の質問に山本総理は答えた。その顔は終始笑顔である。
「何とかこの戦争を優位に終わらせるのだ。それは大日本帝國が生き残るただひとつの道だ。」
山本総理の力強い言葉に、全員が頷いた。そこへ陣風が滑走路へ着陸しようと、高度を下げ近付いて来た。
1942年2月10日
大日本帝國を震撼させる情報が飛び込んできた。それはあまりにも衝撃過ぎる為に、一時大日本帝國は思考停止に陥った。
フランス軍が大英帝国に上陸した、との知らせであった。