海上保安庁
午前11時
南鳥島沖南西55キロ地点
現在この海域を海上保安庁第3護衛隊群が輸送船団を護衛しつつ航行していた。海上保安庁は第一次世界大戦後の1922年に設立された輸送船団護衛と領海警備部隊である。海軍省外局であり準軍事組織になる。設立の理由は第一次世界大戦に於いてドイツ帝國の無制限潜水艦作戦による通商破壊作戦が、大英帝国を海上封鎖に追いやりかけた事により同じ海運国家として、海上輸送路の確保が国家の命運に繋がると判断されたからである。余りにも先見の明が有り過ぎた判断だったが、それが現在の大日本帝國の海運を守っている。
第3護衛隊群旗艦航空護衛艦艦橋
「長官、今回は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。今回もいける。」
参謀長田中麗奈将補の言葉に司令長官青山真治准将が答えた。航空護衛艦とは、海軍で言う軽空母である。しかし海上保安庁はあくまでも護衛組織であり、海軍とは存在意義が違うのである。その為艦種も違い、階級も違う。航空護衛艦はあくまでも航空護衛を行う為、戦闘機を多く配備している。しかし蒸気カタパルトを装備しており、搭載機も海軍と共有の為アメリカは『第二海軍』と批判している。海上保安庁が今の規模になったのはロンドン軍縮条約による。補助艦艇も規制された為、『海上保安庁』として配備しているのである。大英帝国とイタリア王国も同様に沿岸警備隊を強化している。
「参謀長、東海の様子は?」
「今のところ問題ないようです。先程4隻目の潜水艦を撃沈した所です。」
「これで実用化は確実だな。」
青山司令長官は田中参謀長の言葉に大きく頷いた。
青山司令長官の言った『東海』とは3日前に海軍と海上保安庁に正式採用された対潜哨戒機である。
海軍に於いて最優先に開発するのは戦闘機・攻撃機・爆撃機であり、その次に偵察機・早期警戒機がくる。その為に対潜哨戒機は常に開発が後回しにされてきた。それが今回漸く日の目を浴び、開発が急加速され部隊配備されたのである。今のところ配備されているのは海上保安庁第3護衛隊群だけであるが、海軍連合艦隊と海上保安庁の残る護衛隊群に随時配備されていく。
『司令長官、敵潜水艦全て沈黙した模様です。』
「よし、状況終了。全機に帰還命令。」
『了解しました。』
通信室からの報告に青山司令長官は即答した。
先程青山司令長官が言った状況終了とは、これまた海上保安庁用語である。状況とは所謂作戦の事である。海上保安庁はあくまで[準軍事組織]で、海軍のような戦闘が主任務ではない。護衛が主任務である為に、色々と言い換えが必要なのである。




