地中海海戦
大英帝国海軍地中海艦隊旗艦戦艦デュークオブヨーク艦橋
地中海艦隊はノワール司令長官の命令により、フランス艦隊へ向けて進路を変更した。進路変更に加え、マリノス参謀長はイタリア艦隊への航空攻撃要請を進言。ノワール司令長官は即座にそれを採用し、艦長のエリーゼ大佐に命じた。そしてエリーゼ艦長は通信参謀に、イタリア王国艦隊への航空攻撃要請を命じた。
その中も地中海艦隊はフランス艦隊へ向けて驀進していたが、航空攻撃はまだ行われていない。
「全艦右砲戦!!本艦は敵旗艦を狙う!!後続艦は敵を各個撃破せよ!!単縦陣、最大戦速!!」
エリーゼ艦長の凜とした声が響き渡る。
「主砲発射用意完了!!」
砲術長が大声で叫んだ。とっくの昔に射程距離に入っている。早く撃たないと、敵に撃たれる。
「主砲発射!!」
「撃ぇ〜〜!!」
エリーゼ艦長の命令を砲術長は伝音管に叫んだ。
ドグワァァァァァァン
35・6センチ砲が唸りをあげた。
「弾ちゃ〜く15秒前、………5、4、3、弾ちゃ〜く今!!」
砲術員が言い終わるのと同時に水柱が立ち上るのが見えた。
『命中!!敵旗艦に5発命中です。』
見張り員が声を張り上げながら叫んだ。その歓喜を含んだ声が伝音管を通して艦橋へ伝えられた。
8発発射しての5発命中である。射撃レーダーの真髄がここに発揮された瞬間であった。
「さすがはレーダー射撃。これを確立したのが今や戦艦を保有しないIJNとはね。」
ノワール長官が言った瞬間、敵艦隊が一斉に砲撃を開始した。
ここに百年戦争以来の因縁を精算するべく、大艦隊決戦が幕を開けた。
『砲撃戦に突入した英仏両艦隊は、その持てる実力を余す事なく発揮した。後の世の歴史書には[地中海海戦]と記される事になる一大砲撃戦となる。
結果から言えばこの地中海海戦は引き分けに終わった。大英帝国海軍は新型のキングジョージ5世級を投入していたが、フランス海軍も新型のリシュリュー級を投入していた。単純に主砲の大きさで見れば大英帝国海軍の、ネルソン級ロドネーが40・6センチ砲と海戦参加戦艦の中で最大の打撃力を有していた。しかし火力投射数は両艦隊とも同等であった。
海戦は大英帝国海軍地中海艦隊デュークオブヨークの砲撃から始まった。レーダー射撃による正確な砲撃で、初弾からリシュリューに鉄槌を下した。これにリシュリューも負けじと撃ち返し、デュークオブヨークに命中させた。更に双方の後続艦も砲撃を開始し、地中海に於いて壮絶な殴り合いが始まった。敵に先手を撃たれる、このような失態を冒したフランス海軍は、それを挽回しようと砲撃を一斉掃射に切り換えた。これにお互いの水雷部隊が雷撃を慣行する為、最大船速で突撃を開始した。見事に雷撃を成功させた艦艇をいたが、運悪く砲弾が命中しその速度故に轟沈する艦艇もあった。互いの水雷部隊が放った魚雷は見事に命中し、両者に大きな被害を出した。その最大の被害がロドネーの轟沈であり、片側に魚雷9発が命中した結果であった。ロドネーを撃沈された大英帝国海軍はその怒りを爆発させ、更なる砲撃を行った。そこへイタリア王国海軍が漸く介入。ヴィットリオヴェネト級がフランス海軍への砲撃を慣行。しかもイタリア王国海軍はフランス海軍の背後に回り込んで攻撃を開始した。これによりフランス海軍は包囲され、砲弾の嵐を受けた。更にはイタリア王国海軍空母艦載機も攻撃を開始し、フランス海軍は教科書的な包囲殲滅戦を受ける事となった。
ここまで見れば英伊の勝利に見える。しかしこれで終わりではなかった。オランダ海軍が突如として海戦に介入した。これにより形勢はフランス海軍の敗北から、同等の引き分けに変化した。いくらオランダ海軍が介入したとはいえ、フランス海軍も大きな被害を受けており勝利する訳が無かった。だが何とか引き分けに持っていく事には成功した。英伊両艦隊は一時は勝利が見えたが被害が大きく、砲弾も消耗が激しかった。これによりノワール長官は全艦に撤退を命令。イタリア王国海軍にも撤退を要請した。イタリア王国海軍もそれを受け入れ、両艦隊は煙幕を張りながら撤退を開始。フランス・オランダ海軍も追撃を諦め、自分達も撤退を開始。ここに両者の思惑は合致し、地中海海戦は終結したのである。』
小森菜子著
『欧州の聖戦』より抜粋