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大英帝国の歓喜

同時刻

大英帝国帝都ロンドン


ルーズベルト大統領が大日本帝國への対応に頭を抱えている頃、大西洋を挟んだ大英帝国では歓喜の渦にあった。同盟国大日本帝國と共に宿敵アメリカ合衆国太平洋艦隊を叩き潰したのである。しかも大日本帝國海軍連合艦隊は敵艦隊の旗艦ユナイテッドステーツまで鹵獲したのだ。まさに大勝利である。

しかしプリンスオブウェールズが撃沈された事はさすがに秘匿された。大勝利を全面に押し出しての戦勝報道であった。




首相官邸執務室


「我等が東洋の同盟国に賛辞を送ろうではないか。」


チャーチル首相は久し振りに笑顔を見せた。何せ自分の国の軍は全て敗走していたのだ。第二次世界大戦勃発の原因となったイラク侵攻では大英帝国は何の反撃も出来ずに敗退、フランスの侵攻に現地陸軍は壊滅した。

更にはオランダもフランスに加勢し、合同陸軍が中東を席巻。大英帝国の中東派遣軍は壊滅し、中東はフランス・オランダの手中となった。大英帝国の残存軍はエジプトへ撤退し、アフリカ防衛に主眼を置くことを決定した。幸い地中海はイタリアが制海権を手中にしており、補給の心配は無かった。フランス・オランダ連合陸軍は中東を支配下に置くと、北上しトルコへ侵攻。僅か2週間で占領した。それからの動きは凄まじく、フランス・オランダは本国軍も総動員して欧州占領を画策し、実行に移した。動きは素早く永世中立国連合も例外では無く、イタリアを除く欧州はフランス・オランダの電撃作戦に占領されたのである。時に1941年12月の事であった。亜細亜地方での大日本帝國の活躍とは裏腹に、欧州地方では大英帝国・イタリア王国は追い込まれていたのである。特にイタリア王国は北方が全て敵と言う事態に陥った。ムッソリーニにしてもここが正念場と、大英帝国アフリカ植民地からの物資輸入を背景に陸軍兵力の増強を行っている。フランス・オランダの戦車兵力は強大で現時点でイタリア王国陸軍が勝てる相手では無かった。そこでイタリア王国は大英帝国に新型戦車の共同開発を提案。大英帝国も早急な新型戦車開発を行うべきだと開発を急いでいた為、その提案を二つ返事で受け入れた。大日本帝國も新型戦車の開発をしていたが、本格的な戦車戦をした事が無い為開発は遅延していた。それに新型航空機開発に主眼が置かれたのも更なる拍車をかけていた。



欧州では大英帝国・イタリア王国は苦戦していたのである。



「確かにプリンスオブウェールズは沈んだが、太平洋における制海権は大日本帝國のものとなった。そこで我が国は大日本帝國に対して援軍派遣を要請したいと思う。」

チャーチルはお気に入りの葉巻を噴かしながら、目の前に立つイーデン外務大臣に言った。


「如何でしょうか?いくら太平洋艦隊を叩き潰したとは言え、未だ太平洋艦隊には戦艦等の主力艦は多数生き残っています。如何な大日本帝國と言えども派遣してくれるでしょうか?」

「大丈夫だよ。大日本帝國海軍連合艦隊の半数と陸軍1個方面軍でも送ってくれれば良いんだ。」

「そんな大軍をですか!?」


イーデン外務大臣は驚いた。海軍のみならず陸軍も派遣要請に加えると言うのである。確かに大軍だが、ひっくり返せばそれほど切羽詰まっていたのである。フランス・オランダ海軍は遂に地中海に侵入し、イタリア王国の制海権を奪取しようとしているのである。地中海の入り口ジブラルタルはフランス・オランダ海軍の艦砲射撃により壊滅し、もはやジブラルタルの防人は存在しなくなった。もう1つの入り口であるスエズ運河は何とか大英帝国陸軍が死守していた。

アメリカ合衆国海軍大西洋艦隊は今のところ動きは見られないが、何時地中海へ進撃してくるか分からない。その前に大日本帝國海軍連合艦隊を派遣してもらい、地中海の制海権を確固たるものにしようというのだ。


「心配いらない。彼等にはこの要請を受け入れるしかない。」

「何故ですか?」

「分からないのかね。彼等は大東亜共栄圏なるものの設立を画策している。それを実現させる為、我が国は亜細亜植民地の独立を容認するんだよ。此れにはオーストラリアとニュージーランドも含んでだ。」

「そ、それは!!」


イーデン外務大臣は再び驚いた。大英帝国の力の源である植民地を独立させると言うのである。まさに世界帝國の看板を降ろすと言っているようなものだ。


「もちろん今すぐと言うわけにはいかない。戦後になるだろう。しかし大日本帝國の人種差別撤廃案に賛成した以上、植民地を保持し続けるのは祖国の威信に関わる。実利よりも名誉を我が国は手に入れるのだ。もはや帝國主義も時代遅れだ。大日本帝國のように併合による自国領化ならまだしも、我が国が行ってきたのは搾取隷属だ。聞くところによると大日本帝國は朝鮮半島や台湾のインフラ整備は当然の事、学校を建設し教育まで実施しているようだ。」

「教育をですか!?」

「あぁ。我が国とは根本的に考えが違う。あのような国と同盟を結べて良かったよ。」


チャーチル首相は本当に安心したように言った。


「確かにそのような仁義に勝る国と同盟を結べて良かったです。」

「当然だ。しかしこうしている間にもフランス・オランダ海軍は地中海で暴れようとしているし、植民地軍(アメリカ合衆国軍)は何時地中海に攻め入って来るか分からん。早急に閣議で決定しなければならん。」「では閣議へ行きますか?」

「行こう。」


チャーチル首相はそう答えると席を立ち、イーデン外務大臣を引き連れ執務室を出ていった。




同時刻

地中海シチリア島沖150キロ

この海域を1個の艦隊が航行していた。名前は大英帝国海軍地中海艦隊。世界に冠たる大英帝国の方面艦隊である。規模は本国艦隊に次いで2番目の規模を誇る。現在地中海艦隊は地中海に於けるフランス・オランダ海軍の捜索を行っていた。



大英帝国海軍地中海艦隊旗艦戦艦デュークオブヨーク艦橋


「提督、紅茶をどうぞ。」「ありがとう。」


提督はそう答えるとティーカップを受け取り、一口飲んだ。


「敵は出てくるかしら?」「はい。出てきます。」


質問を受けた参謀長マリノス少将は司令長官ノワール中将に答えた。


「敵を早く見付けて、撃滅しないとエジプトに集結した陸軍が危ないわ。それにイタリア王国への輸送路も遮断されてしまう。」

「敵はまさにそれを狙っているのでしょう。」


マリノス参謀長は言った。



「問題は敵がフランス・オランダの連合艦隊だと言う事。こうなれば本家連合艦隊に助けて貰いたいわね。」


ノワール司令長官は笑いながら言った。大日本帝國海軍連合艦隊と大英帝国海軍東洋艦隊が太平洋でアメリカ合衆国海軍太平洋艦隊を撃滅した事は、既に地中海艦隊に伝わっており空母艦隊の破壊力は新たな海軍戦略の1つとして知れ渡った。しかし依然として地中海艦隊は空母は配備されていない純然たる打撃艦隊であり、空母は全て本国艦隊に配備されていた。だが敵フランス・オランダ海軍の艦隊も空母は配備されていないとの情報である為、会敵となれば大規模な艦隊決戦となるであろう。そして尚且つイタリア海軍も再び地中海の制海権を確固たるものにする為、艦隊を出撃させており地中海艦隊の後方30キロを航行していた。イタリア艦隊には空母が配備されており、航空支援も一応は期待出来る。だがイタリア王国海軍の空母は搭載機が少なく、戦闘機の割合が高い艦隊防衛思想の為、大日本帝國海軍のような戦術や戦果は期待出来そうに無かった。



「敵が出て来た時に勝てると思う?」

「勝てると思います。この艦は最新鋭戦艦です。確かに大日本帝國海軍のような航空攻撃を受ければ沈むかも知れません。現に大日本帝國海軍はアメリカ合衆国海軍の戦艦を航空攻撃だけで撃沈しました。しかし艦隊決戦なら敵を撃破するだけの砲撃能力を有しているので勝利する事は出来ます。」


マリノス参謀長はノワール司令長官の質問に答えた。大日本帝國海軍のもたらした大勝利は、世界各国の海軍関係者に驚きとショックを与えた。此迄は大日本帝國の空母建造に対する名目上の対抗で建造していた各国海軍は、その対抗で建造しただけの空母を見直して愕然とした。あまりにも実用的では無く、大日本帝國海軍の先進的な空母には足元にも及ばなかった。


「確かにそうね。幸いフランス・オランダ海軍連合艦隊は空母を配備していないみたいだからね。問題はアメリカ合衆国海軍大西洋艦隊よ。それが地中海に出撃してくると厄介よ。軽空母を配備しているからね。早急に本国艦隊から空母を派遣してもらわないと。それにはまず……」

『こちらレーダー室!!至急連絡致します!!左舷15度距離30キロ地点に敵艦隊発見!!』

「参謀長、どうやら艦隊決戦をしないといけないようよ。」

「もちろんです。」


マリノス参謀長は喜んだ声で返事した。ノワール司令長官は背筋を伸ばすと、命令を下した。


「総員戦闘態勢!!全艦にも下令!!」



地中海艦隊は艦隊決戦を迎えようとしていた。





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