合衆国の衝撃
1942年1月26日午前5時
アメリカ合衆国首都ワシントンDCホワイトハウス
……時差がややこしいので、間違っていたら悪しからず。
大日本帝國と大英帝国との戦争が始まってから、初の海戦が大敗北であった事実は既に全米に駆け巡った。戦艦7隻を含め59隻が撃沈されたのである。更に海軍が世界に誇る超弩級戦艦ユナイテッドステーツが、大日本帝國海軍に拿捕されるオマケまで付いていた。
オーバルオフィス
俗に大統領執務室と呼ばれるオーバルオフィスに、アメリカ合衆国の政権中枢が集まった。勿論、中部太平洋海戦(大日本帝國はトラック島沖海戦と命名)の大敗北について話し合われた。
「クイーン作戦部長。君には失望したよ。」
「……申し訳ありません。」
海軍作戦部長クイーン大将はそう答えると、再び頭を下げた。2メートルを超える長身である為、頭を下げると謝ってる相手の座高と同じになる。それを不機嫌そうに見ている男性、アメリカ合衆国大統領ルーズベルトはそう言うと、陸軍参謀総長マーシャル大将に顔を向けた。
「クェゼリン島への守備隊派遣はどうなった?」
「はい。1個中隊を派遣したいと思います。クイーン作戦部長、その点はお願いします。」
マーシャル参謀総長はクイーン作戦部長に念を押した。
「それは何とも言えません。空母は海軍が保有する3隻全てが撃沈されました。巡洋艦・駆逐艦で護衛しますが、大日本帝國海軍の攻撃を防げるか……」
「最悪の事態を覚悟しなければならないのだな?」
クイーン作戦部長の言葉に、ルーズベルト大統領が溜め息を吐きながら言った。
「それは困ります。1個中隊が孤立してしまいます。」
海兵隊総司令官ホルコム中将が慌てて言った。
「或いは、もう孤立している。」
「そんな……」
ハル国務長官の言葉に、ホルコム総司令官は絶句した。
「諸君、我々は大日本帝國を過小評価し過ぎた。太平洋に於ける戦いは根本的に変えなければならない。クイーン作戦部長、君の意見を。」
ルーズベルト大統領に指名され、クイーン作戦部長はアタッシェケースから資料を取り出した。
「戦略の転換を決めました。まずは戦艦建造を中止し、空母増産を行います。それは巡洋戦艦エセックス級を空母に改造します。幸い1番艦と2番艦は上部構造物の建造前でしたので、早急に改造出来ます。更に正規空母の建造も行いたいと思います。」
「よかろう。財務長官、その点は大丈夫か?」
ルーズベルト大統領に言われ、ルミ財務長官は頷いた。
「大丈夫でしょう。国防費に回せるだけ、他を削ります。最終的には国債を買ってもらうか、増税を行います。」
「よし。クイーン作戦部長、金の心配は無い。」
ルミ財務長官の話を聞いたルーズベルト大統領は、クイーン作戦部長に言い切った。
「しかし問題があります。」
「何だね。」
ルーズベルト大統領は尋ねた。
「艦載機とパイロットです。艦載機は大日本帝國海軍の物より、2世代は遅れています。此れは絶望的です。今回の戦いで一方的に叩き落とされました。撃墜出来たのは戦艦や巡洋艦・駆逐艦の対空機銃です。艦載機の新型への更新が求められます。そしてパイロットの養成も行わなければなりません。空母の有効性を見せ付けられた以上、大日本帝國海軍に追い付かなければいけません。」
「なるほど。それは早急に行わなければならない。海軍長官、大至急航空会社に新型機開発の連絡を。競争試作させ、開発と同時に量産ラインを準備する。今はとにかく時間が無い。」
「了解いたしました。」
ノルン海軍長官はそう答えた。
「太平洋では全く敵に歯が立たないとは。予想外だ。中東戦線の状況はどうなった?」
「それは私が。」
スチムソン陸軍長官が言った。
新たな議題が発生した。
1月26日午前1時
オーストリア首都ウィーン公営マンション
「あなた、コーヒー入りましたよ。」
「ありがとう。」
男は女性にそう言われ、手を止めた。
「今度はどういう絵をお描きに?」
「テーマは第二次世界大戦だけど、平和を描こうとしてる。」
「そうですか。」
女性はそう言うと、笑みを浮かべながら絵を見つめた。
「あなたの描く絵ですからね。世間は注目していますよ。」
「騒がれるのは嫌い何だが……」
女性の言葉に、男は笑いながら答えた。
ピカソ・ダリと並び20世紀を代表する画家アドルフヒトラーは、この日も黙々と絵を描いていた。
妻であるエヴァブラウンに支えられ。