最後通牒
結局更新します。
勉強ばかりだと、頭が痛くなりますから。
午前9時15分
大日本帝國海軍連合艦隊第1機動艦隊旗艦超弩級空母大和艦橋
「全機出撃!!」
艦橋に中野長官の声が響き渡った。航空参謀が復唱し、艦橋下の離発着指揮所に命令を下した。これにより指揮権は離発着指揮所に移った。通信室へ命令が伝わり、全空母も航空機を出撃させ始めた。
「長官、上手くいくでしょうか?」
離発着指揮所に指揮権が移った事で、飯島艦長が声を掛けてきた。
「大丈夫よ。艦爆隊が敵艦隊の測距儀を破壊して、運が良ければ電気回路を断絶出来るでしょう。」
「敵は全艦沈めるんですか?」
「出来れば、拿捕したいわね。」
「拿捕ですか!?」
飯島艦長が驚きの声をあげた。
「そうよ。ユナイテッドステーツをね。」
「戦艦を拿捕するんですか!?」
「えぇ。出来るなら、の話だけどね。」
中野長官はそう言うと笑った。
午前9時45分
アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊旗艦超弩級戦艦ユナイテッドステーツ艦橋
連合艦隊から僅か30分の距離に太平洋艦隊は位置していた。ユナイテッドステーツは侵水増大で、右舷注水区画が限界水量に達した。もはや速度は8ノットが限界である。
「艦長、敵はまだ見付からないの?」
ユリア司令官は双眼鏡で海原を見つめたまま、エリス艦長に質問した。
「現在、見張り員が総出で索敵しております。」
「レーダーも大破、カタパルト・水上偵察機も大破。もう笑うしかないわね。」
ユリア司令官はそう言うと笑いだした。エリス艦長を含め、艦橋スタッフは唖然とした。
「もう負けよ、降伏した方が良いのよ。」
「司令官……」
『敵機来襲!!』
エリス艦長が何か言おうとした時、艦橋に見張り員の報告が響き渡った。
「対空戦闘開始!!」
ユリア司令官の命令が下った。
『この大日本帝國とアメリカ合衆国の太平洋に於ける激突は、開戦一発目の戦いにしては規模が余りにも大きかった。何せ大日本帝國海軍連合艦隊はその全力を、アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊も全力をそれぞれ出し切ったのである。両国は大いなる戦果を確信して激突した。特にアメリカ合衆国海軍は[勝利は我が手に有り]と、最早勝ったつもりであった。当然であろう。46センチと言う巨砲を3連装4基12門も装備した超弩級戦艦ユナイテッドステーツを旗艦とし、まさに[大艦巨砲主義]の申し子と言うべき規模を誇っていた。確かに過去の常識から考えれば12隻もの戦艦に、執拗に殴られれば生き残れる艦隊は地球上に存在しないだろう。第1打撃部隊司令官のユリア中将も戦後に語っている。
[海戦前から私はIJNの空母運用について確かに研究していました。しかしここまで一方的に攻撃を受けるとは思っていなかったわ。だってこの時、空母を海軍の中心として考えていたのはIJNだけでしょ?今じゃ原子力空母まで保有しちゃったしね。]
かつての栄光ある[アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊]は、このトラック島沖海戦でその戦力を大きく喪失した。 アメリカ合衆国はこの海戦後に船体まで完成していた、エセックス級巡洋戦艦の空母改造工事に着手した。大型タンカーまで空母へ改造し、航空機の生産も開始した。[世界一の工業国]としての意地を見せたわけである。しかしパイロット養成にアメリカ合衆国海軍は苦労するのである。大日本帝國はワシントン軍縮条約で戦艦保有が禁止された時から、空母艦隊の強化に力を入れていた為、パイロット養成の点でも進んでいた。それに加え大日本帝國は技術力でアメリカ合衆国を凌駕する必要があった。その成果が、[蒸気カタパルト]であり[アングルドデッキ][対空レーダー・対艦レーダー・射撃レーダー]であった。空母を海軍の主力と位置付けた大日本帝國にとって、[航空機の早期射出][効率的な同時離着艦][敵機・敵艦の早期発見][敵機・敵艦の早期撃破]が至上命題となり、その結果として新発明されたのが上記の兵器であった。それではこれまでの説明を踏まえて、今回の海戦を時系列で再検証してみよう。』
小森菜子著
『皇國の聖戦回顧録』より抜粋
午前10時
アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊旗艦超弩級戦艦ユナイテッドステーツ艦橋
僅か15分だけの空襲であったが、最早艦隊の様相は呈していなかった。此処まで着いてきていた駆逐艦も艦爆隊の爆撃には耐え切れず、終には爆沈してしまった。残る負傷残存艦隊の布陣は、旗艦の超弩級戦艦ユナイテッドステーツ、これを筆頭に超弩級戦艦モンタナ級メイン、弩級戦艦ノースカロライナ級ノースカロライナ、重巡洋艦ボルチモア級コロンバス・メイコン、軽巡洋艦クリーブランド級トピカ、軽巡洋艦ファーゴ級マンチェスター・ダルースである。ユナイテッドステーツは大破であるがそれ以外は小破・中破である為、砲撃戦にもつれ込めば勝利出来ると中野司令長官は考えたのだ。何せ大日本帝國海軍連合艦隊の総力をあげての出撃ある。必殺の酸素魚雷を撃ち込む敵は大きければ大きい程、殺りがいが有る。
「どうぞ、司令官。」
ユリア司令官は伝令から通信筒を受け取った。
「敵の実力は侮れませんね。あの混戦で見張り所に通信筒を投下するとは。」
「そうね。」
エリス艦長の言葉にユリア司令官は頷くと、通信筒から電文用紙を引っ張りだした。そこには筆記体で当然ながら英文が書かれていた。
『アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊司令官様へ。
この度は日米開戦と言う事態にお会いする事になり、誠に悲しい次第です。貴国は我が祖国大日本帝國にどのような恨みがあるのでしょうか?国際連盟の人種差別撤廃条約の反対、ワシントン軍縮条約での戦艦保有禁止。その頃私は大佐で戦艦扶桑の艦長でした。人種差別撤廃条約の反対・否決に落胆しましたが、ワシントン軍縮条約での戦艦保有禁止には落胆よりも呆れました。国力を表すのは、海軍力であり戦艦力です。それを真っ向から否定してきたのです。戦艦艦長として、貴国に不信感を抱いたのもその時です。部下の中には「単艦貴国のパールハーバーに殴り込みを仕掛けるべきだ」と言う輩もいました。しかし大日本帝國政府は最終的に大蔵省に、財政報告書を公開させて世論操作を行いました。最終的には貴国の条約を受け入れ、世界初となる[自発的戦艦保有禁止]を表明したのです。確かに私も戦艦艦長でしたが、[八八艦隊計画]による財政危機は軍令部に訴えていました。それが結果的に回避されたのがせめてもの救いです。此ればかりは貴国に感謝の意を表したいと思います。介入せずに[八八艦隊計画]を始動させていれば、勝手に国家破綻していたのにわざわざ助けていただいたのですから。何て事は有りません。貴国は結局、人種差別はしていなかったのです。それからは語るまでも有りませんが、貴国は何を勘違いしたのか大日本帝國を仮想敵国として軍拡を続けました。そして貴国の同盟国であるフランスが大日本帝國の同盟国である大英帝国に、宣戦布告無しに侵攻を開始したのです。此れには我が国としても見逃す訳にはいきません。フランスに宣戦布告をし、南部仏印へ制裁を加えました。そして大日本帝國・大英帝国・イタリア王国の[三国軍事同盟]が締結されました。しかし貴国は我が国を追い詰めるかのように、石油輸出禁止を表明したのです。確かに満州帝國や中華民国等から石油は輸入してますが、5割は貴国から輸入していました。しかし何故、石油を輸出しないのでしょうか?貴国石油会社の殆どが我が国へ輸出していました。その石油会社を潰す勢いで石油輸出禁止を表明したのです。何故か?答えは単純。石油会社はその組織票をルーズベルト大統領の民主党では無く、共和党に入れているからです。貴国大統領の民主党への組織票は、金融企業や不動産企業が中心であり、政治家としての野心も見え隠れしています。そのようなルーズベルト大統領の政治的野心も有り、我が大日本帝國の経済は徐々に追い詰められていきました。その為、山本総理は断腸の思いで対米交渉の停止を決定。貴国との戦争に突入したのです。我が祖国大日本帝國は、貴国との戦争を望んでいません。今回のトラック島沖海戦も断腸の思いで、私は攻撃命令を下しました。しかし貴方達は撤退する事無く、未だに進撃中の事。先程の空襲は最終警告です。これ以上進撃を続けるのなら、残念ながら攻撃するしか有りません。もし、撤退するのでしたら私達は追いません。降伏するのでしたらジュネーブ条約に乗っ取り、丁重に扱います。是非ともお考え下さい。では、次に会うときはお互い笑顔で会える事を祈って、ペンを置きたいと思います。
大日本帝國海軍連合艦隊第1機動艦隊司令長官中野真知子中将
PS.これは連合艦隊総司令部にも複写したのを送っています。』
ユリア司令官は電文用紙を読み終えると、エリス艦長に渡した。エリス艦長は素早く読むと、ユリア司令官に顔を向けた。
「司令官、どう思いますか?」
「書いている事は全て合ってると思うわ。特に石油輸出禁止はね。」
「やっぱりそう思いますか。」
「そうね。」
「どうします、降伏しますか?」
エリス艦長の言葉に、ユリア司令官は腕を組んだ。
「私は降伏したいけど、貴女は戦いたいでしょ?」
「!?……いえ、私はどちらでも。」
「良いのよ。貴女が戦いたいなら戦えば。」
「分かりました。」
「けど、約束して。負けると分かれば降伏するって。」
「イエスマム!!」
エリス艦長はユリア司令官に最敬礼した。
負傷残存艦隊は最後の意地を見せる為に、砲撃戦に挑むのであった。