05 義時の思い
政村は母に怒って、家を出て、三浦の名越別邸に居ました。
義時は伊賀の方に、政村の件が片付くまで別邸にいるようにいいました。
義時から朝時に相談があるので邸に来るようにと使いがありました。政村の事と思い、邸を訪ねましたが、義時の話は北条家全体にかかわる話でした。
義時は、伊賀の方はこのままでは牧の方のようになる。あの母がいる事は政村のためにならないので、離縁しようと思うと言いました。
義時の話は続きます。
自分は、朝時に謝らなくてはならない。
月子との結婚は、周囲からの強制だった。
朝時が生まれた時に、自分の子ではないと思っていた。
だから、日子が朝時を育てると言った時には、すぐに応じた。
朝時が宗時に似てきて、自分の息子だと分かってからも、愛情がわかなかった。宗時に対する嫉妬かもしれなかった。親として、済まなかったと思っていると。
朝時は、父上が自分を構わなかったおかげで、自分は叔父上の養子になって、沙夜と一緒になれた。
義時の家で育てられていたら、政略結婚させられていたかもしれない。自分は、幸せに暮らしているから気にしないでほしいと。
義時は、朝時は、「愛されて育ってきた」だから、沙夜とお互いを思いあった家庭をつくることができる。泰時には、それがないかもしれない。
自分が泰時を「跡継ぎ」になるように育てた。自分は泰時には、安らぎを与える事ができなかった。
それが泰時の欠点になるに違いない。泰時には、人を惹きつける力が欠けている。
泰時は、幕府を率いる事ができないのではないかと思うようになったと打ち明けます。
泰時の次は政村に継がせたい。政村は学問もできる。伊賀の方から離れれば、人望も集まるだろう。
朝時は政治の事は分からないだろうが、人から好かれる。
朝時が政村の力になってくれれば、北条家も幕府も安泰だと。
思いもかけない義時の言葉でした。
朝時は、兄上は父上の期待通り跡継ぎになるために必死に学び、人生をささげてきた。
茜との行き違いはあったにせよ、今は、やり直している。
泰時を愛していた義時が何故、そんなことを言い出すのだと父を責めました。
義時は、泰時は立派にやっていけると思ってきた。今も思っている。だが、人の心の機微が分からないところがある。それでは執権としてやっていけない。
誰よりも泰時を大切に思って来た。だが、自分の思いが泰時を、自分と同じ冷たい人間にしてしまっているのではないか、幕府執権の座は泰時に不幸を持たらすのではないか。
泰時のためにも北条家のためにも、泰時は執権にならないほうが良いのではないかと。
(普段は落ち着いている義時が興奮しているのを朝時は訝しく感じていました)
朝時は、父に、落ち着くようにと諭します。
政村と凪子との事は、三浦の伯父上と話すので、伊賀の方にも何も言わないように、
泰時についても考えすぎないようにと、念を押し、急いで、邸を出ました。
朝時は、門口に書物が落ちているのに気が付きました。
それは泰時の物で、兄が今の話を聞いていたかもしれないと、朝時は泰時邸に向かいます。
泰時は、蒼白な顔で酒をあおっていました。
朝時の顔を見ると、盃を投げつけ、結局、父上も自分を見捨てた。最初から、比企の血を引くお前が跡継ぎになっていてば、自分はこんなに辛い思いをしなくて済んだのにと言います。
伊賀の方の思い通り、政村を跡継ぎにすればよい。自分はもう引退すると。
朝時は、父上は、政村の件で混乱しているだけだと。
跡継ぎは泰時以外にはいないと必死になだめ、泰時を落ち着かせるために、眠りの効果がある薬湯を飲ませ、朝まで自分が付き添う事にしました。
政村は朝時が泰時邸に呼ばれた事、その後、泰時邸に行った事を知り、自分と凪子の件で、父・兄たちが動いてくれていると思っていました。