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一人ぼっちの旅立ち

 婚約破棄から三日後、私は生まれ育った屋敷を出てヘーゼルダイン辺境伯領へと向かっていた。王都から辺境伯領までは馬車で約二週間はかかるからしっかり準備をして……と思っていたけれど、両親はそんな事はお構いなしでさっさと行けと急き立てて、私は最低限の荷物だけ持たされて追われるように屋敷を後にしていた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「疲れたら遠慮なく仰ってください」

「二人とも、ありがとう」


 同行してくれたのは、エリオット様の婚約者になってから王家が付けてくださった侍女のユーニスと護衛のビリーだった。有難い事に道中危険だからと、王妃様は大型馬車と護衛騎士まで寄こして下さって、私はその馬車で辺境に向かっていた。


 ユーニスはトイ伯爵家の次女で、家が没落したために王宮で侍女として働いていたという。王妃様に気に入られて王妃様付になり、三年前に我が家に派遣された。その為、両親やメイベルですら彼女に命令する事は出来ず、あの屋敷内では常に私の味方をしてくれた貴重な存在だった。一つしか年が離れていないから、私にとっては侍女と言うよりも姉のような親友のような存在だ。


 もう一人はビリー=デイン。年齢は教えてくれないからわからないけれど、多分三十歳前後だろう。彼も王子の婚約者の護衛として王家から派遣されてきたけど、一年前に先任者と交代しているため付き合いはユーニスほど長くない。自分の事を語りたがらないので詳しくは知らないけれど、どうやら子爵家の出らしい。


 男性だけど女性みたいに綺麗な顔をしていて、よくメイベルが取り巻きに欲しいと駄々をこねていた。さすがに王家から派遣された騎士を勝手にどうこう出来る筈もなく……いつも物欲しそうにしているメイベルが痛かった……


 護衛騎士が王妃様からのお手紙を預かっていて、私は馬車に揺られながら目を通した。手紙には今回の婚約破棄への謝罪とこれまでの労いの言葉、そして困った時には王妃様の弟君を頼るようにとのお気遣いまで頂いてしまった。今回の辺境伯との婚姻も、王妃様は反対だったけれど、今後私への世間の風当たりや実家がどう私を扱うかが心配になったので、あえてエリオット様の策に乗ったのだ、とあった。ヘーゼルダイン辺境伯は陛下の弟君で聡明で素晴らしい人だから何も心配いらない、とも。


 一時は見捨てられたかと落ち込んだけれど、王妃様の本音を知ってこれまで頑張ってきたことが報われた気がした。これからは滅多にお会い出来ないけれど、辺境伯の妻として陛下と王妃様に恩返しが出来たらと思う。


 さすがに馬車での旅はきつかったけれど、生まれて初めて王都の外に出た私はワクワクしていた。王子妃になってからは王子妃教育とエリオット様の執務の手伝いだけの日々で王宮と屋敷の往復ばかりだったけれど、これからはもう少しマシな人生になるのではないかしら…そんな期待が今の私の希望だった。


 だって、あのままエリオット様と結婚しても、幸せになれる気がしなかったから。エリオット様は女好きだし、頭もかなり……なので、公務をまともにこなせるとも思えない。


我が国では第二王子は王太子殿下に何かあった時のスペアでもあるから臣下に下る事も出来ず、一歩間違えれば謀反に利用される可能性もある。言動には細心の注意が必要で、とても難しい立場なのだ。聡明な方なら心配は少ないけれど、相手はあの残念王子と影で囁かれているエリオット様。彼が問題を起こせば連座で私も処罰を受けることになるだけに、婚約破棄されたのは幸運だったと思う。


 そうは言っても、ヘーゼルダイン辺境伯にもあまりいい噂を聞かなかったから不安もある。年は確か三十三歳で、王位継承順位は低かったから早々に見切りをつけて騎士団に入り、団長を務めるほどの実力者だったという。だけど陛下が即位される際に反国王派に祭り上げられそうになったと仰って、ちょうど隣国との小競り合いが続いていたヘーゼルダイン辺境伯の元に養子に入ったという。


 その辺境伯様もメイベルが言っていた通り、昔は大変な美男子だったという。だけど隣国との戦いで傷を負い、今は恐ろしい容貌に変わってしまわれたとか。まぁ、正直言ってエリオット様みたいに顔だけ男には興味がないからそこはいいのだけど……


 私が一番気にするのは辺境伯のお人柄だった。昔は聡明で公明正大なお人柄だと言われていたそうだけど、今は粗野で冷酷無比になったと言われている。政略結婚だから恋愛感情などある筈もないのだけど、せめて家族として困らない程度には仲良く出来る方であってほしい。


 エリオット様との破局は願ってもいない事ではあったけれど、一方的な婚約破棄には自信を失わせる力が十分だった。相手がメイベルだったのも、後になってじわじわと心を蝕んでいた。私たちは同じ母から生まれた姉妹だからさすがにそこまではしないだろうとの淡い期待もあったし、両親だってさすがに諫めると思っていたから。そんな家族の態度に私の心は全く晴れる事がなかった。



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