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婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です  作者: 灰銀猫
六章

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バイアット侯爵家の夜会

 リネット様の婚約披露パーティーから五日後、今度はバイアット侯爵の夜会に来ていた。春の王都は社交シーズンの始まりなのもあって夜会が目白押しで、一月ほどは夜会三昧なのだ。バイアット侯爵はラリー様と同じ年で、騎士団で一緒だった方だ。今は近衛騎士団長を勤めているが、ご本人曰く、未だにラリー様が王都に残って下さったら…と仰っているのだとか。ラリー様も気心が知れていて今でも親しく交流があるので、この夜会を断る選択肢はなかった。


「これはヘーゼルダイン辺境伯夫人、いや、セネット侯爵とお呼びした方がよろしいかな」

「お招きありがとうございます、バイアット侯爵。どちらでもお好きなように読んでいただいて結構ですわ。ラリー様がお許し下さるのであれば名前でも…」

「まぁ、バイアット侯爵ならいいだろう。但し愛称呼びは許さないけどね」

「ははは、ローレンス様がそんな風に仰るとは。噂通りアレクシア嬢に夢中のようですな」

「当然だろう?しかもまだ新婚なんだからな」


 バイアット侯爵は笑い話として流してくれたけど、何かにつけラリー様が私に夢中だと言うので恥ずかしかった。ラリー様ほどの大人でもてる男性が私に夢中だなんて…リップサービスとしか思えないのよね。それでなくてもさっきから貴婦人たちが、ラリー様に熱い視線を送っているのだから。


 バイアット侯爵家は武門の家系で、侯爵は近衛騎士団長だけど父君は総騎士団長を務めておられた方で、引退した今でも国内でも強い影響力をお持ちだ。侯爵家の中でも特に力があり、公爵家にも負けないほどの勢いがある。

 その当主のバイアット侯爵はダークブロンドの髪と暗褐色の瞳を持ち、背も高くいかにも騎士という感じの方だ。顔立ちは整っているけれど冷たい印象が強く、社交界では氷の貴公子とも呼ばれているとか。金の髪と青い瞳でパッと見の印象は柔和なラリー様とは対照的だ。

 実はまだ独身でいらっしゃるので、今夜は侯爵様のお心を射止めようとご令嬢やその親が何とか関心を得ようと必死なのだとか。ただご本人は亡くなった婚約者を未だに想っているとかで、まだ結婚する気になれないらしく、前侯爵を大いに嘆かせているのだと言われていた。


「侯爵狙いのご令嬢が凄いな…」


 挨拶を終えたラリー様が、バイアット侯爵に群がる貴族たちを見て感心していた。ヘーゼルダイン辺境伯家も侯爵家と同等の地位だけど、さすがに辺境の領主と王都貴族のバイアット侯爵では令嬢やその親の意気込みは別物だと思う。まぁ、ラリー様の場合、顔に傷がついて醜くなったとか、そのせいで性格が冷酷無比になったなんて噂を流していたのもあるのだけど…あの噂がなかったら、きっとこんな風に令嬢達に囲まれていただろう。


「アレクシア様!」

「まぁ、リネット様」


 声をかけてくれたのは、婚約したばかりのリネット様だった。隣には婚約者のジョシュア様も一緒で、仲睦まじい様子が微笑ましく見える。


「先日はすまなかったね、変な騒ぎになってしまって」

「いえ、ヘーゼルダイン様のせいではありませんから。お気になさらず」


 ラリー様が謝罪したのは、あのガードナー公爵令嬢達の件でちょっとした騒ぎになってしまった事だった。まぁ、あれはあちらが非常識で、こちらに非はないけれど、騒ぎになったのは事実なのだ。


「そう言えばあれからガードナー公爵家とリドリー侯爵家からは?」

「それが…」


 ジョシュア様が表情を曇らせた。聞けばあんな騒ぎを起こしたにも関わらず、両家からは謝罪の言葉がまだないという。婚約披露の席で不倫を要求するなど非常識で、この件は既に社交界でも話題になっているのに、だ。この話は王太子殿下の耳にも届いていて、殿下も眉を顰められたという。王妃様の潔癖なところが、王太子殿下にも受け継がれているのもあるだろう。


「噂をすれば、ですわね」


 リネット様の視線の先には、ガードナー公爵と令嬢がいた。今日のガードナー公爵令嬢はやはり青色を基調としたドレスで、それを見たリネット様もジョシュア様も呆れた表情を浮かべていた。どうやらあれだけ言われてもまだ諦めていないらしい。ちなみに私達は今日も紫を基調とした衣装だ。


「参ったね、ああも理解力がないとは」

「でも、ヘーゼルダイン様。お気を付けください。でないとアレクシア様が…」

「ああ、マグワイヤ公爵令嬢、ご心配なく。シアを傷つけるような事は私も、そして王家も許しませんから」

「そうですね、王太子殿下も妃殿下もセネット嬢の味方ですよ。勿論側近の私達もです」

「そう言って頂けると心強いですな」


 皆さんが添い言ってくれるのは嬉しいし、ガードナー公爵令嬢とは何もなかったとラリー様は言うから、そこは心配していない。心配なのは…


「問題はリドリー侯爵と令嬢ですね」

「ああ」

「大神官との癒着の噂もあります。狙いはセネット侯爵家の聖女の称号だとも」

「だろうね。たった一人、聖女を出しただけなのに…王家が奉じるセネット家に取って代わろうなどと、大胆な事を考えられる」

「辺境伯様、何か手が?」

「それはまだ何とも。でも、シアに火の粉が降りかかるなら排除するまでだよ」


 そう言ってラリー様はにっこり笑ったけれど…ラリー様、その笑顔って、何かあって欲しいと思っています?そうは思っても、さすがに人目があるので私は言葉には出来なかった。いえ、言ったところでラリー様は曖昧に流してしまうのだろうけど…


「ローレンス様、探しましたぞ」

「ジュールか」


 ラリー様に声をかけてきたのはラリー様のご友人のマッドレル侯爵だった。副宰相の一人で、ラリー様とはバイアット侯爵と共に幼馴染でもあるという。柔らかそうな茶色の髪にブルーグリーンの瞳でパッと見は目立たないが、整った顔立ちをしていて密かに女性に人気がある。こちらは既に奥様がいらっしゃって、確か今三人目のお子がお腹にいると聞いた。


「アレクシア様、ローレンス様を少しお借りしても?」

「ええ、構いませんわ」

「なんだ、ジュール。私はシアの側を離れたくないんだが」

「直ぐに終わりますよ。ヘーゼルダインの事です、少しは我慢なさって下さい」

「ああシア、直ぐに戻るよ。ジョシュア殿、マグワイヤ嬢、すまない、シアを頼む」

「畏まりました」


 ジョシュア様がそう言うと、ラリー様は渋々ながらもマッドレル侯爵に連れられて行った。ヘーゼルダインの事なら無視するわけにいかないのはラリー様もわかっていらっしゃるだろう。溺愛されていますね、とジョシュア様に言われたけど…そんな風に言われると恥ずかしくて仕方なかった。


「おや、これはこれは、セネット侯爵ではありませんか」


 声をかけてきたのは…リドリー侯爵だった。




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