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辺境伯との対面

 翌日、私は予定通り、案内された応接室で辺境伯にお会いすることになった。


 今日のドレスはユーニスが完璧に仕上げてくれたから、多分失礼にはならないだろう。上半身は濃紺で下に向かうにつれて色が薄くなるグラデーションのドレスは、過度な装飾がないシンプルなものだ。そのかわり生地はいいものを使い、控えめながらも気品がある。これも実は王妃様からの贈り物で、ユーニスが私の両親に知られないように持って来てくれたもの。家族は何も用意してくれなかったから王妃様には感謝しかないわ。


 辺境伯について私が知っていることと言えば、年が三十三歳で、以前は第一騎士団の団長をされていたこと。現陛下が即位されたのと同時にヘーゼルダイン辺境伯の養子に入られてそのまま辺境伯を継がれたこと。隣国との戦いで顔に酷い傷を負われて醜くなってしまい、その後性格まで冷酷無比となられたこと、くらいだった。


 どんな方なのかと身構えながら体面に臨んだのだけど…


「ようこそ、セネット侯爵令嬢アレクシア嬢。私がヘーゼルダイン辺境伯ローレンスです。お迎えに上がれずに大変失礼いたしました」

「いえ……セネット侯爵家のアレクシアです……こちらこそ急な訪問で大変失礼いたしました」


 目の前にいらっしゃるのは、顔に傷一つない実に秀麗なお顔をされた美丈夫だった。これは……もしかして婚姻が嫌で影武者を使われている、とか? 噂を鵜呑みにするつもりはなかったけれど、こうも状況が違ってくると困惑するしかなかった。


 豪奢さを感じさせる黄金の髪に蒼天の瞳、すっと通った鼻筋に薄くて形のいい唇が、最高のバランスで配置されていた。背も高くて程よく筋肉がついた身体には、騎士服がこれ以上ないくらいにお似合いだ。姿勢の良さもあって堂々とした威厳を醸し出している。しかも、何というか……妙に色気があるように感じる。


 正直に言うわ、エリオット様なんかの百倍以上素敵だ……


 お陰でいつものように冷静に対応出来ない。うう……私一人で対峙しなければいけないというのに、相手の風格に飲まれてしまっている……まずいわ……


「詳しい事は王妃様からの書状で伺っております。何と言いますか……甥が随分と失礼いたしました」

「い、いえ! 辺境伯様に謝罪して頂く必要はございません。元はと言えばエリオット様のお心を繋ぎ留められなかった私の力不足です。それに……お恥ずかしながら私の妹にも問題はありますし……・」


 そう、今回のことは私も一方的な被害者とは言い切れないと思う。私にも至らないところがあったのもその一因だから。もっともエリオット様の事は全く好きになれなかったから、婚約破棄してくれないかなぁ……とは思っていたけれど。


「……お互い、不出来な身内を持つと苦労しますね」

「え……いえ……そのような…」


 困ったような笑顔を浮かべてそう仰られたけれど、変に謙遜されると言葉に困ってしまう。でも、ここは肯定すべきところでないわ。今は辺境伯の身分でも、相手は王族なのだから。


「それはそうと……セネット嬢はどうお考えですか?」

「はい?」

「私との婚姻ですよ。私はあなたの倍ほどの年齢だ。こんな年寄りの相手はお嫌ではありませんか?」

「いえ、そのようなことは……むしろ私の方こそ、このような傷物で申し訳ありません……」


 輝かしい経歴を持ち、何の瑕疵もない辺境伯様に比べたら、醜聞だらけの私では申し訳なさすぎる。


「傷物などと仰らないでください。元はと言えば甥のせいですから。ですが、正直に申し上げましょう。私はあなたを娶るつもりはありません」


 はっきりと宣言されて息を呑んだ。それは王命に反するとの宣言で、誰かに聞かれたら反逆罪とも受け取られる可能性があるものだわ。それに……


「そうは言っても王命ですので、婚姻を断ることは出来ません。それで提案です。三年間、夫婦の振りをして、その後はそれぞれ自由になりませんか?」


 思わず辺境伯様をまじまじと見上げてしまった。その真意は……


「それは……白い結婚、ということで?」

「話が早くて助かりますね。その通りです。あなたはまだ若くて愛らしい。こんな辺鄙なところで倍ほどの年の男の妻になるのは勿体ない」

「そのような事は……」

「三年、我慢してください。その間にあなたが望むような相手を探しましょう」


 なるほど、辺境伯様は白い結婚をお望みらしい。確かに年も離れているし、勅命だから体裁だけでも、という訳なのね……だけど、それはそれで好都合かもしれないわ……私も婚姻を望んでいないし三年後に解放してくれると仰るのね。白い結婚なら夜のお相手をする必要もないわけだし。それって、私にとって一番望ましい条件かもしれない。


「ローレンス、いきなり白い結婚を提案とは、失礼が過ぎるぞ」


 私が「是非そのように」と言おうとしたところで、別の声が割り込んできた。どこかで聞いたような声だと記憶が震えた私が声の方をすると、そこには髪と髭を白くしながらも、なお筋骨逞しい壮年の男性が険しい表情で辺境伯様を睨みつけていた。




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