0.Prologue 数ある世界の、どこかひとつでは
──もう、何度目だろうか。
コシェは、床に倒れ伏す黒髪のあの子の傍に、ゆっくりと座り込む。
部屋に満ちる、噎せ返るような鉄の香り。
勝ち誇ったような笑みを称えたあの子の唇からは、深紅の液体が零れていた。
─もう、何度目だろうか。こうして、置いていかれるのは。
目の前の躰に深々と突立つ短剣を見て、嘆息する。あの子らしいな、と。
きっと私が間も無く朽ちてしまうから、その前に、とでも思ったのだろう。
あの子は、ひとり遺して置いていかれることをとても嫌がる。
『先に死ぬなんて狡い!置いていかないでよ!』
私が久しぶりにあの子より先に死んだ、前の前の世界でも、悔しそうに顔を歪めてそう言っていたのだから。
「……まったく、あの子…ウォルプらしいね」
くすり。ひとつ微笑を零して、コシェはウォルプの躰を貫く短剣を引き抜いた。
そして。
「おやすみなさい、また来世。」
程なくして、床には二つの遺骸が転がった。
はじめての投稿となります。
わたしの中にひろがった、わたしだけの世界。
それを、少しでも色んな方々に見ていただければと思い、拙いながら筆を取りました。
楽しんでくださると幸いです