黒髪
ルカは目の前の女を観察した。
長い黒髪に、くりくりした目。
白い肌。黒いマント。
どこかあの二人の面影があるなあ、と思う。
黒髪はといえば、日本刀を床においてルカをじっと見ている。
「あのお」
沈黙に耐えきれずルカが声を出した。
「私に何か用でも」
「貴様、日本人だな」
と黒髪。
「は、はい」
「そうか……」
何か聞きたいらしい、とルカは感じた。
「日本について何か聞きたいのですか?」
ルカが問うと、
少し顔を赤らめながら、
「あ、まあな、えーとその」
黒髪が慌てる。
「あー、お前は忍者か?」
「ぶほはっ!」
笑いを堪えきれずルカが吹き出す。
「何がおかしいっ!」
黒髪が顔を真っ赤にして抗議した。
「ごめんごめん。ひさびさにその単語聞いたからさ」
ルカが続ける。
「もう忍者はいないよ。ずっと前になくなった」
「そうか……」
悲しい様子の黒髪。
どうやら忍者が大好きらしかった。
「忍者、いないのか……」
小声でつぶやいている。
「なりたかった……」
ルカは黒髪の純粋さに少し感動を覚えた。今時こんなまっすぐな子はいないぞ、と一人で考える。
「忍者はいないらしいゴン蔵」
そしていつの間にか黒髪の膝にはゴン蔵と呼ばれたふわふわした黒い動物が乗っていた。
「残念だな」
ワン、と鳴くゴン蔵。
犬なのか……?
ルカには初見の動物である。
そして、ゴン蔵は黒髪の手をするりと抜け、どこかに走っていった。
「我は日本が好きだ」
黒髪が語りだす。
「けばけばしくなくていい」
確かに、とルカも思う。
どうも黒髪は日本に関して古いながらも正確な知識があるらしかった。どこかで本でも読んだのかな、と思うルカ。
そして
「亡くなったお父様も日本が好きだった……」
黒髪がうつむく。
「そうか……」
ルカにはこれしか言えなかった。
いつの間にか窓の外は真っ暗だった。
「やばい、もう帰らなきゃ」
ルカが言うも、
「それは不可能だ」と黒髪。
「なぜだ?」当然の疑問である。
「そなたはしばらく我が保護することに決めた」