ルカ
そのときどこからか声が聞こえてきた。
「そこのみなさーん、ご飯ですよー」
という声。
アクバルだ。
「まったくうらやましい限りだよ旅人よ。さあ早くきなさい」
アクバルが言う。
男は気のせいか、頭の中で聞こえている気がした。
また、その声を聞いた二人は、
「やばい。早くいかなきゃ」とララ。
「ご主人様、行きましょう」
とリリ。
ララは駆け出しながら、
「あたしが見てないとこでまた変なことしたら許さないからねっ!」
と言い残していった。
残された二人。
リリがニコニコ笑いながら男に腕を絡ませる。
あれがあたって、あたってますっ、と心で悲鳴をあげる男。
二人は過度に密着しながら、またホールへ向け、長い道のりを歩き出したのだった。
○ ○ ○
しかし今回は部屋が一階だったため道はそれほどではなかった。
廊下をあるくと、自然とホールが見えてきた。
リリは男に密着したままである。
「ご主人様、わたしのことはこれからリリとお呼びくださいませ」
頬を照れくさくかきながら男は、
「あ、うん、わかったよリリ」
と話す。
リリはスゴくうれしそうな声で、
「ご主人様、名前はなんとおっしゃるんですか」
しかし、男はすこし困った顔で答えた。
「ルカと呼ばれている。
本当の名前は、私もよく知らないんだけど」リリはちょっとマズいことをしたかなと思うも、
「いや、気にしないで。
私は自分の名前はあんまり気にしてないからさ」
「そうでしたか……」
リリは、男がこれまで大変な苦労をしてきたらしいと、
自分もそうであるが故に、感じたのだった。