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エースの背中  作者: 滝川誠
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9.お家時間


「いててて」


 つい声が出てしまう。火照った身体を扇風機の風で冷やしながら畳のある客間で開脚をしていた。


「かったー。だっさー」


 妹の千紗が笑いながら近くに来た。座り込んで僕の真似をする。


 脚の開きが全然違った。千紗の脚は横に一直線に開いている。自慢げな顔をしてるのがムカつく。


 カチャカチャカチャ、と網戸から引っ掻く音が聞こえた。


 カラカラカラ、と網戸が開くと、膨らんだカーテンの下からスーッと黒い柴犬が出てくる。


 カーテンを抜けたシバはその場に座り込んだ。見事な開脚をする千紗を見て、次に僕の開脚姿を見る。


 舌を出して真っ直ぐ僕を見つめていた。


 

 ずっと見ていた。



 開いた口がニタニタしているように見えた。


 このムカつく犬を押したかった。でも届かない。


 千紗が開脚したままシバの脚に触れた。気づいたシバは千紗の前に寄ると、腹を投げ出して倒れ込んだ。千紗は開脚したままシバの腹を撫でた。シバの目はトロンとしている。


 何故かこの犬は千紗にだけ甘えてくる。世話は全くしてないのに。本当にムカつく。


「なあ、何でそんな軟らかいの?」と千紗に訊くと「小さい頃から毎日やってるもん」と千紗は言った。千紗の腹を撫でる手が止まったので、シバが大きく口を開けて身をよじった。


 そういえば千紗はよくストレッチをしていた。テレビを見ながら、本を読みながら、勉強しながら、と片手間にストレッチをしている。それを見て、よくやるよなあ、と思いながら僕はただ座ってテレビを観ていた。



 日々の積み重ね。



 大志先輩の言葉が浮かんだ。


 ちょっとした意識の違いでも、ちょっとした事でも、それがコツコツ積み重なっていくと、今の千紗と僕のような違いになる。


 今日まで過ごした日々が悔やまれた。


 僕も千紗の真似をしていたら、今頃は・・・と思う所だけど、そんな事を悔んでも、もう遅い。


 過ぎた日々はもう取り戻せない。


 気づいたんだから後は進むしかない。



 今日から絶対にストレッチを欠かさずにやろうと決めた。



 今はこんなだけど、続けたら絶対に軟らかくなってるはず。一年後はもっと軟らかくなってるはず。諦めずにコツコツ続けていく。絶対に諦めない。


 痛みを堪えて腕を伸ばした。


 指先が黒い尻尾の先に触れる。


 邪慳にするように尻尾はサッと逃げた。


 シバが眠そうな顔を僕に向けてきた。




 なに触ってんだよボケ




 そんな顔をしていた。



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