相対解錠を実現する3番対話
カフェの窓に、薄ぼんやりとした透明が差し込んでくる。黒ずくめの男と、白しかない少女が相対して席に着いている。他にもいくつかのテーブルや椅子があるようであったが、扉も店員も厨房も、その姿はどこにもなかった。
二人の視線の交差する点には、男性がクルクルと回す、何らかの棒状を輪で数珠つなぎにしたようなものが緩やかに空気を混ぜるのみであった。
「それは?」
「これか?」
「ええ」
「これは鍵の束だな」
男性が手を離すと、テーブルの上空に回りながらも漂う鍵束。何本が繋がれているかは定かではなかったが、見た限り少なくはないと少女は思った。
「あら、落ちないのね」
「普通は落ちる」
「空想では?」
「空想だな」
「少しずつ慣れてきた?」
「味がする程度にはな」
ゆらりゆらりと、湯気よりも遅く回転し上昇する。何をする物かはさっぱり判然としなかったが、目的のないものは多くある。何にもならないのか、それを知ることがないからか。分からないものは何かを失っているのだ。ただそれが分からないだけで。
「回るのが仕事なのね」
「仕方なく回っているだけだろう」
「重いのかしら?」
「軽いかもしれない。けれど知らないだろう?」
「ええ、そうしているのだから」
少女が男性を見つめると、鍵と呼ばれたものがテーブルへと落下する。幸い卓上にはなにもなく、ただ揺らめく湯気が立ち消えるだけに留まった。
男性がそっと手をかざすと、束が解かれ一本の鍵が残される。手でつまみ上げるとまた、それは目線の高さへと浮かび上がった。
「これも水色なのね」
「大半はそうさ」
カフェの照明が鍵に反射し、窓から差し込むものと混ざり合って輪郭を失っていく。それでも少女が手に取れば確かに感触があり、手の中に収まったそれは、しかし、それだけだった。
「どうするの?」
「なんでも。目的を失っているからね」
「回す?」
「開くんだ」
男性が見守る。少女は鍵を両手で千切るように開くと、半ばで二つに分かれた。口にすればぐねぐねと蕩け、片割れを男性に差し出せば苦笑の後に口へと含む。
「開いたわ」
「そうだな」
鍵は開くものだ。束から取り出せばそういうものになり、束に戻せばそういうことになる。解いたそれは少しばかり柔らかさを取り戻したようだと男は思っていた。




