風説水色を描写する2番設問
ゆるゆると、輪郭というものが形成されていく。2人ほどの顔に、テーブルと椅子がいくらか。だがカウンターも店員も、出入口すらなく、ただ温かな飲み物が人物の間で煙を上げているだけだった。
人影は、ひとりは男性、ひとりは女性。文脈からちぎられたような愉快さだけが、ふたりに共通する心地よさを醸成していた。
「この飲み物、なにでできているのかしら」
「淹れたのは君ではなく?」
「ええ。そして私のものでもない」
「つまり私が飲んで確かめると」
「そうね」
飲み物は白い少女の手で、男性の元へと押し出された。男性は無造作に持ち上げ、一口含む。予想したとおり熱すぎるということはなく、だが特に味がするわけでもなかった。
「ふむ。水か」
「温かいからお湯よ」
「水は熱くなっても水か水蒸気ぐらいのものだ」
「煙が上るぐらいには熱いのに」
「湯気というのが妥当ではないだろうか」
「それもそうね」
男は再び、湯気の立つ容器を傾けた。相変わらず味はせずお湯であったが、どうにも珈琲のような構え方だなと内心で苦笑すると、口の中で苦みとコク、そして香りが立ち上ってきた。
「それは?」
少女は呆然と、新しい感覚を享受しつつ問いただす。動きを取り戻した男性が、これが珈琲というものであると伝えると、少女はいつの間にか手元に増えていた珈琲を一口含み、熱さに耐えられないとばかりに握りしめていたそれをテーブルに戻した。
「熱かったか」
「熱いということを知ったわ」
「苦かったか」
「口が痛いだけだわ」
「そうか」
それっきり、少女は珈琲から手を離したままだった。しかし湯気は、いつまでも立ち上っていた。
「ところで、この珈琲は一体どうして透明なんだい?」
「あら。それは水色よ。透明ではないわ」
「ふむ。珈琲は珈琲色をしていて、水色ではない」
「そうなの、初めて知ったわ。でも珈琲色って何色かしら」
「それはテーブルのような、いやこのテーブルに色と形はなかったな。畑の土のような色だ」
「ふうん。土と床の区別なんてないわ」
男性は閉口し、ひとまずあたりを見回してみることにした。なるほど視界に映るのは自身の黒ずくめと対面に座る少女の白、あとは水色。残りの色は分からない。どうしたものかと珈琲を見ながら珈琲色を幻視して、ついに珈琲が視界いっぱいに染み渡り埋め尽くしていった。