混浴が当たり前の世界の温泉オタク~恋の熱でのぼせてしまうの巻~ 1
一応試作品なので1話完結ですが、反応によっては続編描きます。
そして読みやすさと店舗を重視するため、温泉が混浴という設定は作中では説明されておりません。
ですが分からなくても理解できるように作ってありますが、気になる方だけここで説明させていただきます。
× × ×
かつて外国人が日本の混浴である銭湯をみて避難したそうだ。
しかし我々日本人は、独自の文化を大事にするべきだという考えを捨てきれず、今も尚水着のような風呂着なるものに身を包み、今も尚混浴の銭湯が市民に親しまれている。
「ホムラのことがずっと前から好きでした! 良ければ……私と付き合ってください!」
高校の卒業式、放課後に人気のない桜の一本木の下で、俺は幼なじみの小夜に告白をされた。
今まではただの幼なじみとしてしか見てなかった。
なのに、何故か不思議とその瞬間を境に、彼女をそう見ることが出来なくなったのが分かった。
勇気を振り絞った彼女の肩は小刻みに震え、真っ直ぐと見据える瞳には緊張の色がありありと見え、唇はキュッとキツく結ばれている。
「お……」
我ながら軽いヤツだと思った。
今までそうは思えなかったのに、今この瞬間彼女のそのたった一言で俺は簡単に意識してしまう。
「俺なんかで良ければ……」
俺がそう言うと、小夜は信じられないとでも言いたげな顔で俺の顔を見つめた。
そして次の瞬間には満面の笑みを浮かべて勢いよく俺に抱きついてきた。
「これからもよろしくね! 大好きだよホムラ!」
勢いあまる彼女の体を支えきれずに俺は倒れ込んでしまう。
しかし彼女は気にする事もなく、俺の顔を見上げるとニコッとほほ笑みを浮かべ、上空へと指をさして言った。
「ほら、見てよ焔! 桜がとっても綺麗! 私、この桜のこと一生忘れない!」
彼女の指した方へ視線を向けると、確かに立派な桃色で満開な桜であった。
「あぁ、確かにとっても綺麗だ……」
今まで見てきた桜の中で、一番綺麗な桜だと思った。
また、こんな桜を見てみたい、そう、心の底から思えるほどに。
×××
九月十五日。
S市駅前にて、俺はポケットに入れてるスマホの振動を感じ、開くと案の定メッセージが届いていた。
もうすぐ着くから待ってて。
そこにはそのように書いてあった。
「はぁ……こーなるんなら一緒に家を出りゃ良かったのに」
一言、そんなことを思いながらもため息をひとつ。
それもこれも、全ては小夜が言い出した事であった。
「せっかくの誕生日を祝う初デートなんだから、待ち合わせとかをしてカップルっぽくしたい……てさ、家隣なんだから一緒に行きゃいいのに」
だが、なんだかんだ言いつつも、待つというこの時間も悪くはなかった。
確かに、二人で遊ぶと言うだけならこれが初めてではないし、小夜の誕生日を祝うのも無論初めてなわけが無い。
だが、二人でデートをすると言うのは初めてだ。
確かにいつも通りの様にしては、付き合って遊びに来た……という感じが出ない。
というよりも、ただのいつも通りでしかない。
「いつも通り……じゃあなんか味が無いよな」
という事で、今回のデートで行く予定の所は少し趣向を凝らしてみた。
最も、割とベタなものでもあるのだが、恋愛初心者……というより付き合った経験のないホムラにとっては変化球の効いた事は出来ない。
「上手くいってくれることを、あとは祈るのみか……」
「おーい、焔ー!」
そんな事を思いながら物思いにふけっていると、待ち人の声が聞こえた。
片方だけを結んだ肩ほどまでの綺麗な黒髪、少しタレ目気味で、大きくパッチリとした瞳、肩には小さなバッグを下げた少女の姿が見える。小夜だった。
「ごめん、遅くなった」
「乗り遅れた?」
俺がそう言うと、彼女は申し訳なさそうに頷いた。
「服決めるのにちょっと時間かかっちゃって……どうかな?」
小夜はそう言うと、その場でくるりと回って見せた。
全体的にシックな色合いで固めたシャツと、ウェーブの入ったミニスカート。彼女はとても脚がスラリとして長いので、とてもミニスカートが似合っている。
「うん、可愛いと思う。
特にそのミニスカートがいいな。小夜は脚が長いし、スラッとしてるからホント似合ってるよ」
「す……少しの恥ずかしげもなく言うんだね。
もう少し照れてくれるとからかいがいがあるのに……」
「逆にお前の方が照れてないか?」
「は……恥ずかしいの! こんな露出の多い服は!
さぁ、そんなこと言ってないで、早く行こうよ! 遊ぼ遊ぼ!」
彼女はそう言うと、俺の手を握ってから歩き出した。
握ってきた彼女の手は、少ししっとりとしていた。
強引に握ってきていた彼女の顔を少しチラリと見てみると、少し頬が赤みを帯びていて、恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうに唇をキュッと結んでいた。
「小夜ってこんなに可愛かったんだな……」
「え? なんか言った?」
「んにゃ、なんでもない」
ふと、少し顔が熱くなってる気がした。
偶然通りかかった近くのガラスを見てみると、少し頬が赤くなってる自分の顔が、そこには写っていた。
俺も小夜の事は言えないな。心の中でそう呟く。
「それじゃ、初デート楽しみましょっか」
「うん!」
俺の言葉に、彼女は笑顔でそう返した。
× × ×
「くやしぃー! あと一本だったのにぃ!」
カフェのテラス席にて、小夜は頬を膨らませながら机に顔を伏せてバタバタと足を振っていた。俺はその様子を見ながら笑みを浮かべて眺めていた。
「どうしてあそこで勝ちにこだわっちゃうかなホムラは……」
「あー、流石に勝ちは欲しいなと」
「最初はカーブ投げてたのにさ、なんか途中から本気出すとかいってストレートに変えるし。あれが無かったら私勝ってたのにー」
「ボーリングは倒したピンさえ多ければ何しても勝ちだから、ほれ。せっかくケーキ頼んだんだから食え食え」
何とか勝利の余韻により上がる口角を抑えながら俺は話を逸らすようにそう言うと、小夜は不満そうに頬をふくらませながらケーキを食べようとすると、ふと何かを思いついたかのような、何かを企むような笑みを浮かべる。
「ねぇホムラ」
呼びかけてくる小夜に、俺は二口めを口に運ぼうとしていたチョコケーキの乗ったフォークを止めた。
「せっかく二人とも違うケーキを頼んだんだからさ、シェアハピしようよ!」
小夜は少しテーブルに前のめりになりながらそう言ってきた。確かに、小夜が食べていたケーキにも少しだけ興味があった。一口くれると言うのなら願ってもない話だ。
「確かにいいなそれ」
「でしょう? じゃ、ハイ」
小夜はそう言うとまだ手をつけていないチーズケーキをフォークで一口分すくいとった。
「アーン」
「え!?」
思いもよらぬ彼女の行動に、思わず俺は顔が紅くなるのを感じた。いくら幼馴染だとは言っても、そんな恋人らしい事はしたことが無い。ましてや、アーンなんか言って食べさせてもらう事など無かったのだ。そんな俺の様子を見ると、小夜は満足そうな笑みを浮かべる。
「ほ、ほらー、食べさせてあげるってんの。な、なに? もしかしてこんな事で照れてるの? かーわいい」
そんな事をいう小夜も顔を赤くさせている。しかし、その表情は、さもしてやったり。とでも言いたげな様子だった。
「どう? もしかして照れくさくて味も分からない?」
「なわけないさ……うん、うまいうまい」
ひと泡吹かせたのが嬉しいのか、笑みを浮かべながらそう言う小夜に、俺は照れくさくて少し顔を逸らしながら俺がそう言う。何とかしてやり返さなければ。そう思った俺は一つだけいい案を思いついた。
「さて、次は俺のターンだ。ホレ、アーン」
「ふふ、照れたら負けってのは分かってるから勢いを大事にしちゃうもんね」
小夜はそう言って、パクッと勢いよく食べた。
「んー、美味しい!」
そう言ってどんなもんだと、誇るように俺の方を小夜は見てきた。そんな様子を見て、俺は反撃に出ることにした。
「なぁ小夜、なにか気づかない?」
そういう俺に、小夜は何かあるのだろうか? そんな疑問を含ませた顔で見てきた。俺はそれに少しだけ口角を上げながら自分のケーキを指さした。するとそのケーキを見ると小夜は思わず顔を赤くした。
「実はさ、俺先にひと口食べちゃったんだよね。小夜、こういうのってなんて言うんでしょーか」
「か……か……ん………スです」
「んー? なーんだって? 聞こえないなぁ〜?」
「関節キスつってんの! もう! 味わからなくなっちゃったじゃない!」
小夜はそう言うと自分のケーキをフォークで食べ、何かに気づくとさらに顔を赤くした。
一体どうしたのだろうか?
そんな事を思いながら小夜を見てると、彼女は顔を伏せながら俺に声をかけてきた。
「ねぇ、今気づいたんだけどさ……」
「ん?」
「私のフォークと、ホムラのフォーク。これで私達食べさせ合いっこさせたんだよね?」
「あー、まーそうだな」
「これって……さ。関節キスし続けながらケーキ一個食べきらないとダメってこと……だよね?」
関節キスなんて最初の一回目だけなのでは?
俺は少しそう思ったが、恥ずかしがるように、そんな事を言いながら小夜は紅くさせた顔で上目遣いで俺を見てくる彼女をみて、可愛いなと思った。そして、そんな恥ずかしそうにする彼女をもっと見ていたいなと思ったから、もう少しだけいじわるをしたくなってしまった。
「まぁそうなるなー」
俺はそう言うと自分のケーキを口に運んだ。このフォークは先程小夜に食べさせたフォークだった為、それを見て小夜はさらに恥ずかしそうに俯いた。少しだけ意識したが、そんな小夜の様子を見るとそんな照れくささもどこかに吹き飛んで特に気にならなくなった。
「フォーク取り替えてもらう?」
「あ……その、い、いやほら! 流石にそんな事で店員さんの手を煩わせるのもアレだし、ワ、ワタシモソンナニキニシテナイカライイヨ〜アッハッハ」
小夜はそんな事を言ってケーキを口に運ぶ。もはや味も分かってなさそうであった。
× × ×
「やっと着いた……ココ! 前から来たかったんだよ俺!」
「へぇ〜……こ、ここがかー」
ボーリングを済ませ、カフェでの攻防を済ませてから数時間がたっていた。
もう日は暮れかけた頃であった。
「ココがホムラが言ってた温泉?」
そこはそれほど大きくはない木造の銭湯であった。駐車場もそれ程広くもなく、一見するとそれほどいい銭湯とも言えなさそうな所だろう。だからか、小夜の表情からは少し不安そうな色がみてとれた。
だが、こう見えて俺は温泉オタクと言っていいレベルの温泉好きだ。
そんな俺がこの日の為に頑張って探した取っておきの場所だ。自信はあるし、ここはそれなりにいいという評判もある。
「まー入ったらわかるって、ほら行こうさ」
「う、うん。それじゃあ行こっか」
だから俺は自信を持ってそう言うと小夜の手を掴んで中へ入った。自動ドアを抜けると、左手の襖の向こうに見えたのは大きな座敷で、右隣には売店と数個のテーブルに椅子。テレビでは大相撲の中継が流れていて、風呂上がりのおじいさん達がタオルを肩にかけて見ていた。正面へと目を向けると、券売機が数個置いてある隣にマッサージ機が数個置いてある個室と、男子更衣室と女子更衣室に繋がる通路があった。俺たちはその券売機でそれぞれ券を買う。
「それじゃ、また後でね」
「あいよ。じゃあ後で」
そう言って小夜と別れると更衣室へと向かい、腰にタオルを巻いたような見た目の風呂着風呂着へと着替えて銭湯へと向かった。――風呂着とは水着の風呂バージョンのようなもの――。
ガラガラと昔ながらの音を立てると、まず第一に出迎えたのは温かな湯気。それを俺は肌で感じて気分が高ぶる。
「あー、この感覚。銭湯に来たって感じがすんなー」
そう言って近くにあった掛け湯を肩から被り、ついで頭から被った。ここのお湯は少しぬるめだった。時々飛び上がる程熱い掛け湯もある為少し警戒していたが、今回はそんな事無かった。
「さて……と。とりま体とか洗って早速入るか」
そう思った俺は体を洗う為に洗い場へと向かう。そこは窓のない木の個室で、扉は木造。そんな部屋で俺は風呂着を一度脱いで身を清め、再び風呂着を着て目的の湯船に浸かろうと周りを見渡した。
「さて……と、露天風呂は後だな」
という事で俺は屋内の湯船に浸かった。温度はそれほど高くはなく、じっくりと体が温まる。手でお湯をすくってみると、トロリとした水質で、いい水質なんだなとか思ってしまう。
「ホムラ、その……お、おまたせ」
湯船でしばらくほっこりしていると、そう声をかけてきたのは小夜だ。
「湯船にタオルつけんのマナー違反だかんなー」
「うッ……わ、わかってるよそんなことくらい!」
そう言うと、体の正面を隠すように持っていたタオルを彼女は恥ずかしそうに風呂の縁に置いた。顕になるのは、水着よりも少し薄生地の、フリルのついた水色の水玉模様の水着のような風呂着だった。彼女はとてもスタイルがいい。出る所は出て、締まるところはしまっている、ほとんどの男が好みそうなスタイルが顕になり、思わず見とれてしまっていた。
「ちょっ、あんまみないでよ……」
小夜はそう言って恥ずかしそうにしながら湯船に浸かった。
「いやー、とっても似合う風呂着だと思うよ」
「う、うるさい……恥ずかしいってば」
小夜はそう言うとさらに深く浸かり、水中でブクブクとしていた。
「小夜水着はそんなに恥ずかしがらないのになんでそんなに風呂着は恥ずかしがんの?」
「だってこれ水着よりも生地が薄いんだもん。それにさ、家で風呂に入る時って裸じゃん。だから裸見られてるみたいで恥ずかしいの!」
「ふーん。そんなもんかね」
俺はそう言うと縁に頭を乗せて周りを見渡した。ここに来ているのは、やはり土日という事で地元の人以外にも家族連れや若い人達もチラホラと見えた。それなりに人はいるな。そんなことを思いながら、ふぅ。と一息ついてボーッとしてみた。
「ちょッ! ホムラ!」
だがそんな事をしていると、小夜は焦ったような声を上げた。どうしたんだろうか? そんなことを思いながら小夜へと視線を向ける。
「さっき……見てたでしょ?」
「は? 見てたって何をさ?」
「女の人だよ! ほらあそこの金髪の!」
小夜にそう言われて周りを見渡し、彼女が言っているのが分かった。先程は気づかなかったが、適当にボーッと見つめた方に小夜の言っているであろう女の人がいた。とてもスタイルがよく、バスタオルを巻いたような風呂着を身にまとった金髪の女性で、体の線がくっきりとタオルによって際立たされる、大人の女性。とでも形容できそうな装いだ。
「いや別に見てないって」
「いや見てた! こんな所で私以外の他の女の人の事を見るなんて絶対に許さないから」
「へぇー……じゃあ小夜の事なら見てもいいんだー」
「な……! こ、こっちもそんな見んな!」
少しからかうように言ってみた。すると、小夜は先程自分の言った言葉を思い出し、恥ずかしそうに顔を逸らしてそう言った。その様子がおかしくて、クスクスと、つい笑みが零れてしまう。
「…………でも…………その………………かの…………なら…………」
「ん? なんて?」
ボソボソと言っていた為に、よく聞こえなかった俺はそう聞き返した。すると、小夜は真っ赤な顔でキッと睨めつけるような目でホムラを見すえて言った。
「他の人を見るくらいならいいってんの!」
ホムラはその言葉に、思わず顔が赤くなるのを感じた。小夜はもうのぼせてるのではと思ってしまうほどに真っ赤だ。
「ちょ、ちょっと上せたっぽいから風に当たろう。露天風呂いくぞ。外外」
「ちょ、ホムラが照れたら余計恥ずかしいじゃん! ちょっと! まってって――キャッ!」
「――ちょ! おい!」
そう言って湯船から上がって露天風呂へと向かうと、小夜もあとを遅れて着いてきてるのが、ぺたぺたと彼女の鳴らす足音で分かった。だが、そんな足音が突然止んで彼女の短い悲鳴が聞こえた。俺が振り返ると、彼女は足を滑らせて転ぼうとしていたので咄嗟に抱き抱えた。風呂着を着ていたために、腕の中には彼女の濡れた肌の感触が直に伝わってきた。しっとりと湿りながら、ホムラの肌に張り付く暖かく、柔らかな彼女の肌の感触。
「あ、ありがとう……ございます」
「何とか間に合ってよかった。滑るから気をつけて」
パチパチパチ。
ふと、そんなやり取りをしているとどこからともなく拍手の声が聞こえた。なんだろうか。そんな事を思いながら周りを見渡すと、風呂場にいたおじいさんが拍手をしている。だがそのおじいさんを見つけると、今度は隣にいた子供の両親が。すると隣にいた先程の金髪の女性が……そんな風に拍手が連鎖していき、戸惑ってしまい、俺は今の格好を思い出した。
今俺は小夜を抱き抱えていた。傍から見ると彼氏が転びかけた彼女を、あたかもお姫様を抱き抱えるようにして守ってるような格好。その様子を見ての、少し拍手だろう。そこにいる人達の視線が妙に生暖かく感じた。
「そ、その! お騒がせしました!」
俺はそう言うと、小夜をその場に立たせた。そして、俺は恐る恐る小夜の顔を見る。小夜は恥ずかしがり屋だ。人の前に出る事はもちろん苦手だし、こんな風に目立つ事など言語道断。
「ほら、小夜いく……」
もはや彼女の恥ずかしさは頂点に達していた。顔からはもはや湯気さえたつほど全身真っ赤になっており、グルグルと目を回している。完全にキャパオーバーとなっていた。なので少し強引に彼女に肩を貸して露天風呂の方へと避難することにした。
ガラス張りの扉を、ガラガラという音ともに開くと、外の火照った体には気持ちのいい涼しい風を感じながら、近くの長椅子に小夜を横にした。
「や……やっちまったぁ!」
思わずそう零してしまった。そんな事を思いながら、自分の目の前に広がるソレに目を向ける。
「で、でも終わっちまってしまったものは仕方がない。本当はコレ見せたかっただけなんだけど……」
小夜へと視線を向ける。彼女は今も尚、ウーン。と唸り声を上げて目を回している。目覚めるまでは少し時間がかかるだろう。
「喜んでくれるといいんだけど」
そんな事を思いながら。俺は小さくホッと一息ついた。
× × ×
小夜視点
ふと短い夢を見た。
それは六歳の時、ホムラを含めた友達でかくれんぼを裏山でしていた時だ。
その時私は洞穴に隠れていた。誰も知らない、私だけの洞穴だ。
負けず嫌いで誰にも負けたくない私は、そこに隠れて一歩も動かなかった。でも、じっとしてると、少しだけ眠くなった。
ちょうど三時頃の眠くなる時間だということもあったのだが、すぐ目覚めれるだろうと思った私は少しだけ寝ようと思ったのだ。
でも、目覚めた時には既に日は落ちきっていた。裏山は木々に覆われていたから、その森の不気味さは今でも恐ろしいくらいだ。
誰か来ないだろうか?
私はそんな事を思ったけど、誰も私を見つけてはくれない。もう暗くなっているから、皆帰ってしまってることは明白だ。帰らなくちゃ。そうは思うが、外が暗くて怖くて、私はその場から動けないのだ。
「小夜みーっけ。こんなとこに居たのか」
でも、そんな闇が怖くて泣いていると、何度となく聞いた声が聞こえた。
「ほむらぁ……ほむらぁー!」
ニコリと笑った泥だらけの少年を見て、自分を見つけてくれたその男の子を見て、安心したからか私はその時彼に抱きついて泣いたのだ。
「こわかった! 誰もみつけくれないじゃないかって! 私……私……」
「大丈夫だって、俺が一緒だからさ」
そう言って笑った彼の笑顔を見て。私は彼の事が忘れられなくなったのだ。
「……ん」
ふと気持ちのいい風を感じて、私は目が覚めた。
「おろ、目が覚めたか」
「ホムラ……あれ、どうして私こんなところで寝てたの?」
「あれ……もしかして覚えておいででない?」
「ん? 覚えてないって何かあったの?」
「あーいやいい! 覚えないなら無理やり思い出さなくてもいいから! ……そうか、羞恥心が限界を迎えて記憶に蓋をしたのか」
ホムラはそう言うと私から目を逸らした。最後の方はボソボソと言っていた為よく聞こえなかったが、別に気にしなくてもいいことなんだろう。と自分の中で落とし込んだ。というか、何故かは知らないが聞いてはいけない気がした。
「それよりもさ、コレ見てくれよ小夜。俺はこれが見せたかったんだよ」
ホムラはそう言ってある方向を指さした。
「……綺麗……」
その方向へと視線を送ると、そこには目を見張るほどの立派な桜が咲き誇っていた。
「で、でもどうして? もう桜の季節はとうの昔に終わってるはずなのに」
「これは子福桜っていってさ、大体早いとこれくらいに咲く秋桜なんだよ。ここの露天風呂はそれが見れるってことで有名なんだ。それよりさ、だいぶ体も冷めただろ? 湯船に浸かろうぜ」
ホムラはそう言ってニコッと笑った。それに私はうなづくと、桜の木の下にある風呂へと足を運んで肩まで浸かる。屋内よりも少しだけ温度の低いお湯で、ぬるめが好きな小夜にはちょうどいい温度であった。
「本当に綺麗だねこれ」
「小夜の方が綺麗だよ」
茶化すように言ってくるホムラをジロっと見つめると、ホムラはこのくらいじゃ照れないかと言って肩を竦めた。
「そんな冗談っぽく言われても嬉しくない」
「別に冗談って訳でもないんだけどなー」
また茶化す。そんな事を思いながらホムラを横目で見ると、今度は特に茶化すといったような風ではなく、桜を見つめながらポツリと本音が零れたような様子であった。
「う……嬉しくなんて……」
つい少しだけ口角が上がってしまうのを手で隠しながら、ホムラに聞こえないように呟く。
ダメだ。嬉しくて頬が緩んじゃう。
そんなことを思いながら、私はホムラから桜へと視線を変え、そういった浮き足立つ心を沈めるようにその桜に見入った。
ピンク色の花びらが咲き誇る満開の桜。まさかこの季節に見れるとは夢にも思わなかった、綺麗な桜だ。
「今日はどうしてもここに来たかったんだ」
「え?」
「小夜がおれに告白してくれた場所は覚えてるでしょ?」
それに私は頷く。中学校の時の卒業式。学校に一本だけ植えられている桜の木の下。私はそこで告白したのだ。当時の事を思い出しながら、懐かしむように私は頷くと、ホムラは続けた。
「俺にとってさ、その日は特別だったんだ。俺の人生初めての彼女が出来た、めっちゃ嬉しい日。だから俺もちょっと頑張ろうかなって思ったわけよ」
「私の誕生日はほぼ毎年祝ってくれてるのに? はしゃぐ口実にいいからとか言って」
私はそう言いながら、ジト目でホムラを見つめる。誕生日おめでとう。とか言って徹夜のゲームに巻き込まれる事などしょっちゅうだ。眠いと言っても、お前のお祝いなんだからお前が起きてなくてどうする。などと言って朝まで付き合わされるのは良くあること。
「返す言葉もないや」
だからか、ホムラは頬をかきながら、ハハハ。と視線を逃しながら笑った。
「でも! だから今回は頑張りたかったわけよ。だってほら、今回は友達としてではなくてさ、彼氏としてお前の誕生日を祝うんだから。そんなの初めてだから、頑張りたかったんだ。だから、俺が一番嬉しかった事で、小夜の誕生日を祝いたい」
ホムラはそう言うと、私の正面にまわり、肩を掴んでじっと私を見つめてきた。彼の顔が近くて、恥ずかしくて顔が紅くなるのが分かるが、目を話せなかった。
水も滴るいい男。という言葉があるが、顔に張り付く髪の毛や、温泉に入って体が温まって上気した顔。それらが合間みあって、今まで見た事のないホムラの一面が見れた気がした。
こんな顔もするんだ。とそんな事を思ってしまう。
「えっと……何?」
何が始まるのだろう。そんな事を思いながら彼を見つめる。
彼は言葉に詰まりながら、照れながら、言葉が出てこない様子がとても分かる。
私はちょっと意地悪なのかもしれない。
彼が何をこれから言おうとしているのか分かっているのに、あたかも知らないフリをしてしまう自分に、少しだけそう思った。
でも、許して欲しい。
ソレは私も通った道だから。
私も苦しんだ、嫌ではない青春の痛みだから。
「あー、その……誕生日おめでとう。その……」
ホムラはそう言うと、目を逸らしながら息を整えている。
だが覚悟を決めたのか、目を瞑って彼は深い深呼吸をした。
すると、私の目を見て、顔を赤くさせながら言った。
「小夜が好きだ。俺とこれからも、付き合って欲しい」
途中から予想出来た事だったのに。予想以上に嬉しかった。
嬉しさのあまりに 頬が勝手に緩んでしまう
もう付き合っているのに。
「うん! 私も!」
私が彼に告白した時、彼はこんな感じなのかと思った。
彼が愛しい。そんな思いが溢れてくる。
彼ともっと一緒にいたい。そんな思いが溢れてくる。
「ちょっ! 小夜!?」
もう理性が働かないほどに嬉しくなり、思わず彼に抱きついてしまった。
温泉に浸かっているのに、のぼせるのは恋の熱。
これはなんてことの無い恋。
温泉好きの少年と、ちょっと恥ずかしがり屋の少女の恋物語だ。
× × ×
オマケ
「ぷっはぁ! 風呂上がりの牛乳は格別だなぁ!」
「うん。それには私も激しく同意」
風呂から上がったあと、俺たちは自販機でそれぞれ牛乳を買い、風呂上がりの一杯という事で牛乳を飲んでいた。
今いる場所は座敷で、チラホラとしか今は人が居なかった。
「ちょっ……くっつきすぎじゃないか?」
「ふふーん。何よー照れてるの? だって今日は私の誕生日だもーん。文句は言わせないよー」
そんなに人が居ないからか、小夜はほとんど遠慮というものをしなかった。
というか、いつもなら一人でも誰かしら居たらこんな事をしないはずなのに、何故か今日の彼女は動じない。
「のぼせたんじゃないのか?」
「さー。どうでしょうねー」
そう言って小夜は残りの牛乳も飲み干した。
俺はふと時計を見る。バスの時間まではまだまだあった。
はてさて何をして時間を潰したものか。そんな事を考えるが、ここは特に何かある訳でもない。
なので、俺は何をする訳でもなく、ただボーッとして過ごす事にした。
だがそうして過ごしていると、隣で俺にくっついてスマホを見ている小夜の事が気になった。なので、さっきから何をニコニコしながら見ているのだろうか。と小夜が見ているものを少しだけ覗いてみる。
(なーんだ)
彼女が見ていたのは、今日のデートの写真だった。二人で食べた
ケーキの写真もあれば、ボウリングで俺がストライクを取って喜んでる時の写真。偶然見つけた野良猫と小夜が戯れている写真。
それらを嬉しそうに彼女は見ていた。
今日のデート。楽しんでくれてよかった。
そんなことを思いながら、俺はテーブルに置いてある牛乳を飲み干して俺もスマホをいじりはじめた。
とりあえず、なにか漫画でも読もうかと思い、スマホに入った漫画アプリを開いた。
だが、その日に配られるポイントはすぐに使い切ってしまった。
ポイントがなくては漫画が読めないため、渋々と俺はポイントがもらえる広告を見る。
つまらない広告をみては漫画を読む。そんなことを繰り返していると、ある広告が流れ始めた。
「へぇ……占いか……」
「ん? どうしたのホムラ」
「いやさ、なんか広告で占いのやつが流れてきてさ、面白そうだなー。と」
「へぇー、やってみる?」
「まーそれじゃあ簡単なやつでもしてみるか。小夜、お前の誕生日出やってやるよ」
そうして俺はそのアプリをインストールして、小夜の誕生日である、九月十五日を入れてみた。
何やらそのアプリは何やら誕生花を教えてくれる系の簡単な占いアプリで、九月十五日の誕生花が画面に示された。
「へぇ……子宝草ね。なになに。花言葉は……」
そこで俺は固まってしまった。
小夜も気になる様子で画面を覗き、顔を赤くした。
現れた言葉は子孫繁栄。ようは安産型。という事だ。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
まえがきでも示した通り、反応によっては続編を描きます。
作者の能力的にはファンタジア大賞三次選考にいくくらいのレベルです。
なので、反応次第では応募用のネタにこなるし、それと並行しながら続編も描来ます。
気に入った方は感想やブクマをよろしくお願いします。




