姉が愛する弟を社会的に抹殺するためにランドセル背負って『お兄ちゃん、今日も一緒にお風呂入ろうね』とか人前で言いまくる
何となく思い付いてしまったので。
俺、醒ヶ井優翔は優菜姉さんに嫌われている。
何でもうちの跡継ぎは男子優先で、姉さんは跡継ぎになれないからだそうだ。
俺はこんな歴史ある名家を継ぐより、のんびり過ごせればそれでいいのに。
そう姉さんに伝えても
『そう言って私を油断させる気ね!』
とか言って信じてもらえない。
そんな疑り深い性格だから美人なのに彼氏できないんだよ。
あと、身長が低すぎるのも理由かな。
姉は小学5年生から成長が止まっていて身長はすごく低いけど美人で胸は大きいという凄いギャップの持ち主なんだよ。
「俺なんかにいちいち構ってないで、彼氏でも作って遊びにでも行けば?」
「そうやって私を堕落させる気ね?」
「違うよ。彼氏が出来て結婚したらさ、その彼にこの家を継いでもらえばいいだろ?」
「それじゃあ結局優翔が継ぐんじゃないの!」
「え?何で?」
「あ」
真っ赤になっている姉さん。
そんなに怒らせること言ったかな?
「そうやって結婚直前で邪魔するんでしょ!」
「しないって」
「信用ならないから!」
そう言い捨てて姉さんは部屋に戻っていった。
はあ、どうしてこんなに嫌われるようになったんだろ?
やっぱり最初の社交界デビューが駄目だったせいだな。
俺は15才になった時、正装して初めて大きなパーティーに出席した。
その時、俺を見る女性たちの顔が赤くなっているのに気づいた。
「ちょっと優翔!こっちに来なさい!」
俺は姉さんに別室に連れていかれて叱られた。
「歩き方も着こなしも表情の作り方もなってないわ!こんな恥ずかしい弟を社交界には出せないから、二度とパーティーに出ないで!」
確かに俺をじっと見てくる相手に会釈してみせたら、みんな真っ赤になってうつ向いていたからな。
そんなに俺の表情って駄目なのかと落ち込んだものだ。
そんな俺が唯一リフレッシュできるのは学校生活。
姉さんは卒業するまでの間はずっと休み時間ごとに俺の所に来て嫌がらせをしてきた。
俺は学食派なのに勝手に弁当を持ってきて食べさせられたせいで太り掛けて、凄く運動量を増やした。
『くっ、かえって格好良…このままじゃ駄目だわ』
とか言ってたけど、とにかく俺に嫌になるくらいまとわりついては俺の学校生活を邪魔しようとしたんだよな。
お陰で友達できないわ、女の子は近寄らないわで、ぼっちになっていた。
まあ、そのお陰で一人きりを謳歌しているとも言えるけど。
特に楽しみなのが放課後だ。
好きな店に入ったり、ただブラブラしたり。
やっぱり俺はこうやってのんびり自由に生きているほうが性に合ってるよな。
○優菜視点○
卒業して大学に入ったせいで優翔を見張れなくなったわ!
このままだと世界一可愛い私の優翔が誰かの毒牙に掛かってしまう!
社交界デビューは邪魔できたけど、跡を次いだらまた社交界に戻るし、女性と顔を合わすことも増える。
そうしたらきっと大勢の女性から求愛されるわ!
そんなの耐えられない!
一体どうしたら…。
そうだわ!
優翔を社会的に抹殺してやるのよ!
そのためには…
私はひたすら考えた。
そしてついに思い付いたわ!
大好きな優翔に甘えながら社会的に抹殺できる『秘策』を!
○優翔視点○
帰ろうとしたら、校門の所に女の子が居た。
真っ赤なランドセルを背負って黄色い帽子を被った小学生だ。
誰かの妹かな?
その前を通りすぎて俺はまず本屋に向かう。
「あっ、醒ヶ井さん!いらっしゃいませ!」
本屋の娘さんは笑顔で俺に挨拶してくれる。
姉さんのせいで登下校時も女性と話すことは出来なかったが、この子は最近知り合ったせいで普通に俺に接してくれる。
学校でも姉の事を知らない一年生がたまに話しかけてきてくれるけど、笑いかけると赤くなって逃げられるのは俺の表情の作り方が悪いせいなのかな。
本屋の娘さんもたまに赤くなってるし。
「あの、その子誰ですか?」
「え?」
「ほら、醒ヶ井さんの裾つかんでる子」
いつの間にか小学生の女の子に制服の裾を捕まれていた。
この子はさっき校門に居た子だ!
「どうした?何かお兄ちゃんに用事があるのかい?」
変な笑顔になっていないか気にしながらその子に話しかけてみる。
「お兄ちゃん!」
ぎゅっ、とその子が抱きついてきた。
「え?お兄ちゃん?」
俺に妹なんて居たっけ?
「んもう、早く家に帰って一緒にお風呂入ろ」
「さ、醒ヶ井さんって小学生の妹さんとお風呂に入ってるの?しかも、その子って高学年よね?
たじたじっと後ずさる書店の娘さん。
ご、誤解だ!
でも申し開きするよりも先に俺はその場を逃げ出してしまっていた。
公園にたどり着くと、この前話しかけてきてくれた一年生の女の子が居た。
「あっ、醒ヶ井先輩!」
笑顔で俺の側に寄ってきてくれる。
「先輩、息を切らせてどうしたんですか?」
「いや、別に何でもない」
くいくい
「お兄ちゃん。早く帰って一緒に寝よ」
全力疾走したはずなのに、さっきの女の子がまた居た。
「お兄ちゃん?醒ヶ井先輩、まさかそんなに育った小学生の妹さんと添い寝を?」
「違う、誤解だ!」
「うん、お兄ちゃんは添い寝じゃなくて私を抱き枕にしてくれるんだもん」
そう言いながら俺に抱きつき、小さな背と可愛い顔に不釣り合いな大きな胸を俺に押し付けてきた。
ずざざざざっ
凄い勢いで遠ざかる後輩の女の子。
「小学生の妹とそんな乱れた関係なんて、先輩はフケツですっ!」
そう言って走り去ってしまった。
「おい!お前一体誰だよ?どうしてこんなことを?あれ?」
いつの間にか女の子は居なくなっていた。
幽霊?!
家に帰ると姉さんが居た。
「今日は早いんだね」
「そうかしら?それよりさっさと食事しなさいよ」
両親は毎日のように忙しくてほとんど帰ってこない。
だから俺は姉さんと二人きりで食事をする。
「美味しいな、このハンバーグ」
「そう?!あっ、な、何よ。そう言ってこればかり作らせる気ね?じゃあ明日は優翔の嫌いなオムライスにしてやるわ!」
オムライスは大好物なんだけど、作ってもらえるなら黙っておこう。
はあ。
ハンバーグがすごく美味しいからさっきのショックが癒される気がするな。
お姉さんは俺の事が嫌いみたいだけど、俺はこうやって世話してくれるのを少しはありがたく思っているんだけどな。
○優菜視点○
ふっふっふっ。
うまくいったわ。
ここ数年私の『すっぴん』を優翔に見せていないのが役に立ったわね。
まさか私が化粧を落とすと小学生のような童顔になるとは思ってないでしょうに。
これからもこうやって優翔のあとをつけ回して、女性が近づくのを徹底的に妨害してやるわ!
そして優翔が『実妹に手を出すロリコン』として社会から抹殺されたら
『こんな危険な弟は私が責任を持って更正させます』
とか言って永久に私の管理下に置いて愛でるのよ!
明日はもっと学校の近くで目立つようにしましょう。
優翔に悪い虫が付かないようにね!
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