お邪魔虫の正体
そんなコンスタンス嬢の様子を見ている内に、唖然としているだけだったローズ嬢の目に光が戻ってきた。つい昨日、コンスタンス嬢を罵っていた時とはまるで違う顔で彼女を見ている。
「あなた……もしかしたら、そんなに悪い方ではないのかしら?」
ローズ嬢は、『動物好きに悪い人間はいない』と確信しているのだ。どうやらコンスタンス嬢が自分の同類だと知って、少し親しみを覚えたらしい。
「トニー様と仲良くしているというのも、わたくしの思い込み……?」
「ああ、トニー様ですか」
コンスタンス嬢は、相変わらず吾輩の腹に頬ずりをしながら上の空で答えた。
「ローズ様のお誕生日の贈り物に、何か装飾品をあげたいんだけど、どんなのが良いかって相談をされた事はありますよ。父が服飾品の職人ですから、私ならそういうのに詳しいと思ったみたいなんです。女性の目線からアドバイスが欲しいって仰っていました。でも、びっくりさせたいから、これはローズ様には秘密だって……」
言いかけてコンスタンス嬢は我に返り、大慌てになる。
「す、すみません! 今のは聞かなかった事にしておいてください!」
「……ええ、わたくしは聡明ですから、そういたしますわ」
ローズ嬢は、しとやかに頷いてみせた。だが、唇が愉快そうに綻ぶのを押さえ切る事は出来なかったようだ。
「ふふふ……そうですか……。トニー様が、わたくしに……うふふ……」
どうやら、何もかも自分の勘違いだったようだとローズ嬢は分かってきたらしい。コンスタンス嬢は、ローズ嬢の婚約者を横取りしようなどと少しも思っていなかっただけでなく、トニー氏のローズ嬢への想いを証明する手助けをしてくれたのだ。
「ローズ、どこだい? ローズ?」
タイミング良く、屋敷の中から声がした。トニー氏のものだ。きっとローズ嬢にプレゼントを渡す気でいるのだろう。
「トニー様、今行きますわ!」
ローズ嬢は歌うように朗らかな口調で答えた。そして、コンスタンス嬢に上機嫌で微笑みかける。遠くに投げた棒を拾ってきた犬を褒めるかのごとき表情だ。
「コンスタンスさん。あなたにしばらくブルーローズと遊ぶ権利を与えますわ。存分にお楽しみなさいな」
「えっ、良いんですか!?」
コンスタンス嬢は、自宅の蔵から宝の地図が見つかったような顔になった。
「おほほ。当然ですわ。ねえ、ブルーローズ」
「にゃー」
「ほら、この子もそうしたいと言っていますわ。……では、ご機嫌よう」
ローズ嬢は猟犬顔負けの速さで庭から出て行った。