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天使の僕が悪魔に恋をした話  作者: コインチョコ
一章
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6 部活動を始めましょう





デート明けの学校。

僕は黒崎さんを旧校舎に連れてきた。連れ出すときの好奇心と見守るような目は大分堪えたが。

望み通り二人っきりになって用件を伝える。


「え?部活をつくる?」

「はい!」


僕、天地空は黒崎さんと合法的に二人っきりになれる空間が欲しい。

突然の話に、黒崎さんは面食らっているが、大丈夫。突然なのは今更な話だ。因みに先生方には話は通してあるので、旧校舎のどこを部室として使ってもなにも問題ない。

まあ、肝心な部活を作るまでに問題が山積みだけどね。


「それで、肝心な活動内容はどうするの?」

「え、あー、それは、その………」


なかなか痛いところをついてきますね、黒崎さん。

実はなんも考えてないんですよ!わーはっはっは!


「呆れた。考えてなかったのね」

「はい、そうです」


鏡はないけど今の僕は、(´・ω・)←こんな顔になってたと思う。

テンション下がりすぎて、表情筋が仕事しなくなったから。

ついでに脳もボイコットしてる。まあ、魔法で脳内麻薬分泌すれば活性化するさ。気にしない。


「まあいいわ。一緒に考えてあげる」


目の前が一気に明るくなる感覚がした。

やっぱり黒崎さんは僕の天使だ!


「黒崎さん!」

「ほら、速く旧校舎に行くわよ」

「はい!」


歩き出す黒崎さんと、その後ろを着いていく僕。さらにその後ろに一人分の気配がした……ような気がした。


誰も居なくなった教室の天井がガラリと開き、その中からウサギをトレードマークとする茶髪の少女が現れる。


「ニヒヒ。この宇咲子ちゃんを化かそうなんて、百年速いのさ!」


その悪企みをしている顔は有り体に言って、女の子がしちゃいけない顔だ。

二人の後をこっそり着いていく宇咲子のその足取りも、おおよそ年頃の少女らしくない泥棒歩きのそれだ。

お気に入りの玩具である空を、一乃に取られた気になっているのだろうか?





旧校舎。空き教室の一室を、お二人様専用の部室へと改造する僕。魔法と魔術を行使して、部屋を綺麗にしたり、ゴキブリやネズミを退治して追い出したり、色々と忙しかった。

部屋中をオーブと呼ばれる魔力でできた玉がひっきりなしに飛び回り、部屋の寸法を図って空間魔法や魔術によって外から見た以上の広さに改造される。

最後に、買ってきた小物を並べて部屋を悪魔と天使の好みの中間地点でコーディネートして、ようやく僕の大仕事は終わる。


「ふぅーようやく片付いたー!」


爽やかな汗を流すのは久しぶりだ。鬼と戦った時も汗はかいたが、あれは緊張と恐怖の汗だ。全然爽やかじゃない。


「お疲れ様。はい、お茶」


黒崎さんが冷たいお茶を差し出してくれる。それもなぜかは知らないがメイド服で。


「ありがとうございます。でもなんでメイド服を?」


なんでもいいけどね。

だって今僕が持ってるお茶は、好きな娘補正で二倍とメイドさん補正でさらに倍は美味しくなってるから。

お礼を言って受けとってペットボトルの中身を一気に飲み干す。


「あなたが好きそうだからよ」


衝撃のカミングアウトにブーッとお茶を吐き出してしまう。

口からボタボタと垂れる水分をそのままに、いつ、どうやってバレたのかを考える。遠視でベッドの下にある男の本を見れば、昨日使った状態のままだ。バレてるわけがない。いや、バレたとしても、黒崎さんにだけはバレたくなかった秘密の趣向だ。

悪魔には天使と違って超能力染みた力はないらしいから、遠視で僕の部屋を覗かれた可能性は低い。


カマをかけられてるんだ。


そう判断した僕は、背中に冷や汗をかきつつも冷静に振る舞ってごまかすことにした。


「や、やだなぁ~。僕がいつメイドさんが好きなんて言ったんですか~」

「メイドが嫌いな男の子はいないわ!そんな男がいるならそいつはただのホ●野郎よ!」


この悪魔めぇ。「メイドが嫌いな男の子なんていません」と断言したぞ。とんでもない偏見だ。僕はメイドさんよりも、メイド服を着た女の子が好きなのに。あと、リアルメイドっておばさんもいるらしいよ?


「それにね、誰にでもこんな姿を見せるわけではないのよ?私はね……」

「え、ちょっと、なんですか?」


黒崎さんがジリジリと距離を詰めてきて、僕を壁際に追い詰めてくる。

僕たちの身長差から、僕の顔のすぐ目の前に黒崎さんの胸がある。この立ち位置はかなり気恥ずかしい。

逃げようとするが、両サイドは黒崎さんが壁に手を押し当ててガードされてる。

俗に言う壁ドンの体勢だ。


「私ね、あなたが好きよ」


悪魔の囁く愛の言葉が、僕の脳漿と魂に直撃する。





天井裏、忍者の如く影で見ている宇咲子の反応とは……?


「ほうほう、お二人はアツアツだね~」


この二人の様子をニヤニヤニヨニヨと愉しそうに笑って見ている。

その笑い方は、妖怪特有の邪気を含んだ無邪気な笑いだ。むしろ嗤いだ。

その顔は少女というよりも、まるで妖怪だ。実際に妖怪だが。


「私ね、あなたが好きよ」


無表情のままクールに言う一乃と、絶句して照れる空の反応を見て、また愉しんでいる。


「おぉ~またまたお熱い言葉がだね~」


空が思わず「トイレです!」と言って逃げ出していくのも見逃さない。

誰が見ても、明らかにトイレではない。

走って部室を出ていく空。

その背中に黒崎一乃は言う。


「からかい甲斐があってね」

「あちゃー、小悪魔系だったかー、あちゃー!」


宇咲子から見ても、悪魔の少女は小悪魔だった。


場面は変わって廊下の隅っこ。

そこで壁に背を預けて天井を仰ぐ金髪の少年。

顔を赤くしながら一人、ごちる。周りに誰もいないと勘違いして。


「いやあ、照れちゃうなー。愛の巣なんてさー」

「うさうさ~。見てるだけのあたしでも照れちゃうよ~」

「……!?うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

「うさああああああああああ!!!」


びっくりして思わず叫ぶ空と、その声に驚き、叫ぶ宇咲子。


「宇咲子ちゃん?!?!」

「呼ばれてないけど飛び出たよ!ジャジャジャーン!宇咲子ちゃんですよ☆」

「ご●んですよ風に言わないで!」


まさか、全部観られていたのか?

動揺しつつも、空の受け答えは確かなものだ。


「な、なんか用かな?」

「全部見てたよ!若者は初々しくていいね☆」

「宇咲子ちゃんだって若いでしょ!」


見られてた恥ずかしさで顔を真っ赤にして空は叫んだ。


「で、黒崎とはどんな感じだったの?」

「あ、うーん。まあまあかな?」

「まあまあ!あれが!?」

「えっ? うん」

「見てるこっちか砂糖吐きそうなほどアマアマだったのに?!」

「うん」


宇咲子、ここに来て大袈裟に天を仰ぐ。その所作は売れない二流の役者のようだ。演技も多分に含んだ大袈裟なリアクションだが、空に気持ちを伝えるには身ぶり手振りを大袈裟に混じえるしかない。


「かー!ソラソラヤバイわー!スイーツ脳だわー。天使だわー。マジ尊いわー。サイッコーの玩具だわー。このネタで宇咲子ちゃんはあと十年は戦えるわー」


それを黙って聞いていた空は、「そこまで言う?」と思った。

誉めてんるだか、貶してるんだか、よく分からん聞きようによっては応援とも挑発ともとれる言葉の数々を受け取らせる。

宇咲子の脳に、拒絶されるという文字はない。あったとしても、一般とは意味が違う。


「ま、あたしはまだまだ君たちを観察して楽しむよ。じゃっ!」


軽く右手を上げ、言うだけ言った宇咲子はパーッと退散してその場から消えた。「なにがしたかったのさ」と空は思った。

時計を見て、再び一人言を呟く。


「あ、戻んなきゃ」


今度こそ、誰もその言葉に答えなかった。



「今戻りましたよ~」

「あら、お帰り」


部室に戻り、黒崎さんと軽く挨拶をかわす。

さっきのこともあって、黒崎さんの顔を直視できやしない。へたれだ。


黒崎さんは金銀の細工が高級感を匂わせつつも、太い足でしっかりと支えられていて、分厚くて柔らかくて通気性が良さそうな布を使った豪華な椅子に座って、優雅に紅茶を飲んでいた。

あれ?この教室にはパイプ椅子しか無かったはずだけど、どうしたんだろう。

しかも、今使ってるティーセットはどこから用意したの?

明らかに僕の小遣いで買える額を超えてそうな高級そうなモノだ。壊したら怖いから触らないでおこう。

ていうか黒崎さん、あんなこと言って平然としてるよめっちゃクールだな。


「黒崎さん、それらは一体どこから?」

「あ、これね。私の家から持ってきた私物よ。魔界のものには盗難防止のために、転送用の魔法陣が組みこんであるものもあるのよ」

「へー。じゃあ、今使ってるそれ全部、失くしても黒崎さんのところへ自動で戻ってきたりするんですか?」

「ええ、そうよ」

「それはすごい」

「あなたも一杯どう?」

「じゃあ、いただきます」


黒崎さんの豪華な椅子とは正反対の錆びていて、座るところ(名前知らない)のマット?クッションも大分剥げている壊れる寸前の安っぽい量産品のパイプ椅子に座る。


「さあ、召し上がれ」


おっかなびっくりの手つきでカップを掴み、出された紅茶を一口飲む。

その瞬間、口のなかに天界が広がった。

これなんていう茶葉だろう?

紅茶のことはよく知らないけど、匂いもいいし、味と口どけが鮮やかで美味しい。見た目も琥珀色で綺麗だし。

あんまり下品にがっついたら嫌われそうだし、なるべく上品(に見えるよう)に味わおう。


手が震えるのは、さっきの告白のせいだと思いたい。決して高い陶器を扱っているからではない。決してだ!


「ところで、なんの部活にします?」


声が震える。これはさっきの告白のせいだ。まだ動揺と緊張と恥ずかしさと嬉しさが収まらない。気持ちが氾濫しそう。

僕のいっぱいいっぱいな状態を知ってか知らずか、黒崎さんは冷静だ。


「私はボードゲーム部とかが良いと思うの」

「ボードゲーム?」

「人生ゲームとか、オリジナルのTRPGとかで遊ぶのよ」

「てぃーあーるぴーじー?」


聞き慣れない単語に僕の頭に?が浮かぶ。なんだそれ。


「テーブルロールプレイングゲームの略で、何人かで集まって用意されたシナリオを割り当てられた役になりきって進めていくゲームよ」

「それ、面白そうですね」


脳が活発化しすぎて頭痛と興奮と冷静さが同居している僕は、脳内で「(二人だけでボードゲームかよ……)」と思いつつも、決して口には出さない。

話している黒崎さんがとても楽しそうだから。

それはもう、恋する乙女のようにTRPGの良さを熱く語っている。

明らかに黒崎さんはボードゲームというか、TRPGか好きだ。それも重度に。


「(黒崎が幸せなら僕は幸せだからそれでいい)」


この後めちゃくちゃボードゲーム談義された。

この日僕は思い知った、オタクに好きなことを語らせたらキリがないことを。興味のない話を遠々される苦しみを。


しかし愛想笑いと気合いで黒崎さんの話を聞き切って見せた。これぞ愛のなせることさ。

僕もボードゲームにちょっとだけ詳しくなった。




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