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天使の僕が悪魔に恋をした話  作者: コインチョコ
一章
6/16

5あの娘と遊園地 後編


満身創痍で膝をつく天使と、その天使を庇うように立つ悪魔の美少女。

この構図は中々に絵になると思う。写真を撮っておきたい。

僕の隣には宇咲美ちゃんがいて、傷の手当てをしてくれている。


めっちゃ腕痛い。鬼に乱暴に掴まれたから骨が痛んでいる。

感触からして折れてはいないけど、もしかしたらヒビが入ってるかも。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」


痛んでいないほうの手で宇咲美ちゃんの頭を撫でてあげる。

よしよし、かわいいやつめ。

宇咲美ちゃんは、気持ちよさそうに目を細める。

妖気を使った手当てのおかげで大分良くなってきた……気がする。


「手酷くやられたわね、空くん」


黒崎さんは目は鬼に向けたまま、僕に言う。

まだ痛みがあるこの腕は、内出血を起こしていてアザができるほど強く握られていた。痛た、完全に痕になってるよ。

黒崎さんは僕を、僕の傷をちらりと見やると、目つきに怒りの形相が浮かんだ。雰囲気が変わってる。

鬼を見て、嫌そうな顔をしているのも好き。


「人浚いの妖怪は、悪魔にとっても嫌なヤツなのよ」

「そうなんですか?」


ポツリと呟くように言われた言葉には、明らかな嫌悪や侮蔑が含まれていた。

悪魔が被害を受けた訳ではないのに、どうして人浚いを嫌うんだろう。

あ、まともな感性があれば当然か。


「だって、こういう輩は私が契約した相手でも、横から掠め取っていって浚うんだもの」

「えぇ……」


なにかと悪魔らしい理由に、僕は苦笑いせざるを得ない。

悪魔にとって、契約相手は大切な【お得意様】になるらしいからね。

悪魔にとっては、そういう【お得意様】たちを「堕落した魂の味が好き」とか、そういう理由で好んで浚う妖怪は大嫌いなんだそう。


「ほう、悪魔の娘っこか。旨そうじゃあ」

「あら?私のこと、食べるつもりなの?とことん嫌なやつね」


鬼は黄色く汚れた牙を、よだれで汚しながら黒崎さんの全身をめねつけるように見て、舌なめずりをする。

うわぁ、今の動作、最高に気持ち悪い。


「小僧、この娘っこを儂に寄越せば、お主は助けてやるぞ?」


とか吐き気を催していると、鬼が取引にもならない取引を持ちかけてきたぞ。

ついさっき、この鬼に殺されかけた僕だけど、僕にも男のプライドってものがある。

僕の答えは最初から決まっている。


「それは、それだけは、死んでもお断りだ!」


黒崎さんに守られたばかりだけど、だからこそ僕は絶対に黒崎さんを守ってみせる。

僕の体が死に果てるまで!


黒崎さんはそんな僕を見て、微笑ましそうに笑う。

あの、小さい子を見るような目、やめてもらえません?


「ええ、そうね!そうこなくっちゃ!」


期待通りだ!と言いたげな表情の黒崎さんも、感情のボルテージが上がり、心なしか、槍も翼もさらに燃え上がっているように見える。


「そうか、二人いや、三人まとめて喰ろうてくれるわ!」


僕と黒崎さんと宇咲美ちゃんのことだなこれは。

宇咲美ちゃんを後ろに庇いつつ、僕と黒崎さんは即席のタッグを組み、鬼に立ち向かう。

現実の、それも、鬼が支配している迷子センターでの戦闘だから、もしかしたら鬼の仲間が宇咲美ちゃんを人質にしてくるかもしれない。


兎妖怪の宇咲美ちゃんがそうそうに倒されるとは思えないけど、この気持ち悪い鬼は宇咲美ちゃんを圧倒していた。

仲間にも同じくらいの実力者がいてもおかしくない。

ので、僕は対魔の術式の札を武器に、黒崎さんは使い魔の上級魔物である竜を護衛にして、それぞれを宇咲美ちゃんに与えた。


そして、肝心な鬼は、僕たちのコンビネーションの前になすすべがない。


「空くん!」

「はい!」


黒崎さんが僕の前に鬼を蹴り飛ばせば、僕は鬼に対魔用の呪いと、父さんの光の魔力が「これでもかっ!」と籠められた札をお見舞いする。

今まで使わなかったのは、鬼が死んでしまうかも、と思って使わなかっただけだ。


鬼がその札の爆発と効果を嫌がって逃げれば……。


「黒崎さん!」

「わかってる!」


黒崎さんが悪魔の魔力でできた炎の槍から火炎放射のように炎を出して追撃する。

大悪魔の魔力が籠った魔界の炎は、鬼の強靭すぎる肌を焦がし、黒く変色させている。

体の半分以上がそうなっているのに、まだ元気に動き回っているのは、さすが天魔大戦の生き残りと言うべきか。


しかし、そう長くは逃げ回れず、鬼はたちまち倒れ、僕たち二人の前に膝をつく。

そして黒崎さんに向かって命乞いをする。


「殺さんでくれ!頼む!童子たちの居場所は教えるから!」


大物ぶっていた様子から一転。その変わりように、僕はびっくりした。あれ?僕の時とだいぶ違わないか?僕、ナメられてたの?それとも、あれか?僕が弱かったから?


内心動揺する僕に、黒崎さんは、その変化の理由を説明してくれる。


「いい、空くん。悪魔には死後も相手を永遠に呪うことができる力があるのよ。最も、大悪魔クラスの一部の悪魔だけだけどね」

「そうじゃ!儂は冥界で多くの呪われた魂を見てきた!儂はああはなりとうない!助けてくれ!」


天魔大戦を生き残ったらしいこの鬼がここまで恐れるなんて、どれだけ恐ろしい呪いなんだろうか。

僕は、悪魔の残虐性と恐ろしさに戦慄(わなな)く。

あくまってこわいね、まる。


「そうだ!他に浚った子どもたちはどこにいるんですか?」

「この町の外れ、天魔山の麓に儂の隠れ家がある。そこに童子たちはいる!」

「じゃ、じゃあ、そこに行けば事件解決ですね!黒崎さん、もう鬼は……」


天使のやり方なら、命までは取らない。

そう言いかけた僕の言うことを遮って、黒崎さんは冷酷に告げる。


「そう、もうこいつは用済みね」

「え?」


静かなその場に響いたその間抜けな声は、果たして僕か、鬼か、それとも宇咲美ちゃんか。

疑問が浮かんだ次の瞬間、鬼の全身は余すことなく、業火に包まれた。


「グワァァァァアアア!!」


耳をつんざくような鬼の悲鳴。これには黙って見ていた宇咲美ちゃんも思わず悲鳴を上げて、腰を抜かす。

黒崎さん……小さい子の前でなんて残酷なことを!


「黒崎さん!やりすぎですよ!止めてください!」


僕は、止めるように必死に言う。しかし、黒崎さんに伝わらなかったが。


「あなた、こいつに殺されかけたのよ?なに言ってるの?馬鹿なの?馬鹿でしょ」


まさに悪魔だ。悪魔の発想だ。

黒崎さんに胸に掴みかかり、怒鳴る。

彼女に命を救われたとか、惚れた弱みとか、僕だって一度は鬼を殺そうとしたとか、そんなのは関係ない。


「殺されかけたからって、無抵抗の相手に止めを刺すことはないでしょ!今すぐ止めてください!」

「無理よ。ほら、もう灰になってる」


黒崎さんが指差した鬼は、既に灰に変わっていた。

助けてられなかった、という無力感と自責の念に襲われる。


「あ、あぁ、あ」


僕の背後で宇咲美ちゃんは、後ずさるように小さく呻いて悲鳴を上げている。

黒崎さんが振り返り、宇咲美ちゃんに声をかける。


「ねえ、宇咲美ちゃん」

「ひっ……」


宇咲美ちゃんが息を飲む声がハッキリと聞こえた。

今、この子の恐怖の対象は、黒崎さんだ。


「悪い鬼はもういないわよ。安心してね♪」


もっと怖い悪魔がいるのに、なにを安心しろと言うのか。

(疑似)恋人の僕ならともかく、他人同然の宇咲美ちゃんには、全く安心できる言葉ではなかったはずだったが、黒崎さんは天使のような悪魔の笑顔でそう言い切った。


こうして神隠し騒動と、僕たちの初のデートは終わったのだった。







それから僕たちは迷子センターにきた宇咲子ちゃんと遭遇し、宇咲美ちゃんを引き渡した。

もう涙を流して、かなり疲れきった様子だった。

宇咲美ちゃんを心配して、休みもせずにずっと探していんだろう。

僕と手を繋いでいる宇咲美ちゃんを見て、泣きそうな顔から一転、いつもの笑顔を取り戻した。ただし、嬉し涙を流した笑顔だが。


「何処にいたの?!心配したんだよ!」

「お姉ちゃん!怖かったよ!」


僕の手を振り払い、大好きなお姉ちゃんに走り寄って抱きつく宇咲美ちゃん。鬼に浚れかけ、鬼が目の前で燃やされて、小さい子にはどれだけ怖かったんだろうか。

ようやく保護者に会えた安心感は計り知れないし、安心して泣き出すのも無理はない。


泣きながら姉妹で抱き合う姿は、安っぽい感想だけど、ちょっと感動する。


泣きそうになりそうなのをこらえて黒崎さんを見れば、僕とは反対の方向に目を逸らしている。

涙を流してるのをばれないようにしてるのかと思えば、肩とか声とかは別に震えていない。


あ、この娘単純に興味無いだけだわ。

父さんに教わった限りでは、悪魔は感情や感動では動かない生き物らしいから、無感動でもそれはしょうがないことだけどね。

僕はそういう、黒崎さんの淡白なところも含めて好きだから。


「そ~れ~で~、ソラソラ~」


泣き止んだ宇咲子ちゃんの目が笑ってない。

口元だけを三日月型にした張りつけた笑いだ。

これは、僕のことをからかうときのポーズだ。僕は詳しいんだ!


「あ、あのさ、宇咲子ちゃん。今日、遊園地(ここで)会ったことは忘れてほしいんだ、けど……さ……」


宇咲子ちゃんのからかい笑い(命名、僕)が苦手な僕は、気圧されて言ってることが尻切れトンボになっちゃった。

でも、伝わったとは、思う。なお、それを遵守してもらえるかは微妙なもよう。


「ありがとう!ほんっっっとーーに!ありがどうね!!」


予想に反して宇咲子ちゃんは、僕の両手を強く握って後半、涙混じりのダミ声になってお礼を言ってくる。

もう顔は女の子がしちゃいけないくらいグッチャグチャ。しかも、あの宇咲子ちゃんが僕にお礼を言うなんて、と度肝を抜かれたわ。


「ま、まあ、とりあえず泣き止みなよ……」


宇咲美ちゃん以上に泣く宇咲子ちゃんをあやすこと三十分ほど。

ようやくいつもの宇咲子節が戻ってきた。


「それで、ソラソラはこの宇咲子ちゃんがかわいい、かわいい、世界一、いや、宇宙一かわいい妹が迷子になっていて大変なときに、彼女さんと仲良くデートかな?これはいけないね~」


いつもの必殺技『兎いじり・かまってちゃんの術』が始まったぞ。

「迷子にさせたくないならちゃんと手を繋いどけ!」とか、「その迷子の面倒見るためにデート中断したんだけど!」とか、「鬼と戦闘になってこっちはめっちゃ大変だったんだけど!」とか、言うべきことも言いたいことも山ほどあるけど、宇咲子ちゃんも休まずに宇咲美ちゃんを探して走り回っていたっぽいし、ここは宇咲子ちゃんの頑張りに免じて何も言わずにいじられて上げよう。僕は僕で優しい僕に酔っぱらってやるからイーブンってやつだ。


でもそれを許さないのは黒崎さんだ。


「あなたね!空くんはこの子のためにわざわざデートを中断してまでこの子の面倒を見てあげたのよ!少しは感謝したらどうなの?!」


怒鳴るようにまくし立てる黒崎さん。

僕も学校では一年近くも黒崎さんを観察していた立派なストーカー予備軍だけど、クールな彼女がここまで怒りの感情を露にするのは初めて見た。


つい先程まで無関心だっただけに、怒りながら話に入ってくるのはとても怖い。


「黒崎っち!直接話すのは初めてだね!」

「あ?なによ、馴れ馴れしいわね」


宇咲子ちゃんは黒崎さんの努気に気圧されることは全くなく、親しげに話してる。当の黒崎さんは拒絶のオーラ全開だが。

宇咲子ちゃん、コミュ力すごくない?すごいよね。これもある意味、コミュ障の一種だというのは内緒だぞ。


「あなた、月曜日にも空くんと一緒にいたわね」

「それがなにかな?かな☆」

「あなた、空くんの何なの?」


努気と、ちょっとだけの敵意をこめて黒崎さんは宇咲子ちゃんを睨む。


宇咲子ちゃんは黒崎さんに怯える妹を後ろにかくまいつつも、怒りと敵意を浴びて平然としている。


「あたしはソラソラの幼馴染で、親友の、し、ん、ゆ、う、の、宇咲子ちゃんさ♪」


煽るような言い方だ。そろそろ仲裁に入るべきかと思い、動く。

視線が火花を散らす二人の間に割って入る。


「二人とも、そろそろ終わりにしてよ……」

「あ?なにか問題なの?」

「は?ソラソラは引っ込んでてよ」


二人揃って僕に威圧する。

その迫力に僕は……。


「……はい」


大人しく引っ込むことにした。


「お兄ちゃん……よわーい……」


宇咲美ちゃんの呟いた言葉が耳と心に痛い。


二人の睨み合いは一触即発だったが、その後また勇気を出して仲裁に入ってなんとか穏便にすんだ。


それにしても、二人ともなんでこんなに怒ってたんだろう。





予約投稿ミスって昨日の分が投稿されていませんでした。

なので今日二つ目の更新をします。

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