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天使の僕が悪魔に恋をした話  作者: コインチョコ
一章
4/16

3 あの娘と遊園地 前編


朝、目覚ましの音で目を覚ます。

カレンダーの今日の日付に書かれた花丸マークを見て、笑いが止まらないよ。


遂にきたんだ。待ちに待った日曜日。黒崎さんとのデートの日だ!

嬉しくて叫びそうになるのをこらえ、今日のデートプランの確認をしておく。


滅多に使わないメモ帳に書かれたプランを見直す。


1 遊園地前で黒崎さんと落ち合う。

2 次に、午前中は遊び回る。

3 園内の飲食店でご飯を済ませてまた夕方まで遊ぶ。


少しだけ汚い字で書かれたデートプラン。完璧だ!

……って、んなわけあるかぁ!!


バシッ!と思い切り床にメモ帳を叩きつけた。天使の力は使っていなかったので、床は無事だ。

細かいデートプランは明日考えよう、明日でいいやって先延ばしにしてきた結果がこれだよ!

なんの準備も出来ないまま、この日が来ちゃったよ!

さっきの笑いが止まらないっていうのは取り消す。

今は焦りが止まらない。


「こんなんが僕のデートプラン?!おかしいよ!!」


部屋で一人で喚いても、僕が、無為に過ごしてしまった時間は、もう、戻らないのだ。


「あぁ、どうしよう……。黒崎さんに失望される」

「さっきからうるさいぞ!」


部屋のドアが勢いよく開き、父さんが僕に怒鳴る。


「デートがどうの、プランが、とかそんなの勢いでどうにかなるもんだ!若いんだから、お前のやりたいようにやればいい!」


一人で喚いていた内容を聞かれていたらしく、気合いでどうにかしろ!的な話をされてしまった。

精神論とか、理屈屋の悪魔が一番嫌いそうなことだよっ!


「ところでお前、最近悪魔みてえな匂いがしてるが、どうしたんだ?まさか、悪魔と付き合ってるんじゃないだろうな?」

「まさか!僕が付き合ってる相手は、全員人間だよ!あ、宇咲子ちゃんは妖怪だけどね」


悪魔と付き合っていないというのは、勿論、嘘だ。父さんは過去の【天魔大戦】という最大最後の戦争以来、ずっと悪魔が大嫌いだ。

仲間や親や親友が殺されているそうだ。嫌っていないわけがない。

僕と付き合っている娘が悪魔だと知ったら、父さんは怒り狂い、【真名】を名乗って()()姿()を使ってでも黒崎さんを消しにいくかもしれない。


僕は、黒崎さんを守るためにとっさに嘘をついてしまった。

時計を見れば、もう時間に遅れてしまいそうだ。急いで服を着て支度する。【真名(しんめい)】を名乗るとは、天使が自分の本当の名前を名乗ることで、本来の力と人外そのものの姿を引き出すための儀式だ。

僕が悪魔のテロリストに襲われた日に、父さんの真の姿を一度だけ見たことがあるけど、十六枚の白銀の翼の鋼に覆われた美しい天使だった。僕も真名を名乗って真の姿を見てみたいけど、父さんは僕は真名を名乗るのはまだ速いと言って教えてくれない。

そういうところズルい。


時計を見れば、もう家を出る時間。早く行かないと。


「じゃあ、僕もう行ってくるから!」

「待て、これを持っていけ」


そう言って父さんが差し出してきたものは、なにかのお守りだった。


「これは?」

「俺特性のお守りだ。安全祈願のお祈りがかかってる。一応持っていけ」


ついさっき、悪魔と付き合いがあるんじゃないかと疑われたばかりだ。僕は魔法を使って、念のため、盗聴と盗撮の魔法の類いはかかっていないのを確認する。

盗撮盗聴の魔法はかかっておらず、本当にただの安全祈願のお守りだった。


「ありがとう、父さん」


僕は父さんにお礼を言って、飛び出すように家を出た。



デートプランはオーソドックスに、遊園地でのデートだ。

待ち合わせの一時間前に着いた僕は、遊園地に入っていく人の波を眺めて時間を潰していた。チケットは既に二人分買ってある。

待ち合わせの時間になり、黒崎さんがやってきた。


「ごめんなさい、待たせたわね」

「大丈夫です!今きたところですよ」


園内に入った僕らは、何気ない雑談を交わしながら、まずなにをしようかと話をした。

そんな話合いで、黒崎さんが僕に何気ない話題を振ってきた。


「ねぇ、知ってる?この遊園地で迷子になった子供が見つからなくなったっていう噂」

「え?何ですかそれ?」


そんな曰く付きの話、初耳だ。僕、怪談とか苦手なんだけど。

黒崎さんは、僕が若干ビビってるのに気づいたのか、嬉しそうに続ける。心なしか、語気も明るくなってる。


「この遊園地ではね、毎年子供が何人か行方不明になっているのよ。それでね、神隠しにあったっていう噂が後を経たないの」

「よくそれでこの遊園地潰れませんね」

「でしょ?ただの都市伝説よ、都市伝説」


園内で行方不明者が続出するなら、この遊園地すぐ潰れるでしょうに。少しだけ怖がったことを損した気分だ。

その話をした当の黒崎さんも、ただの都市伝説だと笑い飛ばした。デート前なのに、なんとも不気味な話を聞かされるとは……。

それとも、悪魔って皆こういう話が好きなんだろうか?いかにもオカルト存在の悪魔好みの話だしね。

僕も都市伝説とか、オカルト情報とか、調べるべきなのかな。


「空くん。私、あれ乗りたいわ」

「あれ?ジェットコースターですか?」


黒崎さんが少しだけテンション高めで指差すのは、テーマパークの顔役を誇る有名な絶叫マシン。

僕、絶叫系苦手なんだけどなぁ……。

黒崎さんがキラッキラした目でアトラクションを見てるし、すごく断りづらかった。


結果、僕は黒崎さんに付き合い、何度も絶叫マシンに乗った。

園内の全ての絶叫マシンを制覇するまで連れ回され、黒崎さんが満足するまで何度も乗りましたとさ。まる。

でもさりげなく黒崎さんと手を繋げたので良しだ。


「楽しいわ!もう一回乗ろう!」

「ぅぅ、もう限界、です……」


とても楽しんでるようで、かなりハイテンションになってニコニコ笑っている黒崎さん。

対する僕は、死人みたいに青くなって痙攣する胃袋から逆流してくる吐き気を必死に抑えていた。


僕が絶叫系苦手なのとは逆に、黒崎さんは絶叫系が大好きだったらしく、午前中いっぱいを絶叫系に乗りまくり、結局僕はゲボ吐いて死にかけた。

僕自身が天使なのに、天に召されそうになりました。

恐怖とストレスからグロッキー状態になり、KOされてベンチで休ことにしました。

黒崎さんが気を効かせてくれて膝枕してくれているけど、周囲の見守るような生暖かい視線が容赦なく突き刺さる。

止めてくれ、その視線は僕に効く。

平然としている黒崎さんを見習いたいものだ。


「絶叫系苦手だったのね。付き合わせてごめんなさい」

「いえいえ、いいんですよ。うっ、ふう。黒崎さんが喜んでくれるなら、僕は何度でも乗ってやりますよ!うっぷ」


元気であることをアピールしつつ、喉から競り上がってくる朝食の軍勢を押し戻す。第二次ヴォミット戦争は僕の勝利だ!


「そ、そう、元気なのね。男の子は強いわね」


黒崎さんは少し引いた。


少し休んで体力を回復させたら、園内の喫茶店で昼食を摂ってまた遊ぶことになりました。

午後からは、さすがに黒崎さんも絶叫系は飽きたらしく、緩やかに過ごせるそうです。

アイスを買って緩い雰囲気を楽しんでいると、移動中の人混みのなかにウサ耳カチューシャを着けた小さな子どもが両手で顔を覆って泣いているのを見つけた。

おそらく迷子だろう。

まだ小学校にも上がってなさそうな小さい子だし、どうすれば良いのかも分からないのかも。

黒崎さんもその子に気づいた。


「あら?迷子かしら?」

「僕、ちょっと行ってきますね」

「私は関わらないわよ?」


迷子のそばで膝をついて目線を合わせる。子どもにはこうやった方がいいんだって僕は知ってるんだぞ!僕は詳しいんだ!


「君、どうしたの?パパとママは?」


すすり泣きしているその子の頭を撫でつつ、両親について聞き出そうとする。

しばらくの間は泣きじゃくってて話をしてくれなかったが、無理矢理聞き出すのも悪い気がして、根気強く慰めて話してくれるのを待った。

ようやく泣き止んでくれたその子が僕に向けて言った。


「お姉ちゃんがいないの……」


消え入るようなか弱い声でそう言ったその子は、思い出すとまた悲しくなったのか、また泣き出してしまう。

僕は慌てて、持っていたまだ口をつけていないアイスを差し出して、ご機嫌をとるためにがんばる。

さっきまでの悲しそうな顔は一転して、幸せいっぱいといった顔で美味しそうにアイスを堪能されている。

頭を撫でながら言う。


「君のお姉ちゃんは、お兄ちゃんたちが一緒に探してあげるからね」

「………!?」


関わる気がなかったのか、黒崎さんは巻き込まれたことに驚愕する。

迷子の子が親の方から探しやすいように肩車して、お姉さんを探しに行こうとすると、黒崎さんが僕の襟を強く引っ張って耳打ちしてくる。


「ねえ空くん。私は関わりたくないわよ。あなた一人で片付けて!」


この、関わりたくないというのは、黒崎さんにしては以外な反応だった。一時のものとはいえ、僕を殺さないためにわざわざ契約を持ちかけてくれた本当は優しい黒崎さんが、迷子になっている子どもに対してなぜここまで関わりたくないのか。黒崎さんは迷子に嫌な思い出でもあるのだろうか。


彼女に迷惑はかけられないけど、迷子になっているこの子も放っておけない。

僕がとれる行動は一つだ。


「わかりました。そうします」


せっかくのデートなのに申し訳ないけど、黒崎さんには一人で遊んでもらう間に、僕が一人で親を探すことにしよう。

ポケットの中が、少しだけ温かくなっていた。



そして探すこと小一時間。

一向に『お姉ちゃん』らしき人物は見つからなかった。

だけど分かったこともある。


迷子の子と話していく内に、この子の名前が森宮(もりみや)宇咲美(うさみ)ちゃんということがわかった。


そして、お姉さんの名前が宇咲子ということもだ。

よりにもよって、あの宇咲子ちゃんの妹か……。


宇咲子ちゃんは嫌いじゃないけど、黒崎さんとデート中だと知られたら、またとんでもなく騒がれそうだ。

具体的には明日の学校で僕と黒崎さんのデートの内容を見てきたように具体的に言い触らされそう。

口が軽くて交流関係の広い宇咲子ちゃんならやる。

絶対にやる。


僕は、僕のことで騒がれるのも悪目立ちするのも苦手だ。

宇咲子ちゃんと遭遇(エンカウント)せずに、宇咲美ちゃんを会わせる方法はないものか。


熟考する僕は、そこでようやくあることに気づいた。


「あ、迷子センターに連れていけばいいじゃん」


やっぱり、僕ってクソバカだな。最初に思いつけよ、僕!

この遊園地は規模は大きいし、迷子センターに行けば確実に目当ての『お姉ちゃん』は見つかるはずだ。

もしかしたら、もう迷子センターで待機してらっしゃるかもしれない。


「迷子センターに行こうね」


迷子の子にそう言ってセンターを探しにいく。

この体験を人に話したら「最初っからこうしろよ」って言われるだろう。

幸い、迷子センターはすぐに見つかった。センターに近づくに連れ、ポケットがやけに熱を放っているが、気にしないでおく。

どうせ携帯の熱だろうし。


そんなことよりも、今は宇咲美ちゃんの方が大事だ。

職員のおじいさんを見つけて、事のあらましを伝える。


「そんで、この子が迷子か。保護者は両親か?祖父母か?」

「お姉さんと一緒らしいです」

「そうか、儂が責任持って預かろう」


僕の説明に納得したおじいさんは、迷子を預かろうとするが……。


「やだっ!」

「へ?」


当の迷子ちゃんは僕の足にしがみついて、イヤイヤ期の幼児のように駄々をこねる。


「あの、わがまま言わないで。お兄ちゃん困るよ……」

「いーやー!このひとやだ!」

「ホッホッホ。ずいぶんと嫌われたもんじゃ」


なにがそんなに嫌なのかは分からないが、おじいさんに失礼じゃない?


「あんまりひどいこと言わないの」

「いーやーなーのー!」


拒絶はますます酷くなる一方だった。


「いいんじゃ。慣れとるからの」


初対面の子どもに嫌われるのは慣れてるらしく、おじいさんはまるで歯牙にもかけない。

とりあえず、宇咲美ちゃんは預けたし、宇咲子ちゃんが迎えに来るだろう。僕は黒崎さんとのデートの続きを楽しもう。


「って、熱っ!熱いよ!」


知らないうちに、ポケットがやけに熱くなっていた。

さすがに火傷しそうなしゃれにならないほどの熱さになっているので、ポケットの中のものを乱暴に引き抜いて地面に放り投げる。

それは、携帯でも財布でもなく、父から貰ったお守りだった。


「これが原因?なんでこんなに熱くなってたんだろう?」


熱が冷めたお守りを拾って、施されていた術式を調べてみると、あることに気づいた。


「この術、危険を知らせる術式だ……」


お守りに掛けられていた魔術は、術を掛けられた媒体が高熱をもって危険を知らせる危険感知術だった。

黒崎さんの話していた都市伝説の話が急に脳裏を走った。


『毎年子どもが何人も行方不明になっているのよ』


そして、さっき、おじいさんに宇咲美ちゃんを引き渡す時までは、お守りがすごく熱かった。

ということは……。


「宇咲美ちゃんが危ない!」


クソ、間抜けにも程があるぞ。

駄々をこねていたのも、身の危険を感じていたからだ。

なのに、間抜けな僕はそのSOSを全く察してやれずに危険かもしれないおじいさんに引き渡してしまった。


センターのドアは来たときとは違い、固く鍵を掛けられていたが、光の剣を召喚して切って蹴破った。

迷子センターなのに、真っ昼間から正面出入り口に鍵を掛ける時点で、既に怪しいことしてると言ってるようなもんだ。


「な、なんだお前、どっから入ってきた!」

「どけよ!」


角を生やした青年が僕の行く手を阻んだが、光の剣で切りつけて気絶させる。この光の剣は、天使が使える能力の一つで、相手の魂を直接切りつけられる武器だ。


この世にいる生き物は、人も妖怪も天使も悪魔も神も、魂は肉体より頑丈に出来ていて、多少傷をつけたくらいでは気を失うだけに止まる。壊したらさすがに死んじゃうけど。


奥の方から、宇咲美ちゃんの悲鳴が聞こえる。

宇咲美ちゃんを引き渡した部屋まで戻ってきたからだ。

躊躇わずにその部屋に飛びこんだ。


「宇咲美ちゃん!大丈夫!?」


その部屋では、角を生やした黄緑色の肌のおじいさんの面影がある妖怪が、宇咲美ちゃんを部屋の隅っこの方に追い詰めてニタニタと笑っていた。

宇佐美ちゃんは妖術で必死に抵抗しているが、それすらおかしいと鬼は笑っている。


「お兄ちゃん!」

「気づいたのか、小僧」


怯えていた宇咲美ちゃんは、僕を見て安心した顔に変わった。

よかった、間に合ったみたいだ。


妖怪の方は、さっきの優しそうなおじいさんとはうって変わって、本性を見せた妖怪が、僕の方へ向き直った。


天井に頭が届きそうな巨体と、丸太のように太い腕が威圧感を増す。

これがおじいさんの本来の姿、人食い、都市伝説の正体、日本に伝わる妖怪、鬼だ。


「あなたが、この遊園地の都市伝説の正体ですか!」

「そうだ。儂は子供が好きでなぁ。今まで何人も幼子を浚ってきたわい」

「連れていった子ども達はどうしたんですか!」

「儂の家で働かせておるぞ?毎日、毎日、虐待していじめて、泣いた顔を見るのが、儂のなによりも楽しみじゃわい」


こいつ、今、なんて言った?

虐待?いじめる?小さな子ども達を?


その答えを聞いた瞬間、頭が沸騰しそうな怒りを感じた。


「このゲス野郎が!!」


叫び、怒りに身を巻かせて翼を展開する。

札を使い、魔力の結界を張って鬼を結界内部の異空間へと引きずり込む。


異空間内は、外界と隔離された術者が術者のために作った自分だけの世界だ。

僕の結界は高層ビルが立ち並ぶ、人のいない世界だ。

経年劣化でボロボロになったビルの窓という窓がことごとく割れており、蔦や雑草が生い茂った現実の世界から人だけを取り除いた世界を再現してみた世界だ。


この世界でどれだけ暴れようが、物を壊そうが、現実世界にはなんの影響もない。

一人での本格的な戦闘は初めてだけど、負けるわけにはいかない戦いだ。







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