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天使の僕が悪魔に恋をした話  作者: コインチョコ
一章
2/16

1 契約

次の日の朝。

僕は徹夜の眠気で重いまぶたをこじ開けて通学路を歩いていた。

目の下の隈が僕の眠気を雄弁に語っていると思う。


一晩中黒崎さんとリアル鬼ごっこをしたせいによる寝不足で、元々悪かった頭が余計に働かなくなっている。

まあ、僕の脳は働かせようとしても、ちょくちょくボイコットするからあんまり気にしないんだけど……。


一晩中飛び回って疲れている体に鞭を打って登校すると、校門の前で気になるあの娘を見つけてしまった。

彼女は、登校しているすべての生徒を監視するかのように校門の前でアンテナを張っていた。

誰かを探していると、全身が訴えている。

彼女――黒崎一乃の探している相手は、間違いなく僕だろう。


昨晩、僕を殺し損ねて、彼女は精神的にだいぶ追い詰められているようだ。

すぐ近くで電柱の影に隠れている僕に気づいている様子がない。

彼女が校門の前に立っているのを見て、思わず隠れてしまったけど、どうしよう。

近くを通る先輩同輩後輩たちの「なにしてんだこいつ」みたいな目も結構痛いし。

でも、今、黒崎さんと会ったらなにをされるか分からないし……。


公衆の面前で襲われることはないだろうけど、彼女はすごく頭がいいから、僕を罠にはめて社会的に殺そうとしてきたりするかも。

そもそも、悪魔が自分の正体を知った相手を殺すのは、自分たちの存在を人間社会から秘匿するためだし、それを考えれば、殺すのはなにも、物理的に限ったことじゃなくてもいいのだ。

要は相手の発言力や社会的信用を奪えればいいのだから。

証拠だって隠滅できなくても、今の時代ならネットに流されたってCG加工とか、合成とかで話は片付く。

さすがに無実の罪で吊し上げられてしまえば、天使の異能を持ってしても、僕は社会的に死んで、もうこの町にいられなくなる。彼女の完全勝利だ。


それか、うまく二人っきりになって、物理的に息の根を止めにくる可能性も否定できない。

彼女がどちらの手段を取るにせよ、僕にはキツい。


なんとか、彼女の視界に入らない方法はないものか、

そう考えると、ちょうどいいところに、ちょうどいい人が来てくれた。


「あ、空。どうしたの? 電柱に隠れて」


僕の救世主となってくれる彼は、ふとっちょの巨漢の熊谷(くまがや)くんだ。通称は【微笑みメタボ】って言われてる熊谷くんだ。彼は食べることが大好きで、いつもニコニコしていて怒ることが滅多にない仏のような人で、僕の数少ない友人の一人だ。

僕は彼に、黒崎さんとちょっとトラブルがあったと告げ、昨日のことを話した。

天使と悪魔のことはさすがにぼかして、普通の人間関係のトラブルっぽく偽装したけど、バレないよね?


で、僕の思いついたナイスな作戦を伝える。


「そっか。なら俺も協力するよ」

「ありがとう!持つべきものは友達だね!」


熊谷くんが僕の先を歩き、僕はその影に隠れて黒崎さんの死角になるように移動する。

これこそが僕の考えた作戦!DEAD ANGLE(デッドアングル)作戦だ!そのまんまだね!


しめしめ、黒崎さんは気づいていないぞ。

黒崎は相変わらずキョロキョロと世話しなく辺りを見渡していて、熊谷くんを見つけた。つまり、僕のいる方を見た瞬間、こっちをガン見して氷のように冷たく、殺意のこもった怖い目で睨みつけてくる。僕の盾役の熊谷くんも、これにはかなり怯えている様子だ。僕が巻き込んでしまったばかりに怖い思いをさせてごめんね。


うん、確実にバレてる。どうしよう。

どうにか誤魔化す方法を考えようにも、黒崎さんは僕たちのすぐ目の前にいる。

殺しあいか、社会的な死か、どちらにせよ、僕が巻きこんだ熊谷くんもただでは済まされないだろう。


クソッ!せめて熊谷くんだけでも逃がさなきゃ!

黒崎さんがそんなことを許してくれるか、と思いつつも、熊谷くんを庇う台詞を考える。


「ねえ、あなたたち―――」

「お前黒崎だろ?ちょっといいか」


黒崎さんが僕たちに声をかけようとした瞬間、他の人からの横やりが入ってきた。

黒崎さんと僕たちの間に滑りこんで来たのは、校則違反の染髪で金に染めた髪の毛と、これまた校則違反のピアスをしたアイドルも顔負けの……それは言いすぎたかな。それなりに整ったルックスをした不良の先輩だった。

この人知ってる。かなりの()()()()らしくて、万引きとか食い逃げとか、その、ヤリ●ンで中学生孕ませたとかの悪評が後を断たない人だ。

名前は確か……。


「あなたは、【成島(なるしま)】先輩ね」


そうそう、ちょっと失礼だけど、名前の語感がナルシストっぽくて覚えやすかったんだよね。ちょっとどころか凄い失礼な気がするぞ、僕!


「俺のこと知ってんだな。ならいい」

「ならいいとは?」

「来いよ。飯奢ってやるからさ」

「遠慮します」


僕の目と鼻の先で、好きな人へのナンパが始まった。

僕たちの安全を考えれば、黒崎さんがナンパ男こと成島先輩に気を引かれてる間にこのまま素通りすべきなのだろう。


「……このまま行っちゃおう」

「……そうだね」


これ以上、トラブルに巻きこまれるのはごめんなのは、熊谷くんも同じだったようで、僕の意見に同意してくれた。

黒崎さんには申し訳ないが、そのままスルーして通りすぎることにした。


………。本当にこれでいいのかな?


「いいから来いよ! 楽しませてやるっつってんだろ!」

「楽しめるわけないでしょ。離してよ! この勘違い男!」


黒崎さんは成島先輩無理やり腕を掴まれて、どこかに連れていかれそうになっている。悪魔なのに腕力で負けているのは、人間の姿では見た目相応の非力な女の子の力しか出せないからだ。

僕も翼をしまっている間は不死身なこと以外は普通の非力な人間だ。


本当にこれを無視していいのか?


黒崎さんが、好きな女の子が不良に絡まれて困ってて、それを無視して通りすぎて本当にいいのか?


例えば、僕の物理的、社会的な死がここで確定するとしても、僕がやるべきことは決まってるじゃないか。


不良に立ち向かうのは怖い。命を狙われるのも怖い。

でも、それでも僕は今ここで、どんなかたちであれ、好きな人の助けになるべきなんだ。


「黒崎さんが嫌がってるでしょ! 離れてください!」


僕は熊谷くんの影から飛び出し、黒崎さんの腕を掴む成島先輩を引き剥がす。


「関係ない癖にしゃしゃるな。どっか行けよ、チビ」

「関係なくない! 僕は……僕は黒崎さんの彼氏だよ!」

「っっ!? はぁっ?!」


口をついて出た言葉は、自分でも驚くようなとんでもない一言だった。

どうして唐突にこんなことを口走ったのか、冷静になった今でも分からない。寝不足と怖さとパニックで頭がパーになってのかもしれない。

実際の僕は、黒崎さんに告白して振られただけの男だ。当たり前だが、黒崎さんの彼氏でもなんでもない。

そんなトンでも発言を聞いた黒崎さんは、一瞬の動揺と驚愕の後、当然ながらぶちギレる。振った相手が彼氏面してるんだから当然だ。僕でも振った相手が彼氏面してたらキレる。僕、男だけどね。


「誰が! あんたの! 彼女よ!! 勝手に! 付き合ってることに! するな!!」


キレた黒崎さんに背後から蹴り倒され、容赦なく踏みつけられる。


「ぐはっっ!? ぐぁっ!? あぁ!?」


後頭部と背中への連続ストンピングで止めを刺される。


成島先輩と熊谷くんは既にいない。二人ともキレた黒崎さんの迫力にビビって一目散に逃げ出していた。

幸か不幸か、ホームルームがもうすぐ始まる時間だったので周りに人はいなかった。

助けに入ったつもりが、助けた相手に足拭きマットのように踏みつけられる僕の無様な姿は、誰にも見られていないのが救いだ。


「もう二度と彼氏面しないでバカ!」


興奮と怒り、羞恥に顔を真っ赤にさせた黒崎さんは、僕を殺すことも忘れて走り去っていった。かわいい。


「痛てて、やっぱり悪魔って強い……」


僕が復活した頃には、既にチャイムはなっていた。

この時点で僕の遅刻は確定し、僕は自動的に廊下に水いれたバケツもって立ってるお人形になることが決まった。

僕の先生は鬼だから、容赦なく折檻される。



放課後、帰ろうとすると、校門でまた待ち伏せされていた。


「来たわね」


クスリとクールに笑っているが、今朝のかわいい顔は僕の心のアルバムに刻まれている。


「あ、あのことは忘れなさい!」

「それで、一体なんの用ですか?」


炎の槍で刺されたりとかかな。


いつでも逃げられるように警戒しながら問うと、黒崎さんに手を握られてこう言われた。


「あなた、私と契約をしない?」


契約?


「なにを、言ってるんですか?」


「だから、悪魔との契約よ。私と契約して疑似的な関係を作りましょう。そうすれば、あなたを殺さなくても済むかもしれないわ!」


言い忘れていたが、今は下校時間で周りには大勢の帰宅途中、部活中の生徒がいる。

僕たちのことを見ている人はいないが、この人外種族の坩堝である【天魔町(てんまちょう)】では、どこで誰が聞き耳を立てているか分からない。

天使の僕が悪魔の黒崎さんに命を狙われていることを知られたら、それだけで大騒ぎになるかもしれない。特に、父さんは過去の大戦で仲間や友達を大勢悪魔に殺されていると聞いた。

父さんがこのことを知ったら、黒崎さんを殺そうとするかもしれない。それだけは絶対に阻止しないと。


「とりあえず来て下さい!」


黒崎さんの手を引いて、旧校舎の空き教室に連れてきた。

ここなら誰も来ない。黒崎さんと二人っきりだ。

好きな人と二人になれた嬉しさ半分、残り半分は命を狙ってくる相手と二人でいる恐怖がある。


「どうして、契約なんて持ちかけるんですか?」


昨日の今日で殺そうとしてきたじゃないですか。


「そのままの意味よ。契約履行中の相手なら正体を知られても、殺さなくてもいいことになってるのよ」


悪魔についての勉強が足りなかったようだ。そんな悪魔の法は初めて知った。


「だから、契約をしましょう。あなたの擬似的な恋人になってあげる。契約期間は卒業まで。それまでにあなたのことを好きにさせて。それができなければ――」


―――あなたを殺す。


それまでの暖かな笑顔が反転して、どこか物悲しげな笑顔に変わった。

その顔を見て、あぁ、黒崎も本当は僕のことを殺したくないのかもしれない、と思った。


だから僕は、その契約に応じることにした。


許された時間は、卒業までの残り一年と十一ヶ月。

この間に黒崎と両想いになれなければ、僕は卒業と同時に黒崎さんに殺されることになる。


この契約が結ばれた瞬間、天使の僕と悪魔のあの娘の、命懸けの恋愛が始まった。




しょっぱなからタイトル回収しちゃって良いのかしら。

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