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天使の僕が悪魔に恋をした話  作者: コインチョコ
一章
14/16

13 ボードゲーム部最後の日、父親たちの暴走を添えて



僕たちはボードゲーム部の部室で仲良くゲームをして遊んでいた。

きっかけは、宇咲子ちゃんと黒崎さんは顔を合わせた瞬間、これが私たちの恒例だ!みたいに喧嘩が始まったけど、僕が「ボードゲーム部なんだからゲームで決着をつけよう」と提案したところ、二人ともこの案に乗ってくれたことだ。

で、肝心なゲームはクトゥルフ神話系のTRPGです。


シナリオは僕がこの間ネットで見たやつをちょこっと僕好みにしたものを使っていて、GM(ゲームマスター)は僕が務めて、プレイヤーは遊びに来た宇咲美ちゃんを含めた三人がやってる。

宇咲美ちゃんは座高が足りず、机の上のボードやサイコロが見えないので宇咲子ちゃんが膝に乗せて抱えてる。かわいい。


で、黒崎さんと宇咲美ちゃんはゲーム序盤から全力で相手を攻撃し、戦闘や謎解きが目の前にあってもそのスタイルは変わらなかった。一番小さい宇咲美ちゃんだけがまともにプレイしてて笑う。

しかし、ゲームもいよいよ佳境に入り、ラスボスを目の前にしてまたもや二人揃って足を引っ張りあうかと思いきや、宇咲美ちゃんが二人の耳元でなにかを囁くと、今度は「パーフェクトだウォ●ター」と言いたくなるくらいのコンビネーションを見せつけてあっさりとクリアしてしまった。二人をまとめてくれた宇咲美ちゃんには感謝の極みだ。


…………ホントは君ら仲良いんじゃないの? って思ったけど。


「この世界はいろんな神話が実在しますけど、クトゥルフ神話だけは実在してほしくない神話ですよねー」


ゲームも終わって、二人がまた喧嘩を始める前に雑談に入ろうと思って、何気なく神話の話を口にする。

昔父さんからクトゥルフ神話の話を聞いたとき、この世界には色んな神様がいるけど、クトゥルフの神様だけはいて欲しくないと思った。父さんも「あれは作り話だ………多分」と目を泳がせながら言っていた。実在する根拠でもあるのか? 怖いよ。

クトゥルフ神話とは、太古の昔に地球を支配していた旧支配者が現代に甦るというテーマの創作神話です。

ほとんどの神話や伝説は実際の神様や魔物や妖怪の存在、彼らのやらかしたことが元ネタになってるけど、クトゥルフ神話だけは一人の男の妄想と夢から生まれた特異な神話だ。


「そうね。あれはラブクラフト原作の作り話よ」

「アザトースみたいな神様がいてたまるかー!ってんだ!」


黒崎さんが冷静に指摘し、宇咲子ちゃんは僕みたいなことを言ってる。

宇咲子ちゃんが言っている【アザトース】とは、クトゥルフ神話最強の神で【白痴の魔王】とも呼ばれているなんか凄くヤバいクトゥルフの神様だ。


宇宙の中心で汚い言葉を吐き続けているとか、宇宙はアザトースが眠っている間に見ている夢で、魔王が目覚めたら泡が弾けるように消えて無くなるとか、聞いてるだけで引くぐらい最強設定てんこもりな神様です。

唯一の救いは白痴の魔王の名の通り、知性のない神様だから自分の意思でなにかをすることはまずないこと。

ただ眠っているだったら刺激して起こさないことの方が懸命だね。

クトゥルフ神話には外宇宙に起源を持った神様も山ほどいるし、ホントにいたら地球産の神話勢力なんて一つ残らず駆逐されちゃいそうだよ。


本当に作り話で良かった。


神話の話で盛り上がっていると、部活終了のチャイムが鳴って今日はお開きという流れになった。


「じゃ、僕は後やっておくんで二人は先に帰っててください」

「そうさせて貰うわ」

「ありがとうございますソラソラ!」


部活終わりの鍵閉め担当はいつも僕が名乗り出てる。

女の子を先に家に帰す。これが紳士の嗜みです(ドヤ顔)


片付けと掃除と戸締まりを終えて、帰路につこうと思った矢先に、転移魔方陣が光を放って現れた。


この陣は、バルログさんの物だ。

彼が部室(ここ)にくる!

昨日の今日で絶対ろくなことにならないと僕の直感が告げている。

逃げようと思ったけど、この校舎は今は使われていないから誰もいない。だから、僕はここを部室の拠点に使ったわけで、今は半天使状態だ。

迎え撃つ?いやいやいや、将来のお義父さんと戦うなんて………。

それに、今の僕じゃ勝てない。

死を司る熾天使の息子といっても、まだ半人前のハーフに過ぎないんだ。

彼にどんな目的があるにせよ、ここは逃げるしかない。

ドアノブに手を掛けると―――。


「ぐっはぁぁぁ!!」


魔力の稲妻が僕の全身を焼いた。

とっくにここはバルログさんによって空間ごと封じ込められていたみたい。

恐らく僕が掃除をしていた間に。


「天使の小僧。私は娘から貴様を遠ざけるには、貴様を殺すしかないと考えた。天界で盛大に私を恨むといい」


姿を現したバルログさんは既に悪魔形態。悪魔本来の姿だ。

あまりの大きさに部室の天井を壊しながらの登場だ。

魔力を孕んだ熱波は翼に火が付きそうなくらい熱い。

バルログさんからすれば自然体の状態なんだろうけど、僕からすれば近くにいられるだけで大火傷しそうな脅威だ。

あ、人生ゲームの盤が燃えてる。


「うぁぁぁぁ!!出ろ!隔離結界!!」


あまりの熱さに、苦し紛れに空間に結界を上書きする。

結界は術者の腕の良し悪しで優先順位が変わる。

結界師としての力が上なら、他人が先に結界を張った空間に結界を上書きできるのだ。


相手がかの大悪魔バルログといえども、結界術は僕ら天使の領分だ。


特に、僕の得意分野は結界術だ。脳筋でパワープレイ大好きの悪魔に精密作業では遅れを取ることはない。


一瞬で上書きされた結界が部室だった空間を僕の世界で塗り替える。

廃ビル、乗り捨てられて朽ち果てた自動車、壊れた町並み。

前回の鬼との戦い出来上がったクレーターは、隕石でも落ちてきたかのような惨状だ。

この人がいない列島に、僕はバルログさんを引きずりこんのだ。


前回の戦いから改良して、ここでは僕の意思一つで空間も時間も操れるようにしてある。さすがに物理法則や現実そのものを歪めることはまだ出来ないけどね。いずれ出来るようになる予定だ。

目の前の大悪魔から逃げきって明日が来ればいいけど。


バルログさんは僕の世界を見渡して鼻で笑う。


「ほう、荒廃した世界観か。せめて好きな場所で葬ってやろう」


次の瞬間、僕の世界は地獄の業火に包まれた。




空がバルログとの戦闘に入っていたのと時同じくして、黒崎一乃はミカエルの強襲を受けていた。

悪魔の姿に変身して抵抗するが、直後に隔離結界の中に引きずりこまれていた。

空間、時間、法則、物質、現実、全てが相手の思うがままの世界での戦いはバルログの娘として生まれ、厳しい鍛練で恵まれた才能を育んできた大悪魔でも一方的な戦いを強いられていた。


「あなたが私の命を狙う理由は分かります。空くんのことですよね?彼との契約内容が気に入らないのですね。でも、私は空くんを殺すつもりはありません! 私は、空くんが好きです。彼を殺したりなんか絶対にしません! 剣を納めてください!」

「それを信じろと? 悪魔を信じろってか? 冗談きついな嬢ちゃん」

「(この人ダメね、話にならない……!)」


世界そのものを味方につけた上、天使本来の姿のミカエルが振る、切りつけた相手の命を(例えかすり傷でも)問答無用で奪うライフバスターの斬擊を紙一重で回避するのは、一乃の突き抜けた身体能力と運動神経の賜物だろう。


隔離結界のコントロールは、鉄の理性による精密な思念操作が必要だ。今のミカエルは悪魔憎しと息子可愛さの感情に心を支配されていて完全に暴走しているため、結界の力を支配できていないのだ。


それが一乃にプラスに働いた。


「(空くんが言った通りなら、隔離結界は世界の容量を超えるエネルギーを与えれば崩壊する。 私の魔炎は惑星一つを灰にできるし、その力なら作り物の世界一つくらい壊せるはず。後は、力を溜める時間を作らないと)」


「力を溜めればこの世界をぶち破れる……そう思ってないか?」

「………思ってますよ。 私ならなんとかなるって」

「残念だったな。 俺の世界は空が創る弱い世界とは違う。 壊したければ俺を倒すか、俺以上の結界術で空間を上書きするかだ。 最も、それがお前に出来るとは思えないがな」


千年戦争や天魔大戦の悪魔と戦っていた若かりし頃を思いだしているのか、ライフバスターを構えたミカエルは血に酔うように笑う。その顔は下手な悪魔よりもバケモノ染みた恐ろしい笑顔だ。


「あなたは今、悪魔よりも悪魔らしい顔してます」

「お前みたいな子供からすれば、そうだろうな。 でも、天使ってのこんなもんだ。 天使に夢見すぎだぞ」

「そうかも知れませんね」


父、バルログの恨み節の籠った天使のイメージをぶち壊した純粋でウブな空だけを見すぎたせいか、一乃の中では天使はそういう()()()()()()ものとしてイメージが出来上がっていた。

しかし、それは空が戦争も実戦の経験もない、人間の血の混じった平和ボケしたハーフだからこそだったのだ。


夢を壊された夢見がちな少女は、夢を壊した熾天使へ壊れた夢を薪にして静かな怒りを燃やす。


炎の槍とコウモリ状の炎の翼が一層激しく燃え上がる。

褐色に染まった肌は黒い角とマッチして扇情的ないいアクセントになる。


目の前の(ミカエル)を倒す。


今や一乃にとって、未来の義父になるかもしれないミカエルは敵でしかなかった。


ならば倒すのみだ。それ以外の選択肢はない。


ここでミカエルを倒してしまえば、永遠に空に憎まれることになるだろう。

だが、生き延びねば愛する彼に再び会って憎まれることすらできない。

故に生きる道を選ぶ。


もし空がそのことで自分を憎み、殺したいと願うならそうさせてやろう。


そのためにまず生き残る。


黒崎一乃は愛する者の最も大切な相手を殺す覚悟を決めた。














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