第5話:ブラックジャックに挑戦
ブラックジャックの場面も、実際にトランプを使って決めました。
六方菫、25歳。人生初のカジノを、地球がある世界とは別の世界で挑戦することになった。種目は、ブラックジャック。
一番右に座った私に最初に2枚のカードが配られ、そのまま他の人たちにも2枚ずつ。私のカードは、2と8。
「お、結構いいですね」
結構いいみたい。他2人のおじさま方は、キングと5、エースと7。ディーラーは、1枚がキング、もう1枚が伏せてある。
「絵札は全部10です。とりあえず引きましょう。台を指でトンと叩いてください。ヒットと言います」
「うん」
緑色の台を、指でトン。ディーラーは優しく微笑んで次のカードをくれた。7。
「微妙ですが、ここでやめときま…」
ヒロキがそう言いかけた途端、景色がモノクロになった。
ポン、ポンポポポポ。
サイコロ登場。一旦椅子から立ち上がり、拾い上げると、
<偶数:引く>
<奇数:引かない>
「来てしまいましたか。5以上のカードを引くと負けてしまうのですが」
「でもこれで引かされて4だったらラッキーじゃん」
「それはそうですが・・・」
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
3が出た。ヒロキは軽く息をつき、
「スタンドですね。手の平を下に向けて横に振ってください」
言われた通りにすると、ディーラーの視線は隣のおじさんに移った。その人もスタンド、もう人のおじさんはヒットした。出て来たのは、9。良かった、引いてたら負けてた。おじさんは良い数字がこなかったのか、渋い顔をした。
ディーラーの伏せてあるカードがめくられる。クイーン。全員負けて、チップが回収された。
「ディーラーのカードが良すぎました。仕方ありません」
次、もう1回チップ1枚(100円)。来たカードは、クイーンと5。
「また微妙な感じになりましたね・・・」
これは私でも分かる。7以上を引くとダメだから、微妙だ。ディーラーの表のカードは、8。またさっきと同じようにサイコロが出て来たので振った。
2。偶数なので、引かさせる。台を指で叩くと、次のカードが来た。8。ドボンになってその場でチップとカードが回収された。勝てない~~。
おじさん2人はスタンド、ディーラーの伏せてあったカードは3。さらに3、それから10。おじさん2人は勝利し、掛けた額と同じチップが配られた。羨ましい。
「スミレさんが引かなければ、あの8がディーラーに渡って全員負けていましたね。お2人ともスミレさんに感謝していると思いますよ」
「う・・・」
何それー。私、どっちにしても勝てなかったのに、おじさん2人のために犠牲になったの?
「気を取り直して、次に行きましょう。掛け金、増やしてみませんか? 次、300円掛けて勝てばトータルでプラス100円になりますよ」
「でもそれ、負け続けたら・・・」
「破綻しますね。掛け金の上限も設定されていて、際限なくはできないようになっています。ここは上限1万円みたいですから、6~7回はできるはずですよ」
「今2連敗したばっかりなんだけど・・・やってみる」
今度は、チップ3枚で勝負。来たカードは、2とエース。ディーラーのカードは、9。
「エースは、1としても11としても使えます。13だと微妙ですから、引いてみましょう。8が出たらラッキーです」
キングが出た。
「えっと・・・今、13です」
分かってます。でサイコロ出現。1が出たので、スタンド。2人のおじさんも13だったけど、一番左の人は引いた。6が出て、ご満悦な様子。
ディーラーのもう1枚は、4。次に9以上が出れば勝てる・・・!
3だった。私が何かを言うよりも先に、ディーラーはもう1枚引いた。クイーン。
「やった!」
思わずガッツポーズしてしまった。ディーラーの人が、微笑ましいものを見る目で見てきて恥ずかしい・・・。
「やりましたね。ディーラーは17以上になるまで引かなければなりませんから、16になるとかなり勝率が上がります」
「私も、サイコロで奇数が出るまで引かなきゃいけないんだけどね・・・」
「あ、あはは・・・」
「よし。なんとなく分かってきたし、次は500円いってみようかな」
いつまでも、100円ばかりじゃ終わりが見えない。
「5,000円稼ぐか、破たんするまでやろうと思うの」
「ええ、それがいいですね。頑張ってください」
そう言われても、私の意志が介入できる部分はないのだけれど。
4戦目、私は20、ディーラーは2。サイコロの介入はなく、ディーラーが22になって私の勝利。現在の収支はプラス600円。
「次も500円!」
5戦目、私は15、ディーラーは3。サイコロで6が出て引かされ、7が出たので負け。収支がプラス100円に。
「えっと、次500円掛けて勝ってもさっきのが戻ってくるだけだから・・・600円!」
「意外と、慎重ですね」
「怖いんだもん。あと、“意外と”ってどういうことぉ?」
「他意はないです」
あったでしょ。
6戦目、私は12、ディーラーは10。
「引きましょう。このままでは分がわる…」
サイコロ登場。
「12以上だと、出てくるようですね・・・」
3が出たので、スタンド。ディーラーはその後、3と10を出してドボン。やった!
収支がプラス700円に。・・・あ、これ、終わんない。もうちょっと攻めれば良かった。とにかく次は、500円。
7戦目、私は18、ディーラーは9。サイコロは出ず、ディーラーが10を出したので負け。収支がプラス200円に。
「このままじゃ終わんないから、1,000円いくね」
「おっ。ついに本領発揮ですね」
何の本領よ・・・。
8戦目、私は12、ディーラーは10。サイコロで3が出てスタンド、ディーラーが2、10の順だったので勝利。
「やった! また勝った!」
収支はプラス1,200円に。あと3,800円。とにかく次も、500円賭け。
9戦目、私は20、ディーラーは10。サイコロは出ず、ディーラーが8だったので勝利。収支はプラス1,700円に。
10戦目、私は19、ディーラーは3。サイコロは出ず、ディーラーが6、10の順だったので引き分け。
11戦目、私は13、ディーラーは2。サイコロ1が出てスタンド、ディーラーがエース、6順だったので負け。収支はプラス1,200円に。
「次は、1,000円!」
12戦目、私は17、ディーラーは7。サイコロは出ず、ディーラーが8、4の順だったので負け。収支はプラス200円に・・・。
「うう~~。次は、・・・2,000円!」
「おお~。さすがスミレさんですね」
何が“さすが”なのよ・・・。と、ここで冷静になった。待って、このまま2倍ずつ賭けて行く気? 1,500円でも良かったんじゃ・・・。でも、置いたチップは戻せないらしい。しょうがない、勝負だ!
13戦目、私は15、ディーラーは5。
「げっ!」
あんまりいい数字じゃない・・・。案の定、サイコロが登場。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
3が出たので、スタンド。セーーフ。2人とも12だったおじさんたちもスタンドし、ディーラーのカードを見守る。まずは7、次が、8。
「う・・・!」
私の2,000円が~~。
どうしよう、収支はマイナス1,800円。この3連敗で、3,500円おとしてる。待って、落ち着いて、初心に帰ろう。勝った時にプラス500円になればいいのだから、次に賭けるべきは、・・・4,000円。結局、2倍掛けていかなきゃいけないのね。
14戦目、私は20(よし!)、でもディーラーがエース・・・。ここで、景色がモノクロになった。
「え?」
「・・・おそらく、インシュランスですね」
「インシュランス?」
「敵がブラックジャックだった時のための、保険です。保険を掛けていれば、もし敵がここで10以上を出すと収支トントンになります。9以下が出ると半額、つまり2,000円が取られますが」
「なる、ほど・・・」
よく分からないけど、サイコロに従うしかないのよね。
<偶数:インシュランスする>
<奇数:しない>
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
3が出た。首を横に振り、何もしないことを伝えるとおじさんたちのターンになった。ディーラーのカードは・・・、8だった。あれは9なの? 19なの? と思っていると、ディーラーは優しく微笑みながら私の元に4,000円のチップをスライドさせた。・・・ってことは、
「私の勝ち?」
「ええ。ここでは、エースと6以上の組合せだと、次は引きませんので」
「やった!」
ここで4,000円勝ち、収支はプラス2,200円に。でもちょっと、時間がかかるかも・・・。
「次からは、スタートを1,000円にしよっかな。4連敗は、しないって信じて」
今、4連敗しかけたばっかりだけど。勝負に出なきゃ、時間だけが過ぎて行く。せっかくのギャンブルなんだから、大きく出ないと。
「でもそれですと、4戦やるには15,000円必要ですよ?」
計算してみると、確かにそうだった。
「う~~~ん」
やっぱり、500円スタートにしようか。
「3,000円、ありますか? 僕がチップに替えて来ますよ?」
「え、いいの? う~ん、それじゃ、お願い」
「はい。その間に次を始めててください。この3,000円を、使わなくてもいいように」
もちろんそのつもりよ。
15戦目、私は9、ディーラーは10。3枚目を引くとクイーンだったのでスタンド、ディーラーは7だったので勝利。収支はプラス3,200円。よし、あと2回!
16戦目、私は15、ディーラーは10。サイコロは1でスタンド。ディーラーの2枚目はジャックだったので負け。収支はプラス2,200円。次は2,000円ベット!
17戦目、私は13、ディーラーは10。サイコロは1でスタンド。ディーラーが5、10の順だったので勝利! 収支はプラス4,200円。あと、1回、次勝てば・・・!
「おや、順調ですね」
「ごめん、ヒロキ、無駄足させたかも」
「まだ、喜ぶには早いですよ」
18戦目、私は8、ディーラーは3。3枚目を引くと4、サイコロが出て来て4が出たのでもう1枚。それがクイーンでドボン。とほほ・・・。収支はプラス3,200円に。次、2,000円ベットね。
19戦目、私は11、ディーラーはジャック。3枚目を引くと10だった。初めての、合計21!
「お、21ですね。でもディーラーのもう1枚がエースだと負けになりますから」
「あー、やっぱそうなんだ。そっちの方が強そうだもんね」
おじさんたちのターンが終わり、ディーラーのカードがめくられる。クイーンだった。
「やったー!!」
思わず、両手をYの字に広げてしまった。
「チッ」
「あ、ご、ごめんなさい・・・!」
隣のおじさんに舌打ちされてしまった。優しく微笑みかけてくれるディーラーさんにもペコペコしながら、チップを持ってその場を離れた。
「やりましたね」
「すごーい。30分もかけずに5,200円も稼いじゃった」
「スミレさんの勝負強さの賜物でしょうか」
「えへへ・・・」
ビギナーズラックかも知れないと思ってはいるんだけど、頬が緩んでしまう。
「「「おおーーーっ!!」」」
突然、歓声が聞こえてきた。
「なんだろ」
「行ってみましょうか」
見てみると、ギラギラした感じのイケメンが、足を組んで扇子で顔を仰ぎながらドヤ顔を決めていた。
台の上には、フルハウスの役が揃ったトランプと、凄いチップの数。
「恐ろしいほどに、稼いだようですね・・・。歓声があったのは、大勝負でも仕掛けたのでしょうか」
ここで、景色がモノクロに。なんだか、嫌な予感がする。サイコロを拾い上げると、
<1・2:あの人が話し掛けてくる>
<3・4:あの人に話し掛けに行く>
<5・6:このままスルーできる>
ちょっと・・・ぇえ!? 3と4!
他にできることもなく、両手で持つサイコロを軽く前に投げた。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、4。嘘でしょ・・・。頭を抱えて、しゃがみ込んだ。
「えっと・・・ご武運を」
さすがに、来てくれないか。男連れで話し掛けに行っても、嫌味なだけだからね。
意を決して、あの人の元に向かう。メタボオヤジじゃないだけマシだと思おう。
私はパタパタパタ、と駆け寄り、
「わぁーーーっ、こんなに勝ったなんて、凄いですねーー!」
と子供のように大声を出した。が、
「きゃっ」
ボディガードに取り押さえられた。
「ご婦人。アサト様に気安く話し掛けないよう願いたい」
「ご、ごめんなさい・・・」
私だって、話し掛けたくなんてなかったのに。
「まあいいよいいよ。悪い子じゃなさそうだし、放してあげて」
ボディガードに放され、自由になった。けど、この、周囲の人たちの視線。あまりにも痛い・・・。
「君、名前は?」
「えっと・・・、六方、菫です」
「ん」
アサトさんは一瞬驚いたような顔をした後、
「まさか、迷い人だったとは」
あれ? なんで分かっ・・・あ、そうだ。この世界の人たち、苗字と名前が分かれてない。
「それにしても、ロッポウとは皮肉なものだね」
私もそう思ってます・・・。
「そうだ君、俺と勝負してみないかい?」
「私が、ですか・・・?」
「そう。もし君が勝ったら、そうだね、10万円分のチップをあげよう。その代わり、俺が勝ったら、今日は2人でディナーだ。どうする?」
う・・・。この人と2人でディナーは何か嫌だけど、10万円は魅力的だし、何よりこの雰囲気・・・。理由はどうあれ私からこの人に話し掛けたんだ。断るという選択肢は無い。
「分かりました。やります」
「「「おおーーーっ」」」
再び、歓声。サイコロが出てくることもなく、この人との勝負することが決定した。
「面倒だから一発勝負だ。どのゲームにするかは、君が決めていいよ」
ここで、サイコロ登場。
「・・・なるほど、確かに迷い人のようだね。そっちにいるのがアドバイザーかな?」
バッと後ろを見ると、モノクロの観衆の中にただ1人カラーのヒロキ。
「申し訳ないが、俺が勝ったらこの子を少しお借りするよ?」
「ええ、どうぞ。スミレさんが決めたことですので」
「ふふ。 さあ、サイコロを振ってゲームを決めてくれ」
サイコロを拾い上げると、
<偶数:ポーカー>
<奇数:ダイスの目で勝負>
「君としては、奇数が出た方がやりやすいのかな?」
「っ・・・」
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、5。ホッとしてしまう、自分が悔しい。
「よし、じゃあダイスの目で勝負だね。大きい方が勝ちでいいかな」
首を縦に振ると、モノクロになっていた空間が元に戻った。
次回:お金持ちとサイコロ対決