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第18話:サイコロで決まるファンタジー

 真っ白な空間に、一直線に並ぶ青い丸。サイコロを36回振る中で、126歩進むことが、元の世界に帰る条件。



「スーーーーー、フーーーーーーーッ」



 大きく、深呼吸をした。



「それじゃあ、行くよ」



 いつものように、両手でそっと、サイコロを前に投げた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、4。ゆっくりと足を前に出し、



「・・・1、・・・2、・・・3、・・・4」



 声に出しながら進んだ。残り35回で、122歩。サイコロは離れた位置に転がっていたけれど、スウッと、私の胸の前に戻って来た。両手でそっと受け止め、右手を一旦話してふちを撫でた後、再び手を戻した。



「次、行くよ」



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・5、・・・6、・・・7、・・・8、・・・9」



 残り34回で、117歩。出だしは高い数字が続いた。このまま行けば、ダイスワールドのみんなとの別れ。再び、サイコロが胸の前に戻る。次、3投目。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・10、・・・11、・・・12、・・・13、・・・14」



 また、高い数字が出た。残り33回で、112歩。今の段階で、クリアの確率はいくらになっているのだろうか。分からないけれど、サイコロを投げて前に進むしかない。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、1。



「・・・15」



 小さな数字が出たけれど、どの目が出る確率も、等しく1/6だ。残り32回で、111歩。進もう。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、2。



「・・・16、・・・17」



 残り31回で、109歩。この2回で進んだのが、3歩。これでまでの5回で17歩で、平均値は3.4。最初の3回が4、5、5だったのに、平均値はもうクリア条件の3.5を下回った。低い数字が続くと、大きな足踏みになる気がする。それでも、やるしかない。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、3。



「・・・18、・・・19、・・・20」



 残り30回で、106歩。



「フーーーーーーーッ」



 ここで、大きく息をついた。よし、次だ。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、3。



「・・・21、・・・22、・・・23」



 残り29回で、103歩。3以下が続いているから、厳しい状況になっていっているはず。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、6。



「・・・24、・・・25、・・・26、・・・27、・・・28、・・・29」



 初めて6が出た。これまで3以下が続いたから、一気に進んだ感覚が大きい。1と6、それぞれ同じ確率だけれど、感覚的には両極端に大きな影響が与えらえれる。計算的にどうなのかは、分からない。残り28回で、97歩。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、4。



「・・・30、・・・31、・・・32、・・・33」



 残り27回で、93歩。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・34、・・・35、・・・36、・・・37、・・・38」



 残り26回で、88歩。10回振って、38進んだ。ここ3回で4以上が続いたことで、クリア条件である平均値3.5を上回った。だけど、低い数字が出れば簡単にひっくり返る。予断を許さない状況だ。


 それに、私自身がどうしたいのかが、まだ、分からない。それでも、この結果で決まってしまう。私はその結果に従い、不誠実を働いた責任と後悔を持って帰る。


 どうなるか分からないけど、前に進もう。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、4。



「・・・39、・・・40、・・・41、・・・42」



 残り25回で、84歩。次、12投目。ちょうど、1/3。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、3。



「・・・43、・・・44、・・・45」



 残り24回で、81歩。ちょうど1/3を終えて、45。このペースだと、36回で135。クリアになる。



「3分の1が、終わったね」



 サイコロに、話し掛けた。当然のことながら、返事はない。



「お別れになるかも知れないけど、最後まで、よろしくね」



 両手でそっと、サイコロを投げた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、3。



「・・・46、・・・47、・・・48」



 残り23回で、78歩。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、1。



「・・・49」



 残り22回で、77歩。やはり1が出ると、足踏みしている感覚が大きい。残りが全部3なら66歩、全部4なら88歩。平均の3.5を出し続けて、77歩。1回1回で出る目の影響が、思ってるより大きいんだ。大事にしないと。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、3。



「・・・50、・・・51、・・・52」



 残り21回で、74歩。ここで3以下が出たから、これまでの平均は3.5を下回った。



「スーーーーーッ、フーーーーーーッ」



 ここでまた、深呼吸。よし、次、16投目だ。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、6。



「・・・53、・・・54、・・・55、・・・56、・・・57、・・・58」



 残り20回で、68歩。ここ2回の合計が9で、残りの出すべき目の平均が3.4になった。やっぱり、6が出ると大きい。次が、17投目。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・59、・・・60、・・・61、・・・62、・・・63」



 残り19回で、63歩。36回の半分を投げる前に、126歩の半分に到達。でも次で1が出ると、半分投げて64になるから、まだ全然分からない。行こう、18投目、ちょうど半分。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・64、・・・65、・・・66、・・・67、・・・68」



 残り18回で、58歩。ここ3回で6、5、5と続いて、大きく前進した。私の気持ちの整理が、まだついていないまま。



「半分、投げたよ」



 再び、サイコロに話し掛けた。まだ終わりにしたくないという思いが、私の中にある。でも、だめだ。余計な時間稼ぎは、やめよう。



「あと半分、よろしくね」



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、2。



「・・・69、・・・70」



 残り17回で、56歩。2が出たけれど、19回で70歩進んだから、平均3.5よりは上で来ている。次が、20投目。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・71、・・・72、・・・73、・・・74、・・・75」



 残り16回で、51歩。この20回の平均値が、3.75。このまま、クリアになるのかな。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、4。



「・・・76、・・・77、・・・78、・・・79」



 残り15回で、47歩。4以上が出ると、確実にクリアが近づいていく。いまだに迷っている私の心を置いて。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・80、・・・81、・・・82、・・・83、・・・84」



 残り14回で、42歩。残りが全部3でも、クリアになる。少し、涙が出てきた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、4。



「・・・85、・・・86、・・・87、・・・88」



 残り13回で、38歩。この次は、3が出てもクリアが近づく。次が24投目。ちょうど、2/3。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、1。



「・・・89」



 残り12回で、37歩。1が出て、少しホッとした自分が悔しい。



「あと3分の1、頑張ろうね」



 そう話し掛けて、両手でそっとサイコロを投げた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、2。



「・・・90、・・・91」



 残り11回で、35歩。残り10回になる前に残り35歩を迎えたから、まだ、クリアの水準に乗っている。次が、26投目。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・92、・・・93、・・・、94、・・・95、・・・96」



 残り10回で、30歩。大きい数字が出ると、一気に進む。ずっと6が出れば、あと5回で終わってしまう。あまり大きい数字に出ないで欲しいという気持ちを隠しきれないまま、次に歩む数を決めるべくサイコロを投げた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。



「・・・97、・・・98、・・・、99、・・・100、・・・101」



 ついに、100まで来た。スタートの時はどこにあるか分からなかったゴールも、もう見えている。残り9回で、25歩。



「あと、9回だね・・・」



 声が、震えた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、2。



「・・・102、・・・103」



 残り8回で、23歩。もう、2が出てもゴールが近づいてる感覚がする。ずっと2が出れば、クリアできないはずなのに。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、4。



「・・・104、・・・105、・・・106、・・・107」



 残り7回で、19歩。次が、30投目。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、2。



「・・・108、・・・109」



 残り6回で、17歩。クリアの水準を保っていることは、明らか。



「フーーーーーーーーッ」



 また出てきそうになった涙を、上を向いて抑えた。



「よし」



 大きく息を吐きながらそう言って気合を入れた。



「いくよ」



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、3。



「・・・110、・・・111、・・・112」



 残り5回で、14歩。前に、進まなきゃ。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、1。



「・・・113」



 残り4回で、13歩。残りの出すべき平均値は、3.33。さっきまで3を切っていたはずのに、一気に、増えたんだ。次も1が出れば、3回で12を出さなければならなくなる。まだ全然、どうなるか分からない。


 私がどうしたいのかも、分からない。クリアが見えてきて涙が出てきたり、反対に、怪しくなったら戸惑ったり。自分で決められず、サイコロに決めてもらうしかないなんて・・・。


 それが悔しくて、涙が出てきた。



「こんなんじゃ・・・、だめだよね・・・」



 腕で涙を拭って、前を見た。



「最後まで、私のそばにいてね」



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、2。



「・・・114、・・・115」



 残り3回で、11歩。出すべき平均は、3.67。6が出れば、あと2回で5。かなり有利になる。1が出れば、あと2回で10。かなり厳しくなる。いずれにしても、出る目によっては、あと2回で終わる。



「あと、3回だね。・・・2回かもしれない」



 震える声を抑えようとしたけれど、できなかった。



「ちゃんと・・・、それぞれ6分の1で出してね・・・」



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、5。

 ここで一気に、涙が溢れ出てきた。



「・・・っ・・・・・・ひゃくじゅうろく、・・・ひゃくじゅうなな、・・・ひゃくじゅうはぢ、・・・ひゃくじゅうぎゅう、・・・・・・ひゃくにじゅう」



 サイコロは、これまでと同じように、スウッと私の胸の前に戻って来た。ゆっくりと、ぎゅっと抱きしめ、上を向いている1の目に額を当てた。



「次で、・・・最後かもしれないね・・・」



 残り2回で、6歩。6が出れば、次で終わり。5でも、クリアが確定。4以下でも、1でもチャンスが残る。


 サイコロから顔を離すと、涙で滲む先に、1の目を示す赤い印がぼんやりと見えた。投げなきゃ、投げなきゃ、投げないと。腕で涙を拭い、



「いくよ」



 両手でそっと、サイコロを投げた。



 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。



 出た目は、6。



「っ・・・・・・。ヒッ・・・・・・」



 下を向いてしまったけれど、涙を止められないまま顔を上げ、ぼんやりと映るサイコロを見た。やがてサイコロは、これまで同じようにスウッと姿を消し、



「っ・・・・・・」



 もう戻って来ることはなかった。



「せめで・・・、もういっがい・・・、投げだがったな・・・・・・」



 再び下を向いて立ち尽くしていると、



【スミレ、ありがとう。元気でね】



「ううぅぅぅ・・・・・・」



 かすれる声で泣いたあと、顔を上げた。



「私の方こそ、ありがとう・・・。絶対に、元気で、自分に胸を張れるように過ごすからね」



 声を裏返らせながら、別れの言葉を告げた。



「歩か、なきゃ」



 あの子が出した6の目の分を、私はまだ進んでいない。

 拳1つ分を間隔を開けて並んでいるはずの青い丸は、涙で滲んでつながって見えている。数字も見えないけれど、何が書いてあるかは分かる。



「っ・・・・・・」



 邪魔な涙が、まだ出てくる。



「・・・ひゃくにじゅういぢ、・・・ひゃくにじゅうに」



 一歩一歩、しっかりと踏みしめて歩く。



「・・・ひゃくにじゅうさん、・・・ひゃくにじゅうよん」



 最後ぐらい、しっかりしろ、私。



「・・・125」



 そして・・・、



「126」



 ゴールに、右足を乗せた。もう一歩、後ろに残った左足を運び、両足を揃えて立ち止まった。



 体が、光り始めた。これで、終わりなんだ。



 シゲおばあちゃん、マナミ、みんな、・・・。ちゃんと、お別れができなくて、ごめんね・・・・・・。



 心を後悔で満たしながら、視界が真っ白になるのを待った。


次回(最終回):同じ大地の上で

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