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第14話:巡る巡る

 

 家に帰ると、みんないた。マナミ、いつ帰って来たんだろう。ここで早速、景色がモノクロになった。


「おや、早速かい」


<今日の晩ご飯は、>

<1・2:すき焼き>

<3・4:キムチ鍋>

<5・6:しゃぶしゃぶ>


「あいやー。食材だけ買って、タレを忘れてたんだよねえ」


 今日は結局、3食ともサイコロに決められちゃったな。


 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。


 出た目は、2。


「んじゃ、すき焼きのタレを買ってくるかねえ」


 ミズエさんが立ち上がり、部屋を出た。


「スミレちゃん、帰って来てくれたんだねぇ~」


「うん。ただいま、おばあちゃん。一緒にすき焼き食べよ」


 ミズエさんを待つ間、シゲさんとお話ししたりテレビを見たりして過ごした。


「そろそろ準備するか」


 ゲンさんが立ち上がり、ガスコンロと鍋を準備。ヒロキとマナミが食材をリビングを持って来る。そうこうしてるうちにミズエさんが帰宅。


 鍋がぐつぐつ言いだし、


「「「「「「いただきま~す」」」」」」


 すき焼きを食べ始めた。おとといは外で焼肉だったけど、みんなで鍋を囲むという意味では初日以来だ。あの時の中身は肉じゃがだったけど。


「スミレ今日の1日駅長どうだった?」


「楽しかったよ。来てくれてありがとね、マナミ。おばあちゃんと、ゲンさんも」


「可愛かったよぉ~、スミレちゃん」


「そお? 良かった」


 シゲお祖母ちゃんに敬礼。


「ああいう仕事の方が似合ってるんじゃないのか?」


「う~~ん。どうなんでしょうね~」


 なんてことをゲンさんに答えながらも、実はそうかもとか思っちゃってる私がいる。


「なんだい、行かなかったのはアタシだけかい」


 そう言ったのはミズエさん。


「あれ? ヒロキも来てないよね? 最初に駅まで一緒に来てもらっただけで」


「いえ、行きましたよ。最後の解任式。僕にも、明日素敵なことが2回訪れますね」


「ちょっ、いたの!? 何で教えてくれないのよ」


「その時にはもうスミレさん人気者でしたから、遠くから見てた方がいいかなと」


「そう言うことなら、まあ、いいけど」


「ねぇねぇ、“素敵なことが2回”って何なの?」


 その後も、私が今日過ごした1日について、みんなで話して過ごした。「あたしも1日駅長やりたーい」とマナミ。その時はあなたのゼロ円スマイルを撮ってあげるよ、100万連写で。



 一家団欒の時を終え、お風呂も済ませて部屋へ。今日は、疲れたけど楽しかったな。全く知名度のない私が1日駅長をやるなんて、どうなるんだろうと思ったけれど、サイコロ投げるだけであんなに盛り上がるなんて思わなかった。こんな体験ができたのも、あの子のおかげね。


 だけど、一生帰れないのは困るから、ちゃんと帰らなきゃ。明日でもう1週間か。早いなあ。あんまり長く居たら、ホントに帰りたくなくなっちゃいそう。


 前にこの家に来た迷い人が買ったと言う、フワッフワの高級ベッドに身を預け、夢の中へ。


 --------------------------------


 翌朝。8時前に起床。よし、朝ご飯。靴下を履き、部屋から出て、階段を下りきったところで景色がモノクロに。またご飯がこれで決まるの?


 サイコロを拾い上げると、


<偶数:靴下が左右で違う>

<奇数:シャツが表裏逆>


 ちょっと、どうゆうことよ。


「あ゛・・・う゛・・・」


 首が、下を向かない。そんな・・・。これなら朝ご飯が決まる方がマシだった。首が動かないことに配慮してか、スゥッと、サイコロが胸の前に現れた。両手を前に出して、受け取る。早速投げよう。


 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。


 出た目は、2。景色が戻ると自由になったので見ると、本当に靴下が左右で違った。しかも、黄色と水色。こんな間違いした覚えないんだけど!


 まあ、リビングに入る前に気付けたからいいや。部屋に戻って履き直そう。ところが、階段を上り終えたところで再び景色がモノクロに。 何? 黄色か水色か決めるの?


 サイコロを拾い上げると、


<1・2:ヒロキが出てくる>

<3・4:マナミが出てくる>

<5・6:2人とも出てくる>


 ちょっ・・・。このみっともない姿を、見られるのね・・・。


 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。


 出た目は、3。

 景色が戻った瞬間、マナミの部屋のドアがガチャリと開いた。


「あ、おはよう、スミレ」


「うん、おはよう」


 靴下には気付かないで。


「ん? 何で上がって来てんの?」


 あ。そうだ。私の体の向き、部屋に戻ってる。


「あー! スミレ、靴下みぎひだりで違うー。意外とネボスケなんだね」


 いっつも起きるのが遅いマナミには言われたくなかった・・・。


「バレちゃったっ。せっかくリビング入る前に気付いたのに」


「あははー。ドンマーイ」


 部屋に戻り、靴下を黄色に揃えて(サイコロは出なかった)、リビングに向かった。朝食の献立もサイコロで決まることはなく、すき焼きの残りで雑炊だった。



 朝食後、いつものように景色がモノクロになった。今日の仕事ね。


 ポン、ポンポポポポ。


 サイコロ登場。


「今日は、何があるんでしょうね」


 さすがに“4番は何だろう”とは言わなかったか。私も、思わないことにする。サイコロを拾い上げると、


<1・2:郵便配達>

<3:コンサートの受付係>

<4:国王の秘書>

<5:カジノのディーラー>

<6:カジノのギャンブラー>


「おぉ・・・」


 国王の、秘書。


「これはこれは、国王陛下の秘書ですか。もしかすると、元の世界に帰れるヒントが見つかるかも知れませんよ」


「そう、だよね・・・」


 これは、願ってもないチャンス。だけどもし、そのまま元の世界に帰ることになったら・・・? それはちょっと、やだな。確かに一生帰れないのは困るけど、もう少しだけ、ここでの生活を楽しみたい。そう思っている、自分がいる。


 複雑な想いを胸に抱きながら、そっと、サイコロを前に投げた。


 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。


 出た目は、2。


「フーーーーーーッ」


 長い、ため息が出た。いま感想を求められても、まともに答えられそうにない。


「郵便、配達ですね。郵便局に行きましょう」


「うん」


 景色が、元に戻る。


「今日のお仕事は何だったの?」


「郵便配達」


「なんだ~。つまんないの」


「そのうちまた、面白いのが出るよ」


 玄関兼文具店に通じるドアを開け、靴を履く。


「行ってきまーす!」


「「「「行ってらっしゃーい」」」」


 4人の見送りを受けて、ヒロキと共に外に出た。



 15分ほどで郵便局に到着。


「おはようございます。六方、菫さんですね。昨日はお疲れさまでした」


「あ、はは、は・・・」


 昨日、1日駅長をしていたのを見てたみたい。


「おはようございます。今日は郵便配達頑張りますので、よろしくお願いします」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 局長さんと挨拶を済ませ、


「では僕はこれで。スミレさん、頑張ってください」


「うん、また後でね」


 ヒロキとも別れて早速オフィスへ。今日の私は、局長じゃなくて配達員。



 局長はお仕事に戻り、先輩局員から説明を受ける。


「まず午前中は、こちらの配達をお願いします」


 3段になってる重箱みたいな箱が、2つ。開けると、封筒や手紙がたくさん入っていた。長さはマチマチだけど幅は全部同じ、太めの輪ゴムでお届け先ごとに束ねてある。箱の方にも1段当たり3列、郵便物の幅に合わせた仕切りがある。3段×3列×2箱ね。


「まずはこっちの箱から、上の段から順に、同じ段では左から順に行くと効率よく回れます。地図は、こちらを使ってください」


 地図として与えられたのは、タブレット。拡大すると番地の番号まで書かれているのと、検索機能もある。使いやすそうだ。よーし、午前中にちゃんと全部巡るぞー。


「ありがとうございます。行ってきます」


 9時10分、さっそく出発。移動手段は自転車だ。2つの重箱が入ったトートバッグをそのまま自転車備え付けの赤い箱に入れ、タブレットをハンドル下のホルダーに置いてサドルにまたがる。タブレットは時速2キロ以上で動くと画面が消えるそうだ。


「まずは赤の2番地区、あっちね」


 私が指差したのは郵便局を出て左の方角。この街、地名は色と数字で決めてるみたい。菫色の地区はあるかなあ。


「しゅっぱーつ」


 昨日のお仕事のテンションが、まだ残ってるかも。事故ったりしないように気を付けないと。大量にある紙の束だけど、1つ1つは、誰かが誰かに充てた大切な郵便物。私がしっかり届けないと。


 15分ほどで赤の2番地区に到着。一旦停まり、箱から郵便物を取り出した。


「えーっと、最初のお宅が赤の2の3番地、次のお宅が赤の2の5番地。なるほど、まずは3番地から行こう」


 タブレットを見て、赤の2の3番地を確認。すぐそこだったのでサクッと移動。


「郵便受けは、これね」


 カタン、とお届け物を入れると、景色がモノクロに。何だろう。


 ポン、ポンポポポポ。


 サイコロ登場。


 拾い上げると、


<偶数:住人が出てくる>

<奇数:出てこない>


 なんだ、そんなことか。でもなんか、鉢合わせるのは照れるかも。私、家出た時に郵便屋さん来てたらどうしてたっけ。とにかく今は、サイコロを振ろう。


 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。


 出た目は、1。


「ほっ」


 何に安心したのか分からないけど、安心感が芽生えたのは事実。さあ、次へ行こう。


 2つ隣、赤の2の5番地のお宅に到着。カタン、とお届け物を入れた。今度はサイコロは出なかった。代わりに、玄関が開いて家の人が出てきた。今度は無条件なのね・・・。


「こんにちは」


「こんにちはー」


 気の抜けた感じのお兄さん。大学生っぽい。家は立派だから実家かな。コストかかんないもんね。お兄さんが歩いてく方向が私の進行方向と一緒なんだけど・・・こっちは自転車なので追い抜いて行った。


 が、次のお届け先、赤の2の6番地で作業をしていると追いつかれた。うぅ・・・なんか気まずい。と思ってるのは私だけ?


 あ、でも次で一気に変わった。赤の3の1番地だ。このお宅の裏の通りね。あの交差点で曲がるのが近そう。と、ここで景色がモノクロに。嫌な予感、と思ったけど、あのお兄さんもモノクロで止まってる。良かった、関係なさそうだ。


 サイコロを拾い上げると、


<偶数:あのお兄さんの目的地は赤の3の1番地>

<奇数:あのお兄さんは違う方向に行く>


 ちょっ・・・。当事者ならモノクロにしないでよ。無駄に安心しちゃったじゃない。あーでも、そもそも当事者が選択肢とサイコロの結果見れるのはトラブル回避のためか。今回はむしろ、あのお兄さんがこれを見れるのは変ね。予定サイコロで決まっちゃうじゃん。私じゃあるまいし。


 ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。


 出た目は、2。うわーん。

 でも、3の1番地ってことは、距離的にそこそこ離れてるはず。自転車で行ってサクッと作業終わらせれば追いつかれないはず。


 で、赤の3の1番地に着いた訳だけど・・・。

 郵便物がギッチギチに入ってて見るからにこれ以上は詰められない・・・。雑に扱う訳にもいかないし・・・。よし、一旦全部取り出そう。


 とりあえずハミ出してる分は取って、今日持って来た分も含めて整えて詰めようとするも、入らず。もうちょっと取り出してみようかしら。投函口に頑張って手を入れて、まず1枚。あ、引っ掛かった。何よこれ、どうなってるの。

 他のやつに切り替えてみるも一緒だった。ダメだ、中で斜めになってたりしてるんだ。取り出すんじゃなくて、整えないと。しょうがない、申し訳ないけど普通に開けさせてもらおう。


 開けるも、中はめっちゃくしゃ。下手に触ると全部バラバラと落ちそう。どうしよう・・・。


「あの、何やってるんですか」


 お兄さんに追いつかれた。ひー。


「えっと、ちょっと、郵便物が入りきらなくて・・・」


「あー・・・」


 お兄さんは頭をポリポリ掻いて、


「あいつ、ダイレクトメールばっかだからって放置するんですよね。・・・いいです。ちょうど俺ここに用事なんで、渡しときますよ」


「え、いいんですか?」


「はい。別に。ついでにたまには取り出すように言っときますね」


「あ、ありがとうございます!」


 今日持ってきた分と、私が郵便受けから出しちゃった分を束ね直して、お兄さんに渡した。助かった。さっき、お兄さんもここに来ると決まって“うわーん”とか思っちゃってごめんなさい・・・。何が起きるか、分からないね。


「えーっと、次は・・・赤の3の4番地ね」


 その後は、特に何事もなく順調に進んだ。赤の10の8番地の次が茶色の1の2番地だったから、数字は10までかな。



 そして、1つ目の重箱の1段目が、次で最後というところまできた。


「あ」


 宛名が、アヤカさんだ。アヤカさんって、私の知ってるアヤカさんかな。同じ名前の人そこそこ居そうだし、どうだろう。とにかく、茶色の3の3番地に行こう。


 で、もうすぐ着くというところで、目的地から人が出てきた。間違いない、あの人は。


「アヤカさーん」


「ん? ・・・あ、スミレちゃん! 今日は郵便配達なんですねー」


「はい。これが今日のお仕事です」


 到着し、停車。


「そっかあ。今度はいつウチに来てくれるんですかー?」


「それは・・・サイコロで当たらないことには」


「やっぱそうですよねー」


「これからお店に行くんですか?」


「そですよー。・・・あっ、そうだ!」


 アヤカさんが何か閃いたような仕草を見せる。


「私、店長に新メニュー提案して、通ったんですよー?」


「え、そうなんですか? 凄いです! どんなメニューなんですか?」


「ふっふっふ。 その名も、アヤカの愛情オムライス!」


 愛情オムライス・・・。


「こないだのスミレちゃんのやつからヒントもらったんですよー? なんか面白そうじゃないですかあ。私がまともにオムライス作れるようになったら採用です! 今度食べに来てくださいね」


「あは、は・・・。そうですね。食べに行くのはサイコロ関係なしに行けますから」


「もちろんスミレちゃんがウチに来てオムライス作ってもいいんですよお?」


「それは、サイコロでバイト先に決まって、なおかつサイコロでオムライスを作ることに決まらないと、無理ですね」


「ええーー。どんな確率なんですかあ」


 前回のまんまだと、1/3が2回だから1/9。そもそも、あれ以来ファミレスが候補に出ないんだけど。


「あ、いけない。急がなきゃ。今度お店来てくださいね、スミレちゃん」


「あ、はい。郵便物、入れときますね」


「ありがとうございますー」


 アヤカさんはそのまま走り去って行った。オムライス、食べに行かなきゃね。作りには行かないけど。


 さあ次、重箱の2段目だ。茶色の3の9番地!



 その後も、お届け先の住人に鉢合わせしたりしながらも配達を続けた。


「あ、えきちょうのおねえちゃん!」


 とある配達先のお宅で、玄関から出てきた子供にそう声を掛けられた。お母さんも一緒だ。


「今日は郵便屋さんなの?」


「そうだよ。私はね、色んなお仕事をしているの」


「なんで?」


 う・・・。痛いところをついてくる。


「お姉ちゃんはね、気まぐれ屋さんだから、毎日サイコロを振ってお仕事を決めてるの。昨日は駅長さんで、今日は郵便屋さん。明日は明日のお楽しみ」


「変なのー」


 ぐ・・・。子供の純粋さ、恐るべし。


「こら、そんなこと言っちゃだめよ。 すみません・・・」


 お母さんはきっと、迷い人のことを知っているのだろう。


「いえ、大丈夫です。 今度はどこで会えるかな? またね」


「うん! おねえちゃん、またね!」


 手を振りながら親子を別れ、配達作業を再開。

 ところが、2段目の真ん中の列のド真ん中辺り、いきなり住所がガラリと変わった。青の、1の1番地。タブレットで調べても明らかに距離がある。てかこの家、敷地広っ。隣の家、青の1の6番地だし。他にも結構な欠番がある。


 それはそれとしてこの封筒、間違えて紛れちゃったのかな。宛名は・・・ユリトさん。えっと、どこかで・・・。あ、カジノで会ったアサトさんの弟だ。ということは、あのお屋敷か。


 でも、今から青の地区に行くのはあまりに非効率。とは言え立派なお屋敷に届くものだから重要なのかも・・・。いや、ダメダメ。一般庶民同士でだって、大事なお手紙はあるんだ。お金持ちだからって優遇するのは良くない。よほどの急ぎなら普通の郵便なんて使わないはず。そのうち青の地区の配達もあるかも知れないし、その時にしよう。


 一旦重箱に戻そうと思ったその時、黒くて長い車が近づいて来るのが見えた。あれは・・・と思ってみていると、私の少し前で止まった。ドアが開き、出てきたのは、アサトさん。


「こんにちは、スミレちゃん」


「えと、こんにちは。どうしたんですか? こんな所に」


 ここは、大通りから1本入った路地だ。とても用事があるようには思えないけど。


「信号待ちの間に君を見かけてね。ぜひとも君に話したいことがあって声を掛けたんだ」


「私に、話したいこと、ですか?」


 何だろう。


「目指してみることにしたよ、アドバイザー」


「えっ、そうなんですか?」


 驚いた。


「うん。ホントに、面白そうって言う単純な理由だけどね。金持ち同士のゴタゴタはユリトに任せて、好き勝手させてもらうつもりだ」


 そういうの、弟に任せても大丈夫なんだ・・・。


「って、今までもカジノとかで散々好き勝手やってたんだけどね」


 あれは、金持ち同士のゴタゴタとは関係ないみたい。


「窮屈だし、人間関係を損得でしか考えられなくなっちゃいそうだから、ちゃんとした人と接してみたいんだ」


「違う世界から来る人ですけど」


「あははっ、確かに。でも尚のこと、面白そうだ。 あ、そうだ。それから」


 アサトさんは自分の背中を見るように首を回し、


「キュキュッ」


「あ!」


 あのリスさんが出てきた。アサトさんの肩に乗っている。


「君を見かけた時のために、連れて歩くようにしたんだよ」


「そうだったんですね。 また会えたね、リスさん♪」


 頭を撫でると、嬉しそうに目をつぶった。相変わらず可愛い。


「どう? この子。あの時はサイコロに決められて連れて帰れなかったみたいだけど、外からウチの庭に迷い込んで来てるだけだから、大丈夫だよ」


 それは、嬉しい申し出。だけど。


「いえ、それはできません」


 アサトさんは目を見開き、驚いたような反応を見せた。リスさんは、首をかしげるだけ。


「一度はサイコロの目で、連れて帰れないことが決まりましたから。こんな形でその結果に背くなんて、私にはできません。またサイコロが出てチャンスをくれるなら別ですが」


 もちろん、サイコロは出て来ない。


「だから、ごめんね。私がまたアサトさんに会う時に、会おうね」


 そう言ってもう一度、頭を撫でた。嬉しそうに目を瞑った。手を離すと、


「キュキュッ、キュキュッ」


 ピョンピョンと、アサトさんの肩の上で跳ねた。


「そっか・・・。凄いね、君は。俺も、生半可な気持ちでアドバイザーは務めないようにするよ。やるからには、ちゃんとやる」


「はい。お願いします。これから来る、迷い人のために」


「うん、それじゃあね」


「はい。またどこかで」


 アサトさんが車に乗り込み、窓を開ける。その肩にリスさんもいる。


「あ、いけない」


 ユリトさんへの郵便物を渡し、手を振りながら走り去る車を見送った。



 よし、配達再開だ。まだ2つの重箱のうちの片方の半分。もう10時過ぎてるし、遅れてるから挽回しなきゃ。


次回:まだ巡る

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