第12話:ルーレットの旅立ち
翌朝。朝日が差し込む部屋で、目が覚める。この高級家具を見ても何とも思わなくなってきた自分が怖い。
リビングに向かおうとドアを開けると、景色がモノクロに。早速きたわね。突如現れるサイコロを見ても何とも思わなくなってきた自分が怖い。
<今日の朝食は、>
<1・2:はんぺんのフライ2枚>
<3・4:特盛天丼>
<5・6:サーロインステーキ>
朝っぱらからヘヴィー級・・・。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、5。サーロインステーキ・・・。金曜と土曜のお昼が焼肉だったことを思い出しつつ、リビングへ。
ジュウウゥゥゥゥゥ、と言う音が鳴り響く。朝から聞いても食欲がそそられない・・・。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよぅ、スミレちゃん」
「お、スミレちゃん起きたね。いま焼けるよ」
ここで、再び景色がモノクロに。今度は、何?
<サーロインステーキの枚数は、>
「は?」
<1:1枚>
<2:2枚>
<3:3枚>
<4:4枚>
<5:5枚>
<6:6枚>
いやいやいやいや、6枚とか有り得ないでしょ! 5枚も4枚も有り得ないけど。
「も、もしもの時は、みんなで食べますよ」
「お、お願いね・・・」
顔を引きつらせつつ、サイコロを投げる。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、5・・・バカな・・・・・・。
「あいよ! スミレちゃん、昨日は遅かったんだからタップリ食べな」
「あらぁ~、すごいねぇ~」
「は、はい・・・」
本当に、私だけで5枚あるし。手を合わせ、
「いた、だきます・・・」
で、2枚が限界だった。作ってくれたミズエさんにお詫びを言いつつ、みんなで分けた。「ああ~、やっぱ無理だったか」って、ミズエさん・・・。
朝食後、いつものようにサイコロが出て来た。
「今日の4の目は何でしょうね」
「って、昨日も言ったけど楽しまないでよ」
とか言いつつ、私もちょっと“何がくるのかな”とか思っちゃったりしてる。
<1・2:通学路の安全見守り隊 (ボランティア)>
<3:1日駅長>
<4:フードファイター>
<5:カジノのディーラー>
<6:カジノのギャンブラー>
フードファイターーーーー!!
“何がくるのかな”とか思った自分が、バカだった。
さっきサーロインステーキ2枚でギブアップしたばっかりなんですけど。
「えっと・・・、頑張ってください」
それは4を出さないように? それとも4を出してから?
意を決して、サイコロを投げる。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、3。
「ほおっ。良かったあ~~」
サイコロが消えたのと引き換えに現れた紙には、昨日のお出掛けでの出発駅―――この家からの最寄駅―――が記されていた。”Central Dice-world” 駅。
早速、今日の仕事場に向けて出発。
「いやぁ、それにしても、フードファイターが出た時にはどうしようかと思いましたよ」
「それは私のセリフよ。そもそもヒロキ、実は楽しんでたでしょ?」
「そんなことはないですよ。大食い大会で苦戦するスミレさんの姿よりも、コスプレモデルやメイドカフェの方が見応えがありそうですから」
「十分楽しんでるじゃないの・・・!」
「あ、いえ、そんなことは」
あるでしょ、絶対。
「全く。やらされる身にもなってよね」
そうこうしているうちに、駅に到着。
「お待ちしておりました。迷い人の方ですね」
「あ、はい。六方、菫と申します。よろしくお願いします」
そう言えば私、“迷い人”という立場だった。今更だけど、もっと呼び方なかったの。
「スミレさんですね。普段、駅長を務めております、ハルツグと申します。よろしくお願いします」
まずは裏方へ案内されて着替え、“一日駅長”とかかれたタスキを掛けて、表に出た。
「「「おお~~っ」」」 パチ、パチ、パチ。
従業員たちが、軽く歓声を上げる。ちょっと恥ずかしいんだけど。
「とてもお似合いですよ、スミレさん。結局、コスプレ姿が見れましたね」
「コスプレじゃなくて仕事よ、し・ご・と」
「これはこれは、失礼しました。では僕は文具屋の方に戻るので、これで」
「うん、また後でね」
ヒロキが去って行くと、今日の仕事の説明が始まった。
まずは、任命式が10時から。その後、11時11分発の特急ルーレット11号の見送り、昼は14時から今日限定発行のスタンプを押す係、夕方には16時16分着の特急フォーチューン16号のお迎えをしたあと解任式があって終了の流れ。空き時間は基本的に改札で切符をきる作業を担当する。
ひとまず、裏方で休憩(&あいさつ文を考案)させてもらうことになった。カンペはOKらしいけど、せっかくだから来てくれた人たちの顔を見ながら話したい。早いとこ台本を決めて覚えなきゃ。
「なんて言おうかな~」
ペンを片手に首をかしげていると、
「そんなに気負いすることはないですよ」
とハルツグさん。
「ありがとうございます。でも、皆さんに楽しんでもらえるように、私にできる限りで考えます」
「そうですか。では後ほど」
それから10分ほどウンウン唸って考えて、ようやく台本を書き留めた。
9時50分。駅員の人に呼ばれて外へ。これから任命式で駅長帽が与えられるらしい。
外には、地域のお祭りイベントで使われるような簡易ステージがあった。あと上にくす玉。とりあえずステージそばのパイプ椅子で休憩。お水飲んどこ。台本は覚えた!
ワイワイ、ガヤガヤと、駅の前が賑わってきた。私が今日駅長をやることに決まったのは今朝なんだけど、みんな初めから分かっていたかのように集まっている。
駅員さんから肩を叩かれて合図。始まるみたい。
「ただいまより、1日駅長任命式を行います」
駅員の人に促され、ハルツグさんと共に檀上へ。
「「「わーーーっ」」」 パチパチパチパチ。
え、そんな盛り上がる? なんだか緊張してきた・・・。
「まずは、現駅長のハルツグから、本日の1日駅長の紹介です」
パチパチパチパチ。
「えー、こちら、本日の1日駅長を務めて頂きます、迷い人の六方菫さんです」
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
軽くおじぎをして、拍手に応えた。
“迷い人”って、わざわざ言わなくても・・・。
「それでは早速、本日の駅長、スミレさんから一言頂きましょう」
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
拍手やめてー。
意を決して、マイクの前へ。
「みなさん、こんにちは」
「こんにちはー!」
え? 子供の元気な声。ええっと、
「ありがとー」
とりあえず手を振ってお礼を言った。
「今日は、セントラル・ダイスワールド駅へお越し頂き、ありがとうございます。今日1日、駅長を務めさせて頂く、六方、菫を申します。みなさんに、今日という日を楽しんでもらって、セントラル・ダイスワールド駅に来て良かったと思ってもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします」
言い終えて、深めに頭を下げた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
良かった。拍手がもらえた。
「スミレさん、ありがとうございました。それでは、駅長任命ということで、現駅長のハルツグより、帽子の戴冠となります」
「「「おおーーっ」」」 パチパチパチパチ。
帽子なのに、“戴冠”なんだ。
ハルツグさんと向かい合い、軽く頭を向けると、そっと帽子が乗せられた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
体を起こし、お客さんの方を向いて、また頭を下げた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
ちょっと恥ずかしいけど、案外悪くないかも。
「それでは、2人でくす玉を割って頂きましょう」
と、ここで景色がモノクロになった。・・・嫌な予感しかしないよ~~。
「お? なんだなんだ?」
「知ってるー。迷い人のアレだー」
「え、まさかサイコロ出んの?」
この場にいるみんなが、カラーで動いている。つまりみんなが、現れる選択肢とサイコロの結果を見届けられる。
ポン、ポンポポポポ。
サイコロ登場。
「「「おおーーっ」」」
なぜか上がる歓声。サイコロを拾い上げると、
<1・2:割れない>
<3・4:玉が落ちてきてゴッツンコ>
<5・6:パンパカパーン! 大成功!>
「「「だはははは」」」
笑いが起こった。しかも、どこからともなく現れた巨大スクリーンに、サイコロのドアップが映し出さている。
でも、事前にみんなが見れるようになってて良かった。4以下が出たら失敗じゃん。てか私のサイコロがエンターテインメントにされてるし・・・でもみんな楽しそうだからいいや。
てか、待って、ゴッツンコって・・・。上を見ると、くす玉はクッション性の素材でできているようだった。とりあえず、ケガはしないかな。
「いきます!」
パチパチパチパチ。
サイコロ振る時に拍手をもらったのは初めてだ。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、1。
「「「ああーー」」」
落胆の声が広がる。本当に、事前に知っててもらえて良かった。
サイコロが消え、景色が元に戻る。
「それじゃあ、引きましょうか」
「そうですね」
割れないと分かっているくす玉のヒモを、ハルツグさんと2人でつかみ、引いた。もちろん、割れない。
「あれ?」
私は、何回かクイッ、クイッ、と引いてみた。もちろん割れない。
「う~~ん。割れないよ~~」
と言うと、
「「「だっはははははは」」」 パチ、パチ、パチ。
笑いが起きた。フォローは成功かな。パタパタとマイクの所へ行き、
「みなさん、今日は上手くいかなくてごめんなさい! 次も失敗するかも知れないですけど、応援お願いします!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
良かった。みんな優しい。
「それでは、任命式を終了いたします。お集まり頂いた皆様、ありがとうございました」
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
盛大な拍手を持って任命式は締めくくられた。お客さんたちも散らばって行く。しばらくステージ上で見送っていると、「どーせ失敗するならゴッツンコの方が良かったなー」とか聞こえてきた。 ちょっと! お客さん!
一旦裏方に戻って休憩。
「いや~災難でしたねえ。まさかあんなことになるなんて」
「私はいっつもなんで慣れっこですけど、すみません、せっかくのイベントなのに」
“慣れっこ”になってしまった自分が恐ろしい。
「いえいえ、お客さんも楽しんでいたようですし、あれも含めてイベントですよ」
「そう言って頂けると助かりますぅ」
ハルツグさんは通常業務に戻った。私は、もうちょっと休んでていいらしい。
10時半に呼び出され、それから30分は改札の切符きる係。電子マネーはなく、みんな切符を買うか定期を見せてくるかだ。自動改札もあるのだけれど、1日駅長が珍しいのか、結構な人が私のいる改札を使ってくれてる。嬉しい。
11時。改札業務を中断し、特急ルーレット11号の見送りのためホームに進んだ。電車は既に停まっている。この駅は路線図上の端の駅で、改札からは電車の最後尾が見え、ホームはフォーク上に分かれている。地下道も歩道橋もない。
駅名に“セントラル”とあるけれど、人々の活動の中心地という意味で、地理的には端の方にありながらダイスワールド内で最も栄えているのが、私たちの住んでいるこの辺りだと聞いた。
電車の最後尾の辺りまで案内され、立ち止まる。車体には、カジノで見るようなルーレットの円盤が至るところにプリントされていた。凝ったデザインね・・・。ドアだけは数字が1つしか書かれておらず、それが号車番号を示している。最後尾は、6号車。
まずは、乗り込む人たちに手を振る仕事。ビジネスパーソン、カップル、ファミリー、鉄道マニア、色んな人が私の横を通り過ぎて6号車に乗り込んだり前方に歩いて行くのを見送った。
「おねえちゃんバイバーイ!」
「気を付けてきてねー」
5分ほどで、お客さんの流れが止まった。全員乗り込んだのかな。
【ピン、ポーン】
チャイムが鳴った。出発時刻までは、あと6分だけど。
【これより、駅長・スミレがサイコロを振り、出た目と同じ数字の車両に伺います。みなさん、お楽しみに】
えっ、ちょっ、聞いてない!
「「「おおーーっ」」」
電車に乗っていない見物客から歓声。サイコロは振るとして、何か言うことを考えないと!
「ではスミレさん、こちらをどうぞ」
ハルツグさんが、プラスチックの器と、その中に入ったプラスチックのサイコロを持って来た。この瞬間、私は悟った。
「せっかくですが、ご用意頂かなくても大丈夫ですよ」
そう言った瞬間、景色がモノクロになった。さすが私のサイコロちゃん。
ポン、ポンポポポポ。
「お、おぉ・・・!」
「おおーーっ」
ハルツグさんも、周りの人たちも感動している様子。 フッ、決まった。
拾い上げると、
<1:1号車のお客さんに100万ドルのスマイル>
<2:2号車のお客さんに100万ドルのスマイル>
<3:3号車のお客さんに100万ドルのスマイル>
<4:4号車のお客さんに100万ドルのスマイル>
<5:5号車のお客さんに100万ドルのスマイル>
<6:6号車のお客さんに100万ドルのスマイル>
「はあっ!?」
「「「わーーーーーっ!!」」」
駅のホームが、一気に沸いた。電車の方を見ると、車内まで沸いていた。どんな仕組みか知らないけど、お客さんもみんな、これが見えてるみたい。
必殺、100万ドルのスマイル。いいじゃないの、やってやろうじゃないの。
ポン、、ポン、ポン、コロコロコロコロ。
出た目は、3。
「「「わーーーーーっ!!」」」
再び、ホームが沸いた。私のそばにある、6号車の中の人たちは残念そうだ。6、5、4号車の人たちに手を振りながら、3号車に向かう。
3号車の後ろ側のドアから乗った。4号車のお客さんがドアから顔を覗かせていたけど、何かの力が働いているのかドアは開かない様子。よし、それでいい。私は手を振るだけ応え、“100万ドルのスマイル”は見せなかった。これを見ることができるのは、3号車の人たちだけ。
扉を開き、3号車に入る。
「「「わーーーーっ!」」」 パチパチパチパチ。
3号車の人たちが歓声を上げる。それを浴びつつ、子供たちとハイタッチをしながら前の方に移動した。到着し、振り返るとすぐに静かになった。みんな、私の言葉を待っている。突然決まったことだし、セリフは短くてもいいや。大事なのは、100万ドルのスマイル。
マイクはないし、そもそも地声でいい。
「みなさん、今日は、特急ルーレット11号、3号車へのご乗車、ありがとうございます。素敵な旅にしてくださいね♪」
「「「わーーーーーっ!!」」」
「「「ホーーーーーッ!!」」」
「「「フーーーーーッ!!」」」
「おねえちゃんかわいいーーー!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
ボルテージは最高潮。スタンディングオベーション。 フッ、決まった。
後ろを向いて歩き出し、大歓声に包まれる3号車を後にした。パッと2号車の方を見ると、突然ドアが開いたのかお客さんがデッキになだれ込んで来ていた。
「そろそろ出発するのでお戻りください。危険ですよ」
「僕たちにも100万ドルのスマイルを~」
「サイコロで当たるか、100万ドル持って来なきゃダメですよ」
「そんな~」
2号車の人たちの対応を乗務員に任せ、外に出た。ホーム上でも、3号車の横でカメラやスマホを持っている人たちが落胆しているから、外からも見れないようになっていたのね。ナイス、サイコロちゃん。
「ではスミレ駅長、先頭の方へ」
「はい」
窓から見える人たちに手を振りながら、先頭車両、1号車の方へ移動。段取りは休憩中に教えてもらっている。
「こちらです」
「はい」
笛を受け取った。発車ベルとアナウンスが終わったら、私の出番だ。
【プルルルルルルルルル】
【1番のりばから、11時、11分発、特急、ルーレット、11号、ラックタウン行きが、発車します。ドアに、ご注意ください】
よし、今だ。
ピ~~~ッ、ピッ!
「出発、進行!」
最後の「進行!」と同時に、左手で真っ直ぐ、進行方向を指差した。
電車が、動き出す。窓から手を振ってくる人たちが横目に見える。だけど私は、左手で前方を指差したまま動かず、特急ルーレットの旅立ちを見送った。
次回:スタンプとフォーチューン




