5・ときの力を使わせて!
「とき」
「・・・詩織ちゃん。ちょうどよかった、話したいことがあって」
「私も。多分話したいことって一緒でしょ」
詩織は私を、屋上まで連れて行った。
「ねえ、伊織ちゃんと詩織の間に、何があったの?」
「・・・それは家族の問題だって」
「そんなことどうでもいい。友達の悩みを聞いてあげるのって、いいことだよ。それに、家族の問題じゃなくて、詩織と伊織ちゃんっていう、私の友達同士の悩みでもあるんだから」
「・・・」
詩織は黙り込んだ。
「ときは、時間をあやつれるんだよね?」
「え、まあ、うん・・・」
「だったら!私を小学2年に戻して!」
「・・・へ!?」
私は突然のお願いに、びっくりして変な声を出してしまった。
「・・・なんで?」
「2年の頃に、私と伊織がケンカしたの。ていうか、全部私が悪いんだけど・・・。今から話すけど、長いから要注意」
そう言ってクスッと笑うと、まじめな調子に戻って、詩織は話し始めた。
2年の夏。
前田一家は海に旅行に来ていた。
その当時、伊織はまだ明るい女の子で、友達があふれるようにたくさんいたらしい。男子からもモテモテだったとか。
その一方で、詩織は全くと言っていいほど友達がいなかった。
新クラスになって数か月、まだクラスメイトの名前と顔が一致しない人がいるくらい。
だから詩織は、伊織に嫉妬して、いつか伊織をぎゃふんといわせてやりたいな、って、ずっと思っていた。
何かが、私より下になればいいじゃん――――詩織はそう思って、とある計画を旅行前にたてた。
伊織は親からも信頼があった。なんでもきっちりこなす、長女。詩織はいたずらっ子で、落ち着きのない、怒られてばかりの、次女だったから。
お母さんもお父さんも、伊織の友達も先生も。みんなみんな、伊織から離れて、私と同じ状況になれば少し位つらいよね。・・・でもそんな大勢をどうやって一気に・・・
小2の詩織には、親の信頼をなくす方法しか、思いつかなかったから、まずそれを実行した。
海水浴中。
「伊織、詩織のこと、見ててね」――――――親はやっぱりそういった。そしてちょっとだけ、と言いながら売店へ向かっていった。
詩織はジャバジャバと海に入っていった。
「・・・ちょっ!詩織!戻ってきて!」
「やーだもん。お姉ちゃんがこっちくればいいでしょ」
「しお・・・っ」
詩織は知っていた。伊織は水が苦手だから、深いところまでくれば、絶対に来れない。
詩織はどんどん後ろに下がっていく。
「詩織、やめ――――――」
「うわぁぁぁぁん!!!」
詩織は大声で泣きだした。
「えっ何!?・・・ってきゃあ!詩織、大丈夫!!!?」
「うわぁぁぁぁん!!助けてぇぇぇ!」
親が帰ってきたところを見計らって、もともとついていなかった足の力を緩めて、さらに浮くようにして――――。
「お‶っ・・・おかあざん・・・ごぼっ!げふげふっ!!」
「詩織!」
我ながら演技とちえだけはあるよなぁ、と詩織は思った。
お母さんが詩織を救い出すと、お母さんは怒鳴りつけた。
「伊織!!」
「っ・・・」
「何てことしてくれたの!?詩織を見ててって、言ったじゃない!何をしていたの!!」
「ちがうもん!詩織が勝手に海に入って、浅いところで止めたのに、聞かなくて――――」
「止めた!?あんな深いところまで行ったのよ!?それに、助けに行こうともしていなかったじゃない!泳げないのはわかっているけど、浅いところにも入っていなかった!!!」
「おかあさん・・・信じてくれないの?」
伊織が言うと、お母さんはこう言った。
「家族を助けようとしない子なんて、信じると思ってるの⁉」