プロローグ
大国ヴァルハラ、首都アルカディアのとある一画で晴天の空に浮かぶ月を眺める一人の少年がいた。
「あ……」
ボーッと空を眺めていて人が来ていることに気づかなかった少年は、こちらに向かってくる女性を見て思わず声を漏らす。
「あ…って、失礼なやつだな」
その女性は鼻で笑いながらそう返す
「…………」
「待ちな、グレイ」
何も言わずにその場から立ち去ろうとする少年、グレイをその女性は呼び止めた。
「グレイ、魔法はもうやってないのか?」
女性は柵に手を掛け、グレイがしていたのと同じように空を眺めながらそう聞いた。
「もうやってないですよ」
その女性に呼び止められ再び空を見上げてそう答える
「ふーん…」
素気無くそう返すグレイの顔を女性は横目で
じっと見つめる。
そしてその女性はグレイに気づかれない様に左手の人差し指を向ける…そしてその指先に赤色の小さな魔法陣が現れると同時に、赤色に輝くビー玉サイズのエネルギー弾を放つ。
グレイはその一連の流れを見ていた訳ではないが、それに対応して左手の甲を飛んでくる魔法に向けて構える、すると青色の手のひらサイズの魔法陣が現れ、飛んでくる赤色の魔法に対し、埃を払うかのように手を動かす、そしてそれは細かい無数の光となって空へと消えていった。
「…嘘だな」
その女性は、魔法はもうやっていない、と言うグレイの言葉が本当かを確かめるため、グレイに向けて魔法を放ったのだ。
「セリスさん、なんのつもりですか?」
「いくら私が手を抜いたとは言え、ただの魔法師じゃ私の魔法展開速度について来るどころか気づきもしないだろうね」
「何が言いたいんですか…」
グレイの問いにセリスは答えなかった。
少し間が空きグレイが口を開く
「じゃあ、僕帰っていいですか?」
グレイはそう聞きつつも既に帰ろうと動いていた。
「まあ待ちなグレイ」
セリスは再びグレイを呼び止めて少し間を入れる。
「お前の好きだった…いや、今も好きな魔法と、また向き合ってはみないか?」
セリスのその言葉に帰ろうとしていたグレイの動きが止まる。
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