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ギルドマスターの長い話 6

「チート」

本来は騙す、あるいは不正といった意味だが、物語の中では「まるでズルをしているみたいに物凄く強い」というような使われ方をされている言葉だ。


「神に願いを叶えてもらえる」だと? それ何てチート?

強いなんてレベルじゃねーぞ! 俺も欲しいわ、そんなスキル。

おかしくね? いろいろな意味で!



「それは本当の話なの? 『神に願いを叶えてもらえる』なら、反逆なんてしなくても『王になりたい』と願えばいいだけじゃないの?」


「今説明したように私は理由を知らないのだが、推測は可能だ」


「というと?」


「『祈願』のように、何か制約があったのかもしれない。願いを叶えてもらう為に必要な『正しい言葉』選びが難しかった、あるいは願いが叶うと死んでしまう、というような。もっと単純な理由として、そもそも『王になりたい』訳ではなかった、というのもあり得るだろう」


なるほど……しかし、


「では、そのユニークスキルは実際にはどう使われたの?」


「私が閲覧した資料には詳細な内容は書かれていなかった。領主に尋ねてみたが、知らないのか教えられないのか……どちらにせよ、明確な答えは得られなかった」


「むぅ……」


そこ重要なんだけどー。

そのスキルが何らかの形で使われていたのなら、「この話」は参考になるのだが。

つまり「神に願いを叶えてもらえる」という、チート極まりない力をもってしても打ち倒されてしまう程、王の側の力は強大だという……その時、礎の力は使われたのか?



「ところで、そのアルビオンの領主が持っていたユニークスキルの名は何ていうの?」


「『有頂天』だ」


「……は?」


聞き違えたかな? うちょうてん?


「『有頂天』だ」


「マジで?」


「あぁ」


凄いスキルを与えられて、舞い上がっちゃったっていう意味? ってそれ形容動詞じゃん! 誰だよ、そんな名を付けたのは……神に決まっているか。

「神」とやらにはユーモアのセンスがあるのかもしれないな。あるいはブラックジョークの類か。その内容でその名とは……皮肉が効いてらぁー。



あと一つ重要な質問があるのだが、この質問をした事が領主に伝わった場合、領主がどう反応するか……そもそも伝わるのか?


試してみよう。領主も、ギルマスも。



「さっきの『大陸の地図」について、もう少し説明が聞きたい」


「いいとも。何を知りたい?」


この王国がある大陸。他に3つの国が描かれている。


「この大陸にある国は4つだけ? 他には無いの?」


「勿論ある。主に沿海部だ。大陸の中央辺りは自然環境が厳しいうえに魔物の数も多く、人が住むには向かない環境らしい。私は行った事は無いので話に聞いただけだが」


「その『他の国』はどんな国? そこも貴族によって運営されているの?」


「沿海部には様々な国がある。貴族によって運営されている国もあれば、平民の中から代表を選び、その代表者達によって運営されているという国もある。国という形ではなく複数の町の集合体という程度のものもあるようだが、詳細な話は伝わってこない。沿海部はあまりにも遠く、この国にとっては関わる事も無い地域だからな」


大陸の東西の端辺りをそれぞれ縦長の楕円のような線で囲みながら説明してくれるが……おかしくないか、ギルマス?


「……そういう知識を得たら、私がこのシオリス領から出ていくかもしれない、とは思わないの?」


領主は俺をこの地に留めたいんじゃないのか?

俺に国外の情報を与えるのは、それ自体が「領主の意に沿わない」行為になるのでは?


だが、ギルマスの表情は変わらない。


「君が出たいと思うのなら、そうすればいい」


何だと?


「私も君にこの領地の開発をして欲しいと思っているが、君が貴族側と相容れないと感じるような事があれば、この地に留まって対立し争うよりは、出ていった方がお互いの為だろう」


「それは領主の意見?」


「いや、私の個人的な見解だ」


「それは領主の意向に反しているんじゃないの?」


「そうかもしれないな」


おい。


「……領主の意に沿わない言動や振る舞いをしても許されるほど、ギルマスという立場は偉いの? それとも、領主の友達だと大目に見てもらえるのか?」


「それ程偉くはない。何らかの処罰を受ける可能性は勿論ある。大目には見てもらえないだろうな」


そのわりには平気な顔をしているんだが……正気なのか、こいつ。

「処罰」が怖くないのか?


「ただ、他領もしくは他国へ行ったとして、その地の者が君を歓迎するとは限らない」


「え?」


「どこであれ、貴族にとっては黒のゴーレムもドラゴンも脅威である事に変わりはない。君達の存在を単に危険な存在とみなして排除にかかってくる可能性は当然ある」


それは、そうかもしれない。エクレールはともかく、シュバルツとノワールの存在は隠しようもない。


「逆に、有効な戦力として自らに従う事を要求するかもしれない。それに君が今までと同様の振る舞いを続けるのなら、いずれ治癒魔法使いであると知られるだろうが、その時はどうするのかね?」


「どうって……」


「貴族のいない国であれば歓迎されるかもしれない。同じく戦力として、あるいは治癒魔法使いとして。それが君の望みかね?」


「ここであれば、少なくとも領主は契約魔法で縛られているし、ハンター達の口が堅い事も既に知っているだろう? そのような『環境』が他でも得られると信じられるのなら、好きにすればいい」


「ぐぬぬ」


シオリスの方が安全だと言いたいのか? 一理あるが、だったらなぜ「他」の情報や知識を与えようとするのか、領主サイドであるような、そうでもないような。


「ギルマスの『思惑』はいったいどこにある?」


「思惑というより……私なりの義務の果たし方と、後は期待、だな」


「義務?」


「以前『ギルドは職員を守る』という話をしただろう? だが、守る相手が領主とあっては、できる事は限られる」


まぁそうだろうな。特に期待はしていない。


「なので、せめて君にとって有益となりうる知識、情報を伝える事でそれが君自身を守る事に繋がればいいと思っている」


お前はどっちの味方だーって、突っ込めばいいのか? 違うか。

はぁ……まぁ、わかる。後は自力で何とかしてくれって事ですね。ただ、ギルマスの情報はどこまで信用できるのか。


裏付けを取ろうにも、「地図」に関しては平民側のどこで情報を入手できるかわからない。

ギルドにある地図は町とその周辺地域のみで(マーヴィンのギルドもそうだった)国どころかシオリス領の全体図ですらなかった。


もしかしたら商業ギルドにはあるかもしれない。だが他国、それも遠い国の情報となると……そして貴族絡みの話は貴族に聞くしかないが、「他の貴族」に話を聞けたとしてもそいつが本当の事を話してくれるという保証も無い……どうしたものか。



「もし君が開拓し、守護となった村に魔物が襲ってきたら、君ならどうする?」


「いきなり何を……そりゃ撃退しなきゃダメでしょう?」


「それがマザー級や災害級の魔物でも?」


「倒せるんじゃないかな、たぶん」


俺に倒せなかったら大先生達にお願いすればいい。たぶん大丈夫だろう。


「君なら逃げずに戦うだろう。だが、貴族は違う。逃げるのだよ、飛行型ヒュドラのように」


「え?」


何だかギルマスの雰囲気が怖くなってきたんですけど!


「貴族の管理する村や町に強力な魔物が襲ってきて手に負えなかった場合、貴族は平民を見捨てて逃げてしまう。平民の代わりはいくらでもいるが、自分の代わりはいない。そう考える貴族が大半を占めている。戦いは騎士に任せる、というのが今の貴族の常識になっているという面もあるが」


それが気に入らないという話だろうか?

気持ちはわからなくもないが、俺に向かって凄むなよー。


「それで、見捨てられた人達は……」


「逃げられればまだいいが、大抵は逃げる事すらできずに死ぬ。騎士が間に合う事はほとんど無い」


えぇー……


「平民の命が軽く扱われているこの世界に対して思う所がない訳ではないが、私にできる事はほとんどない。だが、君は違う」


それって……


「君が守護となり、多くの平民が君の庇護下に入れば、その者達の人生はこれまでとは違ったものになるのではないか? この世界のありようも、少しは変わるかもしれない」


「何の関係も無いハンター達の命を救い、そのうえ狩りの手助けまでして益を与えた君になら、そういう期待をしてもいいのではないかね?」


大袈裟というか、期待が重くない!? 世界を変えようなんて思ってないんだけど。



ギルマスの話はこれで終わりらしい。長かったな……よし、自分に関係あるところだけまとめてみよう!



領主の依頼を引き受ける→領主(貴族)サイドからの受けが良くなる


貴族に利益をもたらす存在になるって事だ。

今すぐ貴族と対立するという訳にはいかないので、これは俺にとっても利益のある話だ。悪くない。


デメリットは、それによって貴族側に魔力の余裕ができた時どうなるかわからない、というやつだが、正直今からそれを考えてもしょうがないというか、その時にならないと対応のしようもないので、先送りにするしかないわ。



領主の依頼を断る→領主(貴族)サイドからの受けが悪くなる


領主はもう城に帰ってしまったし、既に開拓の為の指示出し等始めているかもしれない。今から断った場合「領主の依頼を断った平民がいる」と他の貴族達にも知られる事になる。領主がそれを許したとしても他の貴族達が許さないかもしれない。何しろ「貴族に従わない」だけで処刑される国なのだから。

トラブルの予感しかしない。


金の件は微妙だ。

そもそもどれだけ開拓できるのか実際にやってみないとわからないし、負担額も、将来どれだけ見返りが得られるのか、というのも、まだ1件も開拓していないのにわかる筈もない。

どれぐらい収穫が得られるのかも不明だし、現時点では誰にもわからないだろう。


……もう面倒くせぇから、「遠く」へ行っちゃう?


その場合、いっそ人のいない領域で生きていく、という事すら(食べ物さえあれば)可能だろう。


「俺だけ」ならば。


「異世界転生」なら何も問題はなかった。自由に好き勝手に生きるというのもありだろう。

だが、「憑依」だったら?


「セシリア」が将来自分を取り戻す可能性はある。

その時俺がどうなっているかというのはとりあえず置いといて、セシリアが自意識を持った時に全然知らない場所、あるいは状況にいるというのはよくないだろう。

気が付いたら自分が「人のいない領域」なんて場所にいて、傍にいるのが黒いゴーレムにドラゴン幼女、とかだったら意味がわからないわ。記憶の引継ぎができるかどうかもわからないし。


将来のセシリアにできるだけ多くの可能性を残す為には、選べる選択肢はそう多くはない。

そして、ギルマスの話を聞いた後でも俺のやる事に変わりはない。


将来に備えて強くならなければ。


その為に必要な事をするのであって、それ以外の事、例えばハンターに向いていない若いやつらの人生だとか、平民の命だとか、貴族の就職がどうだとか、そういうのはついで、おまけにすぎない。


開拓の話は俺にとって「うってつけ」の話だ。

魔法は使えば使う程レベルが上がる。開拓で土魔法を使いまくってやるわ。

魔物が襲ってくる? むしろウェルカムだ。

魔物を倒して「セシリア」のレベルを上げて、お金も稼いでやる!

ほら、今までと何も変わらない。何ならこちらから出向いて倒す、まである。

旧アルビオン領とか、金と経験値の稼ぎ場ではないか?


そうやって、今まで生きてきたんだ。これからもできる。やってやるさ!




「考えはまとまったかね?」


見透かすような、ギルマスの声。


「まぁね。しかし、幼女にするような話じゃないよね?」


幼女は自分の事だけで手いっぱいですよ。


「それは今更だろう? セシリア」


ニヤリ、と笑う悪党、いやギルドマスター。

まぁ確かに、今までずっと幼女のフリすらしていなかったからな。今更ではある。

バレバレなんだろうな。


自分の口の端も上がっているのがわかる。

きっと今、俺はギルマスと同じような顔をしているに違いない。




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