ギルドマスターの長い話 2
開拓作業を請け負う、それはすなわち「仕事をする」という事、の筈なのに。
「つまり、『仕事をして』そのうえ『金を払え』と?」
「まぁ、そう言えなくもないが……」
働いて金を払うとか! 何という事でしょう! 体の震えが止まりませんわ。
ブラックなんてレベルじゃねーぞ! 全く違う、異次元の世界!
それは何て言葉で表現すればいいの? 地獄? ……いや、地獄という言葉ですら生ぬるいっっ! 想像もできないわ。
奴隷の方がマシじゃね? 奴隷は働いた後に金を払え、とは言われないだろうから!
「何やら考えているようだが……君は『投資』という言葉を知っているかね?」
「まぁ、意味は分かるけど」
「なら話は早い。これは『投資』なのだよ」
投資の類だという理解をするとしても……しかし、愉快な話ではない。
なぜ俺だけがリスクを負わなければならない?
「領主は何の負担もせずに税収だけ受け取ろうというの? 少しはお金を出してもいいんじゃないの?」
「何を言っているのかね? 領主は配慮すると言っただろう? 負担しているじゃないか」
「何を?」
そんな話したか?
「『専任の派遣』だ。平民が貴族の為に働くのは当たり前だが、貴族が平民の為に働くのは全く当たり前ではない。異例の事だ。いや、前例の無い事かもしれない」
「その程度?」
「十分過ぎる事なのだが……それに、その派遣される貴族の給与を負担しているのは領主だが、君が代わりに給与を負担するかね?」
「冗談でしょ?」
ぐぬぬ。言ってる事はわからなくもないが、いまいち納得がいかない。
平民の為って、結局は税収、すなわち領主の為って事じゃないか?
それに、
「必要額を全額出せるのが当たり前、みたいな感じで話しているけど、仮に出すとしても5~6か所分程度しかないよ? 全然足りないんだけど」
「十分足りると思うが」
どういう計算をしているんだ? 人数にもよるだろうが、村1か所当たり億近い金がかかる筈なのに……もしかして、貴族以外は超ブラックな待遇で働かせるつもりなのか? 食事は1日1回とか。
「私が今いくらお金を持っているか知っているでしょう? 領主に伝えていないの?」
個人情報保護なんて考えは(たぶん)ないだろうから、とっくに知られていると思ったのだが、違うのか?
「その件だが、領主には君が今まで稼いだ額は白金貨90枚と伝えた」
しれっとした顔で答えるギルマス。何だと?
「……おい、それは総額でしょう? (しかもまだ受け取っていない分が含まれている!)仲間と分けた分と借金返済に回した分は引いて伝えろよ!」
「君は仲間と分けたというが、それは君以外の誰にも理解できない事だ」
「何でやねん!」
つい関西弁が!(関西人じゃないのに)
「『従魔』に報酬を与える者はいない。そんな必要はないのだから。つまり、君が従魔と分け合ったという金は、他人から見れば『君の金』だ。そして君は平民としてはあり得ないほどの大金を持ち、尚且つその金をほとんど使っていない、という風に見られている」
「……領主がそうみている、という事?」
「そうだ」
そうだ、じゃねーよ。ギルマスのせいじゃないの? この話。
いや、俺が大金を稼いだから、か。
「他人がどう見ていようと、分け合った報酬は仲間のものという考えは変わらないし、やり方を変える気もないけど」
「それ自体は好きにすればいいが、金が足りないという認識ならギルドが貸しても……」
「お断りします」
誰が借りるか! ギルドは利息取り過ぎなんだよ!
「……それなら『仲間』から借りればいいのではないかね?」
本当に金が必要で、足りないという事があればそうせざるを得ないかもしれないが。後で確認……いや、今聞けばいいか。
部屋の隅でじっとしているシュバルツに聞いてみる……何か存在感薄いな、今日のシュバルツ。
「シュバルツ、今の話聞いてた?」
肯定
「お金を貸してくれる?」
肯定
いいらしい。本当に金を借りたら、返済する時は利息を付けないとな。
「……とにかく、出せる額には限度があるし、そもそも強制されたくはないし!」
「勿論そうだが、何も金を取り上げようという訳ではない。あくまでも『投資』だ。使われていない金を領地の発展の為に投じてほしい、という話だ」
なぜだろう? ギルマスの顔を見ながら話を聞いていると、何だか自分が騙されているような気が……悪党みたいなツラしているからかな?
「もう少し具体的な金額を知りたいのだけど。後、引き受けるにしても、契約は? ハンターが単に依頼を達成して報酬を貰う、という話じゃないようだけど、正式に契約を結ぶ、みたいな事はしないの?」
「そのうち詳細な話が聞ける筈だが『報酬』が守護の地位と徴税権なので、実際に君がそれを得るのはある程度開拓の成果が出た後になる。領主の都合なのだが契約はその時になるだろう。報酬を得られる事に違いは無いので安心していい」
そのうち、ねぇ……まぁ、いいけど。開拓をした後に「やっぱり報酬は無しね」とはさすがに言わないだろうし。俺はともかく、ドラゴンや黒のゴーレムという存在があっては領主も蔑ろにはできないだろう。
「引き受けてくれるのなら、いくつか情報を提供しよう」
「ん?」
「知りたい事があるのだろう?」
そうだった。というか、それは交換条件だったのか?
ギルマスは机の引き出しから紙を何枚か取り出すと、俺の前の席に移動してローテーブルの上にその紙を広げた。
A4ぐらいの大きさの……白紙? 何も書いてないぞ?
「まずはこのシオリス領について説明しよう。大体こんな形をしている」
そう言うと紙に地図を描いていく。
「シオリス領」はアルファベットの「L」に似た形をしていて、そのLを左へ45度ぐらい傾けたような感じ。(東西に長い)
「シオリスの町はどこ?」
「ここだ」
Lの字の「短い方」の真ん中辺りにバツ印を付ける。ずいぶん右寄りだな。
「マーヴィンの町は?」
「ここだ」
シオリスの左(東側)、3㎝位離れた所に印を付けるギルマス。
ん? おかしくないか? 近過ぎない?
シオリスとマーヴィンは200㎞以上離れている筈……
「これ、縮尺は合っているの?」
「大体合っている」
だとすると……あれ?
「ギルマス、この領の大きさはどれくらい?」
「端から端までおよそ1200㎞だ」
「1200㎞!?」
そんなに大きいのか!? 日本、いや、本州ぐらいの大きさだぞ、ここ!
どうりでシオリスとマーヴィンがすぐ近くに書いてある訳だ。
「ずいぶん大きいな……」
「これでも領地としては中ぐらいの大きさだ」
「この国の大きさはどうなってるの……?」
これで「中サイズ」とか。「大」はどれぐらいだよ?
ギルマスが紙をひっくり返して裏にまた地図を描き始めた。
5角形……かな? 上辺が平らでやや平べったい5角形のような形。宝石のカットを横から見た時の形に似ている。
「これが王国? シオリスはどの辺?」
「ここだ」
「5角形」の右下、端の方にシオリス領を描いていくギルマス。何だか小さいような……書き終わった! 本当に小さいぞ!?
「それ、大きさ合っているの!?」
「大体合っている」
マジか。
シオリス領の長さが国の横の長さ(東西の距離)の6分の1程度しかない。
「この国の東西の距離は……」
「およそ8000㎞だ」
ロシアかよ! めっちゃ大きい! 大国じゃないか! ……あれ? おかしいな?
前にジュディが「この国は周囲を大国で囲まれている」って言ってなかったか?
ギルマスにその事を話すと、2枚目の紙を用意してまた地図を描き始めた。
今度は「5角形」が小さい。おい、まさか……
完成した地図には小さな5角形(王国)を左右と下で囲むように3つの国が描かれている。
その3つの国の面積は王国の3~4倍はある!
なるほど、確かに「大国」に囲まれているな。
「もしかして、この4か国だけで大陸の全てを占めているの?」
「いや?」
嘘やろ……嘘だと言ってよ、アトール!
また紙をひっくり返して地図を描き始めるギルマス。
「大陸」の形は複雑なので上手く表現できないが、強いて言えば「台形」だ。
そして、その「台形」の上の方に王国を含む4つの国が描かれているが、その面積は全体の5分の1程度……
これが「合っている」のなら、この大陸の大きさはユーラシア大陸の20倍以上ある事に! どうなっているんだ、この世界……何だか喉が渇いてきたわ……ゴクリ。
「この惑星ってどれぐらいの大きさなの?」
「ワクセイ? ワクセイとは?」
謎翻訳がなぜか機能しない。言い方が悪いのか?
「えっと、この世界の大きさは?」
「それは知らないな」
この星、地球より大きいんじゃないの? 星の大きさってどうやって測るんだっけ?
確か、深い井戸に太陽の光が……?
「本題に戻ってもいいかね?」
エラ何とかさん(名前忘れた)が最初に測ったような……本題?
ギルマスが紙を最初の1枚に戻した。あぁ、シオリス領ね。
「『情報』の有用性を増す為に、君にはこの国の歴史とシオリスの過去について知ってもらいたい」
えぇー? 何でやねん……




