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指名依頼

他に部屋の中にいるのはなぜか『司令官』ぽい服を着ているギルマスと今回のお供のシュバルツ。ジュディはすぐに出て行った。


部屋の内装が変わっているな? 前は何も無い殺風景な部屋だったのに、明るい色の高そうな木材が腰壁として張り巡らされていて、間接照明も導入されている。

全体的にお洒落な雰囲気に……リフォーム?

ソファーも新しくなっていて、ふっかふかで高級っぽい。


そのソファーに座っている領主がギルドの制服を着ていても隠し切れない「偉い人」の雰囲気で話し始めた。


「其方にやってもらいたいのは平民が開拓に失敗して放棄した、いわゆる『廃村』の再整備だ。無論単なる再生ではなく、より大きく拡張したものになる」


なるほど……拡張?


「以前の状態に戻す、ならともかく、それだと新しく作るのと変わらないのでは?」


「そうだな」


いや、そうだな。じゃねーだろ。


「私は『村の作り方』なんて知らないんだけど。知識も経験も無いのにそんな仕事できないんじゃないかな」


「案ずるな、其方には専任の人員を付ける。その者の指示に従えばよい」


なるほど、専門家を付けてくれるのか。当然の措置だな。


「それならできるかな」


「引き受けてもらえるか?」


「ええ」


土魔法で土木作業をすればいいのだろう? 簡単なお仕事だ。


「話が早くて助かる。こう見えても忙しい身でな」


「そうでしょうとも」


領主は席を立って帰ろうとしている。いやちょっと待って!?


「帰る前に! 報酬は!? 報酬の話はまだでしょ!?」


「む? そうであったな」


ニヤリ、と笑いながら座り直す領主。こいつ、一番重要な話だろうが……


「無論、最大級の配慮をするつもりだ」


「ほほう?」


「報酬として其方に『守護』の位を与えよう」


どや! みたいな顔してるけど……守護?


「何の話?」


「『徴税権』の話だ」


「もう少し詳しく」


徴税権?


「簡単に言えば其方が開拓し、運営する村から『維持管理費』を徴収できる権利の事で、守護とは複数の村を統括する者の位の名称だ」


「……何だって?」


こいつ何言っているんだ?


「報酬の話を聞きたいのだけど」


「勿論報酬の話だ」


「えー……」


意味が分からない。本当に何を言っているんだ?


「詳細はトレメイン卿に聞くといい。ではな」


「え? ちょっ、待って!?」


立ち上がった領主は今度は座り直さずにそのまま部屋を出て行った……帰ってこない。

はぁああっ!? あいつマジで帰りやがった!


「ちょっ、何これ!?」


呆然と立ち尽くす俺。


「さっき領主が言っただろう? 彼は忙しいのだ。後の説明は私が引き受けよう。何か分からない事はあるかね?」


「分からない事しかないわ! 何これ!?」


「ふむ」


ギルマスは机の上に両肘をついた、いつもの「司令官」のポーズ。さっきまで普通に座ってたのに。

このお洒落で雰囲気が明るくなった部屋の中ではもの凄く合わないぞ、お前。


「……何でリフォームしたの?」


「それは今聞く事かね? 今後領主がここを頻繁に利用するかもしれないので内装を改めたのだ。以前は殺風景だったし、最近はギルドの予算にも余裕が出てきたのでね」


大した理由ではなかった。確かに今聞く事ではないな。


「さっきのは何? 私は報酬の話を聞きたかったんですけど!」


「いい話だと思うが、何が不満なのかね?」


「そもそも守護って何?」


「領主が説明しただろう?」


「そうではなくて! 何で私がその守護とやらにならないといけない?」


「それが報酬だからだ」


「おい」


マジでキレちゃうよ?


「ふむ、少し長い話になるがいいかね?」


「いいですとも」


きっちり説明してもらうからな。納得するまで帰りません!



ギルマスがお茶を入れてくれた。どうやら本当に長い話になるっぽい。


「まずは税の話からしなければならないな。君はこの国の『税』についてどの程度知っている?」


「全然知らない……そういえば、私税金払ってないけど、いいの?」


「ん? 君は払っているぞ」


「え?」


いつ? 払った覚えないんですけど。


「ふむ、そういえば君には説明をしていなかったか。君は狩りをして獲物をギルドに売っているだろう? その支払いの際にギルドの手数料と一緒に『税』が引かれているのだよ。税率は買い取り金額の2割だ」


「……知らなかった」


そういうの、説明があるんじゃないの?


「ハンターには初心者講習の時に話しているのだが、君の場合ギルドの臨時職員としての採用だったから説明する機会がなかったな」


「……まぁ、いいけど」


後で「税金払えや!」って言われないって事だな。それは良かった。


「ハンターの場合それが税だが、農民の場合は少し複雑になる」


「え?」


「まずは土地の使用代だ。この国の土地は全て王の物だ。それは知っているな? 従って土地を利用して収益を上げている者は全て王に使用料を払わなければならない。『使用料』は収穫の2割」


「ふむ」


「次に『納税代行手数料』だ。領主に対して支払うもので、これも2割」


「のうぜい……何だって?」


「納税代行手数料だ。王への納税を領主が代行する」


「……2割の税を納める為の手数料が2割!?」


「そうだ」


「ぼったくり過ぎぃ!」


ありえないだろ……


「だが納税の実態を知れば高くはない、と分かる」


「どういう事?」


「王都は遠い。ここシオリスから王都までおよそ4000km。農民が直接納める事は事実上不可能なので領主が代わりに徴収して王都に運ぶ。その為に『転移』の魔法を使う」


「転移!? あるの!?」


さすがファンタジー! 夢を裏切らない! 「転移魔法」何て素敵な響き!


「領地を越える転移魔法は領主しか使えない上に大きな魔力を必要とする。そして魔力はただではないのだ。領主にしか使えない魔法の『料金』が高くなるのは理解できるだろう?」


「……まぁ、そうかもしれない」


逆に自力で納税しろって言われたら農民は困るだろうな……4000kmだと?

そういえば、


「私、この国の形とか大きさを知らないんだけど、どうすれば知る事ができる?」


「あぁ、簡単なものでよければ後で私が地図を書こう。それでいいかね?」


「ええ」



「最後に、貴族が開拓した村の場合、大抵複数の村を統括する守護がいるのだが、その守護に支払う『維持管理費』がある。これは村によって多少差があるが、大体2~3割といったところだ」


「……つまり、税率は6~7割?」


「そうだ」


「えー……」


めっちゃ高い! 五公五民じゃないのか。よく農民が受け入れているな。


「守護はこの維持管理費の額を自分で決める事ができる。つまり、君は君が守護になった村から好きなだけ税を徴収できるのだ」


「えー……」


それが報酬と言われてもな。


「実際はあまり高くし過ぎると農民は逃げてしまうので大体は2~3割になる。勿論例外はあるが」


「え? 逃げていいの?」


「その年の税を納めた後なら、村を出たければ出てもいい。領民には移動の自由があるからね。領内どころか他の領地へ行く自由もある」


「へー……それは分かったけど、報酬は普通に現金でいいのだけど」


「なぜだね? おそらく徴税権の方がはるかに大きな額になるのに。それは分かるだろう?」


不思議そうな顔してるけど、別に不思議じゃないだろ?


「私には村の運営とか農業の事なんて分からないから」


「君が直接運営する必要はない。代官を派遣すればいいし、農作業も村人を募集すればいい」


「どうやってその人材を集めるの? それすら知らないよ?」


「領主が言っていただろう? 『最大限の配慮をする』と。彼が必要な人員を用意してくれる」


「じゃあ、もう領主か貴族が運営すればいいんじゃないの? なぜ私にやらせようとする?」


「それが報酬だから、というのもあるが、一番の理由は魔力不足だ。領主や貴族達には魔力の余裕が無くて、新たな開拓地に必要なだけの魔力を負担する事ができない。その魔力を君に負担させたいのだよ」


「もう少し詳しく」


ようやく「本音」らしきものが見えてきた。




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