日常から
アルジェンティーナが小さな女の子になった。
な、何を言っているのか、わからねーと思(以下略)。
(アルジェンティーナ?)
(はい!)
女の子から聞こえてくる元気いっぱいの声。
(大丈夫なの?)
(はい!)
良さそうではある……さて、
(どういう事なの? エクレール)
(体が大きいと大変、という主の意を汲んだ)
淡々とした答えが返ってきた。え?
そんな事思っていない……もしかして、食べる量が多くなったら大変な事に、とか思ったやつ?
別に食費が払えないとか、そんな話ではなかったのだが。
(アルジェンティーナから『可愛い女の子』になるにはどうすればいいのか? と聞かれたので教えた)
え? 何で?
(主の意向と聞いた)
そんな事頼んでないし……もしかして、「声と外見にギャップがある」って思ったやつ? そういう意味ではないのだけれど!
後さらっと言ってるけど、「女の子になる」って教えられるものなのか?
(魔法)
そりゃ魔法だろうけど、そうではなくて!
……これは恐ろしいものの片鱗、という話ではないだろうか。
「人化」はいかにもマズいでしょ。簡単に教えちゃって……どうするんだよ?
エクレールはドラゴンだから「人化」という特殊魔法も「あり」なんだろうけど、アルジェンティーナは普通のウルフの筈なのに! ……いや、今更か。
巨大化した時点で、もはや普通のウルフなどではなかった。
まぁ、いい……いいのか?
エクレールと話している間、大人しく立っている幼女アルジェンティーナ。
尻尾が大きくゆったりと振られている……そう、「尻尾」がある。
白くてふさふさした大きな尻尾。その尻尾と同じようにふさふさした(なぜかショートボブの)髪からぴょこんと飛び出している大きな三角形の耳。
可愛らしい「狼の耳」がぴくぴくしている。あざとい。
涼しげな目元はアルジェンティーナそのもの、といった感じで、体は幼女の大きさなのにどこか大人っぽい。
クール系美幼女ってどこに需要があるのかな……
腕と脚はふさふさの白い毛で覆われていて、わりと「ケモノ度」が高い。それ何てフレンズ?
とりあえず、服を着せないと。
尻尾を出さないといけないので、背中の開いているエクレールの予備の服をベースに改良、更に下まで大きく開く。
腰の下までばっくり開いた、妙にセクシーなワンピースになった。
こんなの幼女に着せていいのかな?
下着は……別にいらないか、幼女だからな。
服の着方を教えるとすぐに理解して自分で着られるようになった。やはり頭は悪くない。
服の外に出された尻尾がゆさゆさ揺れている。
(着心地はどう?)
(いいです!)
(ご飯食べられる?)
(はい!)
では朝食にしよう。
「セシリアさん、おはよう……その子は?」
全体的に白っぽい(白いワンピースを選んだのは失敗だったかもしれない)アルジェンティーナを凝視するリディア。
「おはようリディア。この子はアルジェンティーナです」
「……え?」
「アルジェンティーナです」
大事な事なので2回言いました。
戸惑うリディア。そうでしょうとも……だが飲み込んでもらわねば。
「女の子になったアルジェンティーナの分も用意してください」
「えっと、はい……」
戸惑いつつも厨房に向かっていくリディア。
さて、幼女アルジェンティーナはどれぐらい食べるのかな?
ビアンカも起きてきた。
「おはよう、ビアンカ」
「おはようございます……その子は?」
「アルジェンティーナです」
「え?」
「アルジェンティーナです」
大事な事(以下略)。
「そうですか。おはようアルジェンティーナ」
(おはようございます!)
あれ? 普通の顔で挨拶をして席に着くビアンカ。
「驚かないの?」
「エクレールさんと同じでしょう?」
「そうだけど」
理解が早い。その方がいいけど。
後はシルヴィアだな……
シルヴィアも起きてきた。
「おはよう、シルヴィア」
「おはよう……?」
幼女アルジェンティーナを見て困惑を隠せないシルヴィア。
「この子はアルジェンティーナだよ、仲良くしてね」
「ある?」
「そう。女の子の形になった」
まじまじとアルジェンティーナを見つめている……顔ではなく、下の方を見ているような? どこを見ているんだ?
どうやらゆらゆら揺れている尻尾を見ているらしい。
形が狼の時と同じなんだよな。耳もそうだけど、「アイデンティティ」というやつだろうか?
エクレールの角みたいにこだわりがあるのかもしれない。
「仲良くしてくれる?」
「……いいよ」
シルヴィアも順応性が高い! さすが幼女!
「アルジェンティーナもシルヴィアと仲良くね?」
(わかりました!)
前から仲良しだったのだから問題無いだろう。朝食の準備ができるまで一緒に遊ぶといいよ。
様子を見ているとシルヴィアはアルジェンティーナの尻尾が気になるらしい。
触ろうとしているが尻尾の動きが激しい! ぶんぶんしているぞ?
アルジェンティーナよ、それだと幼女には速過ぎるのでは?
(わかりました!)
動きがゆっくりになる。シルヴィアは尻尾を捕まえた!
「きゃはは! ふさふさ!」
「そう? よかったねー」
アルジェンティーナの表情は変わらないが、何となく楽しそう。
仲良き事は美しき哉。
朝食の場ではアルジェンティーナも皆と同じように椅子に座った。
初めてフォークやスプーンを使うのだから教えようとしたら、なぜかエクレールの方を見ている。
エクレールをお手本にするつもりらしい。
優雅に食事をしているエクレールの手つきを真似てすぐにカトラリーを使いこなすアルジェンティーナ。
学習能力高いなー。
ベーコンをもりもり食べているが、食事の量自体は小さな狼の時と変わらない。
あの巨体は関係無いのか? そんなところもエクレールに似ているな。
皆が普通の顔で食事をしているので、リディアも「こういうもの」だと受け入れたらしい。(たぶん)
説明しづらいのでそのまま飲み込んでください。
ふと気が付いたんだけど、この家「幼女率」高いな! もっとも本物の幼女は1人だけだが。
……アルジェンティーナは子供だから「本物」に含めてもいいか。
さて、食事の後は……アルジェンティーナの「教育」だ。
頭は良くても人間の言葉や常識はほとんど知らないだろうから、教えなければならない。
どこから始めようかな……
りんごーん!
玄関のベルが鳴った。誰か来たらしい。朝から何だよ?
「セシリアさん、ギルドのジュディさんが来ています」
「ジュディ?」
朝から一体……アルジェンティーナの件か。
隠密さんもジュディも仕事が早いわー。
「おはよう、ジュディ」
「おはようセシリア」
ジュディの手には袋が。その袋は何だよ? 前と同じやつじゃね?
「アルジェンティーナの件かな?」
「何の事かしら?」
「あれ?」
違うのか?
玄関ホールにアルジェンティーナが来た。
(呼びましたか?)
「いや、呼んではいない」
黙ってアルジェンティーナを見つめるジュディ。何か言えよ。
「……この子は?」
「アルジェンティーナだけど」
「え?」
「アルジェンティーナです」
大事な(以下略)。
「……そう」
表情が変わらないジュディ。
「知らなかったの?」
「ええ」
隠密さん仕事してないのか? 報告遅いよ! そしてジュディ、少しは驚けよ。
「驚かないの?」
「規格外の事しかしない、あなたのする事にいちいち驚いてはいられないわ」
俺が何かした訳ではないのに!
「あなたは家で大人しくしている事すらできないのかしら?」
何その言い草! ……ん?
「じゃあ何しに来たの?」
「仕事の話よ」
「仕事?」
「ええ、あなたに指名依頼よ」
「指名依頼!?」
何それハンターっぽい! それって高名なハンターに対して出されるやつじゃん! 俺も有名になったもの……あれ? 「指名」されるほど有名だったか、俺?
ハンター達には知られているだろうけど、やつらは依頼主ではないだろうし……
いや、待てよ?
「もしかして、ハンターから武器を作って欲しいとか、そういう依頼?」
「そんな依頼を受ける筈がないでしょう? 依頼主は領主よ」
「領主?」
あいつかよ。




