従魔契約
大きく、というか「巨大化」した上に「MPドレイン」というスキル? まで持っているアルジェンティーナ。
危険だ、と認識されてしまうのはやむを得ない。
従魔契約が必要だというのは分かるのだが。
「あるー、『うえー』なのー」
シルヴィアがアルジェンティーナに向かって両手を挙げてアピールしている。背中に乗りたいらしい。
気持ちは分かるけどちょっと危険じゃないかな? 背の部分は2m以上の高さがあって、小さな子供が乗るには高過ぎるような。
アルがスッ、とうつ伏せになって乗り易くしてあげているが勿論乗れる高さではない。
するとスッ、と近付いたノワールが優しくシルヴィアを抱えると、アルジェンティーナの背中に乗せてあげた。
そのまま後ろに浮いてシルヴィアが落ちないように見守るつもりらしい。
ゆっくりと立ち上がるアル。
「きゃー! たかいー!」
シルヴィアは大喜びだ。君ら優しいねー。
庭を歩き始めるその巨大な後姿を眺めながら、俺はこの心優しき狼と別れなければならない可能性について考えていた。
夕食の時間。
大きくなったから食事量も半端無いのかと思いきや、なぜか全く食べないアル。
「食べないの?」
蟹が大量にあるので山盛り用意したのに。ベーコンの方がよかったかな?
ベーコンも食べない。うーむ……
「ある、おなかいたいの?」
「どうだろう?」
ヒールをかけてみたが光らない。体調が悪い訳ではなさそう。
大きくなった体が馴染む時間が必要なのかもしれないな。
夜。
庭に出て星空を眺めているとアルジェンティーナがやってきた。
「部屋だとちょっと窮屈か? リビングなら広いから今日はそこで寝るといい」
黙って隣に寝そべるアルジェンティーナ。その状態でも立っている俺より大きい。
「まぁ、外でも寒くないし、悪くはないな」
ここは家の庭だから、街道沿いで野営するより安全だからな。
また夜空を見上げる。
きらきら光る星の海。アルジェンティーナと一緒に旅をして、何度も見た空。
「お前、森に帰るか?」
これだけ大きくなったら他の魔物にもそう簡単にはやられないだろう。少なくともファングボアぐらいなら倒せそうだ。
「今なら、お前だけでも生きていけるんじゃないか?」
この世界で、1人だった俺にできた最初の仲間。俺の「友達」。
「ここにいると、『自由』が無くなる。従魔にならないと人の傍にはいられない、そういう人の都合があるんだ」
アルジェンティーナは答えない。だが聞いていて、そして、理解できる筈だ。
「お前は好きに生きればいい。『人の都合』に合わせる必要は無いぞ?」
従魔契約を結べば、友達ではなくなる。一方的な強制力を伴う契約で結ばれた関係を「友達」とは言わないだろう?
「……町を出た方がいい。皆に挨拶する?」
黙って俺を見ているが、同意した、でいいのだろうか?
眠そうな顔をしているシルヴィアに話しをする。
「アルは森に帰るよ、お別れの挨拶をしてね」
「……かえる?」
「そう」
「あしたあそぶ?」
「……しばらくは遊べないけど、会いに行く事はできるよ」
「わかった」
アルジェンティーナを見上げているけど、本当に分かったのかな? 眠そうだからよく分かっていないのかもしれない。
「森へ帰るんですか?」
「その方がいいと思って」
「そう、ですか」
ビアンカとも挨拶をして家を出る。エクレール達は門まで一緒についてくるみたいだ。
3号機に乗って夜の町を一緒に歩く。
門はとっくに閉まっていたが、俺とアルジェンティーナを見た門の兵士が大きい方の門を開けてくれた。
門を出て街道の先を見る。アルジェンティーナと来た道。
「大きな道をまっすぐ行けば最初に会ったあの森へ行ける。迷う事はないと思うけど……森まで一緒に行った方がいいか?」
街道を進むが、アルジェンティーナは門の前から動かない。
じっと俺を見ている。
「どうした? ……もしかして、帰らない気か? 説明しただろう? ここにいると自由が無くなるって」
理解している筈だ。だが、動かない。
「ここにいたいのか? 契約を結んで、従魔になるのか?」
アルジェンティーナはゆっくりと体の向きを変えて、門に向かって少し歩いて立ち止まり、振り返って俺の顔を見た。
家に帰るよ? そんな顔。
「そうか」
俺達は皆で家に帰った。
テイムのスクロールを使う。問題無く契約は結ばれた。
従魔 アルジェンティーナ
こうして俺は友達を失くし、代わりに新たな従魔を得た。




