大人しくしていたのに
猛烈な勢いで上昇していくMk-Ⅲ。勿論すぐに止める。
ローターを小さくしたのにMk-IIより上昇力が増しているのはなぜなのか?
Mk-Ⅲを観察してみると、どうもローターの回転速度が速くなっているように見える。
目で見て回転数が分かる訳ではないが、何というか勢いが違う感じ。
……小さくなった事で回転速度が速くなって、回転数が増したので結果として推力は変わらない、という事ではないだろうか?
ローターの推力が変わらないのに重量は(小さくなった分)軽くなったので上昇力が増した、と考えていいのでは?
うーむ。ではローターをもっと小さく……それで更に回転速度が増すかも。
確かローター(プロペラ)の回転速度には限界があった筈だが、それがどれぐらいなのかは知らないんだよな。
……まぁいいか。別に性能を全て使い切らなければならない、という訳でもないんだし。とりあえずこれでいこう。
家に引きこもっているとシルヴィアとの会話が増える。
それ自体はいいのだが。
「きょうはおしごとは?」
「今お休み中なんだ」
「おやすみ?」
「そう」
「いつはたらくの?」
「い、いつかなー……」
俺をじっと見つめるシルヴィア。なぜだろう、責められているような気がする。きっと気のせい……
やめて! そんな目で見ないで!? 別にサボっている訳じゃないから!
「そうだ! お庭で一緒に遊んでくれる?」
「あそぶ? いいよ」
よし、うまく切り抜けられた。
何して遊ぼうかなー、やはり夏の定番は水遊びだね!
シルヴィアと一緒に庭に出るとエクレールとアルジェンティーナもついてきた。
お前達も一緒に遊ぶか?
まずは水球を作る。
「ウォーターボール!」
ふよん。
夏の日差しを浴びてキラキラ煌めく水の球。
「きゃー!」
はしゃぐシルヴィア。シルヴィアは水球が大好きだよね。
よーし、いっぱい作っちゃうぞ!
「「「ウォーターボール!」」」
ふよんふよんふよん。
「いっぱい!」
「いっぱいだねー。もっと作れるよー、魔力はたっぷりあるから!」
「まりょくー! たっぷり?」
「そう、たっぷり!」
「どうして?」
その質問は想定していなかった。えーと……
「今日はお家から出ないから、お外で魔力を使う必要がないからだよ」
「ふうん?」
この説明でいいのか? たぶんシルヴィアは突っ込んでこないと思うけど……
すりすり。
ん?
アルジェンティーナが体を摺り寄せてきた。どうした? 遊ばないのか?
アルは水球よりもプールの方がよかったかな? そうだ、ちょっと大き目の水路を作って「流れるプール」にしてみよう。目新しさも必要だよね。
庭いっぱいの大きさで作るとしたらどれくらいMPが必要かな?
まぁ、MPはたくさんあるから問題は無いだろうが、一応確認はしておくか……
MP 75/280
「はぁああああ!?」
75だと!? 何でだ!?
何でいきなり200も減っているんだ? 今日はまだちょっとしか使ってないのに!
何で減った? いつ?
最近は家にいる時は(必要がないから)HP、MPの表示をオフにしていた。なのでいつ減ったのか分からない!
「どうしたの?」
「えっと、何て言えばいいのかな……」
シルヴィアが不思議そうな顔をして聞いてくるが俺にも答えられないよ。
フシギダネー……いやマジで何なのこれ!?
理由が分からない、というのは非常にマズいのだが、これは一体……
「ぐるる、ぎゅっ!」
ん? 今のは……アルジェンティーナか?
「ぎゅおん! がぁああ!」
「どうした!?」
急に苦しみ出した! 何!?
アルジェンティーナが伏せた姿勢で目を閉じて苦しそうにしている。
怪我をしているようには見えないし……何かの病気か!?
「ヒール!」
ぽやん。
「ぎゅっ、ぐぉおお!」
すぐに魔法をかけるが、治らない!? 足りないのか!?
「ハイヒール!」
ぼわん!
強く光る。だが様子が変わらない。何なんだ?
……いや、何か、大きくなってないか?
アルジェンティーナの体が膨らんでいるような……これはヤバい!
「エクスヒール!」
しょわしょわと小さな光がアルジェンティーナの体を覆い始めている。
だがその間も膨張、というか、ぐんぐん大きくなっているぞ!? 効いていないのか? 「光る」という事は効果を発揮している筈なんだが。
「アルジェンティーナ! 私の声聞こえる!?」
エクスヒールが効いているのか今は苦しんでいる様子はないが、目を閉じた状態で意識があるのか分からない。
更に体が大きくなっていく。おい、どこまで大きくなるんだ? 大丈夫なのか?
エクスヒールの光が消えた。同時に「巨大化」も止まる。
「アル?」
ゆっくりと目を開くアルジェンティーナ。普通の顔で見下ろしてくる。
「……大丈夫なの?」
凄く大きくなっているんだが。
見上げるほど高いその体高は2m以上、ゆったりと揺れている尻尾を含めた全長は5~6mぐらい? もっとあるかも。
外見そのものは小さい時と変わらないけど、何これ?
何の脈絡もなく巨大化してるんですけど!
「あるー! おっきー!」
シルヴィアは大喜びしているけど、普通ここは怖がって泣いたりするところじゃないの?
シルヴィアは大物なのかもしれないな。
アルジェンティーナはしれっとした顔でこちらを見ている。
おい、説明してくれませんかねぇ? ……無理か。これ、どうしよう?
「魔法を使う声が聞こえたんですが……!」
ビアンカが庭に走り込んで来た。そして巨大化したアルジェンティーナを見て絶句している。
「アルジェンティーナが急に苦しみ出したから魔法で治そうとしたんだけど、なぜかこうなった」
「これは一体……どうしてこんな事に?」
どうしてだろうね……俺も知りたいわ。本当に、どうしてこうなった。
「分からないからジュディに相談しよう」
通話の魔道具を使用してみる。
確か使い方は……魔道具の宝石部分を手で握ってしばらくすると、手の中で宝石がブルブル振動し始めた。
初めての通話だ、緊張するな。気持ちを落ち着かせて……そうだ、小粋なジョークでも……
「もしもし、私セシリア。今あなたの後ろにいるの」
(ジュディよ。『もしもし』って何かしら?)
「そっち!?」
突っ込むべきは「今あなたの後ろにいるの」の方だろうに!
「もしもしは通話の際の挨拶です。今お話してもいいですか?」
(急ぎの用でなければ後にして欲しいのだけど)
「えっと、緊急、かもしれないというか……」
忙しいのだろうか?
急ぎか? と言われると、どうなんだろう? いますぐ何か不都合がある、という訳ではないのかもしれないけど。
「アルジェンティーナが大きくなっちゃって」
(……意味が分からないのだけど)
「ですよねー」
俺も意味が分からないわ。
「えっと、時間があったら相談に乗って欲しい……」
(ちょっと待って……分かったわ。そちらに行くわね)
「よろしくお願いします」
急に態度が変わったような? まぁとりあえず、これでいいだろう……
ジュディはすぐに来た。そして大きくなったアルジェンティーナを見て黙ってしまっている。
おい、何か言えよ。
「何か急に大きくなっちゃって」
「……あなたは家で大人しくしているんじゃなかったの?」
「ええっ!?」
怒られている!? なぜに!? 俺は何もしていないのに!
「私は十分大人しくしていましたわ」
「何も心当たりはないのかしら?」
「……」
無い訳ではない。
ジュディが来るまでの間考えていたのだが、アルジェンティーナが苦しみ出す直前に突然ごっそりとMPが減っていた件。あれが何か関係しているのではないか?
他には特に異常な事は無かった筈だし、とはいえどう説明したものか……
「心当たりがあるのね?」
「因果関係は不明だけど……」
一応話してみる。
「そう。つまり、あなたはウルフが『MPドレイン』をして、その結果巨大化したと考えているのね?」
「いや、そこまで考えていた訳じゃ……MPドレイン?」
「魔物の中には魔力を奪うスキルを持っているものもいるわ。ウルフがMPドレインのスキルを持っているという話は聞いた事がないけれど」
アルジェンティーナが魔力を奪ったと考えていいのか? 唐突過ぎて理由も分からないけど、それより、
「魔力で体が大きくなるというのはよくある事なの?」
「よく、と言えるかはともかく、魔法によって大きくなったり、あるいは大きく見せるという魔物はいるわね」
むぅ、そうなのか。
ではこれは……
「どうすればいいの?」
「そうね……必要なのは従魔契約ね」
「えっ?」
「魔力を奪う魔物は危険よ。特に魔法使いにとっては。つまり、このウルフを放置したら魔法使いである貴族が黙っていないわ。従魔契約は絶対に必要よ」
「し、しかし」
「こんな事もあろうかと、これを持ってきているの」
どこからか取り出されるスクロール。それは、
「テイムのスクロール?」
「ええ。早速使ってもらうわ」
いやちょっと待って!? えーと、そうだ!
「それ、いくらなの?」
「金貨1200枚よ」
「おいちょっと待て」
2割も値上がりしてるじゃん!
「なぜそんな高値に? ギルドが手数料を乗せているの?」
むっ、とした気持ちを隠さずに聞く。高過ぎだろう!?
「手数料なんて取っていないわ。これは工房からの仕入れ価格よ」
むっ、とした顔で答えるジュディ。
「では、値上げの理由は?」
「工房によると原材料の価格の高騰による苦渋の決断、だそうよ」
何、そのどこかの食品メーカーみたいな説明。スクロールは小麦粉か何かで出来ているのか?
「しかし……」
「この間白金貨10枚の収入があったのだから十分払えるでしょう?」
「確かに金はあるけど」
前回の手付金を皆で分けようとしたら、ビアンカは大蟹の討伐の場にはいなかったからという理由で受け取りを辞退して、シュバルツとノワールもいらない、みたいな否定の雰囲気だったのでエクレールと半分にした。
つまり今俺は5億以上の金を持っているのでもちろん払う事はできる。できるのだが……
「ちょっと考えさせてもらえないだろうか」
「……いいけど、なるべく急いでね。契約を結ぶまで外に出してはだめよ? いいわね?」
「……了解です」
ジュディはスクロールを置いて帰っていった。忙しいようだな。
さて、どうしたものか……




