サポートしましょう 2
「うぉおおおお!」
「速い! 速いよ!?」
「ぶつかる!?」
「危ねーっっ!?」
「うろたえるな」
森の中を移動し始めたらハンター達が騒がしい。
草が伸びていて人の脚では歩きにくい、鬱蒼とした森の中をパワフルな土ゴーレムの隊列が軽快に走り抜けていく。
土ゴーレムによる移動速度は当然人間が歩く速度よりは速いが、それでもせいぜい20~30km/h程度で、騒ぐほどではない筈だ。だが、まぁ当然森の中であるから真っ直ぐ進む事はできない。
次々と前方に立ち塞がる木々を華麗にかわしながら、速度を落とす事無く走り続けるのだが、もしかしたらそのかわし方に異議があるのかもしれない。もちろん異議は認めない。
「も、もう少しゆっくりでもいいんじゃ!?」
「問題無い」
進路を塞ぐ倒木も華麗にジャンプ! して飛び越える。決して速度は落とさない。
「ふぅぉおおおお!?」
「飛んだ!? 飛んだぞ!!」
「今ふわっ、てなった!?」
ハンター達が騒がしい。もしや、楽しんでいるのではあるまいな?
「め、目が回る……」
「すぐに慣れる筈だ」
一緒にMk-IIに乗っているケヴィンの調子が悪そう。乗り物酔い? 早過ぎないか? ……Mk-IIのコクピットは5号機のコクピットに比べるとより地面に近い位置にあるから、速度を速く感じやすいのかもしれない。ヒールをかければ治るだろう。ヒール!
たぶん、シュバルツ達のいる所へ到達するより前に、一度は蟹達に遭遇するだろうけど、それまでには慣れて……!? 斥候役のチェーンソーゴーレムの視覚が蟹を捉えた!
「蟹を発見した! お前達、すぐに接触するぞ? 気を引き締めるんだ!」
「「「お、おうっ!」」」
移動を始めて数分で蟹に遭遇した。
むぅ。土ゴーレムの移動速度が速いとはいえ、これほど早く遭遇するとは。
本当に蟹の密度が半端ないわ。
「お前達、すぐに降りて戦闘準備!」
「「「お、おう!」」」
蟹は全部で4体。まずは危険な毒針付きの尾を切除しないと。
毒針「あり」と「無し」とでは難易度がかなり違うし、「あり」だと勝てるにしても時間がかかるだろうから、ここは事前に切除一択だ。異論は認めない。
俺が指示を出すまでもなくノワールが最後尾からすっ飛んでいって既に1体倒している。まぁ同じパターンだから分かっているよね。エクレールも周辺警戒に入っている。
2号機とハンター達が降りた後の5号機を使って3体の蟹を取り押さえて、チェーンソーゴーレムで尾を切り落とす。
すぱぁ……
うむ、相変わらず素晴らしい切れ味! すぱすぱ切れちゃうぞ! これでよし。
ハンター達は……態勢を整えたようだ。こちらもいいな。
「お前達、用意はいいな? いくぞ!」
「「「おう!!」」」
待ち構えているハンター達の前にぽいっ、と蟹を投げ込んでやる。即座に正面からシールドバッシュをかます2人の盾役!
ドガッ!!
蟹の注意を引き付ける事に成功した盾役に蟹の大きな「鋏」が襲い掛かるが、それを難なく受け止める!
やはりこの2人は上手いな、安定しているわ。
もう1人盾を持っているやつがいるが、こいつは攻撃役のガードらしい。その攻撃役は珍しく斧槍を持っている。いわゆるハルバード。自分で作っといてなんだが、ハルバードって使いにくくないか? 俺は実戦で一度も使った事ないわ。
攻撃役は斧槍の「斧」の部分を蟹の腕の付け根辺りに叩き込んでいる。距離を取りながら切りつけるような攻撃をしたいのなら確かに斧槍は有効かもしれない。
時々、蟹が「裏拳打ち」のような動きで攻撃役を襲おうとするが、ガード役の盾に阻まれている。そして正面から注意が逸れると、すかさずタワーシールドによるバッシュが炸裂する! 連携が取れているね!
攻撃役がしつこく斧槍を叩き込んだ成果が現れて、片方の鋏が腕ごと落ちた!
蟹は口から泡を吹き出しながら(たぶん怒っているんだろう)残った鋏を振り回して威嚇しているが、ハンター達はさっと距離を取って動じない。
攻撃役とガードはすぐに反対側に回り込んで同じ攻撃を始めている。
うーむ、手堅くて安定した戦いぶり。一応サポートできるようにスタンバっているのだが、必要ないかな?
もう一つの鋏も切断された! これで蟹の攻撃手段は無くなった。どうするのか? と思っていると、2人の盾役がさっと左右に分かれて側面へシールドバッシュをかまして……いや、そのまま押さえ込んでいるぞ!?
そして1人だけ攻撃に参加せずに、長槍を構えてじっと機会を窺っていたもう1人の攻撃役が槍を構えて正面から突撃した!
「うぉおおおおお!」
ドシュッ!!
いい踏み込みだ! 蟹の正面、口の中へと長槍が深々と突き刺さった!
一瞬、大きく痙攣するような動きを見せた後、蟹は崩れ落ちた。
うむ、見事な勝利!
「「「はぁ、はぁ、はぁ……」」」
「おめでとう、お前達は蟹を倒したよ」
肩で息をしながら何だか呆然としているハンター達に声を掛ける。
「た、倒したのか」
「や、やった……?」
「ほ、本当か?」
「本当だ、よくやった」
「「「お、おぉおおおおおお!!!」」」
雄叫びを上げ、武器を空へ突き上げて喜ぶ男達。おめでとう、お前ら。
「まだ2体あるけど、休憩する? それとも2体目いく?」
「まだやれるぞ!」
「どんとこい!」
「やってやるぜ!」
目をギラギラさせながら意気込む男達。意気軒昂ってやつですね。
では2体目いってみよー。ぽいっ!
2体目も全く同じパターンで倒すケヴィン達。うむ、手堅い。
3体目の前にはさすがにキツそうだったので、全員にヒールをかけて体力を回復させる。
「3体目いくよー!」
「「「任せろ!」」」
……3体目も全く同じパターン。少しはアレンジとかアドリブとかいれても良いんじゃないの? 手堅過ぎる……リプレイ動画を見ているような錯覚さえ覚えるわ。
ドシュッ!
槍が深々と突き刺さって蟹が倒される。
そして、まるでベテランのハンターのような冷静な態度で蟹の状態を確認しているケヴィン達。短時間で変わり過ぎじゃない? これが慣れというやつだろうか。
「良さそうだね」
「あぁ、セシリア達のお陰だ。どれだけ感謝してもしきれないよ」
「そう」
これで勇気を持つ事が、いや、取り戻す事ができたかな?
少なくとも、またハンター稼業を続ける事はできる筈だ。そういえば、
「蟹を売ったお金で次はもっと強力な武器を買うといい」
助言の一つでもしてやろう。攻撃力を上げれば、ケヴィン達はそこそこやれるのではないだろうか。
「……俺達にも金を分けてくれるのか? それなら高性能な防具を買いたい。後ポーションや失った装備類も買い直さないと」
「そ、そうか」
助言失敗。どうやら防御力の強化の方が重要らしい。
そういえばこいつらはポーションを持っていて使ったんだったな。守り優先というパーティーの方針があるのかもしれない。慣れない事は言うものではなかった……
「その、お金の件なんだけど」
何か言い難そう。どうした?
「助けてもらった謝礼金が必要だと思うんだけど、いくら払えばいい? それと、治療代もいるだろう?」
「あぁ……」
そういうのもいるんだったな。治療代はともかく、謝礼金か……
「謝礼金は無くていいよ、治療代は蟹の売却金から引いておこう。金貨一枚ね」
「な、無くていいのか!? 本当に!?」
「ああ」
「その、分配金はどれぐらい?」
「1体につき金貨15枚ぐらいらしいよ。全額受け取るといい」
「「「ぜ、全額!?」」」
「ああ」
呆然とするケヴィン達。嬉しくないのか?
「ぜ、全額は受け取れないよ!? 俺達がサポートしてもらったのに!」
「問題無い。何故なら私達は蟹を50体以上倒していて『お金持ち』だから」
「「「ご、50!?」」」
しかも「マザー」という大物まで倒している。きっと高値で売れるに違いない。
ふふふ、楽しみだな。
「という訳なので謝礼金は要らない」
「そ、そうなのか。その、凄いんだな」
ケヴィン達は尊敬のまなざし……ではなく、何か別の、どこか暗い感情を持っているような目で俺を見ている。どうした?
口では褒めているけど……もしかして、幼女との力の差を知って悔しいとか?
そうだとしてもそれは仕方ないんだぞ? こちらは「魔法使い」なんだから。
「俺達も、その、もっと頑張るよ」
「そ、そう。まぁ、ほどほどにね」
決意がこもった目。何か変なスイッチが入ったのではなかろうか。せっかく助けたのだから、頑張り過ぎて死なないようにしてもらいたいものである。
「その、助けてくれた上にサポートまでしてくれて、さらに金まで……セシリアは慈悲深くて、まるで『聖女』みたいだな」
「せいじょ?」
急に何か言い出した。せいじょって何だ? ……まさか、「聖女」という意味ではないだろうな?
「おおっ! そうだな、きっと聖女だ!」
「俺もそう思うぜ!」
「そうじゃないかと思っていました!」
「おいやめろ」
制止しているのに、盛り上がって聞いちゃいないハンター達。聞けよ。
「そういうのやめて欲しいんだけど」
「いや、きっとここで助けてもらったのは神の思し召しなんだと……」
「そうか! 神の御使いなのか!」
「聖女セシリア!」
「おいマジでやめろ」
さらに盛り上がる。聞く気無いの? ……俺を甘く見ているようだな。
土ゴーレムにウォーハンマーを持たせて、全力で地面にハンマーを叩きつける!
ドゴォオッ!!
衝撃で地面が揺れ、草と土が舞い上がった後にちょっとしたクレーターが出来上がる。
そして静まり返るハンター達。俺の話を聞け。
「『聖女』呼ばわりは大変迷惑なので、今後一切その表現は使わないでいただきたい。もし今後どこかで私に対する『そのような表現』を耳にしたら、私は気が動転して何をしてしまうか、自分でも分かりません」
土ゴーレムでウォーハンマーをぐるんぐるん振り回して「何をしてしまうのか」をアピールする。
「お、おう、分かった」
「絶対言わないぜ」
「分かってくれて大変嬉しい」
貴族が支配するこの世界で平民の幼女が「聖女」呼ばわりされていい事があるとはとても思えない。厄介事を引き寄せる気しかしない。
こいつらだけで盛り上がるならばともかく、ハンター達の横の繋がりで広がったりしたらマズい。ここは断固たる態度でしっかりと止めておかねば。
「蟹の討伐にも成功したし、撤収しよう」
「わ、分かった」
さーて、シュバルツ達と合流しようか。
移動を再開してすぐにまたわらわらと蟹達が現れたが、そいつらは全てチェーンソーゴーレムで瞬殺してやった。




