新型で解体して実食して改良型で
蒼空を貫くがごとく、空に向かって伸びる巨大なエクレールの角。
思わず見惚れてしまうほど美しい、その巨大な角でブッ刺してくれれば「蟹」ごとき瞬殺でしょう?
押さえ付けた時点で「マザー」に突き刺せば良かったんじゃ?
(『蟹ごとき』に、この角は使わない)
えっと、何それ? ……それはプライド的な話なの? 「ドラゴンの誇り」みたいな。
(そう)
そうか、なら仕方ないな。誇りは大事だからね。
倒したのはいいが、これで終わった訳ではない。むしろここからが重要な局面だ。「安否確認」をしなければならない。
エクレールに「マザー」をひっくり返してもらう。腹側は何だか複雑な形状をしているな。この外殻を切り開いて腹の中を見なければ……気が進まねー。全く愉快な作業ではないわ。でもやらないと……はぁ。
土ゴーレムに戦斧を持たせて外殻を切ろうとしたのだが。
ガッガッガッガッガッ……
ちっとも切れねぇ! いや、少しは切れている。うっすらと線のような切れ目は入ってはいるのだが。
ガッガッガッガッガッ……
切れません。
おかしい、戦斧も土槍と同じ強度がある筈なんだが、なぜ切れない? 土槍は頭部を丸ごと破壊したというのに。パワーが足りていないのか?
だとすると斧よりも強力な道具が必要だ。
斧よりも強力に切れる……「チェーンソー」か。
もちろんチェーンソーをそのまま作ってもいつぞやのボートみたいに形だけで動かないだろう。だが「ゴーレムの一部」であれば動く筈だ。スクリューやプロペラが動くのだからチェーンソーでも動く筈! 試してみよう。
「クリエイトゴーレム!」
もこもこ
右腕がチェーンソーなゴーレムが出来上がった。出来上がった……のだが。
「マザー」の腹部の形状が複雑なので結構厚みがあるのかもしれない、という事で大きなサイズのチェーンソーを思い浮かべたらチェーンソー部分の長さが2m以上になった。
そしてこの森の土が黒い色なので出来たゴーレムの色も黒っぽい。
何というか、見た目が異様に迫力があるというか……迫力を通り越して、もはや「猟奇的」とさえ言える。何か怖いわ、こいつ。
もしも俺が薄暗い森の中で、鈍く黒光りするチェーンソーを構えたこのゴーレムに遭遇したら悲鳴を上げてしまうかもしれない。
自分で作ったゴーレムなのに!
ま、まぁいいだろう。頼もしい、と言えなくもない。とりあえず試運転だ。
さぁ! 唸れ! チェーンソー!
…………
無音で動き出すチェーンソー。そうか、こいつはエンジンどころかモーターですらなく、魔法で動くのだから音など出る筈がなかった。唸らなかったね。
そして振動もない。騒音も不快な振動もないとは、労働者に優しいチェーンソーと言えよう。
まぁ、土ゴーレムは労働者じゃないけど。
動作確認ができたので「マザー」の腹部を実際に切ってみる。見せてもらおうではないか、チェーンソーゴーレムの性能とやらを!
すぱぁ……
外殻を紙のように簡単に切り裂いてくれる。いいぞ!
腹部全体をすぱすぱと、あっという間に切り終えてしまった。素晴らしい!
土ゴーレムでめりっ! と外殻をめくってみると、断面は複雑な形状だが殻自体は意外と薄い。いや、かなり薄いぞ、これ!? 厚みが10cmもない、こんな薄さで形状を保てるのか? これほどの巨体を構成する殻がこの薄さとは、実際にこの目で見ているのに信じ難いわ。
この殻、もしかしてもの凄く固いのか? 素材として高い価値があるのではなかろうか? 売ればいい金になるかもしれない。
少しだけいい気分になったがもちろん長続きする訳もなく。いよいよ確認作業をしなければならない。
ゴクリ。
もしハンター達がこいつに食われていたのなら、もうある程度消化され始めているのではないだろうか?
つまり体の表面がデロデロに溶け始めた、むごたらしい遺体になっている……そのグロさはこれまでに見た腕や足の比ではないだろう。
うっ、ヤバい、想像しただけで吐き気が! コックピットから出よう、中でゲロに塗れたくないから。
外に出た途端、生臭い臭いが強くなった。そうか、臭いの問題もあった。
どうしよう、もし遺体があっても近付きたくないし、そもそも直視できる気がしない。ゴーレムの視覚で確認しよう、そうしよう。
恐る恐る「腹の中」を見る………………無い、な。? 無いぞ? なにも無い。空っぽだ。
どういう事だ? もしかして他の場所……他ってどこか分からないけど、体内全て切り開いてみるか?
全ての内臓を切り開いてみるがどこにも遺体らしきものは無い。
うーむ……ハンター達は犠牲になっていなかった、という事か。
それ自体は喜ばしい事ではあるのだが(吐き気も治まったし)、これでまた捜索を続行しなければならなくなった。本当にどこにいるんだ? この周辺にいるとは考えにくい。そんな踏破力が低ランクハンターにあるとは思えないし、途中には蟹もうじゃうじゃいたし。
……逆の可能性はないだろうか? つまり、既に狩りを終えて森を出ているという可能性。
結構時間もたっているし、これだけ探しても見つからないのなら、もうこの森にはいないのかもしれない。
他のハンターの意見も聞いてみよう。最後に助けたハンター達の所に一旦戻るか。
この「マザー」もノワールに収納してもらわないと。
それにしても、「マザー」は何の目的で森の中を移動していたんだろうな?
腹の中が空っぽという事は食べ物を探していたのだろうか?
(たぶん魔力源を探していた)
知っているのかエクレール……魔力源? 魔力源って何?
(私か主。たぶん主)
えっと、えっ? 俺?
……それはつまり、魔力源って「魔力を持つ者」という意味?
(そう)
そうなのか。もしかして、この「マザー」の移動跡が蛇行しているのは俺達が森の中をあちこち移動していたからか? その都度進行方向を変更していたのか。
それで「魔力源」を探してどうしようと?
(もちろん食べる)
もちろんなのか。そうか……
あの巨大な鋏を使ったあれは、攻撃じゃなくて捕まえる動作だったのか。
っておい、冗談じゃねーぞ、この蟹めが! 食べるつもりだったのか、俺を!
こんな小さな幼女を食べたところで腹の足しにもならないだろうに!!
はぁ、はぁ。なんて不愉快! 返り討ちにしてやってざまぁ! こっちが食べてやるわ!
(食べていいの?)
え? 今食べたいの?
(食べたい)
そ、そうか。こいつを倒せたのはエクレールのおかげだから食べてもいいけど……
「マザー」の肉がどんな味なのか興味はあるけど今はまだお腹いっぱい状態だから食べられないわ。
エクレールもたくさん食べた筈なんだけど、ドラゴン形態だと別腹なんだろうか? 別腹なんだろうな。大きさが全く違うからな。
おもむろにその巨大な手でむしっ、と脚を毟り取って食べ始めるエクレール。ん? エクレールが脚を毟り取った時に脚の付け根から何か落ちたように見えたけど、気のせいかな?
バリバリッ! メキメキメキ!
とても食べている時の音とは思えない破壊音をたてながら、自分の全長よりも長い蟹の脚を殻ごと豪快にかじっている。ワイルドだねー。
さっきの「何か」が気になったので落下地点と思われる所に近付いてみる。
そこには丸くてうっすらと黄色く光っている何か……何だこれ?
直径5~60cmぐらいの大きな玉? 半透明の……何だろう?
何となくだけど、価値がありそうな気がするのでこいつは回収して魔法袋にしまっておこう。
あと、バリバリ食べているエクレールの口からパラパラと落ちている破片がなぜか気になる……なぜなのか。はっ!? いかーん!
「エクレール! ちょっと待って!」
(何?)
「殻」に価値があるのなら当然脚の部分の殻だって価値があるんじゃないか?
高値で売れるかもしれない殻を豪快に食べているけどちょっと待って欲しい。
「その脚だけど、殻ごと食べたいの? 殻も美味しい?」
(別に)
「なら中の身だけ食べて殻は残しといてくれる?」
(分かった)
ふぅ、これで良し……おや? 分かったと言いながらなぜか食べないエクレール。困惑したような雰囲気が伝わってくる。どうした? ……はっ!? そうか!
エクレールの顔を見て気が付いた。ドラゴンの口では蟹の脚の身だけ食べるというのは難易度が高いに違いない。それは口の形状からも明らかだ。
これは俺の配慮が足りていないと言わざるを得ない。すまない、エクレール!
あれが必要だ。そう、蟹を食べる時に必要な「あれ」をエクレールの手の大きさに合わせてイメージ!
「カニフォーク!」
すっ、と黒くて巨大なカニフォークが出来た。あとは使い方を……どうやって伝えればいいんだ?
手に持ってお手本を見せるなんて不可能だ。カニフォークも蟹の脚も幼女の手には巨大過ぎる。どうしよう?
(使い方をイメージすればいい)
そうなのか。では自分が食べているつもりでその光景を脳裏に思い浮かべてみる。イメージイメージ!
問題なく伝わったらしい。エクレールはその大きな手でカニフォークを掴むと巧みに使いこなして蟹の身を取り出して食べ始めた。
「どう?」
(美味しい)
それは良かった。
エクレールが食べているうちに大きめの破片だけでも拾っておこう。これも売れるかもしれないし、勿体無いからな。
散らばっている破片を土ゴーレムで拾い集めていると何か既視感のようなものが。こんな光景をどこかで……あぁ、あれだ。ドラゴンの鱗を拾い集めていたやつ。
あれと似ているな……何ということでしょう! 俺も「落ち穂拾い」をしてしまうとは! 農婦の気持ちが分かった気がするわ。お金は大事だねー。
(もう一本食べていい?)
まだ食べるの!? まだ捜索は終わっていないんだけど。破片拾っている俺が言うのも何だけど。
食べてもいいけど手早く済ませてね。
(分かった)
むしっ、とエクレールが毟り取った脚の付け根からまた何か落ちた。さっきと同じやつかな? ……同じやつだった。こいつも拾っておこう。
さて、破片もあらかた拾い終えたし、エクレールが食べ終わる前に出発準備を済ませよう。
可変型を使うつもりだったけどすぐに不都合に気が付いた。ここには滑走路があるけどノワール達がいる所には無い。離陸はできても着陸ができないわ。エクレールに運んでもらうしかない……待てよ? ちょっと考えてみよう。
今回みたいにパーティメンバーが別行動になる可能性は今後もあるのでは?
エクレールがいれば問題無いが、エクレールがいないと空を飛べないというケースが生じるのは不便だな。
森以外なら(離着陸ができるから)困らないが、ハンターとしての活動を考えるとその活動場所は森の中、という事も多々あるだろう。
今回のような「空を飛べる事の便利さ」を考えると森の中でも離着陸ができる改良型可変ゴーレムが必要、というか欲しい。
垂直離着陸式可変ゴーレム……ヘリコプターみたいな?
ふむ、この可変型を元にして「ヘリコプター型」への変更(改良)をイメージしてみよう。
まずエクレール以外が乗る場合を考えて開放型のコックピットに……ダメだ、これはマズい。
ヘリコプター型だとメインローターがあってその下にコックピットがあるのだからローターからの風圧を直接受けてしまう。体への負担が大きいだろうし、まともに呼吸することすらできないかも。
ローターの位置を別の所に……「ティルトローター型」ならいいか? 翼の両端にローターがあるのだから搭乗者が風圧を受ける事はない筈だ。よし、このアイデアを採用しよう。
ローターの直径は約3m。今までのプロペラより大きな物にする。
開放型のコックピットだと空気抵抗が大きくなるから、代わりに「前面投影面積」を減らそう。
ゴーレムの胸の部分にあるコックピットを切り離して移動できるように、アーム状のヒンジでコックピットと胸の辺りを繋げて、飛行形態時には90度上方(前方)に移動させる事で今までの上半身を90度折り曲げる構造よりも空気抵抗が減る筈だ。たぶん。
翼自体にもヒンジのように90度向きを変えられる構造が必要だ。
後は、コックピットの前に大きなカウル(風防)をつけて飛行時の風を遮るようにして、ゴーレム形態時には飛行ユニットがコンパクトになるように翼だけでなくローターも折り畳めるようにしよう。
ふむ、こんなところかな? イメージがまとまった。ではいくぞ!
「クリエイトゴーレム!」
もこもこ
改良型垂直離着陸式可変ゴーレム(長い)が出来上がった。まずは動作確認。
折り畳まれた翼とローターを展開。
全ての舵面、フラップ・エアブレーキ……問題無く動く。
翼を垂直の向きにした状態でティルトローターの動きを確認する。
「水平位置」から「斜め上」「真上」までスムーズに動く。上出来だ! 早速試験飛行を始めよう。
翼を水平の向きにしてローター始動!
ヒュンヒュンヒュンヒュン……ブォオオオオ!
風切り音が高まり、砂塵が舞い上がるのが見える。少し離れた位置にいる俺の所でも風圧を感じる。
ふわっ
えっ?
想像よりずっと早く浮き上がる改良型垂直離着陸式可変ゴーレム。(長いわ)
ローターが大きいからか? 推力が増しているのかもしれない。
ぐんぐん上昇していく可変型。(略した)
力強いぞ! これはいいな!
上空で飛行形態へと移行する。
コックピットの移動もローターの角度の変更もスムーズ。成功だな。
機体を傾けて大きく旋回しながら飛行するその姿は、ちょっと前が長く見えるけど……悪くない。いや、格好良い!
この改良型をMk-IIと名付けよう。次は実際に搭乗して試験飛行その2を……
(主)
エクレール? 食べ終わったのか?
近付いてきたエクレールは既に幼女形態になっていた。つまり、全裸である。
服を着てもらわないと、裸のままノワール達がいる所へ連れて行ったら事案発生だ。
服を渡す。着たら一緒にMk-IIに乗って……ん?
服を身に着けたエクレールに抱えられてしまった。いわゆるお姫様抱っこ。
即座に上昇を始めるエクレール。ちょっ!? ちょっと待って!? Mk-IIが……
更に大加速を始めるエクレール。ちょっ!? またブラックアウトがが!!
視界が暗い!
何度もブラックアウトを経験するのは健康に良くないと思うの。大加速止めーや!
加速を止めないエクレール。聞こえないふりか!
はーなーしーをー聞けーー!!
皆さんお久しぶりです。今更ですが新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
また、初めてレビューをいただきました。銀輪様、素敵なレビューをありがとうございます!
本当に嬉しいです!!




