レスキュー幼女 3
再びエクレールに抱えられて空を飛ぶ。今度は少しだけゆっくりだ。
ほんの5~6秒の飛行で地上へ降りていく。近いな、間に合っているか?
森の中にいたのは4体の蟹と……蟹だけ? 人の姿は見当たらない。
外れか? いや、既にこいつらに襲われて食べられているという可能性もある。
一応調べなければ。
蟹達と対峙する俺達。
蟹達は突然現れた俺達を警戒しているのか動きを止めている。とりあえずこいつらを倒してもらわないと、って指示を出すまでもなくノワールがザクザクと脚を突き刺して倒してくれた。
特に問題なく倒せたが、問題はここからだ。蟹の腹を捌いて人の腕や足を食べていないか確認しないといけない。
そしてもし腕や足があった場合、その持ち主についてはもう救助は間に合わないかもしれないな……
ノワールが蟹の腹を切り開いていく。腹の中には……何も無かった。
他の3体も腹の中は空っぽだった。この辺には獲物がいないのか?
まぁいい、まだハンター達が生きている可能性はあるという事だ。次に行こう。
次は「当たり」だった。
3体の蟹に襲われている2人のハンター達。2人? 5人じゃなかったのか?
2人は大木を背にして低い姿勢で盾を構えて蟹の攻撃をいなしている。
E~Fランクの筈だけど、中々の手練れのようだ。余裕さえ見て取れる。
もしかしたら彼らだけで倒せるかも? 一応聞いてみよう。
「おーい、助けは必要か? 助力してもいいかな?」
「今すぐ助けてくれ!」「もう死にそうだ!」
叫ぶハンター達。余裕など無かったようだ。気のせいだったか。
ふわりと近付いたノワールがザクザクと脚を突き刺して終了。
「無事でなにより」
「助かった!」「あれ? お前、セシリア!? 何でこんな所に?」
近くで見るハンター達は汗だくでヘロヘロになっていた。こいつらも若いなー。
でも今まで助けたやつらの中では一番ましな装備を身に着けている。
「お前達2人だけ? 5人パーティーと聞いていたんだけど」
「他の3人ならここにいるぞ」
2人の後ろ、木との間に3人倒れている。仲間を庇っていたのか。下草に隠れていて見えなかったわ。
3人とも片足を切断されて……いや、盾役の2人もだ! こいつら足を失った状態で戦っていたのか!? スゲーな! って感心している場合ではない、すぐに止血をしないと……あれ? 出血していないな?
「治療をするけど、血が止まっているのは何で?」
「あぁ、ポーションを使ったんだ。1人1本ずつ持っていたから。治療ならこっちの3人を先に治療してやってくれ。こいつらは足を切られた時、すぐにポーションを飲む事ができなくて、そのぶん出血量が多いんだ」
倒れている3人も血は止まっているが具合は悪そうだ。とりあえずヒール。
切断された足は……ノワールが蟹の腹を切り開いて、ぶつ切りにされた足の部位をいくつか取り出してくれた。それだけ? 他は? 無いっぽい。
どうやらここの蟹達は食事よりハンター達への攻撃を優先していた模様。他の足はどこかに転がっているのか。
辺りを見渡すが、下草がいっぱい生えていて地面が見えない。草を掻き分けないと。
幼女が探し物をするには難易度高過ぎぃ! 見つかる気がしない……でも、一応は探してみる。MPを節約したいから。近くにある筈だよな?
だがしかし、ごちゃごちゃした雑草が俺の胸の高さまで伸びていて掻き分けているだけで疲れてしまう。
はぁ、はぁ、はぁ。
ここら辺の雑草、妙に弾力がありやがるし、俺にとっては見通しが悪過ぎて時間も掛かる……すぐにギブアップ。
何で近くで見つからないんだよ? 意味が分からん。
ノワールも一緒に探してくれたが見つからなかった。何でだ……
ダメだ、時間が惜しい。これ以上探していられないわ。
まだ1パーティー残っているから先を急がねばならないのに。MPも惜しいけど仕方ない、ここはエクスヒールで再生しよう。
MP 20/200
いよいよヤバい。
「ノワール、MPを譲って欲しいのだけど」
そっと俺に触れるノワール。
MP 70/200
うむ、って70!? 50しか増えていないぞ!? なぜ!!
「あの、もう少し譲ってくれないかな? できれば100ぐらい」
否定の雰囲気。なぜなのか。
じっとノワールを見つめてみる。
ノワールも青い目で俺を見ている。ダメなの? ダメっぽい。
これは予想外! いつも無条件で「200」譲ってくれるとは限らない、とは思っていたけど、ここで「50」というのは想像していなかった。
これはマズい……いや、そうでもないか?
使うのは最大でもあと「エクスヒール5人分」だけの筈。足りるからいいのか。
「あと5人分あればいいでしょ?」という事なのか? きっとそう。
「足を治してくれてありがとうな!」「お前のおかげで生き延びる事ができたぜ!」「ありがとうセシリア!」
大喜びで俺の頭をぐりぐりと撫で回すハンター達。いいってことよ。だが、ぐぉおおお……
「おい! ぐりぐりはやめろ!!」
首が折れそうだよ! 力を込め過ぎだろうがバカ共!
こいつらも血と汗の臭いでヒドい事になっているけど洗浄魔法は使ってやらない。
それはMPが残り少ないからであって、決して首が痛くてムカついたからではない。
「それじゃ私達は他のパーティーの捜索に向かうけど、お前達自力で森を脱出できる?」
「待ってくれ。他って?」
「今この森では蟹が大量に発生していて、お前達と一緒に来たハンター達がみんな襲われているんだ。あと1つ、男5人のパーティーの安否が確認できていないので……」
「男5人? それは『エヴァルスの栄光』の事か?」
何その大層な名前。
「名前は知らないけどたぶんきっとそれ。どの辺にいるか、何か知らない?」
「森の中で途中までは一緒だったけど、狩場が重ならないように距離を取ったから今どこら辺にいるかは分からない。俺達も結構移動しているし、向こうもそうしている筈だ」
「そう」
「それより! 蟹が大量に発生しているって、ここだけじゃなくて?」
「そう」
真っ青になるハンター達。
「本当なのか!?」「お、おい、どうする?」「無理だって! 武器も壊れちまったし」「ポーションももう無いぞ!」
「また蟹と遭遇したら今度こそやられてしまうぞ!?」「自力で脱出するなんて……」
無理っぽい。
縋り付くような目で俺を見るハンター達。うん、まぁ、しょうがない……
「ノワール、こいつらを守ってやって。お前達、私達は残りのパーティーの消息を確認できたら戻ってくるけど、それまでここで待っているか、それともノワールと一緒に移動して他のパーティーと合流後、森を脱出するか、好きな方を選んで」
顔を見合わせて相談を始めるのか? と思いきやリーダーらしきハンターが折れた短槍と壊れた盾を俺に見せながら話し始めた。
「ノワール? というのか。セシリアの従魔が強いのはさっき蟹を倒したところを見たから分かるけど、俺達は皆武器も盾も壊れてしまったからこの状態で森の中を移動したくない。ここで待っていればギルドの職員が救助に来てくれるのか?」
「いや、たぶん来ない。来ているのは私達だけだから」
それを聞いたリーダー? は眉を顰めて困り顔。まぁ気持ちは分かるけど、悪いがあまり待ってもいられないので先へ行かせてもらう。魔法袋から武器と盾を人数分取り出して渡す。そしてトーチカも作っておく。
「使っていいよ、あとは待つなり行くなり好きに決めるといい。じゃあね」
「あっ!? ちょっ、待って……」
待ちません。エクレール、次よろしく。
飛び立ってすぐにまた地上に降りる。近っ! ええっと、あ、ここからは俺が倒さないと。
土ゴーレムを取り出してハンマーを持たせる。蟹を倒す。倒す。倒す、解体する。はずれ……
エクレールが飛ぶ! 土ゴーレムで蟹を倒す! 解体する! はずれ!!
何回も何回も同じ事を繰り返す。
倒しても倒しても現れる蟹達。だんだんエクレールの移動範囲が狭くなっている。うじゃうじゃうじゃうじゃと、どれだけいるんだよ、こいつら。
そして蟹はたくさんいるが手掛かりは1つも見つからない。残り1つのパーティーはどこいった? また蟹を倒す、倒す、倒しまくる。何体目だよ? もう倒した蟹の数が分からないわ……
(43体目)
数えていたのか、エクレール。教えてくれてありがとう……
倒した全ての蟹の腹の中を確認しているが人の腕や足は無く、森の中にハンター達の痕跡が見当たらない。おかしいな? だいぶ深い所まで来ているんだが、この森の中を低ランクハンターがこんな遠くまで来られるだろうか?
単純に移動速度だけで考えても無理な気がする。
それに蟹達の密度がだいぶ濃くなっているし、低ランクハンターがこの状況で先へ進めるとはとても思えない。もしかして、方向そのものが間違っているのでは? 途中まで一緒だったと言っていたけど、それはどこら辺の事なのかもう少し詳しく聞いた方が良かったかもしれない。
一旦戻るか? エクレール……またどこかへ向かって飛ぶエクレール。
ちょっと待って? 俺の話を、ってあれは?
進行方向の先にある森の一部がわさわさと揺れている。揺れている? 風もないのに?
エクレールが高度を上げた。上空から見下ろす森はまるで緑の絨毯のよう。
そんな森を切り裂くように長い、一本の筋が走っている。
その筋の先には……何だ? 蟹……だよな? どう見ても「蟹」な生き物がいる。
だけどあれ、何かおかしくないか? 上から見ていたからかすぐには大きさが把握できなかったけど、ちょっとデカくない?
この森の木々の高さはたぶん20mぐらいはある。「蟹」らしき巨大生物はそれより多少低い程度、という事は甲羅の辺りでおそらく15m以上の高さがあるぞ!?
デカ過ぎない!?
「何じゃこりゃぁああああ!?」
(あれはマザー)
「知っているのか、エクレール!?」




