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蘇生

割と重大な事を言ったつもりだったのだが、ギルマスの表情は変わらない。


「ふむ。それで?」


あれ? それだけ? もっとこう、「な、何だってー!?」みたいな反応はないのか?


「いや、蘇生ができるようになったんだよ? 驚かないの?」


「治癒魔法ならそれは可能だろう。驚く事ではない」


あ、そうなんだ。治癒魔法=蘇生という認識があるのか。


「それで、相談というのは?」


部屋の中にある机の上で両肘を立てて、両手を口の前で組むポーズ。

どこかの総司令みたいだな……

凶悪な顔でそのポーズだと威圧感が半端ないわ。


「えっと、まず、実際に試す場所なんだけど、ここを使わせてもらってもいいかな?」


「『ここ』というのはこの部屋という意味かね?」


「そう。人目につかない方がいいかな、と思ったんだけど」


「それはそうだ。構わないが私も立ち会わせてもらうよ。夜、職員がいない時間帯が望ましい。それで蘇生の対象は?」


「子供達の母親。部屋を貸してもらえるのは助かる。子供達が寝てから試すつもりだったから夜の方がいい」


母親の事は当然ギルマスも知っているだろう。


「ふむ……なぜ母親を蘇生させようと思うんだね?」


「なぜって、生き返らせる事ができるならして当然でしょう? 子供は母親と一緒の方がいいに決まっている」


「それだけかね?」


それだけかって、それだけで十分だろう? ……他にも理由はあるけど。


「やはり、戦いの場に小さな子供を連れて行くのは無理があると思って。今までは幸い怪我もなく無事だったけど、これからもそうだという保証は全くない」


完全に守りきれるという確信が持てないし、怪我しても魔法で治せばいい、というものではない。


「君の強力な従魔がいれば問題ないのでは?」


「そうは思わない。皆強力なのは間違いないが『戦場』では何が起こるか分からないし、絶対安全とまでは言えない」


「そうか」


なぜか思案顔のギルマス。ここ、考え込むようなところか?


「続けてくれ」


「次は、母親に治癒魔法を使ったとして、彼女は『自分は生き返った』と気付くだろうか? その場合は口止めをする必要があるけど、そもそも『自分が死んだ』『生き返った』って分かるものなのか? という疑問がある」


「むぅ……」


難しい顔で考え込むギルマス。実際難しいよな、これ。


俺自身を客観的に見ればまさに「死んで生き返った」そのものなんだけど、俺には死んだという記憶もなければ生き返ったという実感もない。

だが自分の経験だけで判断できるものでもないし。


まぁ、「異世界で幼女になった俺」では条件が違い過ぎるけど。


「それは当人に聞いてみないと分からないが、聞く事で相手に治癒魔法が使われたと気付かれる可能性もある。単に治療した、で済ませて何も聞かない方が簡単ではないかね?」


むぅ。できればそうしたいのだが。


「シルヴィアが『母親が魔法袋に入れられるところ』を見ているからその事を誰かに話す可能性がある。それに亡くなってから時間が経っている分シルヴィアの様子も変わっているし、母親なら子供の変化に気付くんじゃないかな?」


シルヴィアは保護した時と比べると、多少ふっくらとした感じになっている。


「子供の言う事だから、でどうとでも誤魔化せるさ。子供の変化についても母親の意識不明の期間が長かったという事にして、その間の世話が良かったという説明で十分だろう」


それでいけるかな? 押し通せるか試してみるか。

言わずに済むならそれに越した事はない。上手く誤魔化せるといいのだけど。


「一応口止めの為の契約魔法は準備しておこう。使うかどうかは相手次第だ。費用は平民が対象でこの町限定なら金貨1枚だが……」


「とりあえずそれで」


母親は町へ仕事探しに行こうとしていた筈だ。(たぶん)

それならマーヴィンじゃなくシオリスの町でもいいと思う。(たぶん)

町の外へ出る気なら(あるいは全く別の目的だったのなら)改めて契約を結ぶ必要があるかもしれないけど、その時はその時だ。確認してからでも遅くはない……


「何か適当な理由を付けて、私の治療を受けたという事自体を話せないようにするというのはどうだろう? 理由は思いつかないけど」


俺の名前が出なければいいのでは? 甘い考えかな?


「そうだな……こういうのはどうだろう?」


ギルマスが適当に理由を作って聞かせてくれる。正直雑な感じがしないでもないが「ギルドマスターからの説明」なら通用するかもしれない。これもやってみてからの判断だな。


「後、一番の懸念はマーヴィンのハンターギルドが母親が死んだ事を知っている、という点なんだけど、蘇生に成功した場合、生き返った事を知られずに済む方法を考えるか、あるいは向こうのギルドに口止めを頼む、という事も考えたのだけど、これは可能だろうか?」


「向こうの職員が『蘇生の成功』を知る機会があるとは思えないが、知られた場合はこちらで向こうのギルドマスターと話をつけよう。口止め自体は難しくはない」


「おお……そうなんだ」


何だろう、ギルマスが頼もしく見えるぞ!


「他に相談したい事はあるかね?」


これで懸念材料は出尽くしたかな? うーん、他には……


「この部屋で『治療』したという設定にしたいから、ベッドと何かそれらしい設備を入れて欲しい」


「分かった。用意しておこう」


「とりあえず以上かな」


「では、夜に」


「相談に乗ってくれてありがとう」


夜まで何して過ごそうかな。とりあえず、昼飯にするか。



昼は炒飯にしよう。醤油がないのが惜しい所だが、ファングボアから作ったラードとベーコンがいい味を出してくれる。

まぁまぁいける。あとは中華風野菜スープを付けただけの簡素なものだが、量だけはたっぷり用意する。


皆がもりもり食べている。シルヴィアも「おいしい、おいしい」と言いながら食べてくれる。

蘇生魔法が成功して母親が生き返れば、もう一緒に食べる事もなくなってしまうのか。ちょっと寂しくなるな。


シルヴィアが一生懸命食べている顔を見ているうちに、何か胸がつまるような思いが……


「セシリアさん、食が進まないようですが、どうかしたんですか?」


心配そうなビアンカの顔。


「いや、何でもないよ」


ビアンカにも話さないと。

俺は何とか一皿分は食べる事ができた。



シルヴィアとクレアがお昼寝に入ったので、周囲に(隠密以外の)人がいない事をエクレールに確認してもらった後、ビアンカに今夜の予定を話す。


「今夜ギルドの中で魔法袋に保管していた子供達の母親の遺体に蘇生魔法を試してみるから、その間アルジェンティーナと一緒に子供達を見ていて欲しい。深夜になるからもう寝ている筈だけど」


「……蘇生魔法、ですか?」


「そう。今日できるようになった」


「凄いです! 大魔法じゃないですか! という事は、セシリアさんは『治癒魔法使い』なんですね!」


呆けたような表情をしていたビアンカだが、みるみるうちに頬を紅潮させて、感激したような大きな声で叫ぶ。


「大きな声で言わないで!」


思わず辺りを見回すが大丈夫、誰もいない。

興奮しながら俺を抱きしめるビアンカ。ぎゅうぎゅう。大きな胸が! 凄い圧力だ!


「その力で私を助けてくれたんですね!」


「ま、まぁね。私が治癒魔法使いだという事は知られると困るので秘密にしてね」


「分かりました! 秘密ですね!」


「秘密、秘密」と嬉しそうな顔で呟いている。

これは、もしかしてあれか? 女の子は秘密の共有が大好き、というやつだろうか? そんな可愛いノリの話ではないのだが。


ところで、女の子ってどうしてこんなに温かくていい匂いがするんだろうね?

俺も女の子の筈だがこんないい匂いはしていない気がする。幼女だからか?


(主、その魔法を使う場に私も立ち会いたい)


エクレールの声が聞こえた。


(興味があるの? いいよ)


「シュバルツ、ノワールは外で待機していてね」


あとは何があるかな? ……シルヴィアとクレアの為にぬいぐるみでも作ろうか?

母親に新しい服も必要だろう。裁縫スキルの出番だ。



夜。職員達が帰った後、誰もいないギルドの中に入る。

防諜結界のある小部屋は病室みたいな感じに模様替えされていた。

更に子供達を外のトーチカで寝かせているのは不自然だという理由でもう一部屋別に用意されていた。

ギルマスの細やかな配慮、顔に似合わないね。(失礼)


寝ている子供達を起こさないようにビアンカがそっと抱き上げて部屋へ移動させる。



小部屋に入り、ベッドの上に母親の遺体を載せる。いよいよだ。


遺体を見ていると「蘇生の条件」みたいなものが頭の中に浮かんできた。

頭部に重大な損傷があった場合や、死後長時間経過している場合は不可、といったものが。


母親はまるで眠っているかのように見える。状態はいい筈だ。

魔法袋の中に入っていた場合は? ……できるらしい。袋の中は時間が止まっているからか。


この「魔法が直接説明してくれているような感じ」は何なんだろうな?

今までどの魔法を使う時もこんな「説明」はなかったのに、なぜ蘇生魔法だけ説明があるんだ?

違いが分からないわ……教えてもらえるのは助かるけど。


MP 200/200


念の為ノワールに頼んでMPを譲ってもらい、上限まで回復してある。どれだけMPを消費するのか分からなかったからな。遺体を見ていてもMP消費については分からない。


「では、始めるよ」


「うむ」


ギルマスとエクレールが見つめる前で「蘇生」を始める。


「リヴァイヴ」


遺体の胸の上辺りにぽつんと小さな光が現れた。

しばらくの間柔らかく淡い光を放ち続けたそれは……戸惑っているように見える。「光が戸惑う」って何だよ?

でもなぜかそう見えるんだけど、何でそう見えるのかは分からない。


やがてより強い光を放つようになり、ゆっくりと大きくなっていく。

何だったんだ? 今の。


……長いな。この光は何だろう?

ヒールやエクスヒールの光とはどこか違う感じがする。

どう違うのかははっきりとは言えないんだけど。


拳大の大きさにまでなった光の球が遺体の胸、心臓辺りに沈み込んでいく。

完全に沈み込むと体全体がぼんやりと光りだした。


……ずっと光り続けている。長いな。



唐突に光が消えた。特に合図のようなものもない……終わったのか?

もっと派手な感じを想像していたのだが、何か地味だな。


「終わったのかね?」


「たぶん……」


リアクションに困るな、これ。

もっと神秘的な雰囲気とか、何かこう、派手な演出とか、そういうのがあった方がそれらしくていいと思うんだけど。


顔を覗き込んでみると顔色は明らかに良くなっているし、呼吸しているように見える。

成功……だよな? 凄いぞ治癒魔法! 地味だけど!


(見事だ、主)


ずっと黙って見ていたエクレールが褒めてくれた。

ありがとう。でも、見事なのは「魔法」だよね? 俺じゃないわ。


母親を見ていると彼女の目がゆっくりと開き始めた。


「ここは……?」


おお、動いた! 喋ったぞ! 凄い!!


「聞こえる? 気分はどうかな?」


母親はぼんやりと周囲を見回した後、ゆっくりと体を起こした。


「ここはどこでしょう?」


「ここはシオリスの町のハンターギルド。あなたは病気で倒れて、私が治療しました」


「シオリス? ……あなたは?」


「私はギルドの治療魔法使いでセシリアといいます。あなたの名前は?」


「私はリディアといいます。あの、助けてくださってありがとうございます」


まだぼんやりとした感じはあるがちゃんとお礼は言える。大丈夫だよな?

後ろに立っているギルマスを見てびくっ、と驚いた表情をしている。

きっと顔が怖いからだろうな。

また周囲を見回して、エクレールを見てはっ、としたような表情に変わる。


「あの、私の子供達はどこですか?」


一応確認しておこう。


「子供というのは倒れていたあなたの傍にいた小さな子供の事でしょうか?」


「2人いるのですが、どこにいるのでしょう?」


「その子達の名前は?」


「シルヴィアとクレアです」


母親で間違いないな。


「別の部屋で寝ていますよ。動けるなら案内しましょう」


彼女はすぐに立ち上がった。ふらつくような事もない。

彼女は恐らく病気で亡くなった筈だが、蘇生魔法というのは病気を治した上での「完全回復」という事でいいのかな。



子供達のいる部屋へ案内する。

部屋の中ではシルヴィアとクレアが同じベッドで寝ていた。


「よかった……」


クレアを抱き上げた後、寝ているシルヴィアの頬をそっと撫でる。

何度も撫でているうちにシルヴィアが目を覚ました。


「……お母さん?」


「起こしちゃってごめんね?」


「お母さん」


小さな両手で母親の手に触れるシルヴィア。目を潤ませている。

母親に抱き上げられるとぽろぽろと大粒の涙がこぼれる。


「お母さん!」


泣き出したシルヴィアを見て俺まで泣きそうになった。

良かったね、シルヴィア。お母さんに会えて。


母と子が再会した姿に感動の気持ちで胸がいっぱいになった。



いっぱいになったのだが、そんな温かな気持ちは視界の片隅にあるステータス表示が目に入った瞬間全て吹っ飛んでしまった。


MP -400/200


-400? これ、「マイナス400」って表示されているのか?


……マイナスって何だよ!?




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― 新着の感想 ―
[良い点] ギギギ…これは人間そっくりのゴーレムを作る魔法じゃ
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