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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第1章 土の中の幼女
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プラス村

迷ってんじゃねーよ! おかしい、どうしてこうなった。

山を甘く見てはいけない。幼女とのやくそくだ!

下から見た山は大して大きくなかったし、植生もそれほど深くは見えなかったから油断したわ。


最初は道もあったし、見通しも悪くなかったんだが、似たような景色を見ているうちに自分が結構山の深い所まで来ているような気がしてきた。

一度戻った方がいいと思って来た道を引き返しているつもりなんだが、戻れていないような……。


もうここがどこら辺かわからない。どうする? 獣狩りどころか、俺が山に狩られてしまいそう!


幼女狩り! 危険な響きだ!


……まだ余裕あるな。まぁ、水も食料もたっぷりあるんだ。

季節も夏。どうという事はない。


「はぁ、はぁ、はぁ、ヒール!」


山は歩きにくい! ちょっと休憩するか。


狼に水を与え、木に登って休憩する。ふぅ。

狼もすらりと音も無く登ってくる。あれ? 狼って、木に登れるんだっけ? 獣がこんなに簡単に木に登る事ができるとは! 

木の上なら安全、とは言えないのでは……木の上で考えてみる。


例えば猪モドキ、じゃなかった、ファングボア。

あの巨体が木に登るとは考えにくいが、何といってもここは異世界。

決め付けるのは危険かもしれない。


それに、もしあいつが木に体当たりでもして俺が登っている木が大きく揺れたりしたら、この非力な腕では振り落とされてしまうかもしれない。


これはいけない。何か別の安全策を考慮しなければ!


やはり穴を掘るのが確実だろうか? しかし、穴の中からでは外の様子がわからない。戦闘には不向きだ。何か、他の方法……。


「トーチカ」ならどうだろう?


穴を掘って半円形のドームを被せる。どんな攻撃でも防げるような、ガッチガチに硬いドームをイメージ。

いけるかもしれない。早速試そう。


「トーチカ!」


ぽこん。


すぐにできあがるトーチカ。

下に降りて出来栄えを確認する。土色のトーチカ。頑丈な感じがするな。

中に入る。

ちゃんと銃眼があって、半地下で結構広い。上出来だ。

狼も中に入ってきて内部を検分している。


「いい出来だろう?」


狼はゆったりとしっぽを振っている。気に入ったようだ。

外に出てトーチカの正面側にまわる。ここら辺に餌でも撒いて待ち構えるというのはどうだろう?

山の中をうろうろするよりいいかもしれない。


少し距離をおいて地面にいつかのトリュフもどきを置いてみる。

あいつはこれを掘り返していたのだから匂いでわかるのかもしれない。


トーチカの中に戻って銃眼から外を見てみる。いい感じだ。

これでしばらく様子を見よう。



しばらくするとフゴフゴいう声が聞こえてきた。

木の間からぬっ! という感じで現れるファングボア。

地面に置いたトリュフもどきに近付いてくる。トーチカに警戒する様子も無い。

トリュフもどきの前で足を止める。


バカめ! 貴様は罠にかかったのだ! 我が土槍をくらうがいい!


「アースランス!」


ドスッ! 


正確無比な土の槍がやつの首に突き刺さる。


「ギュボッ? ギョォオオオオ!」


変な悲鳴を上げて激しく暴れるファングボア。だが串刺しにされて逃げられない!

しばらくもがいた後、最後に大きく痙攣して動きを止めた。


戦果を確認する。ファングボアは死んでいる。

土槍を解除して水魔法で血抜きをする。


だばだばだば。


蛇口をひねった水道のように流れ落ちる血液。血抜きはすぐに終わる。

魔法袋に入れようとして、ふと気付く。

魔法袋で持ち帰ると袋の存在が知られてしまう……隠していた方がいいような気がする。

だが手ぶらで帰って倒した、と言っても信用しないだろう。

むーん、どうしよう?


ファングボアを見る。凶悪に伸びた牙。

証拠としてこの牙だけ持ち帰って、ここへ村人を連れて来て運んでもらう、というのはどうだろう?

いいかもしれない。それでいこう!


牙だけ切り落として持ち上げる。重い、よっこらせ。

後は帰り道なんだが……狼がじっと俺を見ている。


「俺達、道に迷っているんだけど、お前帰り道わかる?」


狼に聞いてみる。


狼はくるっと向きを変えるとゆっくり歩き始めた! マジか、聞いてみるものだな! 頼もしいよ! 

忘れずにトリュフもどきを回収して狼の後に続く。

その背中が、


「迷っていたのはお前だけだよ」


と言っている気がするのは、きっと気のせい。


見覚えのある道はわりと近かった。



村に戻って戦果を報告する。

牙を見せても皆すぐには信じなかったが、土槍を披露すると現場まで来てくれる事になった。

荷車を引いた村人達と一緒にファングボアを倒した所まで戻る。


「こいつだぜ、村の畑を荒らしていたのは!」


「間違いない! 凄いな、『魔法使い様』は!」


地面に横たわるファングボアを見て沸き立つ村人達。魔法使い様?


「『魔法使い様』って何?」


「そりゃ魔法使い様は魔法使い様だろう?」


「こんな大物をひとりで倒すなんて俺達にはできないからな!」


そういうものか。だが魔法使い様というのはしっくりこない。


「セシリアでいいです」


「せすりあ?」


お前は大人だろう! 可愛くないんだよ!


「……リアでいい」


「わかったぜ! リア様!」


様はいらん。



そのままでは荷車に乗らないので、この場で大雑把に解体する事になった。

村人4人でさくさくと解体して、あっという間に枝肉にしてしまう。

さすが大人だ! 早い! 幼女とは大違いだ。

すぐに解体が終わった。毛皮や内臓も荷車に乗せて村に戻る。



村では大勢の村人達が待ち構えていた。荷車に乗った大量の肉を見て歓声が上がる。


「リア様、この肉を少し売ってくれないか?」


「皆で食べたいんだよ」


「あぁ、いいよ。全部あげる。皆で食べるといい」


「何! いいのか!?」


「俺達、何もしてないのに?」


「解体と運搬をしてもらったから、いいですよ」


「おぉい! みんな! 魔法使い様が肉を振舞ってくださるぞ!」


「今日は肉祭りだ!」


「おおー!」


さらに歓声が上がる。

ファングボアに被害を受けた村人達にはこいつを食べる権利があるだろう。


リナと母親もいた。


「おかえり! すごいね、りあちゃん!」


「よく無事で……」


はしゃぎながら俺を褒めてくれるリナ。幼女の称賛が心地良いぜ。母親も労ってくれる。


「ありがとう。皆で食べよう」


「おにくだー!」


幼女は肉好きだよね。俺も好きだよ。



夕方、村人総出で肉を焼く。

100人くらいいるけど肉も大量にある。全員に十分に行き渡るだろう。

モツも処理して野菜と一緒に鍋にする。美味そうだ。


皆で腹一杯食べた。

気前の良い誰かが塩だけでなく香辛料も提供してくれたらしい。久々にスパイスの効いた料理を食べる事ができた。


「毛皮はどうする?」


「いらない」


「売ればいい金になるぜ?」


「そう? なら、もらっておく」


シオリスの町で売れるかな。



「そういえば、この村、何て名前?」


「プラス村よ」


「プラス村……マイナスという村はある?」


「聞いた事ないわ。そこへ行きたかったの?」


「いえ別に」


マイナスはなかった。いい話だ。




夜、村を出る。


「夜道は危険よ? 家に泊まっていけばいいわ」


「とまってー?」


幼女のお誘いに心が揺れるが、


「昼に歩くと暑さにやられてしまうので夜歩きたいんです。大丈夫、ここまでずっと夜道を歩いてきたけど危険は無かったから」


「でも……」


ここは目的地ではない。先へ進む。


「またあそんでくれる?」


「……帰りにまた寄るよ」


幼女の願いは叶えてやらねば。


「おおかみさんもまたきてね」


彼女はクールに見つめ返すだけだ。


「じゃあね」「お気をつけて」「またきてね!」「気をつけてなー」「強い魔法使い様なら大丈夫かもしれんが、風邪ひくなよー」


村人も見送ってくれる。


「それじゃ」


村の外へ出る。

坂道を上って、上から振り返って村を見る。

リナ達はまだ村の入り口にいた。振り返った俺に気付いて手を振ってくれる。


「お前にも友達ができたな」


狼に話しかける。狼はじっと親子の方を見ている。

俺も一度大きく手を振り返して先へ進む。

シオリスの町へ!




シオリスの町へは3日かかった。

遠いじゃねーか!




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