治癒魔法と契約魔法
よりにもよって「領主」とは! ギルマスめ、俺を売ったのか?
……落ち着け、俺。
ギルマスは「治療」魔法使いと言ったんだ。
「治癒」とは言っていないのだから、まだ決め付けるのは早い。
「そう警戒しなくていい。最初に話した通り、娘の為に来てもらっただけだ」
そうだといいのだが。
俺にとっては貴族(しかも領主!)に関わってしまった、というだけで大問題だ。
「其方の懸念は分からなくもない。当然、言いたい事や聞きたい事もあるだろう。可能な限り答えるつもりだ」
「言いたい事? 例えば、無謀なドラゴン狩りを企てた愚かな領主とはお前の事かー! とか?」
「迂闊な発言をするな!」
怒られた……
「領主への批判は、例えそれが正しい内容であっても安易に口にするものではない。其方が他者のいる所でそのような発言をしたら私は立場上、其方を処罰しなければならないのだ。今のは聞かなかった事にしてやるが」
「後ろの人はいいの? 聞いてたみたいだけど」
「この者は私が最も信頼する騎士団長だ。彼は除外していい」
「騎士団長?」
「騎士団長のアディマセルだ。よろしく」
ゼルの後ろにいる男が挨拶してくる。低い声で何だか威厳があるな。この男の方がよっぽど領主っぽいわ。
「トレメイン准爵から『彼女は何を言い出すか分からないから、備えておいた方がいい』と言われていたが、助言を聞き入れて正解だったな。本来であればその言葉遣いも咎められるものなのだぞ?」
「すみません。貴族様への言葉遣いなんて知らないので」
それで防諜結界を展開しているのか? 騎士団長以外に人がいないのは、いわゆる「人払い」というやつか。細やかな心配りだね。
「それとドラゴンの件だが、私ではなく先代の領主が実行した事で、私は反対していたのだ」
「先代?」
「そうだ。私の父である先代領主には騎士団が壊滅した件で、責任を取る形で引退していただいた」
「父上がドラゴンを呼び寄せて狩るという話をし始めてからはずっと反対し続けていた。危険過ぎるから止めろと。私がいる間は騎士団を出させないようにしていたのだが、私と騎士団長が不在の時に実行されてしまった」
無念そうな表情のゼル。いや、「領主」だったな。
「不在って?」
「父上から他領へ視察に行くよう命じられて、領地にいなかった」
それ、あからさまな厄介払いじゃないのか?
「おかしいと思わなかったの?」
「視察の命令自体はおかしなものではない。このシオリス領は領地運営が上手くいっているとは言い難いので、他領から学ぶ必要がある」
「何の話?」
「この領の話だ。領地は広いが人の領域、つまり村や耕作地は限られていて領民が少ない。有力な産業や資源、ダンジョンもなく、発展しているとは言えないのだ」
そうなのか。だがそんなぶっちゃけ話を聞かされても。
「もしかして、ドラゴン狩りの理由って単にお金を稼ぎたかったから、というだけなの?」
「それだけではなくドラゴンの素材を元に研究や開発等を行い、領内の産業を発展させようという意図もあったようだ」
「私が不在の間にドラゴン狩りが行われる可能性も考えたが、視察には騎士団長だけでなく、騎士団の中でも最精鋭の騎士15名が私の護衛として同行していたので、その面子がいない状態でドラゴン狩りを決行するとは思わなかったのだ」
油断させられてしまった、という話か?
ドラゴンをソードの町へ誘導した疑い、について聞きたい気もするが、それが事実だった場合「お前はこの領の秘密を知ってしまったな?」状態になってしまう。
自分から首を突っ込んで関わり合いになるのは止めておこう。
「ドラゴンの件は分かりました。事情も知らずに失礼な表現を使ってすみません」
「もういいのか? 他に聞きたい事は無いのか?」
「ええ、先に娘さんをみた方がいいかな、と思いまして」
貴族が持っているであろう知識等は知りたいが、それをこの領主から聞きたいとは思わない。
もしかしたら防諜結界は「ここだけの話にしてやるから何でも聞くが良い」という意思の表れなのかもしれないが、それを全面的に信じる事はできない。
俺はこの男の事を知らなさ過ぎるからな。
「其方が貴族に対して警戒心を抱いていると聞いたので、話の場を設ける事で貴族や私に対する不信やわだかまりのない状態で娘と接して欲しかったからだが、其方さえよければ先に娘をみてもらえるのはありがたい」
貴族や領主に対して不信や反感があったとしても(実際あるけど)その感情を病気の女の子相手に態度で示すというのはさすがにないんだけど。
部屋を出て娘のいる部屋へと案内される。歩いている間他の人を全く見かけない。
「もしかして、この辺りに人を近づけないようにしているの?」
「そうだ。其方の存在を他の者に知られないようにする為だ」
「知られないように? 何の為?」
「後で説明しよう」
今説明できない事なのか? 何なんだよ。
階段を上がって2階の奥にその部屋はあった。
中に入ると部屋の真ん中に大きなベッドがあり、そのベッドの中で小さな女の子が上半身を起こした状態でこちらを見ていた。
病気の子供を1人で寝かせているのか? 広い部屋の中には他に誰もいなかった。
部屋に入るなりまた騎士団長が防諜結界を展開する。半透明の幕が部屋いっぱいに広がった。ここでも必要か?
「紹介しよう。私の娘、長女のセレスティーナだ。ティナ、こちらは治療魔法使いのセシリアだ」
「はじめまして、セシリア様。私はセレスティーナといいます。このような姿でご挨拶する無礼をお許しください」
「いえ、えーと、はじめまして、セシリアです」
これが4歳児なのか?
シルヴィアより小さく見える子だけど、大人のように丁寧な挨拶だ。
可愛らしいドレスを着ていて顔色自体はそんなに悪くないが、痩せているな。
長いプラチナブロンドの髪にアメジストのような瞳、将来は美人さんになりそうな子だ。
「それじゃ早速魔法を使うよ」
「はい」
「ヒール!」
ぽやん。
治った……のか? いまいち手応えがないような。
何人もの治療魔法使いにみてもらったのに治らない、というのが気になる。
「ティナ、どうだ?」
「えっと、よく分からないです」
「病気の症状はどういったもの?」
「突然咳き込み始めてそれがなかなか治まらない。呼吸が苦しくなって、ひどい時には動けなくなって倒れてしまうのだ。特に夜寝ている時や体を動かした後に起きやすい」
「それって喘息……」
「ぜんそく? ぜんそくとは何だ? 其方は何の病気か分かるのか!?」
あ、マズい、余計な事を言ってしまった。
「えーと、似たような症状の病気があると知っているだけで、彼女がその病気だと分かったという事ではないです」
医者でもないのに半端な知識で診断の真似事なんてしちゃマズいわ。
「えっと、それだと彼女が治ったかどうかはすぐには分からないですね」
「では、少し体を動かしてみるか? 治ったのなら症状が出なくなる筈だ」
「はい、お父様」
セレスティーナが素直に頷いてベッドから下りる。
広い部屋の中を慎重に歩いている姿は4歳とは思えないほど落ち着いて見える。
貴族の子供としての教育を受けているからか?
しばらく歩き続けて、良さそうかな? と思っていたら、
「けふっ、けほっ、こほっこほっ」
咳き込み始めた!
慌てて駆け寄って倒れそうになったセレスティーナを支えると、驚くほど軽い。
小さな子供ではあるが、それにしてもこんなに体が軽いとは。
「ヒール!」
ぽやん。
病気は治っていない……なぜだ?
ヒールをかけたのにヒューヒューと苦しそうな呼吸をしている。
落ち着くのに時間がかかった。
こんな小さな子が苦しんでいる姿を見ると早く治してやりたいと思うのだが。
ヒールより強力な魔法が必要なのか? ハイヒールを試すか。
「別の魔法を使ってみるよ。ハイヒール!」
ぼわん!
ヒールより強い光がセレスティーナを包む。どうだ?
「もう一度歩いてみて?」
セレスティーナは不安そう。
一度失敗しているからまた発作が起きないか不安になるのは当然だが、確認しないと治っているかどうか分からない。
また歩き始める。さっきよりゆっくりだ。
しばらく歩くとまた咳き込み始めた。
ハイヒールをかけてもヒールの時と同様にすぐには症状が治まらない。
これもダメか。もしかして病気ではなく状態異常なのか?
「状態異常」から回復するイメージ……「キュア」を試そう。
「ごめんね、もう一度別の魔法を使うよ。キュア!」
……何も起こらない。
「状態異常から回復するイメージ」が間違っているのか?
それとも「状態異常ではない」から何も起きないのか? 判別がつかない。
どちらにしろ失敗だ。
「セシリア、どうだろうか?」
「まだ分からない」
治癒魔法のレベルが足りていないのだろうか。
治癒魔法 Lv 3
SPを使って4に上げる、か。
できれば土魔法の為にとっておきたかったが止むを得ない。
領主の前でエクスヒールを使うよりは……
治癒魔法 Lv 4
ん? これは……「レベル4で使える魔法」が分かった。
なぜだ? 今までこういうのはなかったぞ? この場で使う魔法ではないが。
「この魔法」は厄介なものになるかもしれない……
とりあえずこれは後回しにしてもう一度ハイヒールを試してみよう。
レベルが上がった事で効果が強くなっているかもしれない。
「ハイヒール!」
ダメだった。
やはり咳が出てしまう。セレスティーナはもう泣きそうになっている。
正直他のアイデアが思いつかない。どうしよう?
何か「魔法」からイメージのようなものが伝わってきている気がする。
「エクスヒール使えばいいじゃん」みたいなものが。
この子の病気を治すにはそれしかないのか?
だがそれは、領主の前で「私は治癒魔法使いです」と自己紹介するようなものだ。
「領主様、折り入ってご相談したい事が」
「この場ではゼルで良い。普通に話していいぞ。何だ?」
「魔法を使っているところを見られたくないので、全員席を外してくれませんか?」
「なぜだ? 見られたくない理由は?」
あなた達が貴族だからですよ。
「ダメですか?」
「理由を言え。もっとも、どんな理由であっても席を外すなど論外だが。なぜ急にそんな事を?」
貴族の前で治癒魔法を使いたくないからだが、それを言う訳にはいかないし。
どうしたものか。
「君は我々に見られたくない事があるようだが、セレスティーナ嬢が『見ている』のだから我々だけ追い出しても無意味じゃないかね?」
この野郎! 「あるようだが」じゃねーよ! 何で俺が見られたくないか分かっているだろうが!
だがギルマスの言っている事は一理ある。この子が喋ってしまったらそれまでだ。
こんな小さな子に口止めなどそれこそ無意味だろうからな。
「魔法の内容を知られたくないのだが」
「余人に知られたくないというのなら、我々が誰にも話さないと約束すればいいのかね?」
「それを信じろと? 何か保証というか、裏付けになるものでもなければ信用できないわ」
「我々は君の奴隷という訳ではないのだから、強制的という訳にもいかないだろう? 信じてもらうしかない」
奴隷? 奴隷……何か引っ掛かる。確か……
「奴隷に契約内容を強制する為の魔法があるんじゃなかったか? 約束を守ってもらう為にその魔法を使う事は可能か?」
「ふむ、それは可能だが、君は契約魔法を使う事を望むのかね?」
「ぜひ使って欲しいね」
だってお前達の口約束なんて信用できないから。
「いいだろう。娘の為だ、受け入れる事は容易い。アトール、君も同意してくれるか?」
「えぇ、もちろんです」
「アディもよいな?」
「仰せのままに」
ずいぶんあっさりと受け入れるんだな。
「ところでセシリア、契約魔法というのはその効力の及ぶ範囲によって値段が違うのだが、君は知っているかね?」
「え?」
「そして、契約魔法はその使用を望む者が費用を負担するのだが、それも承知の事かね?」
「え?」
金の話? 何だか嫌な予感。
「具体的には?」
「奴隷契約のように平民が対象で効果範囲が狭い場合は金貨1枚だが、複数の貴族を対象とし、且つ効果範囲が広い場合金貨数百枚になる。範囲はどこまで指定するのかね? この町だけ? それとも国全体かね?」
「町だけじゃ意味ないでしょ!? 少なくとも国全体じゃないと」
他の貴族や、特に国王のような権力者に知られたくないから契約魔法を使ってもらおうとしているのに、町を出たら効果がなくなるんじゃ意味ないわ。
「その場合、費用は金貨400枚だ。貴族に対して契約魔法を行使する魔道具の値段となると非常に高価なものになる」
4000万……
「また借金をしろというのか!?」
「いや、その費用については私も負担しよう。其方が全額負担する必要はない」
領主がいい事を言った! だが私「も」という事は俺も負担するのか。
「それでいいかね? セシリア」
ぐぬぬ。また借金か……だがこの契約魔法は絶対に必要だ。
「……分かった」
という訳で契約魔法を使用する事になり、騎士団長が必要な道具を取りに部屋を出て行った。
戻ってきた騎士団長が机の上に紙と万年筆のような物を置く。
「それが契約魔法を行使する為の道具? それだけ?」
「そうだ。其方が他人に知られたくない事は、其方がこれから使う魔法について、で相違ないな?」
「ええ」
領主が紙に何か書き始めた。
「これは魔力を文字に変換する魔道具と、記された内容を署名した者に強制する力を持つ魔道具だ。内容について確認してくれ」
見せられた紙には「ゼルヴェリウス、アディマセル、アトール、セレスティーナ。以上4名はセシリアがセレスティーナに行使する魔法の内容及び行使した者の名前を他者に伝えてはならない」と書いてあった。
「これだけでいいの?」
「十分であろう? 何か不足があるか?」
うーむ、これでいい……のか?
この契約魔法で他の貴族(いわゆる王侯貴族)に治癒魔法の事が伝わらなくなる、というのであればまぁセーフでいいか?
受け入れないのなら後はセレスティーナの病気を治す事をやめる、しかない。
治してやりたいと思ったのだから、その選択はない。
「分かった。それでいい」
「では、全員名前を記入せよ」
領主から順番に名前を書いていく。
最後に俺が署名すると紙がくるくると丸まって筒状になり、どんどん細くなったと思ったら唐突に消えてしまった! 何だこれ!?
「これは?」
「契約の魔法が実行されたのだ」
魔法っぽくはあったが、何か地味だな。
「この契約魔法が有効だと、どうすれば分かる?」
「それにはまず、其方に魔法を使ってもらう必要がある」
それはそうだが……もし、この「契約魔法」が領主によるペテンだったら?
その時は逃げるしかない。現状では貴族、あるいは国を敵に回せるだけの力はないからな。
「どうした?」
「いや別に」
自ら決断した事とはいえ、貴族、それも領主という権力者の前で治癒魔法を使う事になるとは。
不安そうな顔のセレスティーナを見る……子供には笑顔でいて欲しいんだよね。
「では魔法を使うよ。エクスヒール!」
しょわ・しょわ・しょわ・しょわ
細かい光の粒がセレスティーナの体を覆っていく。
光の粒は全身を覆った後、静かに消えた。治った……か?
「どうなのだ? 治ったのか?」
「まだ分からない。また歩いてくれる?」
この子の場合、魔法をかけた直後の状態を見ただけでは治ったかどうか判断できない。
「……はい」
ゆっくりと歩き出すセレスティーナ。
不安そうな表情のまま歩き続けていたが、だんだん歩く速度が速くなってきた。
「ティナ、大丈夫なのか?」
「……大丈夫そうです」
さらに何度も部屋の中を往復し続ける。表情が明るくなっていく。
「お父様、苦しくないです!」
「治ったのか? どうなのだ!?」
「いや、まだ分からないって。3、4日様子をみる必要があるんじゃないかな」
「そうなのか?」
「お父様、私、部屋の外を歩いてみたいです!」
「いいのか? セシリア」
「うーん……また発作が起きたらもう一度エクスヒールを使おう」
「……分かった。ティナ、この部屋の前の廊下なら良いぞ」
「はいっ!」
部屋を出て、長い廊下を嬉しそうに歩くセレスティーナを皆で見守る。
幼女が頬を紅潮させつつ笑顔を浮かべながら歩く姿は見ていて和むわー。
廊下を数回往復したセレスティーナがはぁはぁと息を切らして座り込んでしまった。
「また発作か!?」
領主が娘に駆け寄る。
「単に疲れただけでは?」
「大丈夫です、お父様。セシリア様の仰る通り、少し疲れただけで苦しくはないです」
少し呼吸を整えた後、セレスティーナは自力で立ち上がった。大丈夫そうだな。
「そうか。だが疲れたのなら休むといい。ずっと満足に動けなかったのだ。無理をするものではない」
「はい、お父様。セシリア様、ありがとうございます」
にっこり笑う幼女。可愛いね!
「まだ完全に治ったとは言い切れないから、慎重にね? ゆっくりいこう」
「はい」
「治ったのではないのか?」
「歩くだけではなく気温の変化や屋外に出たり、強めの運動をする等の環境や行動の違いを試して、それでも症状が出なかったら治ったと判断していいのでは」
「そうか……」
部屋に戻り、セレスティーナがベッドの中に入ったのを確認して皆外に出る。
「小さな子を1人で寝かせて大丈夫なの?」
「すぐに従者達が部屋に戻るから心配ない。其方がいる間だけ人払いをしていたのだ」
そうなんだ。配慮が行き届いているね。
最初の部屋に戻って話の続きをする。また防諜結界付きだ。
「それで? 契約魔法が本当に有効だとどうすれば分かる?」
「実際に他者に話そうとしても話せない、というところを確認すればよいが、何度も繰り返すと罰として死に至る事もある。それよりも今からする話を聞けば確実に『本物』だと信じられると思うぞ?」
「話?」
「その前に、まずは娘の為に治癒魔法を使うという決断をしてくれた事に親として心より感謝の気持ちを伝えたい。本当にありがとう」
また頭を下げる領主。やはり治癒魔法と分かるんだな。
「ええ、それはいいんですけど。まだ完全に治ったとは言い切れないので」
「そうか、3、4日様子をみる必要があるのだったな。ではまた改めて礼を言う機会を作ろう」
「次に、契約魔法の費用分担と報酬について話そう。まず、費用の半分を私が負担する。そして残りの半分だが、今回私は其方への報酬として金貨200枚を用意していた。この報酬と其方の負担分を相殺する、というのはどうだろう? つまり其方の負担はなし、という事だ」
報酬が金貨200枚!? そんな大金を用意していたのか!
「治療魔法だけ」のつもりだったから代金は金貨3~4枚だと思っていたのに!
それなら報酬が負担分にあてられて差し引きゼロになるのは一向に構わない。
今は報酬がなくても別に困らないからな。
「それは大変ありがたい話です。ぜひそれでお願いします!」
「分かった。ではそのように」
これで借金しなくて済むぞ。
「ありがとうございます!」
「だが、手ぶらで帰すのは忍びないので報酬以外でお礼の品を渡したい。何か望む物はあるか?」
いいやつだな!
しかし、こういう場合遠慮して辞退するのが礼儀なのかもしれないし、望む物、と言われても領主からどんな物を貰えるのかなんて全く分からないぞ?
俺が答えられずに困っているとギルマスが提案してくれた。
「彼女は服を作るのが得意なようなので布を下賜されては? きっと喜ぶでしょう」
「そうなのか。セシリア、布でよいか?」
「ありがとうございます。嬉しいです」
布は買うと結構、いやかなり高い物だから貰えるのは嬉しい。
ギルマスめ、気が利いているじゃないか!
「そうか、それは良かった。私も大変嬉しい。娘の事だけでなく、私達の立場的にもな」
ん? どういう意味?
「何の話?」
「契約魔法が実際に効力を発揮する本物でなければ、其方だけでなく我々も困るという話だ」
真面目な顔で何か妙な事を言い出した領主。こいつは何を言っているんだ?




