表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/122

次の仕事

例えば、この世界でハンバーグ料理を見て「これは地球からやって来た転生もしくは転移者が教えて広まったのか?」なんて思ったりはしない。

この世界の人が肉料理を発展させた結果として、ハンバーグと同じ形に至っただけなのかもしれないから。


紙や石鹸も、この世界の人が発明して作った物だったとしても少しもおかしくはない。


だが、この「コンパウンドボウ」のような弓。

ギリシャ文字の「Σ」に似た形をしていて両端に滑車が付いている。

これが、この世界で弓を進化させた結果、到達した形なのだろうか?



「ビアンカ、この弓なんていうの?」


コンパウンドボウのようなものを指差す。


「コンパウンドボウです」


そのままだった。

この形状は偶然の一致か? ……偶然な訳ないわ。これ絶対転生もしくは転移者が教えたんだろう?

形状や構造がそっくり過ぎる。

やはり転生者や転移者はいるのか。他にどんな知識を齎したのか?


「弓の種類って他にもある? クロスボウとか」


「ありますけど、コンパウンドボウの方が強力なので買いませんでした」


あるのか。見た事なかったけど。


「こういうのっていつからあるの?」


「いつからかは知らないです。私がこの弓の事を知ったのは3年前ですけど」


3年? ……これだけでは分からんな。


「もう1つの弓は何?」


「これは魔法弓です」


魔法の武器って凄く高いんじゃなかったっけ?


「それ、いくらしたの?」


「金貨700枚です」


7000万! 大きな買い物だな!


「コンパウンドボウは?」


「金貨40枚です」


400万。魔法の弓に比べれば安いけど、でも何か高いような?

元の世界では確か、高くても10万前後ぐらいだった筈。

ぼったくり……いや、決め付けるには判断材料が少ない。


「矢もたくさん買ったんです! 金貨40枚分!」


そう言って袋から薪束のような大きな矢の束をいくつも取り出して見せる。

ん? その袋、もしかして?


「ビアンカ、その袋……」


「はい、魔法袋です。必要なので買いました」


「いくらで?」


「金貨350枚です」


マジか。確かに好きに使えばいいとは言ったけど、昨日まで完全無欠の一文無しだったのに、金が入ったとたん1億1千万以上のお買い物とは! 大丈夫なのか? 豪快過ぎないか?

……大丈夫だな。それだけ使ってもまだ5分の1強といったところなのだから。


「この2つの弓で、これからもこれまで以上にパーティーの力になれるよう全力で頑張ります!」


「お、おおぅ」


なるほど。

大金を手に入れて最初に買う物がパーティーに貢献する為の新たな武器やアイテムとは、見上げた心意気だ!


「つまり、これからはアーチャーとして活躍してくれるんだね!」


「はいっ! それに盾役も近接もこなしてみせますよ!」


「え?」


「セシリアさん、盾とハンマーと槍をお願いします。魔法袋にしまっておきたいので」


「お、おう」


言われたとおり武器や盾を渡す。やる気は凄いけど、上手くやれるのだろうか? 無理があるような。

とは言え盾役、前衛としてのビアンカは頼もしいから続けて欲しい気持ちもある。


「最初は弓を使って、弓の使えない距離になったら盾とハンマーという事かな?」


「はい、そうです」


うーむ。一度実戦を想定した練習で上手くいくか確認せねばなるまい。

俺も新しい魔法やゴーレムについて考える必要があるな。


「後、お借りしていたお金を返しますね」


「お金?」


金を貸した覚えはないが。ビアンカが金貨を取り出している。


「助けてもらった件や治療代や服等のお金です。金貨50枚分」


あぁ、それか。

請求するつもりはなかったんだが、今はビアンカの方が金持ちだ。貰っておこう。


「ありがとう、ビアンカ。ありがたく受け取らせてもらうよ」


これで手持ちの金は1100万以上になる。当分は困らないな。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど」


「何ですか?」


「銃、ライフル、火薬、爆弾。こういった言葉に聞き覚えあるかな?」


「?……いいえ、無いです。それは何ですか?」


「いや、無いならいいんだ。ありがとう」


存在しないのか? 単にビアンカが知らないだけか? 他の誰かに……ジュディに聞くのはリスクが大き過ぎる。

それらがもしこの世界にあった場合、なぜ知っているのかと聞かれても答えられない。

誤魔化し方が思いつかないわ。さすがに物知りだから、は通用しないだろう。

……弓程度ならいいのだが、「それ以上のもの」があった場合、厄介な事になるかもしれないな。



次の日、町の外に出て人のいない広い場所で練習と実験を始める。


ゴーレムズはFKの練習をしたいようだからゴールと壁を作っておく。

他はまた水遊びでいいかな? 大き目のプールを作る。プールサイドにも壁を作っておこう。

エクレール、シルヴィアの事よろしくねー。


(分かった)


まずはビアンカの弓の性能を確認しよう。


「有効射程距離ってどれぐらい?」


「魔法の弓だと最長で2kmぐらいです」


「……それ本当?」


「はい」


飛び過ぎじゃないか? そんな長距離ここでは確認できないぞ?

この場所結構広いけど、それでも直線距離だとたぶん400mぐらいしか確保できない……待て、「2km」? 今kmって言ったよな?


「ビアンカ、長さの単位ってm?」


「はい? そうですよ」


そうなのか。

今までこの世界の人間から長さの単位を聞かされた事はなかった。

距離については大人の足で歩いて何日、という表現ばかりだったからそれが普通だと思っていたわ。

メートル法なのだろうか? 


「謎翻訳」が俺に分かるように変換しているだけ、という可能性もある……


「セシリアさん?」


「すまなかった、続けよう。コンパウンドボウは?」


「だいたい200mぐらいです」


単位に関する考察は後回しにして先にコンパウンドボウの性能を見せてもらおう。

200m先に標的を作る。直径1mの丸いやつ。柔らかめにしないと矢が刺さらないだろうな。


「撃ちます」


コンパウンドボウを構えたビアンカはすぐに矢を放った。

標的の端の方に当たる。1射目でもう当てるのか! いい腕してるな。

すぐに2射目。ど真ん中に命中!


「凄いね! ビアンカ!」


「それほどでも」


照れるビアンカ。いやこれは自慢していい腕でしょう? スゲーよ! これ!


「コンパウンドボウは主に獲物を食用にしたい時に使います。魔法の弓だと威力があり過ぎて食べる所が少なくなってしまうので」


どんな威力なんだよ。


「次は魔法の弓で」


「はい、でもその前に矢を回収したいです」


「それは土ゴーレムでやるよ」


矢を回収。


「では撃ちます」


魔法の弓は特に何の装飾も施されていないシンプルな形だ。あれ? 矢は? 矢をつがえてないぞ?


ビアンカが構えると白く光る矢が現れた! 何だこれ!? 魔法の矢か?

音も無く放たれた矢は標的に命中し、標的を破壊した!

えっ? 破壊!?


土ゴーレムの視覚で標的のあった所を見る。跡形も無く壊されているな。

少し柔らかめに作ったとはいえ、土魔法で作った物がこれほどまでに破壊されたのは初めてじゃないか? これはかなり強力なのではないだろうか。


「凄い威力! 今のは魔法の矢?」


「そうです。私の魔力で矢が作られています」


「という事はMPが無くなると撃てなくなる?」


「普通の矢を使う事もできますけど、魔法の矢ほどの威力はないです」


「魔法の矢は何回撃てる?」


「距離によって消費MPが違うのですが、60~70回ぐらいだと思います」


なかなか頼もしい武器だな。コンパウンドボウも戦力とみなしていいと思う。


「ありがとう。良く分かったよ。この後ビアンカはどうする? 練習する?」


「はい、もっと練習したいです」


「じゃあ標的を追加で作っておくよ」


200m地点と400m地点に標的を10個作っておく。


「私は少し離れた所で魔法の練習をするよ。土ゴーレムを1体待機させて、標的が全部壊れたらゴーレム越しに土魔法を使ってまた標的を作るからね」


「分かりました。お願いします」



弓という武器が加わった事で遠距離はいいとして、次は中距離攻撃について考える必要があるな。弓の攻撃をかいくぐって接近してきた相手を足止めできるような、できれば面で攻撃できるものが。


新しい魔法を考えた。

1つは広い範囲で地面から直接散弾を撒き散らす「ショットガン」。

威力はまぁまぁだが範囲は期待したほど広くなかった。10m四方ぐらい。


もう1つは棘のような突起を地面から出す「ソーンズ」。

薔薇の棘をイメージした鋭い突起は高さ15cmぐらいで、一面に突き出した突起の数は数え切れないほど多いが、範囲は散弾よりは広いがそれでも20m四方ぐらい。もう少し広いと嬉しいのだが。


突起を大きくする事はできるが、「ショットガン」も「ソーンズ」も「重ね掛け」で範囲を広くする事ができない。なぜなのか。


この魔法がどの程度役に立つかは実戦で試してみないと分からないな。

魔法実験はひとまず終了して次はゴーレムの改良だ。



試作ベータを取り出す。座席周りのこの土の格子はやはり適切とは言えない。

弓の攻撃で格子の隙間から矢を通されてしまう可能性がある。ホーンラビットの角もたぶん隙間を通るだろうな。


完全に覆った箱型が望ましいが、その箱の中でクレアやシルヴィアが平気でいられるだろうか?

「箱」を背負ったゴーレムを試作して乗ってみる。


明かり取り用の細いスリットを上部に開けたので暗闇というほどではないが、この狭くて外が見えない空間に小さな子供が耐えられるだろうか?

……無理だな。試すまでもないわ。俺でも外が見えない状態だと耐えられない。

今抱っこしているクレアはおとなしいが、シルヴィアは無理だろう。


トーチカに入っていれば安全だが、トーチカは移動できない。これが今後は問題になるかもしれない。

やはり子供を連れて戦うというやり方には無理があるか。どうしたものか。



次の日の朝、朝食後に寛いでいるとジュディがやってきた。


「仕事の話があるの」


「しばらくの間討伐には行かないよ?」


「別の仕事よ」


別?


「今日もやる事あるんですけど」


今日はビアンカと実戦を想定した練習をするつもりなのだが。


「後にして」


例によってジュディに小荷物のように抱えられて運ばれる俺。


「自分の足で歩けるんですけど」


「あなたは歩くのが遅いから」


そんな理由か!

しょうがないでしょ、幼女の脚なんだから。大人と同じ速さで歩けないんですよ。



いつもの小部屋に入ると先客がいた。

ギルマスと、ゼル?

ジュディはさっさと部屋を出て行ってしまった。制服の件で話を聞きたかったのだが。


ゼルはギルド職員の制服ではなく、丈の長い、どこかの民族衣装のような豪奢な服を着ていた。

いかにもお金持ちといった風。


「ゼルは今日は休み?」


「休みではないが、其方に頼みたい事があるのだ」


「頼み?」


其方?


「治療魔法使いとしての其方の腕を見込んで頼みがある。私に3人の子供がいる事は話したな? その3人の内の1人、長女が長く病を患っていて、何人もの治療魔法使いにみてもらったのだが治らない」


「様々なポーションや霊薬の類いも試したが効果がないのだ! このままでは洗礼式まで生きられないかもしれぬ」


「洗礼式?」


「8歳になった子に与える祝福の事だよ」


ギルマスが教えてくれた。


「その子は何歳?」


「4歳だ」


そんな小さな子が……


「親として何とかしてやりたい。諦めたくないのだ! だが考えられる全ての手を尽くしても良くならない」


「そこで私が彼に君の事を話したのだ。優秀な『治療魔法使い』がいる、とね」


「其方の魔法を見て、其方なら娘の病を治す事ができるのではないか、と思ったのだ。どうか私の娘に其方の魔法を施して欲しい」


「それはいいけどさ」


「何か問題が?」


「ヴァイパー討伐の時と態度が違い過ぎるんですけど」


偉そうで割と失礼だったような。

今もどことなく偉そうというか、ギルマスより偉い人みたいな態度に見える。


「彼には『頼み事をするのだから好感を得られる態度で接してはどうか』と助言したのだが、一体どんな態度だったのかね?」


なぜかギルマスが面白そうな顔で聞いてくる。


「割と威圧的な態度だったような」


「それは其方の人となりを知る為にわざとそうしたのだ。そういった態度をとった時どういう反応をするかで、ある程度その者の人柄を知る事ができるからだ。気を悪くしたのなら謝る。許して欲しい」


圧迫面接じゃないんだから。今時そんなの流行らないですよ。


「引き受けてもらえるだろうか?」


「いいですよ」


ヒールをかけるだけのお仕事だ。


「感謝する」


俺の前で深々と頭を下げるゼル。

頭を上げた時に見せた顔。これが「親の顔」というやつかな。


「では私の家まで来て欲しい。馬車を用意してある」


「馬車?」


わざわざ馬車を用意するとは。そこまで気を使わなくてもいいのだが。



すぐに終わるだろうからクレアとシルヴィアをビアンカに任せて1人で行くつもりだったが、シュバルツがついてくる気らしい。馬車に乗れるだろうか? 重さ的に。

ギルドの裏に回された馬車に乗り込もうとしたらゼルが手を差し出してきた。


「何?」


「エスコートだ」


エスコート! こんな幼女にか! どこの紳士だよ!?

だが馬車のステップは結構高さがある。乗れなくはないがありがたく手を借りる。


馬車の中がまた豪勢な内装で圧倒される。こいつの家はマジで金持ちなんじゃないか?

シュバルツも問題なく乗れる。意外と軽いのだろうか。

なぜかギルマスもついてくるらしく馬車に乗り込んできた。

特に会話もないまま、少し走っただけですぐに馬車は止まった。


「もう着いた?」


「いや、ここは門だ」


「門? 町の外へ行くの?」


馬車の窓(ガラスが入っている!)から外を見る。見た事のない門だ。あれ?


「ここはどこ? 西門でも東門でもないよね?」


「ここは貴族門だ。この先は貴族の街だ」


「貴族門? 何でそんな所に?」


「私の家が貴族街にあるからだ」


「何だと?」


「つまり、私が貴族だからだ」


おい! どういう事だよ!? ゼルが貴族?


「聞いてないんですけど!」


「言わなかったからな」


しれっとした顔のゼル。ギルマスの顔を見るが、こいつも平然としている。

おい、マジでどういう事なんだよ。


「前にジュディが言っていたギルマスの知り合いの貴族ってゼルの事だったのか?」


「そうだ」


そうだ、じゃねーよ! 話が違うじゃねーか! 「守る」という話はどこにいった!?


「娘の話は嘘だったのか?」


「いや、本当の事だ」


む? そうなのか? だとすると……いや、分からないわ。本当に治療するだけでいいのか? そんな筈ないと思うのだが。


「本当にどういう事なんだよ?」


「着いたら説明しよう」


納得のいく説明があるといいのだが。



窓から見える外の景色は「町」とはだいぶ違う。

建物が密集している町と違い、こちらは一つ一つの敷地が広く、その広い敷地内に大きな建物が離れて建っている。

高級住宅街ってやつだな。そして誰もいない。どうしてだ?


「歩いている人が全く見当たらないけど誰もいないのか?」


「いるが、歩いて移動する人間はほぼいない。皆魔石獣に乗るか馬車で移動するからな」


「そうなのか」


その魔石獣とやらを一度見てみたいわ。



しばらくしてまた馬車が止まった。


「着いた?」


「まだだ。ここは城門だ」


窓からは大きな壁が見える。城門?


「城門という事は城? 城に行くのか?」


「そうだ」


白い瀟洒なデザインの門を通り抜け、さらに馬車は進む。

しばらく走ってまた止まる。いつになったら着くんだよ?


「着いたぞ」


やっとか。

またゼルにエスコートしてもらって馬車を降りると、そこは迎賓館みたいな所だった。城じゃないのか?

この位置から見える範囲だとここは3階建ての横に長い建物の入り口みたいだ。

城には見えないんだが。


「ここは?」


「城だと言っただろう?」


これがお城なのか? 想像したのと違う。



玄関らしき所から長い廊下を歩かされる。白い内装に豪華な絨毯。何かお金かかってそう。

建物の中は非常に広いが人が全くいない。どうなっているんだ?

こんな大きな建物内に他に人がいないなんて事がありえるのか?


案内されて入った部屋は非常に広くて豪華な内装が施された、いかにもお金持ちの家の一室といった所だった。家じゃなくて城らしいが。


部屋の中には男がいた。ゼルが着ているものと似たような服を着ているが、強面の戦士、といった雰囲気だ。年齢は30代といったところか。


「座ってくれ」


部屋の中央にある大きなソファに座る。ふっかふかやでぇ。

隣にギルマス、対面にゼルが座る。


強面の男がお茶を入れてくれる。入れ終わるとゼルの後ろに護衛のように立った。

シュバルツがなぜか男と張り合うように俺の後ろに立つ。護衛のつもり?


ゼルの後ろにいる男が棒のような物を取り出してタクトのように振るうと、黄色がかった半透明の幕のような物が現れて俺達全員をテントのように包み込んだ。


「何これ!?」


「防諜結界だ。これでここでの会話が外に洩れる事はない」


これが結界なのか? あの小部屋とは違うな。


「改めて礼を言う。よく来てくれた」


「それで? お前は一体誰なんだよ?」


いい加減正体明かせよ。


「私の名はゼルヴェリウス・トゥア・シオリス」


「このシオリス領の領主だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ