新しい制服
ついに借金を完済する事ができた!
一時は一生借金とつきあっていくんじゃないか、とさえ思ったけれど、一生どころか一月足らずで返す事ができるとは!
実に素晴らしいじゃないか。今日は良き日だ! そんないい気分に水を差すような話を始めるジュディ。
「新しい制服」?
「これはハンターギルド職員の新しい制服なのかな?」
「そうよ」
「いつから使用を始めるのかな?」
「来月からよ」
「ジュディはいつから制服が新しくなる事を知っていたのかな?」
「新制服への移行はテスト結果次第だから、導入日時が明確に決まっていた訳ではないけど、計画自体は去年から始まっていたわ」
「去年……テスト?」
「強度試験や実戦で使用しての問題点の洗い出し、改良等の話よ」
「新技術が採用されて従来型に比べて2倍以上の防御力を持つ制服よ。この機会にぜひ、使用を検討してみない?」
ジュディがまたいつかの通販の司会者みたいな口調になっている。
「2倍以上」だと!?
3000万相当の金額で今の制服を購入してからまだ一月もたっていないというのに、もう型遅れ!
しかも2倍以上の性能差だと!
すぐに旧型になる制服を俺に売りつけたのか?
この商売上手さんめ! とでも言われたいのか?
俺が慈愛と寛容に満ちた女神だったとしても、助走をつけて飛び蹴りをくらわせてもいいレベルの話ではないだろうか?
「その話を聞いて私が怒らないとでも思った?」
「仕方ないでしょう? この新型の制服は先月の時点では未完成だったのだから。今の制服しかなかったのよ? それとも、前に着ていた防御なんて期待できそうにない古びた服のままの方がよかったの?」
「それは……」
タイミングが悪かっただけだというのか? ぐぬぬ。
しかし、とても納得できる話ではないぞ?
「その新型はいくらなの?」
「金貨550枚よ」
さらに高価に!
「何でそんなに高いの?」
「新技術に対する技術料ではないかしら? 従来型はミスリルの糸が主材料だったけど、新型はアダマンタイトが使用されているのよ」
アダマンタイト? ファンタジーのお約束ではあるが、
「アダマンタイトって金属の事じゃなかった?」
「そうよ。金属を糸にして織り込まれているの。それは旧型でも同じだけど」
そうか、ミスリルも金属だよな。え?
「この制服、ミスリル製だったの? 特殊な布ではなく? 汗を吸収しているように感じたけど」
「材料はミスリルだけではないわ。他にも数種類の素材が使われているけど詳細は工房の秘密だから教えられないのよ」
金属だけならこんな感触にはならないだろうな。だが秘密なら仕方ない。
「2倍以上の防御力というのは信用できる数値なんだろうか」
「それはもちろんよ。性能評価報告書もあるけど読んでみる?」
「ぜひ見たいけど」
だがそれを見たところで買えるのかといえば、ううむ。
「借金を返済し終えたばかりだというのに、また借金をしろと?」
「本来なら借金する必要なんてないでしょう? 従魔にも取り分が必要なんて考え方は普通じゃないのよ?」
「どういう考え方だろうと私の自由でしょう?」
仲間なのだから分配するのが当たり前だ。
「従魔がお金を必要としているとは思えないのだけれど」
皆が受け取ったお金をどうするかというのは俺の知るところではない。
「分配する」という事が重要なのだ。
「支払いの件だけどシュバルツとノワールの分、白金貨27枚と金貨500枚になるのだけど別に貰えるかな?」
シュバルツとノワールは収納魔法があるから自分達で持てるだろう。
「いいわよ。他はあなたに支払えばいいの?」
「ビアンカの分として白金貨5枚を彼女の口座に振り込んでもらいたい。ちょっと待ってね」
(エクレール)
(何?)
(エクレールは収納魔法を使える?)
(使えない)
(そう、分かった)
「できればあなたもギルドに口座を作って欲しいのだけど」
エクレールとアルジェンティーナの分は俺が預かるしかないが、持ち歩くには金額が大き過ぎて魔法袋の中に入れるとしても不安になるな。
「分かった。口座を作って欲しい」
ハンターギルドはお金を銀行のように預かってくれる。(利息は付かない)
国内ならどのギルドでもお金の出し入れができて便利なので大抵のハンターは口座を持っているらしい。
ビアンカも(残金はゼロらしいが)口座を持っている。
「後でカードを渡すわ」
「カード?」
「ええ。お金の出し入れや残高確認ができるの」
キャッシュカードのようなものがあるのか。
「提案の続きをしましょう。こちらの出す条件を飲んでくれたらこの新型の制服を『無償で』貸与してもいいわよ?」
「無償だと!?」
ジュディがにこやかな笑顔で凄い事を言い出した。なんていいお話!
……いや待て、うまい話には裏があると考えるべきだ。前回と違い過ぎるからな!
「条件とは?」
「『制服』なのだから引き続きギルド職員として働いてもらう事は当然の前提条件よ? ただ、今まで産休をとっていた職員が復帰するから、フルタイムではなく『治癒魔法』が必要な時だけでいいの。それ以外は好きにするといいわ」
うますぎる話だ。これで終わりではないだろうな。
「なのでいつでも連絡がとれるように、あなたには遠距離でも連絡が可能な魔道具を常時携帯してもらうわ。これが一つ目の条件よ」
前にそんな魔道具があると言っていたな。携帯電話みたいなものか。
「次に、あなたはハンターとして活動するつもりなんでしょうけど、狩った魔物をできる限り他のギルドではなくうちのギルドに卸して欲しいの。ヒュドラのような大物は特にね。従魔の収納魔法があるのだから難しくはない筈よ。これが二つ目」
まぁ別に構わないかな。確かに難しくはない。
「三つ目はあなたが魔法で作った武器や盾と同じ物を作成して提供して欲しいの。三種の盾をそれぞれ10、ハンマーは大小10づつ、槍を20でお願いしたいわ」
結構多いな。全部で70? 同じ物を作るのは容易な事だが。
「そんなに多く必要?」
「強度や性能の評価試験をしたいのよ。その過程で壊れる可能性もあるから多めに欲しいの」
「うーむ、まぁいいけど。試験だけ? 実際の現場で使う事は?」
「もちろんあるわ」
もちろんなんだ。
「その場合、信頼性は私にも分からないから何の保証もできないよ?」
強度そのものには自信があるけど、それがいつまで持つかは分からないんだよな。
「構わないわ。条件は以上よ。どうかしら?」
最初の条件以外はどうという事もないのだが、常時連絡可能な手段を持たされる、というのは、うーん。
呼ばれた時の事を考えるとあまり遠くへは行けないな。ちょっと不都合だがまぁ、仕方ないか。これを嫌と言う訳にはいかないよな。一応ギルド職員なんだから。
「分かった。全て飲もう。ただ武器や盾の作成は明日以降になるけど」
もうMPが無いからな。
「ええ、いいわ。では早速試着して。不具合がないか確認しないと」
「えーと、はい……」
「2倍以上」と聞かされては飛び付かずにはいられなかったが、この新型、今までの制服とはだいぶ形が違う。
今までの制服はどことなく警察の制服を連想させるデザインだったが、新型は色は白で所々に黒と金の差し色が入った、軍の礼服を思わせる感じなのだが、肩の部分が膨らんでいて袖が長く指先まで手袋のように覆っていて、服全体のラインが何というか「可愛らしい」デザインだ。
そして何より、下が「スカート」になっている!
「なぜミニスカートなんだ……?」
「アダマンタイトを使用して旧型より少し重くなったからその点を補う為に動き易さを考慮した結果、採用された形よ」
「短過ぎないか?」
ちょっと動いただけで中が見えそうだよ!
「大丈夫よ。下にこれを履くの」
そう言ってジュディが示したのは……タイツ? ストッキングか?
黒くて薄いアレ、に見える。
「それもアダマンタイト?」
「もちろんよ」
もちろんなんだ。
早よ着ろと急かすので新型に着替える。
着てみた感想は……今までの制服よりやや重く感じるが、着心地は悪くない。
腕を動かしてみる。肩周りが前より動かしやすい。
上半身を捻ってみると、細く絞られた腰周りが柔らかく伸縮しながら追随する。
ギャザーやタックが入っているからだろう。全体的に動き易いというのは間違いないけど。
だが下半身が落ち着かない! すーすーすかすかする! これはヤバい!
ひざ上10cmぐらいか? 何この頼りなさ。
タイツ? を履いていても全然大丈夫じゃない!
「どうかしら?」
「どうかしらって、このデザイン、意味あるの? 不安になってくるんだけど」
「もちろん意味はあるわ。言ったでしょう? 重くなった分動き易さを考慮したと。実際に着用した被験者からは従来型より動き易いという声が多数寄せられているの。今までにない形だから最初は違和感があるかもしれないけど、すぐに慣れるわ」
今までにない形。
普通の女性はスカートの場合、皆足首近くまである長い丈のスカートを着ていて、こういう短いスカートを着用している姿は一度も見た事がない。
俺がこの世界で最初に着ていた服も丈の長いワンピースだった。
丈が長かったからか「スカート」ではあったけど特に気にはならなかったが、この新制服は気になるなんてレベルではない。
これに慣れてしまっていいのだろうか、という危機感のようなものが……
いや、とても慣れる気がしない。超落ち着かないわ!!
ちょっと歩くだけでスカート部分がひらひら動く。うへぇ……
「帽子もあるわよ。そこに鏡があるから自分の目で見てみるといいわ」
「帽子?」
帽子はベレー帽を大きくしたような形。ゲームキャラの神官や司祭がかぶっているようなやつ。
その帽子をかぶって部屋の隅にある姿見に映った自分を見る。
「コスプレ……?」
何のコスプレだよと聞かれても答えられないけど、そんな感じ、どんな感じだ。
「この帽子も……」
「もちろんアダマンタイトよ」
そうなんだ。微妙に重い。防御力はきっとばつぐんだ!
ちなみに靴は今までと同じ形だった。材質が変更されただけ。
服にも帽子にもデザインのように文字が入っている。文字が読めなかった時はただのデザインだと思っていた「魔法使い」というこの文字。
何だか「ハザードシンボル」のように思えるのは気のせいかな……
「良く似合っているわよ」
「そう……かな?」
確信がもてませんわ。
いっそ「魔法少女」にまで突き抜けたデザインなら開き直れるかもしれないのに、この新型からはリアルな実戦風というか、どこか、可愛らしいのに「凄み」のようなものを感じる。
「本物」だからか?
そう、「本物」感があるのだ。
恥ずかしいから着れないなんて事は元よりありえないが、(自分の命がかかっているのだ)デザイン自体は決して悪くない。悪くはないのだが。
ひらひら。ひらひら。
短いスカートが揺れる。防御力2倍、2倍! 自分に言い聞かせる。きっと平気さ!
ひらひら。ゆらゆら。
ま、負けない。負けないんだから!
「きゅ、旧型は買い取ってもらえるとしたらいくらになるかな?」
「金貨10枚ね」
30分の1かよ。
「……普段着にしていいかな?」
「あなたが買い取ったものだから好きにしていいけれど、あなた以外の人が着るのはダメよ? それは旧型でもギルドの制服なのだから」
「了解です」
シルヴィアが大きくなったら着せようかなと思ったのに。仕方ない、予備にするか。
「あとは連絡用の魔道具ね。これを身に付けて」
シンプルなデザインのネックレスを渡された。赤い宝石のような?
「これが魔道具?」
「ええ。使い方は簡単よ。使用したいという意思をもちながら手で握って、相手が同じように魔石を握ったら振動するからその後に話しかければいいの。試してみましょう」
ネックレスを首に掛けて部屋の外に出る。ジュディも同じ物を首に掛けていた。
少し離れて向き合い、ジュディが宝石の部分を握る。
すると俺の首に掛けたネックレスの宝石がブルブル振動し始めた。
その宝石を握ると、
(セシリア? 聞こえる?)
「耳の中」に直接聞こえる感じ。念話とは違うな。
「聞こえます。どうぞ」
(次はあなたからよ)
通話が切れる。同じように手で握ってみると、ジュディが魔石を手に持った時点で俺の手の中の石が振動し始めた。
「ジュディ、聞こえますか?」
(聞こえるわ。以上よ)
なるほど、簡単で便利だな。
「これ、通話範囲はどれぐらい? ダンジョンの中でも使えるかな?」
「この国の大部分の場所で使える筈よ。ダンジョン? ……それは階層による、としか言えないわ」
「そう」
マズいかな? ダンジョンの中にいて連絡が届きませんでした、はダメだろうな。うーむ。
「この魔道具で連絡がつかなかった場合は?」
「緊急かつ非常事態だった場合は隠密があなたに接触する事になるかもしれないわ。できれば避けたい手段だけれど」
「え? 隠密も同じ魔道具じゃないの?」
「同じだけど隠密はもう一つ連絡手段があるのよ。それが何かは答えられないけど」
「あ、はい」
何かのスキルかな? 後一つ、今更だけどついでだから聞いておこう。
「『この国』って言ってたけど、この国って何ていうの?」
実は国の名前を知らないんだよね。
「……セヴィウス王国よ」
「王の名前は?」
「ライラーエル・トゥアル・セヴィウス陛下よ」
ギルドの裏に戻ると皆は水遊びをしていた。俺も参加しようかな?
「セシリアさん、可愛らしい服ですね。それはどうしたんですか?」
「ギルドの新しい制服。これからはこの服を着用するよ」
「そうなんですか。似合っていますよ。……どうしてもじもじしているんですか?」
「も!? もじもじなんてしてないわ!」
落ち着け俺! 冷静に、クールに! 俺は鋼、鋼のような心をもつんだ!
皆、服を着たまま水遊びをしていてびっしょり濡れている。
そうだ、ビアンカの服を新しく作ろう。この新型のようにスカートが短いデザインで。
動き易いのは間違いないのだ。きっと喜んでくれるだろう。そうに違いない。
シルヴィアやエクレールにも新しい布で服を作ろう。布を買いに行くか。
「市場へ布を買いにいってくるからもうしばらくお願いね。シルヴィアはそろそろお昼寝の時間かな?」
「まだねむくないのー。もっとあそぶ」
「そう? ビアンカ、よろしくね」
「はい。いってらっしゃい」
いつもの店で新しい布を購入する。新作だという色鮮やかで華やかな花柄の入った布。
こういうのはこの世界では初めて見るな。これで皆に可愛い服を作るぞ!
すぐに戻って服作りを始める。まずは皆の普段着から。
花柄の布なのでリゾートっぽい雰囲気の、開放感のあるデザインにする。
布を三段に切り替えた、いわゆるティアードスカートのワンピース。ふわっと広がる感じ。
裁縫スキルを駆使すればあっという間に出来上がる。
シルヴィアはお昼寝タイムに入っているのでビアンカから。
「どうかな? このワンピースのデザイン」
「素敵ですね! 凄く可愛いです!」
「じゃあ着てみて」
新作のワンピースを着たビアンカはますますお姫様っぽいなー。
リゾートへお忍びで遊びに来ました。みたいな。
「どうかな?」
「着心地が良くてひらひらしているのがいいです!」
「気に入ってくれたのなら嬉しいよ」
エクレールにも着てもらう。同じデザインで色違いのもの。
「どうかな? このデザインは?」
(良い)
お褒めに与り光栄です。
「セシリアさんのは無いんですか?」
「え?」
「いつも制服でなくてもいいのでは?」
「えーと、そうかな?」
自分の、という発想はなかった。
だが確かに、皆が華やかなワンピースを着ているのに自分だけこの制服姿というのも何だか仲間外れみたいに思えてくるな。
ここ(ハンターギルドの裏)にいる時なら特に危険はないだろうから、防御力ゼロの服でもいいかもしれない。
丈の長いワンピースなら着てもあまり違和感ないし。
早速同じデザインテイストの服を作る。ただしひらひらは抑え目にして。
「お揃いですね! 可愛いです!」
「そうだねー」
新型制服よりは落ち着く感じ。たまにはこういうのも悪くはないね。
続いてビアンカの戦闘用の服を作る。
新型制服の形状を参考にしてより動き易さを重視したデザインだ。
「どうかな? この形」
「可愛いですけど着るのは勇気がいりますね」
「大丈夫、下にこれを履けばいいから」
もちろんタイツのようなもの、も作った。
「大丈夫、なんでしょうか……」
「着れば分かるさ」
着てもらった。
大変よろしいのではないでしょうか。
「セシリアさん、これ、スカート短くないですか?」
「そんな事はないよ。動き易いでしょう?」
動き易さの違いが生死を分けるかもしれない。
「確かにそうですけど」
顔を赤くしてもじもじしているビアンカ。
「すぐに慣れるよ」
「そうでしょうか」
そうですとも。きっと、たぶん。




