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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第1章 土の中の幼女
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道に迷った

「セシリア」がこれまで独りだったとしても、今は俺と狼がいるから寂しくないよね? と思ったけれど、よく考えたら、突然自分の体の中に他人の意識が入ってきたら、怖いんじゃね?


もし、「セシリア」がこの体の中にいて、出てこない理由が怯えているからだとしたら? ……怖くない、怖くないよー、善良なお兄さんだよー。

ほら、「もふもふ」もいるよ! もふもふ! ……癒されるかな?


あるいは、どこにもいないのだろうか? もしくは眠っているだけ、とか?


いつか、この娘と話ができるだろうか。




夕方になった。

穴から出て食事の準備をする。今日はステーキを焼こう。

猪モドキの肉は全部を干し肉にはしないで少し残しておいたのだ。


土魔法で簡易竈と石板を作成して薪に火をつける。

肉を切り分けて水魔法で軽く水分を抜き、筋切りをする。

今回は2枚の石板で温度を変えて、最初は高い温度で表面を焼いて次に低めの温度で中までじっくり熱を通す。

焼き始めると狼が寄ってきて、じっと肉を見つめる。


「お前には干し肉を出しただろう?」


もう食べ終わったらしい。じっと肉を見つめる狼。

野生の狼に焼いた肉など食べさせていいのだろうか?


じゅわじゅわじゅわ。


いい音がし始める。匂いも素敵だ。肉をガン見する狼。

もう3枚切り分けて焼く事にする。


焼き加減はどうしようかな?

レア、ミディアム、ウエルダン。全部試すか。


3種類の焼き方で出してやる。彼女は3つともがふがふと食べた。


「どの焼き加減がよかった?」


どれでもいいみたいだ。

後片付けをして出発する。




夜の道。相変わらず人はいない。俺と狼だけだ。

夜空には今日もたくさんの星が光り輝いている。星があり過ぎて空から溢れてきそう。


「らん、らんらららんらんらん、らん、らんらららん」


歌いながら歩く。

狼の耳がぴくぴくしている。歌を聴くのは好きかな?


「らんらんらんらん、らららららー、らんらんらんらん、らららららー」


少しずつ、道の周りの風景が変わっていく。

だんだん森が道から遠くなり、木の数が減っている。人里が近いのだろうか。


何度も休憩して水を飲む。梨モドキを切って狼と分け合う。梨モドキも残り少なくなってきた。


狼の銀の毛並みはもはや疑いようのないほどはっきりと光っている。

朝や夕方はそうでもないのだが、夜はきらきら煌めいて存在感が半端ない。

まるで神の使いのよう!


「お前、森の中では生きていけないんじゃないの?」


夜の森では目立ち過ぎる。狙ってくれ、と言っているようなものだ。


「そういえば、最初の時は全く光っていなかったよな?」


死にかけていたからか?




あれから全く獣の気配がしない。魔物もいない。

レベルは上がらず、スキルポイントも1のまま。


町や村へ辿り着く事が優先とはいえ、もうちょっと何とかしたい。

特にレベルだ。


HPの40は低過ぎる。これを早く何とかしないと。

レベル3で30、レベル4で40なら、レベル5で50だろうか?


SPを自分のレベル上げに使う事はできなかった。もしかしたら使えるかもしれないが、1ではどうしようもない。

5~6ポイント入ったら、試してみよう。




道に迷った。


途中で道が枝分かれしていてまた右を選んだのだが、だんだん道が細くなって上りの坂道になってきた。

街道という感じではない気がする。


迷ったというか、選択をしくじったというべきか。

二択を外すとは。

戻るか? ……道の先を見ると、あと少しで坂の頂上だ。

あそこまで行って、先に何も無かったら戻ろう。


坂道を上り終えるとその先は下り坂になっていて、上から道の先を見下ろすと……朝靄の向こうに家や畑が見える。村があった。


家からは煮炊きする竈の煙が昇っている。人の姿も見えた。

大きな町ではないが、とりあえず行ってみよう。


村の周囲は木の柵で囲われていて、柵の内側には高さ3mぐらいの見張り台がある。上に鐘らしき物が設置されているのが見える。


村の入り口には槍を持った二人の老人がいた。さて、言葉は通じるのだろうか?


入り口に近付くと、爺さん達は驚いた顔で声を掛けてきた。


「おぉい、そこで止まれ!」


「見ない顔だな。どこから来た? 村に何か用か?」


「そいつは何だ? お前の使い魔か?」


言葉がわかるぞ! これは助かる!

爺さん達は槍は向けてこないが、警戒されている。


「おはようございます。遠くの村から来ました。この村に用があって来た訳ではないのですが、道に迷ったので道を教えてもらおうと思って。『使い魔』って何でしょう?」


ひとまず、丁寧に挨拶してみる。


「道に迷った? どこへ行きたいんだ?」


「大きな町へ買い物に行きたいんです」


「ひとりで?」


「ええ」


狼もいるけど。


「大きな町か。それなら『シオリス』だな。お前さんが来た道をまっすぐ戻って、突き当りを右へ行くとシオリスの町に着く」


「大人の足なら半日だが、子供だと1日はかかるぞ」


あの分かれ道を左に行くのが正解だったのか。幼女の足なら2日かな。


「ありがとうございます。ではシオリスへ向かいますね」


「待て、お前さんはビーストテイマーなのか?」


「『ビーストテイマー』? ビーストテイマーって何ですか?」


ゲーム的なアレかな?


「獣や魔物を手懐けて行使する魔法使いの事だよ。そいつは違うのか?」


ゲーム的なアレだった。


狼を見る。別に言う事を聞く訳じゃないよな。言葉は理解しているっぽいけど。


「違います。旅の仲間ですよ」


「仲間?」


「はい」


爺さん達は顔を見合わすとひそひそと話し始める。どうした?


「買い物と言ったな。何を買うんだ?」


「塩と野菜、あと日用品などです」


「塩ならこの村の雑貨屋で少しは買えるぞ。野菜はここでは各自で育てて交換しているんだが、お前さんはどれぐらい欲しいんだ? 金はあるのか?」


「お金は無いので干し肉を売って、そのお金で買おうと思っています」


「その干し肉を見せてくれないか?」


何だ? 肉が欲しいのか? いくらぐらいで売れるか教えてもらえるかな?


「どうぞ」


魔法袋からダミーの袋へ移しておいた干し肉を取り出して、ナイフで薄く3枚削って1枚は自分で食べてみせる。

爺さん達にそれぞれ1枚渡す。


「これは塩を使っていないのか?」


「でも、結構美味いぞ」


爺さん達はもぐもぐ食べて、感想を教えてくれる。


「これ、売り物になりますか?」


「あぁ、十分に売り物になるぞ」


「ワシらに売って欲しいくらいだ」


「いくらぐらいになりますか?」


「そうだなぁ、一塊で銅貨5枚くらいかな」


「一塊?」


これくらい、と拳で塊の大きさを表して教えてくれる。でも銅貨の価値がわからない……。


「ここで少し買い物をしてもいいですか?」


村の中を見てみたい。


「そいつは人を襲わないのか?」


狼を見る。少なくとも俺は襲われた事はないが。


「心配なら村の外で待たせましょうか?」


待っててくれる……といいなぁ。


「お前さんがちゃんと面倒を見るのなら、入ってもいいぞ」


「わかりました」


さっき、たっぷり干し肉を食べたところだからたぶん大丈夫。


「雑貨屋はどの辺りにありますか?」


「道をまっすぐ進めば左手にあるのが見えるよ」


「では、行ってみますね」


狼と一緒に村の中に入る。



村内の家屋は大きくはないが、ちゃんと手入れはされているようだ。

道もそこそこきれいに整備されている。それほど豊かという印象は受けないけど、これがこの世界の普通の農村の姿なんだろうか。


畑ではすでに何人かの村人が農作業を始めている。

傍らでは遊んでいる小さな子供の姿も見える。


雑貨屋はすぐにわかった。中に入ると狼もついてくる。


「おはようございます」


「はいよ。おや? 見ない顔だね」


年配の女性が出てきた。


「遠くの村から塩を買いに来ました」


「この村に?」


「いえ、道に迷ってしまって。後でシオリスに行くつもりです」


「あぁ、シオリスは大きな町だから買い物をするならシオリスへ行ったほうがいいだろうね。その狼は使い魔?」


「いえ、旅の仲間です」


「ふぅん?」


女性が木の箱に入った塩を見せてくれる。うっすらピンク色の粒々。岩塩だな。


「干し肉と交換してもらう事はできますか?」


「見せてごらん」


袋から取り出して一切れ渡す。試食する女性。


「これなら交換でもいいよ」


「どれくらいの比率で交換してもらえますか?」


「同じ重さでどう?」


それが適正なのかわからないけど、まぁいい。干し肉はたっぷりあるからな。

干し肉を5㎏分ぐらい取り出して同じ重さの塩と交換してもらう。

買い物(というか物々交換)を済ませて外へ出る。


村の中をぷらぷら歩く。

村人達の視線を感じるが、話しかけてはこない。


「それなぁに?」


話しかけてきた!

小さな子供。俺より小さな幼女だ。

家の前で椅子に座った女性のスカートの裾を小さな手で握った幼女が、狼を見ながら話しかけてきた。


「狼だよ」


「おおかみってなに?」


「あなたの使い魔ですか?」


母親らしき女性も話しかけてきた。


「旅の仲間です」


「仲間?」


「ええ」


母親は訝しげな顔だ。幼女が近付いてくる。


「さわってもいい?」


「どうかな」


狼を見る。クールな横顔。接近する幼女を見ている。


「この子が触ってもいい?」


狼の背中を撫でる。よさそうだ。


「そっと触ってあげて」


幼女が小さな手を伸ばして狼に触れる。


「もしゃもしゃ!」


惜しい! それはもふもふだ!

 

「おなまえは?」


名前はまだ無い。


「名前は無いんだ」


「ないんだ?」


ないんだないんだと繰り返す幼女。「ないんだ」という名前じゃないぞ?


「わたし、りな。よんさい」


「えらいね、ちゃんと挨拶ができるんだね。私はセシリア」


「せすりあ?」


惜しい。


「リアでいいよ」


「りあちゃん!」


りなりあだね!

狼のしっぽはゆったりと揺れている。よさそうだな。


母親が右手で杖をつきながら近付いてくる。ヨロヨロしているな。


「怪我されているんですか?」


「ええ。村にファングボアが入ってきて畑を荒らして、皆で追い払おうとした時に暴れたファングボアにぶつかられてしまって」


「ファングボア?」


「ええ」


名前が猪っぽい。


「ファングボアってこんなやつですか?」


地面にそこら辺に落ちてた小枝で猪モドキの絵を描く。我ながら会心の出来!

絵には自信あるぜ。動物の絵を何百枚も描いた事あるからな!


「ええ、そうよ。上手ね」


やはり、あの猪モドキの事だった。ここにもいるのか。


「わぁ! じょうず!」


はしゃぐ幼女。もっと描いてやってもいいんだぜ?

牛の絵を描く。


「これ何だ?」「うしさん!」


「これは?」「ぶたさん!」


「これは?」「とりさん!」


この世界、牛も豚も鶏もいるらしい。

狼が地面に描いた絵をたしたしと前足で叩いている。気に入った?


母親も一緒に絵を見ているが、フラフラしているのが気になる。


「よかったら治癒魔法を使いましょうか? たぶん効くと思いますよ」


「えっ!?」


驚く母親。そんなに驚く事か?


「自分に何回も使っているけど、問題無く効いています」


何十回も使っているからな。最早エキスパートと言っていいだろう。

だが母親は顔を曇らせている。幼女の言う事では信用できないかな?


「なおるの?」


もう一人の幼女が会話に参加してくる。


「たぶん治るよ」


そう言うと幼女は母親のスカートをぐいぐいとまくり上げる。

右足の膝から太股の付け根まで、ばっくりと裂けたような跡に青黒く変色した肌。怪我の状態は思ったよりひどいぞ!

上に何かべっとりと塗られているけど、塗り薬かな?


母親がスカートを戻そうとするが、幼女はぐいぐい背伸びして押し戻す。

幼女相手に恥ずかしがる事はないんだぜ?


「試しに使ってみましょうか?」


「でも……」


「なおして!」


幼女の願いだ。聞かねばなるまい。


「ヒール!」


ぽやん。


ぼんやりと足が光る。

いや、足だけじゃなく腰や腕も光っている。あちこちにダメージが入っているな。

あの猪モドキにぶっ飛ばされたなら当然か。車にはねられるようなものだからな。


光が消える。傷は跡形も無い。成功だ!


「なおった!」


はしゃぐ幼女。

なおった! なおった! とスカートを掴んだまま踊る幼女。

幼女が喜ぶ姿はいいものだ。


「あなたは神官様なのですか?」


呆然としていた母親が俺を見て聞いてくる。

何を言っているのだろう。こんなボロい服を着た幼女が神官な訳ないだろう?


「いえ、ただの旅する幼女です」


「幼女……」


どこからどうみても幼女です。



「ちょっと歩いてみてください」


手応えは十分にあったが一応確認しておく。


「……歩けるわ。痛くない!」


杖を手放して歩く母親。問題無いね。


「腕も、腰も背中も頭も痛くないわ! 凄いのね!」


どんだけだよ、結構重傷だったんじゃないの?


「ままよかった!」


はしゃぐ幼女。よかったね!


「治していただいてありがとうございます。その、治療代なんですが、その……」


口ごもる母親。

母親も娘も簡素な服を着ている。あまり裕福ではなさそう。清潔そうではあるが。


「何とかお支払いをします。でも、すぐには全額は……」


「勝手にやった事なのでお代は結構です」


消費MPは1だ。どうという事はない。


「そういう訳には……」


戸惑う母親。


「それなら代金の代わりに猪モドキについて教えてください」


「いのししもどき?」


「ファングボアの事です」


母親によると、普段は村のすぐ近くの山の中にいるファングボアが時折山から下りてきて畑を荒らしていて、柵を作ってもすぐにぶち壊され、村人総出で追い払うのがやっとだという。

毎回怪我人が出ていて、彼女も前回出てきた時にやられたらしい。


「では、始末しましょう」


我が土魔法の餌食にしてくれるわ。経験値の糧となるがいい!


「えっ!」


驚いて引き止めようとする母親に土魔法を見せる事にする。危ないから少し離れた所がいいだろう。


「大丈夫ですよ? 私の力をお見せしましょう。アースランス!」


ドスッ! 


いつ聞いても頼もしい音だ!

現れた土槍にビビる母親。はしゃぐ幼女。


「強そうでしょう?」


「ええ、でも……」


「じゃ、行ってきます」


それでも渋る母親をおいて村を出てすぐに山に入る。狼もついてくる。


ファングボアの姿を探して山の中をうろうろする。うろうろして……。


道に迷った。




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― 新着の感想 ―
面白いです! 主人公のキャラも良いし、ストーリーも無理がないように思えるし、なんで評価されていないのか謎です?!
[一言] 仲間にオオカミのような動物が居て、道に迷ったという意味がよく分かりません。よく物語にでて来るオオカミのようには、村に連れて行けと言っても意味が通じないと言うことなのかな。
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