ヴァイパー討伐依頼
討伐を終えて帰ってきたばかりのお疲れ幼女一行にヴァイパーを倒しに行け、などというとんでもない話をしてくれる女。
その名はジュディ。
「私達、もう休みたいんですけど」
「そう。なら詳しい話は明日にするわ。お願いね」
そう言ってさっさと建物内に入ろうとするジュディ。ちょっと待て!
「受けるのが当然、みたいな態度は困るんですけど!」
「人手が足りないの。他に頼める人がいないのよ。受けてもらわないと困るわ」
「ヴァイパー討伐なんて仕事を振られても困るわ!」
「ヴァイパー」は元の世界では主に網目模様をもつヘビの種類の事だったと思うが、この世界では違う。
ヘビに似てはいるが非常に大きく全長は20~30mにもなり、そして最大の特徴は「見えない」という点にある。
文字通り透明になって気配を隠し、音も無く獲物に近付いて毒牙で攻撃して動けなくしてから丸呑みするという極めて危険な魔物である。
正直ヒュドラより危険だと思うわ。
Aランクハンターでも危険だと資料に書いたあったやつだぞ?
「ヴァイパーなんて危険過ぎるでしょう? 私達には荷が重いわ」
「現状で回せる戦力としてはあなた達がもっとも強力なの。すぐに討伐に向かわないと犠牲者が出る可能性が高いわ。すでに出ているかもしれない」
引き受けたくない、という意思を示しているにも関わらず説明を続けるジュディ。
「えぇ……」
「襲われたのは村の中の家畜なんだけど、数が少ないからすぐに食べ尽くして次は村人を襲うようになるわ。しかも状況から判断して複数のヴァイパーがいると思われるの。おそらく『番い』ね。手遅れになる前に倒さないと」
しかも複数なんて! 難易度高過ぎでしょ……
「村から逃げればいいんじゃないの?」
「ヴァイパーは動く物に反応するのよ? どこに潜んでいるかも分からないのに、逃げ出そうとすれば襲われるだけよ。村人達は今は家の中でじっとしている筈だけど、いつまでもという訳にはいかないわ」
そうだった。動く者により強く反応して襲ってくるんだったな。
「見えない敵をどうやって倒すの? シュバルツ達なら見つけて倒す事ができると期待しているの?」
「それをあなたに聞いてもらいたいの」
それもそうだな。
「皆今の話は聞いていたよね? ヴァイパーを見つけて倒す事は可能かな?」
シュバルツとノワールからはやってみないと分からない、というような? そんな感じが伝わってくる。
エクレールは……返事が無い。これは?
「エクレール? ヴァイパーは分かる?」
パチパチ。
「見つけられるかな?」
返事が無い。
「わからないという事?」
パチパチ。
むぅ……
アルジェンティーナは……こちらも自信無さげ。
「皆あまり確信が持てないようだけど」
「そう……」
ヴァイパーの隠れる能力がどの程度なのか、探してみないと分からないというのはリスクが大き過ぎるぞ?
「あの!」
ん? ビアンカが何か言いたそう。
「ヴァイパーならある程度近くであればわかります」
「え? マジで?」
ビアンカさんマジですか!
「ある程度ってどれぐらい?」
「それはたぶん相手のレベルによると思うので現地に行ってみないとわからないです」
それではダメなんじゃないか?
「ヴァイパーに実際に遭遇した事があるの?」
「はい。アウラの森にいた時に森の近くにヴァイパーが現れて、皆で狩った事があるんです」
経験者だったのか。それは心強い……かな?
「皆ってどれぐらいの人数?」
「30人ぐらいです。木の上から弓で矢を撃ちまくりました。その時は見えなかったんですが『いる』というのは分かったんです」
むーん、それは当てにしていいのか、判断に迷うな。
悩んでいるとジュディから追加説明があった。
「ギルドからも1人探索スキル持ちを同行させるわ。戦力としては当てにしないで欲しいけれど、ヴァイパー発見の役に立つかもしれないから」
「1人? もっとたくさん来て欲しい」
ドラゴン戦と同じぐらいいてもいいんじゃないか?
「戦闘要員は皆討伐で出払っているの。残っているのは私とギルマスぐらいよ」
何だと?
「何でそんなに?」
「騎士団が壊滅した影響が出ているのよ。強力な魔物が複数の地点で現れて、職員と高ランクハンターが対応しているけど手が足りていないわ。それで難易度の高い魔物の討伐が消化し切れていない状態なの」
「騎士は? 少しは残っている筈でしょう?」
「要請はしているけど返事すら無いわ」
「何だとぅ……」
自分達の領地の話だろうに!
「あの、壊滅って……?」
ビアンカから戸惑ったような声が。おっと、これ話してもよかったのか?
「ジュディ、騎士団の件は……」
「いずれ知られるでしょう。今はそんな事よりヴァイパーの方が問題よ。引き受けてくれるわね?」
「えぇ? ちょっと即答はできないよ?」
せめて検討会議をしないと!
「明日の朝職員を1人寄越すから。それじゃよろしくね」
「あっ! ちょっ、待てよ!」
だがジュディは止まらずに行ってしまった。強引過ぎだろう? 村がどこにあるのかという説明も無かったぞ? 余裕の無さが見て取れるわ……
「ビアンカ、どうする? これ」
「簡単な話ではないですけど、引き受けないと被害に遭われる方が出てしまうのでは?」
「私達もその『被害に遭う人』になってしまう可能性が高いのだけど」
「それはやってみないとわからないのでは?」
「ええ?」
ビアンカはやる気になっているのか? あまり受けたくないんだが。
でもこれは断れない流れになっているような。ホーンラビットに苦戦したばかりだというのに……一応検討だけはしてみるか。
「ヴァイパーの皮は魔法が効き難いと資料にあったけど、矢は効いたんだね」
「はい、それでも皆で500本以上撃ち込まないと倒せなかったです」
「500……」
「この場合の魔法というのはファイヤーボールのような魔法の事ではないでしょうか? セシリアさんの土魔法は矢のような物理的な攻撃に見えます。効果があるのでは?」
「そうかもしれないけど、見えない相手に魔法が当たるかな? 相手が動いてたら尚更当たらないだろうし、ビアンカさんに槍を投げまくってもらった方がまだ見込みがあるかも」
MPには限りがある。魔法を撃ちまくるというやり方は避けたい。まして相手が複数とあっては。
「土ゴーレムを囮にして誘い出す事は可能だろうか?」
「いいと思います。ただゴーレムの大きさだと一口で飲み込まれてすぐに見失ってしまうかもしれません」
「じゃあ一口で飲み込めないように全ての囮にタワーシールドと槍を持たせてみようか」
あるいは、わざと飲み込まれて中から攻撃、というやり方もあるかな?
「位置が判明した時点でヒュドラの時みたいに土槍で囲ってしまうのはどうでしょう?」
「相手の大きさによっては間をすり抜けられてしまうかもしれないから土壁で囲った方がいいんじゃないかな?」
「それだと攻撃はどうするんですか?」
「攻撃は……」
ビアンカと意見を出し合って、一応討伐を引き受ける場合の作戦は立ててみた。
気は進まないけど、やらないといけないんだろうな。
ダメもとで試して、ダメだったら逃げるか。
朝、ギルド職員が2人やってきた。1人はクリスだが、もう1人は……?
「おはよう、セシリア」
「おはよう、クリス。探索スキル持ちってクリスの事だったんだね」
「ええ、戻って来られたのは私だけみたい」
「クリスも討伐に?」
「ええ、キラービーの巣を探す仕事をしていたのよ。巣を見つけたところでギルドからすぐ戻れって指示が来て、急いで戻って来たのよ」
クリスはいいとして……
「よろしく頼むぜ。俺の事はゼルと呼べ」
若い男がいた。
20歳ぐらい? 焦げ茶色の髪でイケメンだ。体格は背が高くてがっしりしている。
見た事ない顔だけど、こんな人いたかな?
制服を着ているからギルド職員なのは間違いないんだろうけど、何か偉そう。
「よろしく、ゼル。ゼルも探索スキル持ちなの?」
「いや? 俺は攻撃担当だ」
「え? そうなの?」
まぁ戦力は多い方がいいけど。
「討伐は引き受けてくれるという事でいいのね?」
「一応受けるけど、無理そうなら村人には悪いけど逃げるよ? 私達のレベルには見合わない依頼だよ、これは」
「うーん、何とか頑張りましょう? 皆で力を合わせればきっと何とかなるよ!」
「そうかな……」
クリスはやる気だけど、クリスってBランクじゃなかったっけ? なぜ前向きなんだろうな?
「これが黒のゴーレムか! 格好良いではないか!」
「ん?」
ゼルがシュバルツをすぐ近くで嬉しそうに見ている。何だ?
「ゼルはシュバルツを見た事がなかったの?」
「ああ、シュバルツというのか? 強そうだな! こっちのゴーレムは?」
「ノワールだけど」
「ほう! こいつも強そうだ! いいぞ!」
何だこいつ?
「クリス、この人は一体」
「えーと、この人はね、そのー」
なぜか、クリスは説明し辛そうな感じ。どうした?
「俺はしばらくギルドに来ていなかったから、黒のゴーレムを見るのは今が初めてなんだ。そっちの小さいのがドラゴンか?」
「そうだけど」
エクレールに近寄ってまじまじと見るゼル。そして手を伸ばして……あっ!
「鞘に触らないで! 危ないから!」
「オリハルコンなんだろう? 何が危険なんだ?」
「角が中で触れたら斬れてしまうかもしれないから、なるべく触らないで欲しい」
「そうなのか? 角を見てみたいのだが」
「今はそんな事をしている時ではないでしょう? ダメだから!」
本当に何なんだよこいつは!
「討伐について説明してもいいかな?」
「クリスは戻って来たばかりじゃないの? 昨日ある程度はジュディが説明してくれたけど、足りていないところがあるんだけど」
「さっき説明を受けたわ。サブマスは他に用事があるから続きは私がするね。村への道案内もできるから」
「ならいいけど」
時間が惜しいという事で移動しながら説明を受ける事になった。
出発準備を始めると、
「その子供達まで連れて行くのか? 危険だろう?」
シルヴィアとクレアを見て険しい表情のゼル。
「預ける所が無いので」
「そうなのか? しかし……」
納得いかなそうな表情だが、しょうがないんだよ、これは。
今回は試作機ベータを使ってみるか。村に着いたら乗り換えよう。
土ゴーレムに乗ってもらうんだけど、ゼルが5号機を見て、
「わははは! 何だこれは!? 小さなゴーレムだな! 子供用なのか? ははは!」
なぜか大ウケ。シュバルツだって小さいのに。
早く乗れよ、時間が無いんだろう? シートは大人用になっているぞ。
「いいから早く乗って」
「ゴーレムに乗るのか? まるで『魔石獣』のようだな」
「魔石獣? 魔石獣って何?」
「魔石獣というのは貴族達が魔石を使用して魔法で作る乗り物の事だ」
「へぇ、ゼルはその魔石獣を見た事があるの?」
「もちろんだ。主に格好良い鳥の形をしているが、格好良い獣の形をしているものも多い」
「鳥? という事は飛ぶの!?」
「もちろんだ」
凄いな貴族! 魔法で飛ぶ乗り物を作るなんて!
「お前のゴーレムは飛ばないのか?」
「飛ぶのは無理。水中用は作ったけど……」
「何? 水中だと!? どうやって水の中を動くんだ!?」
「えっと……」
「あのー」
おっと、いけない。先を急ぐんだった。
「ゼル、早く乗って」
「そのゴーレムを見たい」
「後で時間があったらね」
子供みたいなやつだな。
「俺もそっちに乗りたいんだが。1人では寂しいじゃないか」
「もう無理」
5号機には俺とクレア、シルヴィア、ビアンカとクリスにエクレールまで乗っている。
クリスには説明と道案内をしてもらわないといけないからしょうがないけど、頭の部分にエクレールが座って前が見えないわ。ゴーレムの目で見るからいいけど。
先行させる為の2号機を見て、
「おお、そのゴーレムも格好良いな。形が違うのはなぜだ?」
「それも後で」
これから「死地」と呼んでもいいぐらいの危険な討伐の場に向かう筈なんだけど。
今一緊張感に欠けるな……




