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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第1章 土の中の幼女
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もふもふに出会った

 幼女は歩くよ、どこまでも……そんな事はなかった。

 俺はまだ、幼女である自分についてよくわかっていなかった。




 村を出てしばらくすると、歩いていた細い道が幅の広い道に繋がった。

 街道と思われるその道の両側には先を見通せない深い森が広がっていて、その中は涼しそうだが街道そのものには遮る物が無い。


 元気いっぱいな太陽の日差しを浴びながら道を歩いていた俺はすぐに疲れを感じるようになった。

 治癒魔法をかけて回復しても、またすぐに消耗してしまう。


 森の中ではヘトヘトになりつつも、肉を担いで往復1時間の道のりを何度もこなしたのだから、手ぶらに等しい状態ならそこそこ快調に歩いていけると考えていた。


 だが、思い返してみると森の中は常に木陰状態であり、気温も少し低くて涼しいとさえ言える環境だった。それに比べると、この暑さは幼女にはキツい!


 水魔法で水球を作って体を冷やしながら歩く、というのも試してみたが、最初は良くてもすぐに太陽の熱で水が生暖かくなってしまい、かえって気分が悪くなった。


 体感で2時間ぐらいたったところで俺は歩くのを止めた。

 今は街道から離れて、木陰でくたばっている。


 こんな調子で魔法を使い続けていたらあっという間にMPを使い切ってしまう。旅の途中で戦闘が起きる可能性を考慮するとこれ以上は使わずにMPを残しておきたい。

 日差しが弱まって負担が軽くなるまで休む事にした。

 まだ昼にもなっていないのだけど、仕方ない。

 買い出し旅行はいきなり躓いていた。




 夜になってから歩きを再開する。

 明日もこの調子だと前に進めないので、夜歩いて昼に寝る『昼夜逆転』でいく事にした。

 夜でも星空が結構明るくて、道の先をある程度見通せるのでたぶんいけるだろう。


 途中で別の道と合流した。

 道の脇には横長の板が設置されていて、左右の端には何か字らしきものが書かれている……読めない。


 これはたぶん、右へ行ったら○○、左は××、と書いてあるのではないだろうか。

 どっちに行こうかな? どっちでもいいか。どうせ分からん。

 右方向へ行く事にした。




 道に轍が何本も残っているのだからそれなりに利用されている道だと思うのだが、今のところ誰とも会わない。

 早く誰かと遭遇して、「幼女が一人で歩いている。あやしい」とか言われてみたいものだ。

 夜歩いていたら無理か。そんなやつは俺くらいだろうな。


 星明りの下、わりと快調に歩く。いいぞ、何か乗ってきた!

 歌なんて歌ってみたり!


「らーらららー、るるるーるららー」


 かわいい歌声だ。自分の声が可愛いって変な感じだが、実際にそうなんだからしょうがない。聞いてて楽しい!


「ららららら、らーららーらー」

「ぎゅる、る」


 今、何か聞こえた!


「ぎゅるる」


 立ち止まって様子を探る。左手の方、道沿いの森の中。かなり近い。

 獣か? 魔物? どっちでも来い! 返り討ちにしてくれるわ!


 待ち構えるが、現れない。どうした?

 しばらく待ったが動きが無い。こちらから出向く事にする。

 森の中に入るとかなり暗くなって辺りが見え難い。この暗さで戦闘は無理じゃね? 街道へ引き返すか……。


 だが遅かった。すぐ近くに何かいるぞ!? 


「うわっ!?」


 とっさに身構えるが、襲ってこない。そいつは地面に横たわって唸っていた。何これ?


 森の暗さに目が慣れてくると、それは体長が1mぐらいの狼っぽい生き物に見えた。

 黒々と濡れているように見えるのは血か? 怪我をしている? かなり弱っているな。


 全体的に汚れているらしく元の色はよくわからないけど、毛並みはふさふさだ。


 獣なのか、魔物なのかはわからないが……これはいわゆる『もふもふ』というやつではないだろうか?

 どうしよう、助けてやりたくなってきた。うーむ。


 治癒魔法を使えば助けられるかもしれないが、治った途端に襲われるかもしれない。

リスクはある。あるが……『もふもふ』か。


 よし、治そう。


 治癒魔法を使ってちゃちゃっと治して、水魔法で丸洗い。

 ちょっとだけ『もふもふ』したら逃げよう。


 なぁに、襲ってきたら魔法で地面に穴を掘って落とすか、あるいは水球をぶつけてやれば逃げていくかもしれないし、最悪の場合は仕方ない、土槍の出番だ。


「ヒール!」


ぽやん。


 手応えはあった。傷が塞がった感じがする。もう1回!


「ヒール!」


ぽやん。


 体力を回復させる。治った。次は水魔法で汚れている体を綺麗に洗う。


しゅわしゅわしゅわ。


 水分を飛ばして完了! 狼らしき生き物の様子を窺う。

 まだ目を閉じているが、呼吸は安定している。よし、今のうちだ!

 毛並みは銀色っぽい。背中の辺りを触ってみる。


ふわふわふわ。


 おお、これはいいものだ!


 お腹も触る。わしわしわし。素晴らしいもふもふ! どうやらこいつは雌らしい。

 顔の方を見ると、じっと俺を見ている狼? と目が合った。

 うぉ……動きが止まる。


「オ、オッス」


 挨拶をしてみる。狼さんは静かだ。何のリアクションも無い。

 そっと手を離して、袋に入れていた干し肉を取り出して狼の前にそっと置く。


「よかったらお食べ」


 狼はゆっくりと体を起こして干し肉の匂いを嗅ぐと、がふがふと食べ始めた。俺はゆっくりと後ずさり、そのまま街道まで後ろ向きで戻る。

 街道で体の向きを変えて早歩きでその場を離れる。狼は俺には目もくれなかった。


完璧だ。ミッションコンプリート!


 俺は深く満足した。たっぷりと充電したこの『もふもふ』分があれば、あと5年は戦えるだろう!




 朝までずっと歩き続けて、朝日を浴びながら食事を取る。

 土魔法で適当な地面に穴を掘って穴の底に藁を敷く。

 穴の中に入って上に土魔法で作った空気穴付きの石の板を被せて完成。

 これで寝床は安全だ。おやすみー。




 目が覚めたので上の板をずらして、隙間から外を見る。

 空の色からすると夕方、といったところだろうか。穴の外に顔を出す。


 目の前に銀色の狼が丸くなって寝ていた。おや?




 俺は今、朝食を取っている(夕方だけど)。

 そばには銀色の狼がいて、じっと俺を見ている。

 目に凄い力があるね! それは食事の催促なのかな?


 干し肉を与える。がふがふと食べる狼。これって餌付けというやつだろうか?

 水もあげる。土魔法で器を作って水魔法で水を注ぐ。

 がふがふと水を飲む狼。


 食事を終えて歩き出すと、当然のようについて来る……やはり。

 懐いたのか、そうなのか。チョロインさんめ。


「お前、仲間はいないのか?」


 へんじがない。ただのおおかみのようだ。




 狼と共に旅を続ける。

 俺のすぐ近く、寄り添うような位置で歩く狼。


 凄く静かだ。声も出さず、足音もしない。気配すら消しているかのよう。暗殺者か!

 艶々の銀色の毛並みでなければ、暗闇に潜む暗殺者になれそう。


 この銀色の毛並み、うっすらと光っているように見えるんだけど、気のせいかな……。




 狼と一緒に食事をしている時に俺はある決意を固めた。

 共に旅をして、食べ物を分け合い、共に食する。これはもう、仲間と言っていいのでは?

 仲間なら『スキンシップ』で交流を深めてもいい筈だ。

 そう、つまり『もふもふ』だ!


 そっと狼に近付く。水を飲んでいる狼は油断している!

 背中を撫でてみる。狼は反応しない。

 さらに撫でる。ゆっくりと、慎重に、大きく手を動かす。


「ふぉおおお!」


 もっふもふやでぇ。素晴らしい!


 狼は知らん振りをしている。だが俺は見た!

 長くてふっさふさのしっぽが大きく振られているのを!

 このツンデレさんめ! ならば遠慮なくいかせてもらおう!


 腹をわしわし、しっぽもさわる。顔も撫で撫で。狼はクールな表情を崩さない。

 だが、しっぽはぶんぶん振られている! クーデレか!


 至福の時間でした。




 一度、狩りをした。

 道を歩いていると狼が突然立ち止まって森の方を見た。


「どうした?」


 狼は森の様子を探っているみたいだ。


「何かいるのか」


 狼は俺を一瞥すると、ゆっくりと森の中へ入っていく。

 俺も後に続く。


 すぐに狼の姿が見えなくなる。先行するつもりだろうか?

 警戒しつつ、ゆっくりと前へ進む。


 しばらくすると前方から大きな音が聞こえてきた。


「ギュオオオ! グォオー!」


 獣の上げる声! 何かがこちらへ向かってくる気配だ!

 土を蹴り上げる重い音! これは大物か?


 すぐに姿を現したそれは、巨大な猪モドキ!


 一直線にこちらへ向かってくる!

 後方から追い立てるように、猪モドキに追随している銀色が視界の端に見えた。


「アースウォール!」


 猪モドキの前に土壁を出す。


ドカッ!


 足元に出た土壁に猪モドキの前足が当たって、凄まじい勢いで回転しながらこちらにふっ飛んでくる!


「うぉっ!?」


 素早く避ける! すぐ横を猪モドキが回転しながら通り過ぎていく!

 危ねぇ! 危うく大事故になるところだった!


 ゴロゴロと転がって倒れた猪モドキに止めを刺すべく土魔法を発動する。


「アースランス!」


ドスッ!


 頼もしい音をたてて土槍が猪の首を貫く!


「グルァアアアアアア!」


 猪モドキは悲鳴を上げながらもがくが串刺しにされて動けない!

 すぐに痙攣し始めて、少し時間が経つと動きを止めた。


 ゆっくりと近付いて確認すると完全に死んでいる。

 全長3mぐらい。前に倒したやつより大きいな。


 土槍を解除して地面に穴を開ける。そして水魔法で素早く血抜きをする。


 スカートをたくし上げて、腹に巻き付けていた魔法袋を外して猪モドキに近づけると、するっと吸い込まれるように収納される。解体は後でやろう。

 街道へ戻る。


 狼は涼しい顔でついてくるが、猟犬みたいな動きをしていたのは解せない。


 狼の前で土魔法を攻撃的に使った覚えは無いのだが、俺に攻撃力があるといつから知っていた?

俺に向かって追い込んでいるようにしか見えなかったんだが。


「お前、いつもあんな大物を相手にしているのか?」


 狼よりはるかに大きかったんだが、無謀ではないのか?


 猪モドキは狼から逃げているようだったが、反撃されたら結構やばかったんじゃないか? 体の大きさが違い過ぎるだろう?

 当たらなければどうという事はない、というやつか?


 少し離れてから休憩に入る。

 水を出してやると美味しそうにがふがふ飲む。


「あんまり無茶はしない方がいいんじゃないか?」


 話しかけても返事は無い。

 こいつが大怪我をしていたのは大物に挑んで返り討ちにあったからじゃないのか? 危なっかしいやつめ。




 夜を通して歩き続ける。

 うっすらと夜が明け始めた頃、街道沿いにちょっと開けた場所を見つけたのでそこを今日のねぐらとする。

 ここで解体をしよう。


 先に地面に穴を掘って藁を敷き詰めた寝床を用意しておく。

 狼といつもの食事をとった後、作業開始だ!


 猪モドキの腹を切り開いて内臓を取り出すと狼がすぐ傍に寄ってきた。


「何だ? 見学か?」


 狼の目は内臓に釘付けだ。そうか、獣は内臓が好物だったっけ。

 だが見ているだけで、食べようとはしない。


「こいつはお前の取り分だ。たんとお食べ」


 声をかけると、俺をちらり、と見てから心臓にかぶりついた。

 心臓からいくとはわかっているな。グルメさんめ。


 しばらく狼が食べる姿を見た後、作業を再開する。

 皮を引き剥がし、肉を切り分けていく。

 幼女にはキツい作業だが、肉を売り物にする為には必要だ。


「はぁ、はぁ、はぁ、ヒール!」


ぽやん。


 自分に何度も治癒魔法をかけつつ作業を続けていると、食べ終えたらしい狼がまた近くに寄ってきた。


「今度は何だ?」


 狼は俺を見つめると、ぶるっ、と体を震わせる。何だ?

 もう一度ぶるっ、と体を震わせると俺を見つめる。おしっこか? トイレの用意がいる……そんな訳ないよな。


 狼を見ると口の周りや胸元、前足辺りが汚れている……もしかして、洗浄の魔法をかけて欲しいのか?


「洗って欲しい?」


 じっと俺を見つめる狼。試してみるか。


しゅわしゅわしゅわ。


 魔法をかけて綺麗にする。水分を飛ばして完了だ。

 別嬪さんだね! 汚れが落ちて毛並みが艶々!

 狼は少し離れた所で優雅に寝そべった。正解だったらしい。

 食事の後はお風呂ですね、わかります。




 汗だくになりながら作業を続け、干し肉を作り終えた頃には辺りはすっかり明るくなっていた。

 後片付けをして穴の中に入る。

 狼が近寄ってきて、すぐ傍で丸くなった。


 ステータスを見る。


スキルポイント 1


 1ポイント入っていた。やはり獣や魔物を倒すとポイントが入る、であっているのか?


 ステータスを最初に見た時スキルポイントは5だった。こんな幼女が独りで5体も倒したのか? 魔法の力があればそれも可能か。

 あの村には誰もいなかったから、たぶんそうなんだろうな。


 朽ち果てたあの村で、セシリアはたった独りで生きていたのか。

 独りで穴の中で眠りながら、この娘は何を感じていたのだろう。


 穴から顔を出して、眠り始めた狼を見る。

 仲間ができたんだから、少なくとも寂しくはない。


 穴の中で横になる。

 俺もいるんだ。寂しくはない筈さ。


 そうだろう? セシリア。

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[一言] 何度読み返しても良すぎる!ありがたい。
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